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 東京の高層ビルが立ち並ぶオフィス街。スーツやヒールを履いた人々が、せかせかと行き交う。 

 前野玲香(まえのれいか)は、そんな街の大手広告代理店の一角で働いていた。
 現在32歳で、キャリアもそこそこ積んできたことから、同棲している森脇信哉(もりわきしんや)との結婚を考えていたところだ。 

 信哉とは、新卒で入社した同期で5年間付き合い、今年で同棲1年目となる。同じ会社で苦楽を共にしたからか、お互いの存在は欠かせないものとなっていた。 

 今日も仕事を終え、帰り支度をする。
 信哉から、まだ仕事中と連絡があったため、玲香はスーパーによって夕飯の食材を買って帰ることにした。 

 同じ会社に勤めて二人とも忙しいのに、なんで毎回私が夕飯を準備しないといけないのだろうか 

 そんな愚痴を思いながらも、しっかり二人分の食材を買って帰宅した。
 愛情たっぷりとは言わないが、ごく普通のハンバーグを作り、買ってきたお惣菜を並べ、信哉の帰宅を待っていた。





 あれから1時間は経っただろうか、いくら待てども信哉は帰ってこない。ハンバーグもすっかり冷めた頃、玄関からガチャっと扉を開く音がした。 

「れいか~たっだいま~」 

 ふらふらと千鳥足で信哉が入ってきた。どうやら飲み会に行き、かなり飲んできた様だった。そんな彼の様子に玲香はイライラする。 

「ねえ、飲み会あるときは連絡してって言ったよね?夕飯用意したんだけど?」 

「あ~ごめんごめん、夕飯食べてきちゃった、捨てといて~」 

 そんなことを言いながら、信哉はスーツのままソファに寝っ転がった。
 人が作ったものにその態度はないだろ、と思ったがいちいち口に出しても喧嘩になるだけだと思い、玲香は一人で夕飯を食べることにした。 



 ご飯を食べ終わり、洗い物をする。その間も、信哉はスマホに夢中でまるで手伝う気などなかった。 

「あのさ、そろそろお風呂入ったら?そのままじゃスーツ皺になるし、それにお酒臭いよ」 

「あーはいはい…」 

 信哉からは生返事しか聞こえない。最近、どうも前よりスマホを見る時間が増えた気がする。休日も私との会話よりスマホに夢中だ。
 そんな様子から、私の心は疑念に満ちていた。彼が浮気しているのではないか。でも、この年齢まで付き合って、同棲もして浮気をするだろうか? 

 とりあえず今はその事を忘れ、信哉にさっさとお風呂に入ってもらうことにした。


 やっと信哉がお風呂に入りソファが空いたので、玲香はゆっくりワインでも飲みながら映画を見ることにした。





 酔いも少し回り、映画も中盤に差し掛かったところで、机の上にあった信哉のスマホが鳴った。誰かからメッセージが届いたようだった。




(今日はありがと!誕プレめっちゃ嬉しかった大好きだよ♡)



 は??


 なにこれ、誕プレ?
 大好きだよってなんだよ、てか普通友達だったら言わないでしょこんなこと
 しかも、この愛友花って私の部署の後輩じゃなかったっけ?確か今28歳とかだったような、 


 玲香の酔いは一気に冷めた。まさかと思い、そのままトーク画面を開いてしまった。嫌な予感は的中した。

 今日は飲み会ではなく愛友花の誕生日で、彼女の家で飲んでいたこと
 その前の一泊二日の出張は、実は愛友花との旅行であったこと(浴衣の写真付き)
 毎日、好きだよ♡愛してる♡を言い合っていたこと

 トークを遡れば遡るほど、浮気であろう徹底的な証拠がいくつも出てきた。玲香はその事実を受け止めきれず、ただただスマホを眺めることしかできなかった。






 しばらくして、何も知らない信哉が、冷蔵庫からビールを取り出しリビングにやって来た。 

玲香はスマホを突き出して言った
「信哉、これなに?」 

「なんだよーそんな冷たい声してー」 

 頭をかきながら、呑気な声でそう言った。しかし、玲香が自分のスマホの、しかも愛友花とのトーク画面を開き、こちらに向けていると認識すると、どんどん顔が青ざめていった。 

「な、なに勝手にみてんだよ!」 

「たまたま愛友花ちゃんからメッセージきてたの見えちゃっただけでしょ、そっちがスマホほっておくのが悪いんだよ」 

「それはそうだけど、でも普通見るかよ!」 

「そりゃ、大好きだよ♡なんてトーク画面見たら開きたくなるに決まってるでしょ!
それにもう、これまでのトークも全部見たから。いつからの関係なの?」 

「見たのかよ…
2年前から…あゆちゃんが好きだって言ってきたから仕方なく付き合ってたんだよ」 

「あゆちゃん!?鼻の下伸ばして言わないでよ!気持ち悪い、、
何、私と同棲しだす前から浮気してたわけ!?」 

「そ、そうだよ、ごめんって…
でも、ちょっと付き合おうと思っただけなんだって
それに、玲香だって仕事で忙しそうだし、俺にかまってくれなかったじゃないかよ!」 

「ちょっとぉ???ちょっとだったら2年も付き合わないでしょ!
それに仕事で忙しいのはお互い様でしょ!」 

 バンッと信哉のスマホを置いた玲香は、帰ってからそのまま、そこらへんに転がしていた仕事用バッグを取った。 

「おい!どこ行くんだよ!」 

「出ていくに決まってんでしょ!こんなとこいても話になんないわ」 

「はあ?まじかよ、ちょ、、おい」 

 信哉が玲香の腕をつかむ前に、彼女はバタンと玄関のドアを締めて出ていってしまった。
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