おいしい理由~クイーンが魅せる非日常~

水無月

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9「忘れちゃったんだね」

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 御門くんは、服以外に髪も整えてくれた。
 少し……だいぶ照れくさい。
 服装と髪型だけで、人はかなり変われるらしい。
 御門くんとは駐車場で別れて、それぞれ教室へと向かう。
「司、おはよう!」
 智哉だ。
「おはよう」
「今日、いつもと感じ違うな」
 智哉の視線が突き刺さる。
 御門くんとのことがバレるんじゃないか、バレたらどう言えばいいのか。
 そもそも智哉は御門くんをどう思っているのか。
「俺……」
「なんか今日の司、かわいく見える」
「な……なんだよ、それ」
「素直な感想だけど?」
 御門くんのこと、疑われると思っていたのに。
「ジロジロ見すぎ……」
「ああ、ごめん。でも、なんていうか……なんでいままで気づかなかったんだろ」
 いったいなにに気づかなかったんだろう。
 首を傾げる俺を見て、智哉はにっこり笑った。
「そういう仕草も、なんかずるいよな」
 智哉の手が、軽く俺の頬に触れて、すぐ離れていく。
 たしかに俺は変わったと思う。
 御門くんの服のおかげで、いい感じに仕上げられた。
 それに加えて、メスとしてオスを引き寄せるなにかが出ているのかもしれない。
 結局、すべては御門くんなんだ。
 御門くんのことを考えていると、そこに本人が現れる。
「おはよう、智哉、結城くん」
 あまり目立ちたくないのに、御門くんが来ると、注目を浴びかねない。
 そもそもせっかく駐車場で別れたのに、これじゃあ意味がない。
「おはよ。御門が俺たちに声かけるなんてめずらしいじゃん。初めてか?」
 少し警戒した様子で、智哉が答える。
「メールでも良かったんだけど、放課後、2人に用があるんだ。約束させて」
「なんの約束?」
「結城くんの部屋で、3人で話がしたい」
「え……」
 意外な言葉に、思わず口を開く。
 智哉も意外だったのか、なんだか複雑な表情を浮かべていた。
「司を運んだ日……手出してないって言ってたよな」
「出してないよ。その日はね」
「その日はって……」
「そろそろ講義始まるし、こういう話、人に聞かれたら困るでしょ」
 御門くんは智哉にそう告げた後、俺の方をちらっと窺う。
 智哉も俺を見て、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「それじゃあ放課後ね」
 御門くんはひらひらと手を振りながら、普段一緒にいる派手な人たちの方へと向かう。
 残された俺と智哉の間には、妙な空気が流れていた。
「司……」
「ご……ごめん、智哉」
「あとで、話してくれる?」
 なにをどこまで話せるのか、わからないけど。
 俺も、智哉の気持ちを知りたい。
 智哉が許してくれるなら、俺は御門くんとどうにかなりたいのかもしれない。
「わかった」



 放課後までの時間、俺も智哉も、あえて御門くんのことには触れなかった。
 当然、御門くんが俺たちに声をかけることもない。
 いつもと変わらないはずなのに、いまはそれがひどく不自然に思えた。
 本日最後の講義を終えた俺と智哉は、一緒に教室を出る。
 周りに人がいなくなると、智哉が俺に話しかけてきた。
「司……御門と仲良くなったんだ?」
「仲良くっていうか……」
「その服、御門が選んだんだろ」
「うん……」
 さすがに自分で選んだなんて嘘、すぐにバレてしまうだろう。
 白状すると、智哉は苦笑いして俺の頭をポンと軽く叩いた。
「なんでそんな顔してんだよ」
「どんな顔?」
「めちゃくちゃ申し訳ない顔してる」
「だって……」
 御門くんは智哉の好きな相手だから。
 そう思っていたけど、いまはよくわからない。
「この後、なに話されんのか正直、ちょっと怖いけど。とりあえず帰るか」
「うん……」
 俺はなにをどう話せばいいんだろう。



 智哉と一緒に俺の部屋についてすぐ、御門くんもやってきた。
「待たせちゃった?」
「待ってないよ。なんかよくわかんないけど話してくれるんだろ?」
 智哉の問いかけに、御門くんが頷く。
「ひとまず座ろうか」
 御門くんに言われて、俺は床の適当な場所に座った。
 智哉は、少し距離を取ると、向かい合うような位置で腰をおろす。
 御門くんは、俺の隣に座った後、ぐっと身を寄せてきた。
「ちょ……近いよ」
「いいじゃん。これからどうせ智哉には説明するんだし」
「なにを……」
 俺の疑問は、智哉も感じているはずだ。
 いったい御門くんは、なにを説明するんだろう。
「ずいぶん、仲良くなったみたいだな」
 智哉が警戒した様子で、俺と御門くんを見比べる。
「そう。智哉には何度か頼んだよね? 結城くんを紹介して欲しいって」
「え……」
 聞かされたのは、俺の知らない新たな事実だった。
 まさか、御門くんがそんなことを智哉に頼んでいたなんて……。
「司には話してなかったけど、ちょこちょこ言われてて、なんとなく流してたんだ。どうせ、周りにあまりいないタイプだから、興味が沸いただけだろうって思って。それに、御門なら、俺が間に入らなくても、自分で声くらいかけられるだろ」
 たしかにそうだ。
 俺が御門くんにいきなり話しかけるのは難しいけど、逆はたぶん、それほど難しいことじゃない。
「ずっと智哉が番犬みたいに目光らせてんじゃん。かけらんないよ」
「そんなつもりはないけど……」
「まあ、智哉の言う通り、周りにあまりいないタイプだから、手を出したくなったってのが本音だし、智哉が止めるのも、警戒するのもわかるけど」
 御門くんの素直な意見を聞いて、智哉は顔をしかめていた。
 いつもと違ったタイプの人なら、メスになるんじゃないかっていう期待も、御門くんの中にはあったんだと思う。
 とはいえ事情を知らない智哉からしてみれば、御門くんがただ好き勝手遊んでいるように聞こえるだろう。
「それでね、本当に話したいのはここから。僕は智哉のことも好きだし、嫌われたくないから、やっぱり紹介してもらうか、一言断りを入れた方がいいんじゃないかって思ったんだ」
「それで? すでに手出しちゃったけど、話に来たってわけ?」
 そういうことか……と納得しかけたけど、どうやら違った。
「1週間くらい前、結城くんを紹介してって話したこと……覚えてる?」
「1週間くらい前?」
「そう、智哉の部屋でね」
 1週間くらい前……智哉の部屋で2人がしていたタイミングだ。
 まさか、そのときだろうか。
 俺は下手に口も挟めず、ただ、2人のやりとりを見守る。
「悪いけど覚えてない。どうせ断っただろ」
「うん。けどいつもと少し違った。僕があまりにもしつこいからか、誰でもいいからやりたいだけなら、俺が相手してやるって、言ってくれたんだよね」
 御門くんがニヤリと笑みを浮かべる。
 あの悪い笑み。
 少し色っぽい。
「そんなことは言ってない」
「忘れちゃったんだね」
「もし言ってたとしても、冗談だろ」
「でも、僕は智哉の言葉を信じたし、遠慮なく智哉を犯した」
「は……?」
 智哉は、理解が追い付いていないのか、ぽかんとしていた。
「あ、別に誰でもいいって思ってたわけじゃないけど、相手してやるってところだけ、都合よく受け取っちゃった」
 御門くんは、少し意地悪だ。
 なにもわかっていない智哉を見て、楽しそうに笑う。
「智哉は犯されたショックで、忘れちゃったんだよ。なにもかも」
 御門くんの言うように、智哉は覚えていないだろうけど、2人がやっていた経緯に、まさか俺が関わっていたなんて……。
「いや……犯されて覚えてないなんてこと、あるわけないだろ」
「それがあるんだよ。覚えてなくても、その経験が、潜在意識として残っているかも?」
「潜在意識?」
「そう。たとえば……1週間くらい前から、僕が魅力的に見えるようになったとか、意識し出してない?」
 図星を突かれたのか、智哉が口をつぐむ。
 実際は、オスだから、メスである御門くんのことが、魅力的に感じるようになったんだろうけど。
「あのとき……智哉は、結城くんを僕という魔の手から守りたかったのかな。それとも、僕にかわいがられたくて、口実にした?」
「いや……マジでそんなことありえないし」
「たとえ話でいいよ。智哉の気持ちはどっち? 考えればわかるよね」
 智哉は、御門くんと僕を交互に見た後、口を開く。
「もし本当にその状況なら……司を守りたかったんだと思う」
「そんな……」
 それじゃあ、智哉は俺のために犯されたってことになる。
「そんな顔するなって、司。たとえ話なんだから……!」
 違う。
 これはたとえ話なんじゃかない。
「俺……智哉が御門くんに犯されてるところ、見たから」
「はあ? ちょっとマジでわけわかんないんだけど」
「1週間くらい前、ゲーム返そうとして、部屋に行ったら2人がしてて……」
「御門と司で俺をハメようとしてる?」
 どうやら本当に覚えていないみたいだし、智哉がそう思うのも無理はない。
「智哉が信じなくてもいいし、僕も他の誰かに言う気はない。結城くんだって、これまでずっと黙っていたし、これからも言う気はないでしょ」
「うん……智哉には、前に直接、聞いちゃったけど」
「そういえば……御門としたんだろって言ってたっけ。あれ、見てたから聞いたのか」
「うん。でも、智哉はしてないって。隠したいならそれでいいって思ってたけど……」
「隠したつもりはないよ」
 自分が覚えていない記憶を、別の誰かが知ってるって、どんな気分だろう。
 すごく幼い頃のことを、自分は覚えていないけど、親に聞かされて知るみたいな感覚だろうか。
 智哉はまだ、事実を受け止められていない様子で、難しい顔をしていた。
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