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5「やっと見つけた……間違いない……」
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大学付近はコンビニや駅があって、それなりに人もいるけれど、御門くんの車は、どんどん人気のない方へと向かっていく。
「ひとつ、結城くんに謝っておきたいことがあったんだよね」
運転しながら、御門くんはそう話を切り出した。
「なに……?」
「結城くんをベッドで寝かせた後、首筋とか、見えてる部分の血は拭いたんだけど、結構、早く智哉が来ちゃって。綺麗にしてあげられなかったから……」
「そ、そんなの、別にいいよ……」
むしろ見えてる部分の血を拭いてくれたことに関して、感謝しなくてはならない。
「もし、全部、綺麗にされてたら、夢じゃないんだって気づけなかったかもしれないし……」
「じゃあ、結果的に、よかったかな」
夢じゃないことに、気づいて欲しかったんだろうか。
なにをどう聞けばいいのかわからなくて、俺はいったん、考えることを放棄した。
しばらく走った後、木々が生い茂る山道を通り抜けて、着いた先は、2階建ての一軒家。
少し古く見えるけど、西洋の館みたいで、御門くんの雰囲気に合っているなんて思った。
すぐ近くに他の家はない。
「基本的には、僕1人だから。気楽にしてくれていいよ」
車を降りてそう言うと、御門くんが玄関の扉を開ける。
「基本的にはって?」
「ときどきうちの主人が帰ってくる。けど、なかなか顔を見せない人だから」
主人って、誰のことだろう。
家主?
それとも、親のこと?
少し引っかかるけど、家庭環境に口を挟むつもりはない。
廊下を抜けて迎えられた部屋には、大きなベッドが置かれていた。
ここが御門くんの自室。
なにから聞こうか。
そんなことを考えていると、御門くんはなにを思ったか、上着とシャツを脱ぎ始めた。
「……着替えるの?」
「ううん。脱ごうと思って」
嫌な予感がする。
これから、なにか非日常的なことが起こってしまう予感。
まずいはずなのに、俺はその場から動けないでいた。
御門くんが見せてくれる非日常を、覗いてみたいのかもしれない。
御門くんは上半身裸になると、まるで誘い込むみたいに体を近づけてきた。
「昨日の結城くん……めそめそ泣いてて、めちゃくちゃかわいかった……」
さっきまでとは違う、囁くような口調。
恥ずかしいことを指摘されたからか、目の前の御門くんが半裸だからか、囁き声が色っぽいからか。
理由はわからないけど、心臓がバクバク音を立てていた。
「結城くんも、覚えてるんだよね……?」
昨日は、すごく恥ずかしい姿を晒してしまったけど、恥ずかしいなんて考える余裕はなかったし、あんな大怪我だったんだから仕方ない。
反論もせず、心の中で言い訳していると、御門くんは俺を見つめながら、笑みを浮かべた。
「僕、あれ見て興奮しちゃったんだよね」
「興奮……?」
「そう。たまんなくなっちゃって」
まるで、いまも興奮してるみたい。
でも、御門くんにとってたまんないのは、たぶん俺じゃない。
怪我だ。
血だ。
俺が言われたなんて、勘違いするわけにはいかない。
勘違いしたくないのに、心臓は高鳴ったまま。
恐怖でも、緊張でもなく、期待している。
「……趣味悪いよ」
御門くんの興奮の理由が、血だとしても、泣く俺だとしても、どっちにしろ悪趣味だ。
「そう?」
やっと動いた足で、数歩、後ろに下がると、そこはベッドだった。
意図せず、座り込んでしまう。
「ご、ごめん」
俺のせいではないと思うけど、人のベッドに断りもなく勝手に座ってしまい、慌てて立ちあがる。
そんな俺を待ち構えていた御門くんが、ズボン越しに俺の太ももを撫であげた。
俺を相手にするなんて、ありえないって思っていたけど、御門くんは誰でもいいのかもしれない。
友達じゃなくても、地味な俺でも。
「……今度は、俺を犯す気?」
「今度はって?」
「智哉のこと、犯したでしょ」
智哉は言わないし、御門くんにだって聞くつもりはなかったけど。
「んー……それは、智哉が言ってたの?」
「言ってないよ。付き合ってもいないのに、御門くんに犯されただなんて、そんなこと、智哉が言うはずない」
付き合っていないかどうかの確認も、取れてはいないけど。
「でも、結城くんは、僕と智哉がしたって、思ってるんだ?」
「だって……」
見てしまったから。
つい思い浮かべてしまい、顔がかぁっと熱くなる。
ひとまず、太ももに触れていた御門くんの手をなんとか引き剥がす。
でも、もしこのまま喧嘩にでもなって、外に放り出されたら面倒だ。
よくわからない場所だし、タクシーを使えるほど手持ちのお金もない。
冷静でいよう。
落ち着こう。
そう自分に言い聞かせる。
それなのに――
「……結城くん、僕を見て、興奮しない?」
御門くんは俺から一歩離れると、自分の胸元を指先で撫でながら、舌をちらつかせてきた。
色っぽい。
……興奮しそうになる。
いや、もうしているのかもしれない。
鼓動は速いし、呼吸が浅くなっているのを感じた。
こうやって、御門くんは男女問わず、いろんな人を虜にしてきたんだろう。
智哉のことがなければ、俺だって、少しはなびいていたかもしれないけど、このまま流されるわけにはいかない。
「いくらモテるからって、誰もが自分に興味あると思うなよ」
御門くんが落としたシャツを拾い、差し出す。
「僕の体に興味ないんだ?」
御門くんは、俺からシャツを受け取ることもなく、自分のベルトに手をかけた。
「僕のこと、犯したくならないかって意味なんだけど」
「え……?」
想定外のことを言われて、思わず顔をあげる。
智哉にしていたみたいに、俺のことも犯すつもりなのかと思っていたけど、どうやらそういうわけではないらしい。
「俺が……する側なの?」
「そう。犯したくない?」
「別に……犯したくないよ……」
見てしまったのは、御門くんが智哉を抱く姿だし、御門くんが誰かに抱かれるイメージはない。
「……意地張ってる?」
「意地とかじゃなくて……どうしてそんな自信あんだよ。そもそも、そういう目で見られていいの? 俺は……嫌なんだけど」
今度は、シャツを無理やり御門くんに押しつける。
御門くんは、誘ったにもかかわらず、俺に振られた状態だ。
それでも、なぜか楽しそうにニヤニヤしていた。
「……いいねぇ、結城くん」
ファンよりも、自分に興味を持たない人の方が気になるだとか、そういうタイプだろうか。
「どこがいいんだよ……」
「ごめん、ごめん。怒らないで。からかいすぎちゃった?」
からかわれてたのか。
それはそれで、嫌なんだけど。
「とりあえず、そこのベッド座ってくれる? 太もも見せて」
「え……?」
「昨日の怪我、どうなったか見たいだけ」
さっきまでの誘うような雰囲気じゃない。
本当に、気にしてくれてるのかもしれない。
「やっぱり俺……怪我してたよね?」
「してたよ」
あれは夢じゃない。
それは、御門くんが知ってくれている。
俺はズボンを膝までおろして、ベッドに腰掛けた。
男同士だし、ズボンを脱ぐくらい恥ずかしいことじゃない。
むしろ、こんなことで恥ずかしがってる方が、意識してるみたい。
「ああ、綺麗に治ってるね」
御門くんは俺の前にしゃがみ込むと、太ももを指でなぞりながら、じっくり観察してきた。
「ここ、どうなってたか、覚えてる?」
「俺の記憶だと……皮が捲れてて、すごい血が溢れてた」
思い出すだけで、気分が悪くなる。
そんな俺とは対照的に、御門くんは冷静だ。
「うん。そうだね……」
「それを御門くんが……」
「どうしてた?」
もしも夢なら。
夢であなたに舐められてましたなんて、本人に告げるバカはいない。
そういう恥ずかしい妄想をしているんだって、晒すことになる。
でも、きっと現実だ。
「舐めてた……」
「こんな風に?」
御門くんは、笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んだ後、太ももに舌を這わせてきた。
「なっ……」
せっかく、意識しないようにしてたのに。
また胸がざわつく。
「やっと見つけた……間違いない……」
俺が御門くんを引き剥がすより早く、体を起こした御門くんが抱き着いてきた。
「なに……!」
そのまま、御門くんに押し倒されてしまう。
「実は僕に欲情してるのを隠してるだけだってことなら考えるけど。本当に欲情もしてなくて、記憶もしっかり残っているんなら、確定だよ。結城くん、きみはメスだ」
メス。
御門くんがいったいなにを言っているのか、俺にはよくわからなかった。
「御門くんに欲情しない男だっているよ! 御門くん、いったい自分をなんだと思ってんの?」
「僕? 僕もメスだよ」
御門くんは近距離で俺を見下ろしながら、呟いた。
「……さっきからずっとわけわかんない」
「じゃあおとなしく聞いてね? 結城くん、きみは昨日、僕の血を飲んで吸血生物になったんだ」
「……吸血生物?」
御門くんの話は突拍子もないものだった。
昨日、御門くんに血を舐められて、俺は吸血鬼の映画を思い出したけど、思い出しただけで実際にそうだと思ったわけじゃない。
「ああ、安心していいよ。血を吸わなきゃ生きていけないだとか、そんな不自由な生物じゃないから」
もし冗談なら、こんな説明、わざわざ俺にする必要はない。
本気だけど事実じゃなかった場合、御門くんの頭が心配だ。
実際、おかしなことが起こっているのはたしかだし、ひとまず、おとなしく聞いておいた方がいいかもしれない。
「どんな生物か、もうちょっとわかりやすく教えてくれる?」
「うーん。吸血鬼とかヴァンパイアだって言ってる仲間もいるみたいだけど、僕はちょっと違うものだと思ってる。蚊って、メスしか血を吸わないんだけど、知ってる?」
「それは、なんとなく聞いたことあるよ」
「オスは花の蜜とか……メスも、普段はそんなんらしいけど、産卵の時期だけ、必要な栄養を得るために人の血を吸うんだって。僕たちも、似たようなものかな。血を必要としているのはメスだけ。時期も限られてる。産卵するわけじゃないけど、仲間を増やすためには、まずオスとの性的接触、もしくはオスから血液をもらって、完全体のメスになる。その後、人間の血をもらうことで、やっと誰かに感染させられるんだ」
「……わかりにくいんだけど」
「なんとなくわかってくれたらいいよ」
つまり御門くんは、吸血鬼とか蚊みたいな生物ってことらしい。
御門くんの話を、全部信じるなら……だけど。
「ひとつ、結城くんに謝っておきたいことがあったんだよね」
運転しながら、御門くんはそう話を切り出した。
「なに……?」
「結城くんをベッドで寝かせた後、首筋とか、見えてる部分の血は拭いたんだけど、結構、早く智哉が来ちゃって。綺麗にしてあげられなかったから……」
「そ、そんなの、別にいいよ……」
むしろ見えてる部分の血を拭いてくれたことに関して、感謝しなくてはならない。
「もし、全部、綺麗にされてたら、夢じゃないんだって気づけなかったかもしれないし……」
「じゃあ、結果的に、よかったかな」
夢じゃないことに、気づいて欲しかったんだろうか。
なにをどう聞けばいいのかわからなくて、俺はいったん、考えることを放棄した。
しばらく走った後、木々が生い茂る山道を通り抜けて、着いた先は、2階建ての一軒家。
少し古く見えるけど、西洋の館みたいで、御門くんの雰囲気に合っているなんて思った。
すぐ近くに他の家はない。
「基本的には、僕1人だから。気楽にしてくれていいよ」
車を降りてそう言うと、御門くんが玄関の扉を開ける。
「基本的にはって?」
「ときどきうちの主人が帰ってくる。けど、なかなか顔を見せない人だから」
主人って、誰のことだろう。
家主?
それとも、親のこと?
少し引っかかるけど、家庭環境に口を挟むつもりはない。
廊下を抜けて迎えられた部屋には、大きなベッドが置かれていた。
ここが御門くんの自室。
なにから聞こうか。
そんなことを考えていると、御門くんはなにを思ったか、上着とシャツを脱ぎ始めた。
「……着替えるの?」
「ううん。脱ごうと思って」
嫌な予感がする。
これから、なにか非日常的なことが起こってしまう予感。
まずいはずなのに、俺はその場から動けないでいた。
御門くんが見せてくれる非日常を、覗いてみたいのかもしれない。
御門くんは上半身裸になると、まるで誘い込むみたいに体を近づけてきた。
「昨日の結城くん……めそめそ泣いてて、めちゃくちゃかわいかった……」
さっきまでとは違う、囁くような口調。
恥ずかしいことを指摘されたからか、目の前の御門くんが半裸だからか、囁き声が色っぽいからか。
理由はわからないけど、心臓がバクバク音を立てていた。
「結城くんも、覚えてるんだよね……?」
昨日は、すごく恥ずかしい姿を晒してしまったけど、恥ずかしいなんて考える余裕はなかったし、あんな大怪我だったんだから仕方ない。
反論もせず、心の中で言い訳していると、御門くんは俺を見つめながら、笑みを浮かべた。
「僕、あれ見て興奮しちゃったんだよね」
「興奮……?」
「そう。たまんなくなっちゃって」
まるで、いまも興奮してるみたい。
でも、御門くんにとってたまんないのは、たぶん俺じゃない。
怪我だ。
血だ。
俺が言われたなんて、勘違いするわけにはいかない。
勘違いしたくないのに、心臓は高鳴ったまま。
恐怖でも、緊張でもなく、期待している。
「……趣味悪いよ」
御門くんの興奮の理由が、血だとしても、泣く俺だとしても、どっちにしろ悪趣味だ。
「そう?」
やっと動いた足で、数歩、後ろに下がると、そこはベッドだった。
意図せず、座り込んでしまう。
「ご、ごめん」
俺のせいではないと思うけど、人のベッドに断りもなく勝手に座ってしまい、慌てて立ちあがる。
そんな俺を待ち構えていた御門くんが、ズボン越しに俺の太ももを撫であげた。
俺を相手にするなんて、ありえないって思っていたけど、御門くんは誰でもいいのかもしれない。
友達じゃなくても、地味な俺でも。
「……今度は、俺を犯す気?」
「今度はって?」
「智哉のこと、犯したでしょ」
智哉は言わないし、御門くんにだって聞くつもりはなかったけど。
「んー……それは、智哉が言ってたの?」
「言ってないよ。付き合ってもいないのに、御門くんに犯されただなんて、そんなこと、智哉が言うはずない」
付き合っていないかどうかの確認も、取れてはいないけど。
「でも、結城くんは、僕と智哉がしたって、思ってるんだ?」
「だって……」
見てしまったから。
つい思い浮かべてしまい、顔がかぁっと熱くなる。
ひとまず、太ももに触れていた御門くんの手をなんとか引き剥がす。
でも、もしこのまま喧嘩にでもなって、外に放り出されたら面倒だ。
よくわからない場所だし、タクシーを使えるほど手持ちのお金もない。
冷静でいよう。
落ち着こう。
そう自分に言い聞かせる。
それなのに――
「……結城くん、僕を見て、興奮しない?」
御門くんは俺から一歩離れると、自分の胸元を指先で撫でながら、舌をちらつかせてきた。
色っぽい。
……興奮しそうになる。
いや、もうしているのかもしれない。
鼓動は速いし、呼吸が浅くなっているのを感じた。
こうやって、御門くんは男女問わず、いろんな人を虜にしてきたんだろう。
智哉のことがなければ、俺だって、少しはなびいていたかもしれないけど、このまま流されるわけにはいかない。
「いくらモテるからって、誰もが自分に興味あると思うなよ」
御門くんが落としたシャツを拾い、差し出す。
「僕の体に興味ないんだ?」
御門くんは、俺からシャツを受け取ることもなく、自分のベルトに手をかけた。
「僕のこと、犯したくならないかって意味なんだけど」
「え……?」
想定外のことを言われて、思わず顔をあげる。
智哉にしていたみたいに、俺のことも犯すつもりなのかと思っていたけど、どうやらそういうわけではないらしい。
「俺が……する側なの?」
「そう。犯したくない?」
「別に……犯したくないよ……」
見てしまったのは、御門くんが智哉を抱く姿だし、御門くんが誰かに抱かれるイメージはない。
「……意地張ってる?」
「意地とかじゃなくて……どうしてそんな自信あんだよ。そもそも、そういう目で見られていいの? 俺は……嫌なんだけど」
今度は、シャツを無理やり御門くんに押しつける。
御門くんは、誘ったにもかかわらず、俺に振られた状態だ。
それでも、なぜか楽しそうにニヤニヤしていた。
「……いいねぇ、結城くん」
ファンよりも、自分に興味を持たない人の方が気になるだとか、そういうタイプだろうか。
「どこがいいんだよ……」
「ごめん、ごめん。怒らないで。からかいすぎちゃった?」
からかわれてたのか。
それはそれで、嫌なんだけど。
「とりあえず、そこのベッド座ってくれる? 太もも見せて」
「え……?」
「昨日の怪我、どうなったか見たいだけ」
さっきまでの誘うような雰囲気じゃない。
本当に、気にしてくれてるのかもしれない。
「やっぱり俺……怪我してたよね?」
「してたよ」
あれは夢じゃない。
それは、御門くんが知ってくれている。
俺はズボンを膝までおろして、ベッドに腰掛けた。
男同士だし、ズボンを脱ぐくらい恥ずかしいことじゃない。
むしろ、こんなことで恥ずかしがってる方が、意識してるみたい。
「ああ、綺麗に治ってるね」
御門くんは俺の前にしゃがみ込むと、太ももを指でなぞりながら、じっくり観察してきた。
「ここ、どうなってたか、覚えてる?」
「俺の記憶だと……皮が捲れてて、すごい血が溢れてた」
思い出すだけで、気分が悪くなる。
そんな俺とは対照的に、御門くんは冷静だ。
「うん。そうだね……」
「それを御門くんが……」
「どうしてた?」
もしも夢なら。
夢であなたに舐められてましたなんて、本人に告げるバカはいない。
そういう恥ずかしい妄想をしているんだって、晒すことになる。
でも、きっと現実だ。
「舐めてた……」
「こんな風に?」
御門くんは、笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んだ後、太ももに舌を這わせてきた。
「なっ……」
せっかく、意識しないようにしてたのに。
また胸がざわつく。
「やっと見つけた……間違いない……」
俺が御門くんを引き剥がすより早く、体を起こした御門くんが抱き着いてきた。
「なに……!」
そのまま、御門くんに押し倒されてしまう。
「実は僕に欲情してるのを隠してるだけだってことなら考えるけど。本当に欲情もしてなくて、記憶もしっかり残っているんなら、確定だよ。結城くん、きみはメスだ」
メス。
御門くんがいったいなにを言っているのか、俺にはよくわからなかった。
「御門くんに欲情しない男だっているよ! 御門くん、いったい自分をなんだと思ってんの?」
「僕? 僕もメスだよ」
御門くんは近距離で俺を見下ろしながら、呟いた。
「……さっきからずっとわけわかんない」
「じゃあおとなしく聞いてね? 結城くん、きみは昨日、僕の血を飲んで吸血生物になったんだ」
「……吸血生物?」
御門くんの話は突拍子もないものだった。
昨日、御門くんに血を舐められて、俺は吸血鬼の映画を思い出したけど、思い出しただけで実際にそうだと思ったわけじゃない。
「ああ、安心していいよ。血を吸わなきゃ生きていけないだとか、そんな不自由な生物じゃないから」
もし冗談なら、こんな説明、わざわざ俺にする必要はない。
本気だけど事実じゃなかった場合、御門くんの頭が心配だ。
実際、おかしなことが起こっているのはたしかだし、ひとまず、おとなしく聞いておいた方がいいかもしれない。
「どんな生物か、もうちょっとわかりやすく教えてくれる?」
「うーん。吸血鬼とかヴァンパイアだって言ってる仲間もいるみたいだけど、僕はちょっと違うものだと思ってる。蚊って、メスしか血を吸わないんだけど、知ってる?」
「それは、なんとなく聞いたことあるよ」
「オスは花の蜜とか……メスも、普段はそんなんらしいけど、産卵の時期だけ、必要な栄養を得るために人の血を吸うんだって。僕たちも、似たようなものかな。血を必要としているのはメスだけ。時期も限られてる。産卵するわけじゃないけど、仲間を増やすためには、まずオスとの性的接触、もしくはオスから血液をもらって、完全体のメスになる。その後、人間の血をもらうことで、やっと誰かに感染させられるんだ」
「……わかりにくいんだけど」
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