以水救水ヒロイズム

まめ

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13(終)

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 鵜山うやまは目を覚まし、額を押さえた。震えている指先に気付いて、ぎゅっと握りしめる。あの村での一件以来、幾度目かもわからない夢を見ていたようだった。掠れた声で囁く。

「守るためにしたことは、間違っていないはずだ」

 人差し指が曲がったまま硬直したように痺れるのを、何度も何度もさする。重みが残っているような気がしていた。

「……ぱぱ?」

 舌足らずに自分を呼ぶ声にはっと鵜山は我に返る。妻の実家に数日いた娘は、それでも寂しかったのか、横を御所望だったのだ。眠たげに目を擦る幼い娘の頭を撫でて、ふっと息をついた。指輪を撫でることはせずに、寝入った娘を眺める。



 後悔はない。

 葉月はづき水城みずき。救いたかった自分の教え子が救われたのだから、後悔などある筈がなかった。

 綴と水城は沈黙の中で、どこか距離感を模索しているように見えたし、葉月はもう退院も近い。何も不満はない。

 川瀬は流石に村での一件をそのまま記事にするわけも行かず、土砂災害と村の伝承を結び付けたような、眉唾物の胡散臭い記事を書いていた。彼にとって知ることが大切であって、知らせることにそこまで拘りがないからか、我ながら馬鹿馬鹿しい記事だと笑い飛ばしていたが。

 そう、不満はないのだ。

 それなのに、胸のどこかに得体の知れない影が引っかかって、重さを引き摺っている。元通りの日常に戻ったはずであるのに、まるで自分自身が気味の悪いものに変質してしまったような嫌な心地が続いている。

 元通りにはならない、元通りにはなれないのだと嘲られているように、ふっと影が過って、そのたびに振り払い我に返る。それを幾度も繰り返している。

 鵜山は深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 決意は変わらない。変われない。結局、この後味の悪いような嫌な気持ちがあって尚、自分はまた優しい大人であろうとするのだ。懲りもせずに、また、同じような血生臭い何かに出くわしたとしても、同じようにするのだろうと確信していた。

 それは良い。自分の勝手でしかないのだから。

 そうではなくて、あの時引き金を引いた自分が、果たしてこれまでと同じようにいられるのかがわからなくなっているのだ。

 鵜山は封じるように目を閉じる。


 ただ、もうこの世にいない妻に会いたいと思った。






……







 眩暈がする。

 喉が渇く。体が渇く。足りないと叫ぶ。

 身体中をかきむしりたいような衝動をこらえるように蹲って拳を打ち付ける。割れた爪から血が滲んでいた。それもすぐに癒えてしまった。

 苦しくてたまらない。

 喉が渇いた。足りないのだ。足りないと感じることに、身体に鳥肌が立つ。

「……ああ、やはり、先生は僕を救うべきではなかった」

 静かに、ドアが開いた。水城みずきは顔を上げる。



 そうして、きっと、繰り返す。





            
「以水救水ヒロイズム」……fin.

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