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１６）作戦会議

　宮登はようやく落ち着きを取り戻したものの、その胸の内をすべて吐き出せたわけではなかった。それでも、信夫にとっては、彼が苦しい気持ちの一端を打ち明けてくれたことが何よりも嬉しかった。宮登が心を開き始めたのだという確信が、小さな光となって信夫の心に灯った。

　話を掘り下げるうちに、宮登に危害を加えている主犯が「関根」という人物であることが明らかになる。中学時代の彼らはむしろ仲が良かったという。関根は当時、周囲の冷たい視線から宮登を守る存在だった。だが、ある日を境に関根の態度は急変し、彼は宮登をいじりの中心へと祭り上げた。そこから状況は一気に悪化し、宮登の生活は地獄へと変わっていったのだ。

「宮登、その関根にはなんて説明してたんだ？」

　信夫は慎重に言葉を選びながら問いかけた。

「どうって……？」

　宮登は困惑した表情を浮かべる。

「例えば、その……いじめの原因になったっていう、同性愛のこととかさ」

　信夫の声は少し低くなるが、核心を突くように問い続ける。

「あいつは、最初から全部知ってたよ。それで……急に態度が変わったんだ」

　宮登の視線が床に落ちる。その言葉には、過去を振り返る苦しさが滲んでいた。

　信夫はその答えに首を傾げる。関根の態度の急変には何かもっと深い理由が隠されているように思えたのだ。腑に落ちない違和感が、彼の胸を締めつける。

（まさか……）

　一つの仮説が信夫の頭に浮かんだ。それは荒唐無稽にも思えたが、決してあり得ない話ではなかった。

「宮登……お前さ、関根に好かれてたんじゃないか？」
「はあっ？」

　宮登の目が驚きに見開かれる。

「いや、子供の頃ってさ。恋愛感情かどうかは別として、独占欲みたいなものが暴走することってあるんだよ」

　信夫は腕を組み、理屈っぽく話し始めた。好きという感情は、時に本人の意思とは裏腹に、独占欲という形で暴れ出すことがある。そして、その欲が思い通りにならないと、相手を攻撃することで自分の心の均衡を保とうとする人間も少なくない。

「……もしそれが原因なら、こっちの攻め方も変わるだろ」

　信夫の表情に一瞬、鋭い光が宿る。

　沈黙を破るように、彼は手を叩いて立ち上がった。

「よし、作戦会議だ！」

　その声の力強さに、沈んでいた宮登の表情もわずかに柔らかくなる。

「おー！いいっすね、先輩！ついに復讐劇の幕開けっすか！」

　明美が声を弾ませる。

「うちの嫁さん、こういうの得意だからなぁ。妄想力だけなら100％成功するって保証付きだ」

　直人が冗談めかして言うと、明美がふざけた調子でウインクしてみせた。

「任せてください。大人の知恵ってやつをフル活用しますから！」

　模造紙がどこからともなく広げられ、普段子供が使っているクレヨンが次々と大人たちの手に渡る。計画は賑やかに、そして想像以上に本格的に形作られていった。その様子を目の当たりにした宮登、麻見田、湖沢の三人は、口を半開きにしたまま呆然とするしかなかった。

「人生経験ってのは、こういうときに役に立つんだよ」

　信夫は意味深な笑みを浮かべ、模造紙の隅に力強く「関根攻略」と書き込む。その筆跡には妙な真剣さがあり、それがまた場の雰囲気を和ませた。