マーメイド

奈落

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電磁帆(セイル)収納完了…
進入角修正、αマイナス.3、θ.02…
外部カメラ収納、アンテナ類収納…
これより独立航行に移行…

船内の消費電力を抑える為、非常灯だけが灯される。
薄暗いコックピットで緩衝材に挟まれてその時を待つ…

着陸艇は大気圏の上層部に突っ込んでいった。
減速の衝撃が艇をシャッフルしてゆく。
高度がみるみる低下してゆく。

安定翼展開…
錐揉み状態から脱出する。
飛行翼展開…
艇の軌道が安定し、降下速度が緩まってゆく。
外部カメラ展開…
モニタに明かりが灯り、下界を映し出す。
エンジン起動…動力飛行に移行…アンテナ類展開…制御信号受信…

着陸艇は大きくバンクして着陸点を目指した。
後の制御は母船からの指示に従うことになる。
緩衝材を剥ぎ取り、シートベルトを緩める。
今は何もやる事がない。
モニタ越しに流れ映る地表を眺めていた。


着陸点に近付くとアラームが鳴った。
異常事態?
激しく変動する数値と、そこから導き出される異常事態のメッセージがモニタの上を流れてゆく。
着陸艇が当初の着陸点の上を通過した。
モニタには大きく抉れたクレーターが映っていた。

着陸体勢に入っていた着陸艇は、一旦高
高度を上げた。
母船からの指示で別の着陸点を目指す。
…が、着陸艇の向かう先で閃光が生まれた。
再び艇はクレーターの上を通過した。

同じ事を三度繰り返した後、母船から「強行着陸」の指示が出た。
着陸艇の燃料の搭載量はそう多くはない。
勿論、単独で母船まで戻れる筈もない。
強行着陸の指示が出た後は母船からの指示や制御は一切なくなってしまう。
緩めたシートベルトを締め直し、コントローラーを握りしめた。



マニュアルに従い、海や湖などの広い水面を探す。
勿論、着水後は着陸艇は放棄する事になる。
減速を掛けながら飛行翼を目一杯広げ揚力を確保して水面に近付く。
外部カメラ、アンテナ類を収納し…
滑るようにして水面に触れさせた。

艇は大きく跳ね上げられた。
大気圏への進入よりも激しく凌動する。
コントローラーから手が放れるが、それ以前に艇は制御を失っていた。




…気が付くと、辺りは静けさに包まれていた。
着陸艇は水底に停止しているであろう。
上下が逆になった天井に水溜まりが出来ていて、次第に水面かが上昇していた。
ここから脱出できなければ溺れ死ぬだけだ。
が、どの程度の深さがあるのだろうか?
その水圧には生身では耐えられないと思った方が良い。
…そう、生身では…


非常用キットの蓋を開けた。
本当の非常時にのみ使用が認められる肉体強化薬を取り出した。
これを使えば一時間近くは無呼吸で宇宙空間を活動できる。
耐火性能に特化したやつなら、火山のマグマの中でも活動できる。
が、今必要なのは水圧に耐え、水中での活動に特化したものなのだ。

無針注射器から薬液が血管内に送り込まれる。
皮膚がむずむずとする。
水圧に耐えられる皮膚に置き換わってゆくのだ。
コックピットの水は腰の上を越えていた。
水中での行動に衣服が邪魔になると本能が告げていた。
服を脱ぎ全裸になると、太腿の表面に鱗が浮き上がってきた。
水面が胸を越えた。
いつの間にか伸びていた髪が水中に広がると、髪の毛が水中から酸素を取り出し始めていた。
もう口で呼吸する必要がないとわかると、頭を水中に没した。
足先がヒレのようになっている。
歩くより泳いだ方が行動しやすくなっていた。

着陸艇のエアロックを抜け、水中に躍り出た。
水圧は気にならない。
少し離れて艇の状態を確認した。
エンジン部分が脱落し、原型を止めてはいなかった。
艇は海溝の淵の岩棚にかろうじて引っ掛っていた。
更に下に落ちていたら、艇ごと潰されていたかも知れない。

オレは両手で大きく水を掻くと、水面に向かって泳ぎ始めた。
息をしなくとも髪の毛から酸素が供給される。
とは言え、腰まで届く長さの髪は地上ではどうしたら良いのだろうか?
それに服は脱いできてしまっている。
オレは今全裸なのだ。
股間を覆うものさえない。

(?!)

……
………

オレの下半身は見事な鱗に覆われた魚類の尾ヒレに変わっていた。
確かに水中を自由に動きまわるには都合が良いのだが、陸上では立って歩く事も儘ならない。
それに、物語の人魚は皆女性であり、長いスカートに隠すこともできるが…

そう…男のオレがスカートを穿く訳にもいかない…
(男)
?…その概念にオレは違和感を感じた。
今のオレの姿は、物語の人魚姫そのものだった。
それは尾ヒレだけではない。
腰まで届く長い髪もそうだが…
オレの胸にはいつの間にか女性の乳房状の膨らみが生まれていた。
否っ!!
コレは完全に女性の乳房だ。

勿論、下半身は尾ヒレであり、当然そこには男性のシンボルの存在を確認することはできない。
こんな状態でオレは「男」であると主張できるのだろうか?
多分…近くには鏡はおろか自分自身を映せるものがないので確認はできていないが…オレの顔もまたこの肉体に相応しいものになっているに違いない…



水面が見えてきた。
そのまま上半身を浮き上がらせた。

空気を吸った…

肺に空気が満たされる。
(息をしている…)
これまで無意識のようにしていた「呼吸」を噛み締めるように実感した。
そして…
「あ…あああ…」
吐息と共に喉を振るわせてみた。

やはり、それは女性の声以外の何物でもなかった。

(オレは元に戻れるのだろうか?)
母船との連絡手段が絶たれた今、オレ自身の存在を知らせる術がない。
この惑星にある通信施設であればそれは可能であろうが…

オレ/アタシは王子様との再会を夢見る人魚姫のように、陸に向かって泳ぎだした♪

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