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勢いのまま出てきてしまったことに、玲香は後悔し始めた。仕事用のバッグには財布や手帳、社員証などしか入っていない。もちろん、この時間に行く当てなどもない。
なんで浮気した本人に暖かい寝床があって、真っ当な私がこんな夜道を歩いてんだよ
上手くいってると思ってたのは私だけだったの?私一人で浮かれてたの?
告白も、同棲の話もしてくれたのは信哉だったのに
これまでの事を考えていたら、どんどん涙が溢れてきた。人気も少ない夜道、寒さもあってか、ますます自分が惨めに思えて涙がとまらない。
さすがにこんな大の大人が泣いていると、すれ違う人もぎょっとした顔で彼女を見る。
もう、なんか、どうでもいいいや
帰る家もないし、好きな人にも裏切られたし
どうせ私なんてただの仕事人間だ
このまま、誰にも愛されない人生なんだ
そういえば、あそこに歩道橋あったよな
あの歩道橋、誰も使ってないし穴場なんだよなぁ
もういっかな、人生終わらせて
我ながらよく働いたし、まあまあ職場にも貢献したと思うんだよね
ふらふらと歩きながら、玲香はその歩道橋を目指した。
案の定、今日もその歩道橋には人がいなかった。上ってみると空には満月が上り、涙のせいか普段よりも輝いて見えた。
歩道橋の下には固そうなコンクリートしか見えない。ここから落ちたら即死、もしくはかなり痛みを感じながら死ぬことになるだろう。結果としては同じだった。
玲香は意を決してヒールを脱ぎ、バッグも置いて手すりに足をかける。両足で上り終え、本当に終わりなんだと思っていたその時。
「おい!何してるんだ!!!」
男の人が叫びながら、全速力で玲香に近づき、彼女を抱えて引きずり下ろした。
「離してよ!!なんで下ろしたのよ!!!」
玲香は泣きながら言った
「前野か??お前、こんなとこで何してんだよ!」
玲香を助けた男の人は、近所に住んでいる同期の宮治冬馬(みやじとうま)だった。
冬馬は同期の中でも飛び抜けて仕事ができ、誰にでも優しく面倒見が良いため、同期や後輩から慕われていた。もちろん、玲香にとっても憧れの存在であった。
慕われる理由はもう一つあった。冬馬はかなり格好いいのだ。背は高く、色素の薄い髪色と瞳を持ち、その容姿は冬の暗闇に溶けてしまいそうなほど綺麗だった。
そんな現実離れした見た目から、職場で狙っている人々は多かった。玲香はその抗争に巻き込まれたくないと思い、いつも冬馬とは距離を取っていた。
「なんであんたがこんなとこにいんのよ!邪魔しないでよ…
だいたい、私がどうなろうが宮治には関係ないでしょ」
「関係あるに決まってんだろ!同期がこんな、飛び降りようとしてたらそりゃ誰でも助けるだろ!」
「あいつ、信哉はどうしたんだよ、一緒に住んでただろ?」
「家出した…」
「え?なんで?」
「…」
「話したくないならまあいいや、
で、今日泊まるとこあるの?」
「ない、なんにもないよ、」
「そっか… そしたら、とりあえず俺の家に来なよ、こんなとこいたら風邪ひくし」
玲香は考える暇もなく、冬馬に腕を引っ張られ家に行くことになってしまった。
綺麗な高層マンションにつき、オートロックのエントランスを抜け、部屋に向かう。
なんで同期なのにこんな住む場所が違うのだろう、と玲香は疑問に思いながら進む。
冬馬は鍵を開けた
「どうぞ、入って、荷物はそこら辺に置いといていいよ」
「ありがとう」
「お酒以外だと水しかないんだけどそれでいい?」
「うん」
玲香は出された水を少し飲み、ほっと一息ついた。
「どうしよ、とりあえずお風呂でも入って気持ち落ち着かせよっか
準備してくるね、あっ服俺のしかないけど大丈夫?ごめんね」
そう言い、冬馬はお風呂の準備をしに行った。
え、俺、やばくない?無理やり連れてきちゃったけど大丈夫?犯罪じゃないよね
てか、玲香のことあそこまで追い詰めて、信哉は何やってんだよ、ありえねーだろ
俺なら絶対泣かせるようなことしないのに、
そんなことを考えながら、冬馬は風呂掃除をした。
「準備できたから入りな、これ、服ね」
「本当にありがとう、服は帰るとき返すから」
玲香がお風呂から上がり、冬馬の服を着てタオルで髪をふきながら出てきた。
あ、やばい これ、絶対やばい
家に誘ったはいいけど俺がもたない、
「お、さっぱりしたかー」
平然を装って冬馬は声をかけた
「うん、少し落ち着いた、」
「そっか、よかった、何があったのか聞いてもいい?」
「うん」
玲香は家に帰ってからあったことを少しずつ話し出した。話しているうちに思い出してしまい、また泣いてしまった。
「おかしくない?私、これまでがんばってきたのに、どうしたらいいの?」
「前野は悪くないよ、悪いのは全部あいつだから」
優しい言葉をかけられ、飛び降りたいほど自分を追い詰め、悩んでいたことが嘘のように軽くなった。
「それで、もう家には戻る気ないの?」
「今のところないかな、でも、服とかあるしいつかは戻らないと」
「あいつとはどうするの?」
「そりゃ別れるよ、せっかくここまで付き合ったのにね
なんかあの女に負けた気がして嫌だなー
家もなくなるし、実家戻るの気まずい」
「ずっとここにいればいいじゃん…」
「え?なに?」
「ここにいればいいじゃんって言ったの
俺だったら玲香のこと泣かせない、一生幸せにする」
「え?本気で言ってるの?」
「こんな真面目に言ってるのに嘘なわけないでしょ笑」
「でも、宮治、彼女とかいるでしょ?あんなに職場で集られて」
「いないよ、ずっとね、それに俺は入社してから玲香にしか興味無かった
先に俺が玲香をつかまえてたら、こんな辛い思いさせずにすんだのに…」
「うそ、そんな、私には宮治なんてもったいないよ
それに、つりあわないし」
「つりあわないとかそんなの考えてたのかよ、
周りからの目なんて関係ないだろ、俺は玲香と付き合いたいし、この家で一緒に暮らしたい」
「…本当にいいの?こんな捨てられた私で」
「玲香がいい、逆にあいつが手離してくれてよかったよ
これまでも、これからも大好きだ」
そして冬馬は玲香のことを優しく抱きしめ…
END
なんで浮気した本人に暖かい寝床があって、真っ当な私がこんな夜道を歩いてんだよ
上手くいってると思ってたのは私だけだったの?私一人で浮かれてたの?
告白も、同棲の話もしてくれたのは信哉だったのに
これまでの事を考えていたら、どんどん涙が溢れてきた。人気も少ない夜道、寒さもあってか、ますます自分が惨めに思えて涙がとまらない。
さすがにこんな大の大人が泣いていると、すれ違う人もぎょっとした顔で彼女を見る。
もう、なんか、どうでもいいいや
帰る家もないし、好きな人にも裏切られたし
どうせ私なんてただの仕事人間だ
このまま、誰にも愛されない人生なんだ
そういえば、あそこに歩道橋あったよな
あの歩道橋、誰も使ってないし穴場なんだよなぁ
もういっかな、人生終わらせて
我ながらよく働いたし、まあまあ職場にも貢献したと思うんだよね
ふらふらと歩きながら、玲香はその歩道橋を目指した。
案の定、今日もその歩道橋には人がいなかった。上ってみると空には満月が上り、涙のせいか普段よりも輝いて見えた。
歩道橋の下には固そうなコンクリートしか見えない。ここから落ちたら即死、もしくはかなり痛みを感じながら死ぬことになるだろう。結果としては同じだった。
玲香は意を決してヒールを脱ぎ、バッグも置いて手すりに足をかける。両足で上り終え、本当に終わりなんだと思っていたその時。
「おい!何してるんだ!!!」
男の人が叫びながら、全速力で玲香に近づき、彼女を抱えて引きずり下ろした。
「離してよ!!なんで下ろしたのよ!!!」
玲香は泣きながら言った
「前野か??お前、こんなとこで何してんだよ!」
玲香を助けた男の人は、近所に住んでいる同期の宮治冬馬(みやじとうま)だった。
冬馬は同期の中でも飛び抜けて仕事ができ、誰にでも優しく面倒見が良いため、同期や後輩から慕われていた。もちろん、玲香にとっても憧れの存在であった。
慕われる理由はもう一つあった。冬馬はかなり格好いいのだ。背は高く、色素の薄い髪色と瞳を持ち、その容姿は冬の暗闇に溶けてしまいそうなほど綺麗だった。
そんな現実離れした見た目から、職場で狙っている人々は多かった。玲香はその抗争に巻き込まれたくないと思い、いつも冬馬とは距離を取っていた。
「なんであんたがこんなとこにいんのよ!邪魔しないでよ…
だいたい、私がどうなろうが宮治には関係ないでしょ」
「関係あるに決まってんだろ!同期がこんな、飛び降りようとしてたらそりゃ誰でも助けるだろ!」
「あいつ、信哉はどうしたんだよ、一緒に住んでただろ?」
「家出した…」
「え?なんで?」
「…」
「話したくないならまあいいや、
で、今日泊まるとこあるの?」
「ない、なんにもないよ、」
「そっか… そしたら、とりあえず俺の家に来なよ、こんなとこいたら風邪ひくし」
玲香は考える暇もなく、冬馬に腕を引っ張られ家に行くことになってしまった。
綺麗な高層マンションにつき、オートロックのエントランスを抜け、部屋に向かう。
なんで同期なのにこんな住む場所が違うのだろう、と玲香は疑問に思いながら進む。
冬馬は鍵を開けた
「どうぞ、入って、荷物はそこら辺に置いといていいよ」
「ありがとう」
「お酒以外だと水しかないんだけどそれでいい?」
「うん」
玲香は出された水を少し飲み、ほっと一息ついた。
「どうしよ、とりあえずお風呂でも入って気持ち落ち着かせよっか
準備してくるね、あっ服俺のしかないけど大丈夫?ごめんね」
そう言い、冬馬はお風呂の準備をしに行った。
え、俺、やばくない?無理やり連れてきちゃったけど大丈夫?犯罪じゃないよね
てか、玲香のことあそこまで追い詰めて、信哉は何やってんだよ、ありえねーだろ
俺なら絶対泣かせるようなことしないのに、
そんなことを考えながら、冬馬は風呂掃除をした。
「準備できたから入りな、これ、服ね」
「本当にありがとう、服は帰るとき返すから」
玲香がお風呂から上がり、冬馬の服を着てタオルで髪をふきながら出てきた。
あ、やばい これ、絶対やばい
家に誘ったはいいけど俺がもたない、
「お、さっぱりしたかー」
平然を装って冬馬は声をかけた
「うん、少し落ち着いた、」
「そっか、よかった、何があったのか聞いてもいい?」
「うん」
玲香は家に帰ってからあったことを少しずつ話し出した。話しているうちに思い出してしまい、また泣いてしまった。
「おかしくない?私、これまでがんばってきたのに、どうしたらいいの?」
「前野は悪くないよ、悪いのは全部あいつだから」
優しい言葉をかけられ、飛び降りたいほど自分を追い詰め、悩んでいたことが嘘のように軽くなった。
「それで、もう家には戻る気ないの?」
「今のところないかな、でも、服とかあるしいつかは戻らないと」
「あいつとはどうするの?」
「そりゃ別れるよ、せっかくここまで付き合ったのにね
なんかあの女に負けた気がして嫌だなー
家もなくなるし、実家戻るの気まずい」
「ずっとここにいればいいじゃん…」
「え?なに?」
「ここにいればいいじゃんって言ったの
俺だったら玲香のこと泣かせない、一生幸せにする」
「え?本気で言ってるの?」
「こんな真面目に言ってるのに嘘なわけないでしょ笑」
「でも、宮治、彼女とかいるでしょ?あんなに職場で集られて」
「いないよ、ずっとね、それに俺は入社してから玲香にしか興味無かった
先に俺が玲香をつかまえてたら、こんな辛い思いさせずにすんだのに…」
「うそ、そんな、私には宮治なんてもったいないよ
それに、つりあわないし」
「つりあわないとかそんなの考えてたのかよ、
周りからの目なんて関係ないだろ、俺は玲香と付き合いたいし、この家で一緒に暮らしたい」
「…本当にいいの?こんな捨てられた私で」
「玲香がいい、逆にあいつが手離してくれてよかったよ
これまでも、これからも大好きだ」
そして冬馬は玲香のことを優しく抱きしめ…
END
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