かみさまとのやくそく

雫森 幽鬼

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神様との子供

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その写真からは仄かに、赤ん坊特有の乳臭さがするような気がした。写っているのは私と息子。撮ったのは私の恋人だ。写真の中の私は、腕にまだ赤ん坊の、眠っている息子を抱いて柔らかく微笑んでいる。この写真を撮った時、恋人もまた笑っていたのが記憶に新しい。

「ほう、これが人間界のかめらというものか。このぼたんとやらを押せば、お前たちの姿が残るのだな?」
「そう。ね、私と翔を撮ってよ。翔の写真、まだ一枚もないからさ」
「ああ、そうだな。では、こっちを向いて、笑え、咲」

そう言ってシャッターを切ったアディスは幸せそうで、未だその姿が忘れられない。記憶から消し去れない。

「見せて見せて。うん、よく写ってるじゃん。この私、美人ー」
「はは、お前はいつだって美の女神に勝るほど美しい。今更それを確かめて、どうしようというのだ」
「あは、アディスってば、口が上手いんだから」
「本当のことだからな」

そこで翔が目を覚まして、泣き出した。生まれたての赤ん坊よろしく、ほにゃほにゃとか弱い泣き声をあげていた。まだ力強さなど微塵もなく、ただ翔られるだけの筈の赤ん坊。私はあわてて彼を泣き止ませるべく左右上下にゆっくりと揺する。翔は目を開けてこちらを見つめたと思うと、また顔をしわくちゃにして泣き始める。

「あああー、おっぱいかな? おむつかな? どうしたの翔ー?」
「ふむ、人間と神のハーフでも、育て方はさほど人間と変わらないのだな」
「そんなこと言ってないで手伝ってよ! いいからおむつ取ってきて!」
「ああわかったわかった、今取って来る」

先程アディスがぼそりと口にした通り、翔は神と人間のハーフだ。母親の私が人間で、父親のアディスが神。彼はふと私の前に姿を現したかと思うと、一瞬で私の心を奪い去った。黒々とした髪、日本人よりかは少し色白な肌、端正な目鼻、厚く形の良い唇。天界、神々が暮らす世界では、気に入った人間のもとへ降り、その人間と契りを交わすこともあると、アディスは言う。まあ珍しい部類には入るそうなのだが。どうやらアディスは人間界を覗き、私を見つけて降りてきたらしい。突然私の高校生活に得体のしれない男として入り込んできたにかかわらず、私は彼に惹かれ、彼もまた私を間近で見て更に惹かれた。惹かれあう男女が恋人になるのに時間はかからなかった。両親を失くして叔父の仕送りで高校へ通っていた私は彼を家に招き入れ、私たちは幸せな時間を過ごした。所謂ラブラブというやつだ。とはいっても彼は数日ごとに天界に帰った。その度に「私がここに来なくなったら、私のことは忘れろ」そう言い残して。そんな日、こないと思っていた。そう信じていた。ある日、ついに私は聞いた。

「ここに来れなくなる時って、どんな時?」
「それは、私の身に何かあった時だ」
「忘れろって、どういう事?」
「その言葉の通りだ」

アディスはそれだけしか答えてくれなくて、やきもきしたものだ。それでも、まさか本当にそんな日がこようとは。いつも通り、ではまた明日来る、そう言って彼はそれっきり、姿を見せなくなった。また明日、そう言っていたのに。次の日の朝になっても彼は現れなくて、昼も、夜も。その時にはもう翔は生まれていて、私は焦った。何しろ人間と神のハーフだ。普通の赤ちゃんではないかもしれない。そう考えて私たちは病院で産む事を止めたから。アディスが天界で調べてきたことには、神と人間のハーフは神が人間界に降りることよりも珍しい事だそうで、分かったことは神と人間のハーフが最後に生まれたのは百年より前ということ。アディスは人間界に降りてくるとき翼を仕舞って来るそうで、私たちの赤ちゃんは翼を持って生まれてくる可能性があった。そんなことが病院で起こったら大問題だ。生まれてくる赤ちゃんがどんな姿をしているのかわからない以上、私たちは慎重にならないといけなかった。しかし、生まれてきた子供はいたって普通の姿かたちをしていた。私たちはまず安堵して、それでも育つ過程が普通ではないかもしれないと懸念した。その矢先にアディスがいなくなった。私はどうしていいかわからなかった。神の子供のことも調べてくれたアディスが傍に居ないと、不安だった。忘れるなんてこと、できるわけがない。私はアディスを愛したのだ。子供だっているというのに。それでも彼を失くした私は翔とともに力の限り生きていくしかなかった。
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