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◎二年目、十一月の章

■世里を連れ戻しに来た人たち

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 昼食後に教室内は新たな来訪者に慌ただしくなる。

「長和世里はいる?」

 メガネをかけたキツそうな雰囲気の年齢はそれなりに上であろう少女であった。

中島なかじま先輩?」

「話があるわ。できればリーダー人とあなたも来てちょうだい」

 指名されたのは里奈と――久遠であった。

 里奈は久遠と顔を見合わせる。まあ、話を聞くくらいなら問題ないかと頷きあう。

 隣の空き教室に移り各々が椅子に座ると中島先輩が口を開く。

「長和さん、柚子騎兵隊ゆずきへいたいに戻ってきて」

「中島先輩、ごめんなさい。私の決意は変わりません」

「その弟くんも連れてくればいいから。お願い」

「ちょっと軽々しく言わないでもらえますか。久遠は東方旅団の中核なんですから」

 里奈が抗議する。

「中小クランの行く末なんて知ったことではないのよ。こっちはトップランカーのクランなんだから」

「それと久遠の引き抜きは前回の会議で禁止事項になりましたよね」

「本人が希望すればそのかぎりではなかったはずよ」

 なるほど。そうきたか。だが、中島の目的はあくまで世里を連れ戻すことのようにある。

「あなたには私の後任をやってほしいの。次期リーダーとしてね」

 里奈は思わず「え?」となる。

「世里先輩、そんな立場だったんですか?」

「私はそもそもお断りしてきましたよね」

「そこを敢えて推すんじゃない。私からの推薦なら箔もつくのよ」

 世里は嫌だというよりは興味がないという印象を受ける。

「いいですか? 中島先輩は世里姉が戻るほどのメリットを提示できていませんよね」

 中島の眉根がピクリと動く。

「言うわね。大手クランのリーダー候補というのはメリットにならないのかしら?」

「リーダー候補ってそもそもメリットですか? みんながみんなリーダー目指しているなら話は別ですけど、東方旅団は満場一致で里奈がリーダーであることを歓迎しています。みんな僕のことを持ちあげるけど、僕は里奈みたいに東方旅団をまとめあげたりはできません」

「……何が言いたいの?」

 もう中島は不満を隠そうともしていない。それに対して久遠は怯むことはない。淡々と話している。

「世里姉は自分が必ずしもふさわしいとは思っていないと考えているんですよ。ということは自己評価とあなたの評価が一致していないことになる。なのに中島先輩は自分の評価が正しいということになっていますよね」

「彼女をリーダー候補に推しているのは私だけじゃないのよ」

「だからと言って世里姉の自己評価が間違っているということにはなりませんよ。世里姉は多くの人の意見を聞いたうえで決めるといタイプなのに対して、中島先輩は自己完結ができるほうなんじゃないですか? 世里姉は柚子騎兵隊にはそういう人の方がいいと思っているからこそ辞退したとは考えられませんか?」

 里奈はチラリと世里を見る。「私、そこまで考えてないよ」というのが一瞬顔に出る。

「……よくわかったわ。あなたが世里を手放す気がないってことはね」

「ということはあきらめてくれるんですか?」

 里奈としては世里の戻る戻らないよりも帰りたいという気持ちが先行していた。

「いいわよ。あきらめても」

 中島はさっぱりとした口調で言い放つ。

「その代わり、うちのクランから次期リーダー候補をあなたが見いだしてくれる、古輪久遠くん?」

 当然、やめるとは言わないわよねという強気の口調。

 とんでもない厄介ごとだと里奈は頭を抱えるのだった。
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