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6)これが噂の転生男子です
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朝が来た。
新しい朝だ。
なんて、どこかの国民放送局で毎朝流す、全年齢対象の体操曲のような、そんな爽やかな朝だ。
「先輩、身体にやさしくて、ついでに私のメンタルに優しい薬あります?」
爽やかな朝に似合わない、酒で焼けたガラガラ声が響く。
明美が二日酔いだと言わんばかりの青ざめた顔で、床からゆっくりと体を起こす。
昨晩は、仕事とプライベートのストレスに押され、酒がいつも以上に進んだ日だった。
「あー……俺は胃に優しい朝ごはん……」
明美が起き上がった床のテーブルを挟んだ反対側で、直人が重そうに身体を起こす。
昨日は完璧に飲みすぎた。
三人とも同じ感想を抱いていたに違いない。時計は朝の八時を示している。
あれだけ飲んでもこの時間に目覚めるのは、アルコール分解が遅れて体調を崩しているからか、硬い床で寝ていた体が悲鳴を上げたからか。そのどちらかである。
前者は明美、後者は直人だろう。
適度な量を飲み、慣れた布団で寝ていれば――――三人とも昼まで目を覚まさなかったはずだ。それこそが、社会人の贅沢というものだ。
信夫は台所に向かい、端に置いてあった頭痛薬と胃薬を手に取る。蛇口から出したぬるい水を透明なグラスに注ぎ、二人に渡した。
その瞬間、直人の方から、申し訳なさそうな小さな腹の音が聞こえてくる。
米を研いで朝食を作るには、少し時間がかかる。信夫はコンビニで済ませることを決め、立ち上がった。
「先輩、買い物ですか?」
「ああ」
「私も行きます」
「お前、頭痛いんだろ?休んでろ」
「欲しいものがあるんで」
頭痛を訴えていた明美を連れ出すのは気が引けたが、欲しいものがあるなら仕方がない。
信夫は、明美を連れて行くことにする。
「先輩、服貸してくださいよ」
「あ?」
「酒臭くて、それに寝汗も。これじゃあちょっと……」
「あ、俺も」
便乗するように直人も服を借りたいと言い出す。
自宅で飲んだ際、二人が信夫の服を借りることは何度かあった。慣れている信夫は、特に気にすることなく長袖シャツとジャージのズボンを差し出す。
明美が脱衣所で着替えている間に、直人も借りた服を手に取り、信夫もその場で軽く着替える。
――――ピンポーン!
室内にチャイム音が響いた。
「私が出るっすよ」
服を着替え終えた明美が、自然な様子で玄関に向かう。
宅配の予定もなく、身内が訪ねてくる場合は事前に連絡がある。だとすれば、この時間に来るのは……。
「はーい」
家主のような態度で、明美が玄関を開ける。
「……お前、誰?」
そこに立っていたのは、昨晩の酒の肴にしていた噂の男子、宮登だった。
「んー? これはこれは」
興味深そうに宮登を見つめる明美。その時、信夫が焦って玄関に姿を現す。
遅かった。
居留守を決め込んでいれば、今日一日をやり過ごせたかもしれないのに。
「信夫……浮気だな?!」
憤懣やるかたない表情の宮登が、信夫を睨みつける。
「浮気も何も……」
「そもそもお前とは何の関係もない」と言い返したいのに、なぜか突き放す言葉が出てこない。信夫は語尾を濁した。
「ほう……ほほう……これが噂の」
明美が面白そうに唇を上げる。次の瞬間、信夫の腕を掴んでぴったりと身体を寄せた。
まるで猫のように甘えた仕草で、頭を信夫の胸元に擦り付ける。
「――――ッッ信夫っ!!」
今まで聞いたことがないほど大きな声で、宮登が叫んだ。
その怒りは、容赦なく信夫に向けられていた。
新しい朝だ。
なんて、どこかの国民放送局で毎朝流す、全年齢対象の体操曲のような、そんな爽やかな朝だ。
「先輩、身体にやさしくて、ついでに私のメンタルに優しい薬あります?」
爽やかな朝に似合わない、酒で焼けたガラガラ声が響く。
明美が二日酔いだと言わんばかりの青ざめた顔で、床からゆっくりと体を起こす。
昨晩は、仕事とプライベートのストレスに押され、酒がいつも以上に進んだ日だった。
「あー……俺は胃に優しい朝ごはん……」
明美が起き上がった床のテーブルを挟んだ反対側で、直人が重そうに身体を起こす。
昨日は完璧に飲みすぎた。
三人とも同じ感想を抱いていたに違いない。時計は朝の八時を示している。
あれだけ飲んでもこの時間に目覚めるのは、アルコール分解が遅れて体調を崩しているからか、硬い床で寝ていた体が悲鳴を上げたからか。そのどちらかである。
前者は明美、後者は直人だろう。
適度な量を飲み、慣れた布団で寝ていれば――――三人とも昼まで目を覚まさなかったはずだ。それこそが、社会人の贅沢というものだ。
信夫は台所に向かい、端に置いてあった頭痛薬と胃薬を手に取る。蛇口から出したぬるい水を透明なグラスに注ぎ、二人に渡した。
その瞬間、直人の方から、申し訳なさそうな小さな腹の音が聞こえてくる。
米を研いで朝食を作るには、少し時間がかかる。信夫はコンビニで済ませることを決め、立ち上がった。
「先輩、買い物ですか?」
「ああ」
「私も行きます」
「お前、頭痛いんだろ?休んでろ」
「欲しいものがあるんで」
頭痛を訴えていた明美を連れ出すのは気が引けたが、欲しいものがあるなら仕方がない。
信夫は、明美を連れて行くことにする。
「先輩、服貸してくださいよ」
「あ?」
「酒臭くて、それに寝汗も。これじゃあちょっと……」
「あ、俺も」
便乗するように直人も服を借りたいと言い出す。
自宅で飲んだ際、二人が信夫の服を借りることは何度かあった。慣れている信夫は、特に気にすることなく長袖シャツとジャージのズボンを差し出す。
明美が脱衣所で着替えている間に、直人も借りた服を手に取り、信夫もその場で軽く着替える。
――――ピンポーン!
室内にチャイム音が響いた。
「私が出るっすよ」
服を着替え終えた明美が、自然な様子で玄関に向かう。
宅配の予定もなく、身内が訪ねてくる場合は事前に連絡がある。だとすれば、この時間に来るのは……。
「はーい」
家主のような態度で、明美が玄関を開ける。
「……お前、誰?」
そこに立っていたのは、昨晩の酒の肴にしていた噂の男子、宮登だった。
「んー? これはこれは」
興味深そうに宮登を見つめる明美。その時、信夫が焦って玄関に姿を現す。
遅かった。
居留守を決め込んでいれば、今日一日をやり過ごせたかもしれないのに。
「信夫……浮気だな?!」
憤懣やるかたない表情の宮登が、信夫を睨みつける。
「浮気も何も……」
「そもそもお前とは何の関係もない」と言い返したいのに、なぜか突き放す言葉が出てこない。信夫は語尾を濁した。
「ほう……ほほう……これが噂の」
明美が面白そうに唇を上げる。次の瞬間、信夫の腕を掴んでぴったりと身体を寄せた。
まるで猫のように甘えた仕草で、頭を信夫の胸元に擦り付ける。
「――――ッッ信夫っ!!」
今まで聞いたことがないほど大きな声で、宮登が叫んだ。
その怒りは、容赦なく信夫に向けられていた。
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もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
5/25
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