未観測地点

kou

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違和感

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学会が終わった夜だった。
研究室のメンバーで、駅近くの居酒屋に集まっている。
 
大きな仕事が終わったあとの空気は、少し緩んでいた。
発表の出来を振り返る者もいれば、もう次のテーマの話をしている者もいる。  

月城は、端の席でグラスを傾けていた。
今日の発表は、悪くなかった。

「それでさ、あの質疑。」

隣の声に適当に相槌を打ちながら、
会話の流れを聞き流す。

「……あ、そうだ。」

ふと、向かいの同僚が言った。

「私事なんですけど。」

声の調子が変わって、周囲の視線が集まる。

「来月、結婚することになりました。」

一瞬の間。
それから、拍手と歓声が上がった。

「おめでとう!」
「相手はどんな人?」
「学会終わりに報告って、タイミングいいですね。」

冗談交じりの声に、同僚が照れたように笑う。
月城は、グラスに口をつけた。
 
——もう、そういう年か。

年下の同僚が、研究以外のところでも、先に進んでいる。
不思議な感覚だった。

頭の中で、淡々と事実だけを整理する。
二十八歳。
周りが、次の段階に進み始める頃。
自分はどうだろう、と考えたところで、答えが出ないことに気づいて、思考を止めた。

選択肢を並べる前に、そもそも検討していなった。
それは、研究のことではありえないのに。

飲み会を1人後にして、研究室に戻る。
デスクの上に論文のプリントが広がっていた。
再解析中のデータ。赤ペンで書き込みを入れながら、集中する。

数字は嘘をつかない。
仮説は、修正すればいい。
答えは、ちゃんと導ける。

——この部分を直せば、仮説は正しい。

そう確信できる作業は、心地よかった。

作業が一段落つき、月城は飲み会の出来事を振り返った。

自分より年下が、もう結婚する。
そういう年齢なのだと、頭では分かっていたはずなのに、実感として受け取ったのは、たぶん今が初めてだった。

これまで、恋愛に興味を持たなかった。
恋愛できないほど忙しかったわけでも、恋愛が嫌いだったわけでもない。

ただ、必要性を感じなかった。
興味もなかった。
だから、考えたことがなかった。
誰かと生きることを、選択肢として並べること自体を。

気づけば、周りは少しずつ先に進んでいる。
自分だけが、同じ場所に立ったままのような気がした。

——選んでいない、のとは違う。

まだ、一度も考えていなかっただけだ。

それに気づいたとき、月城は、ほんのわずかに居心地の悪さを覚えた。
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