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◎二年目、一二月の章

■物販に意味はあるのか

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 ライブ当日。体育館前には仮設テントが設けられていた。

 その中で久遠の指示のもと数名が段ボールをいそいそと運んでいる。

「これ、例のやつだよな? サイリウムライトはわかるけどタオルとかTシャツとか売れるのか?」

 訊ねたのは皇会のメンバーの一人だった。久遠が結構な額を突きつけて桐香に迫っていたのを見ていたからだ。

「……正直、ライブが成功しなければ難しいでしょうね」

 メンバーの手が一様にピタリと止まる。

「ですが、失敗を考えても仕方なくありませんか。信じましょう、成功を」

 何か騙されていないか。そんな風に久遠を見てしまう。

「久遠、ステージのチェックに入るから一緒に来てよ」

「わかった」

 里奈がやってきて久遠に声をかける。

「任せても大丈夫ですか?」

「ああ、ここはもう俺たちだけでやれるよ」

 そう言って久遠を送り出す。思えばこの状況に至らせたのは久遠である。いったい何者なのかと疑問は尽きないが、とりあえずいまは自分の仕事に専念することにした。

「何だかんだ最初は文句言ってたのに楽しそうだね」

「そう?」

 たしかに否定できないと里奈は思う。最初はいまいち実感できなかったが、やはりステージが具体的にできていくのは見ていて楽しい。やっているという実感が湧くからだ。

「あとは久遠が女絡みで厄介ごとを持ちこまないでくれたらね」

「男ならいいのかい?」

 そういう問題ではないなと里奈はふと感じる。

 体育館に入ると腕章をつけた皇会のスタッフがいそいそと準備をしていた。チケットの確認をするスタッフだろう。

 このように主体は皇会である。東方旅団はあくまでサポートの立場をとっていた。

 今後の運営などについて相談には乗るが、本業とする気はないというのが東方旅団のスタンスであるためだ。

「こんなことばかりやってたらダンジョン攻略にでるものね」

「でも、たまにはいいんだろ?」

「そうね。イベントってやっぱりアガるのよねぇ」

 里奈は気持ちの悪い笑い声を思わずあげてしまう。

「スポットライトは曲と振り付けのパターンに合わせて勝手にやってくれるのよね」

「うん。あとは桐香さんたちの立ち回りしだいだね」

 いつの間にか名前呼びになっているなと里奈の眉がピクリと反応する。

「あとは本当に任せちゃっていいの?」

「これで運営が難しいっていうんならそれは皇会ほうで考えてもらおうよ」

 それもそうかと里奈は納得する。このライブはあくまで皇会が主体だ。成功も失敗もすべて彼らにかかっている。

 とはいえ心配してもいいだろうし、世話くらい少し焼いてもいいだろう。それについて久遠は特に何も言わなかった。
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