転生したペットに求愛されています!

柴楽 松

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5)呆れられても事実です!

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「と、いうことなんだが……」

 明美の表情は完全に死んでいた。
あまりにも現実味のない話に、彼女は思考停止しているようだった。

「いい夢見ましたね……」
「夢じゃないから!」

 信夫は反射的に声を荒げた。
非現実的な話だと信じてもらえないのは想定内だったが、こうも軽く否定されるとさすがに落ち込む。
 そもそも誰かに信じてほしいというより、ただこのモヤモヤを吐き出したかっただけなのだ。
それでも、真顔で突き放されると意外と心にくる。

「まあ、世の中何があるかわかりませんし、面白いから詳しく聞きたいっすね」

 明美の無責任な笑みと言葉に、信夫は少し呆れながらも話の続きを促された。

「お……おう」
「とりあえず、今夜飲みましょう。相談料として、先輩持ちでお願いします!」
「……タダ酒飲みたいだけだろ」

 信夫は深くため息をついたが、明美の提案に少し救われた気がした。
一人で悩むよりは、酒の力を借りて現実逃避する方がマシだと思えたからだ。

「何? 飲み? 俺も行く!」

 どこにいたのか、何を聞いていたのか。
氏川が唐突に顔を出し、信夫の肩に手を置く。

「お前も来てくれー!」

 信夫は氏川に縋るようにしがみつき、泣きながら今夜の酒の席に誘った。

「私だけじゃ変な噂立つんで、助かります」

 自分から提案しておいてなんだその言い草は、と心の中で叫ぶ。

「じゃあ……ここ予約しときますねー」

 明美は手慣れた様子でいつもの店をスマホで予約する。
 ネットの普及した時代の利便性に、信夫は毎度感心するのだった。

 ――――夜、居酒屋にて。

  信夫は琥珀色と乳白色の泡が絶妙なバランスで注がれたビールを、一気に喉へ流し込む。
 冷たい液体が喉を通り抜ける心地よさが、全身に染み渡るようだ。これこそが仕事終わりの至福である。

「先輩、ペース速いっすね」

 明美が枝豆の皮を器用に剥きながら、冷ややかに笑う。

「おやっさーん、ガツ刺し追加でー!」

 彼女は空いた皿を見つけるや否や、手際よく追加注文をする。

「明美ちゃん、飲むペース早すぎだろ」

 隣で氏川が呆れたように眉を寄せるが、明美は気にも留めない。

「氏川先輩が遅いだけでーす!」

 そう言いながら、三十分足らずで五杯目のジョッキを空にする明美。その豪快さには、信夫も毎回驚かされる。

「飲み放題なんですから、飲まなきゃ損ですよ!」

 九十分飲み放題プランで毎度元を取ることだけを目標にしている明美。
彼女のその徹底した姿勢には、もはや感服せざるを得ない。

 三人は居酒屋を数軒ハシゴし、腹を満たしてはまた飲むを繰り返した。
だが、夜はまだ終わらない。
明日は仕事が休みなのだ、夜を味わうのは今からだ。

「もうちょっと飲みたいっすね」
「仕方ねえな、俺ん家で飲み直すか」

 酔いの勢いも相まって、信夫の提案に全員が頷く。
こうして、彼らの夜はさらに深まっていくのだった。
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