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１９）裏をかいても裏

　関根には、宮登が自分に向ける不器用な優しさが嫌でも伝わっていた。言葉の端々に込められた思い、目の前で浮かべるぎこちない微笑み。その全てが、宮登がどれだけ必死に歩み寄ろうとしているのかを雄弁に語っていた。だが、関根にとって、その様子はどこか滑稽だった。

　なぜなら、宮登が自分をファミレスに呼び出した理由を、関根はとうに見抜いていたからだ。表面上は誠実を装いながらも、その振る舞いの端々に潜む小さな違和感、視線の揺らぎや、ぎこちない仕草。それらは全て、宮登が何かを企んでいる証拠に思えた。

「こいつ、何を仕掛けてくるつもりだ？」

　ファミレスに向かう道すがら、関根の胸には疑念が膨らんでいった。そして同時に、倍返しの策を練る冷静な思考が頭を巡る。仕掛けられた罠を逆手に取り、どれほど滑稽な結末にしてやろうか――それを考えるだけで、胸の奥に薄暗い喜びが生まれていた。

　ファミレスに到着し、宮登の前に座った瞬間、関根の確信は決定的なものとなった。宮登の落ち着かない視線やぎこちない笑顔。普段の彼ならしないような、小さな違和感の積み重ね。関根の中で点と点が線で繋がり、その全貌を理解した。

（やっぱり、何か仕掛けてきたな）

　会話が進むにつれ、関根の推測は次々と裏付けられていく。そして、店内に信夫が姿を現した瞬間、関根の胸には静かな勝利感が広がった。

「やっぱりな」

　内心でつぶやきながらも、関根は動揺を見せない。それどころか、さらに余裕を見せつけるための振る舞いを計画していた。

　宮登と信夫が目の前で説教じみた話を向けてきたが、関根は冷静に周囲の状況を観察していた。そして、二人が伝えたいことを一通り話し終え、宮登が何かを言い出そうとしたその瞬間を狙い澄ましたように、不意に笑い出した。

「あはははっ！浅はか！浅はかすぎる！」

　その笑い声には、嘲りと関根らしいひねくれたユーモアが混じっていた。驚きに目を見開く宮登。その表情を見た関根は、不敵な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「お前、本気でこれが上手くいくと思ったのかよ？悪いけど、俺にはそんな見え透いた手は通用しないんだよなぁ」

　その声には絶対的な余裕が滲んでいた。宮登の企みを見抜いたという確信と、優位に立った者の本物の自信がそこにはあった。

「仕掛けるなら、逆に仕掛け返される覚悟くらいしとけって話だよ」

　その言葉に、宮登は口を開きかけては閉じ、次に浮かべたのは困惑と動揺の入り混じった表情だった。それを見た関根は、さらに優越感に浸る。

　内心では、宮登の純粋さを弄ぶことへの罪悪感がわずかに揺れていた。だが、それ以上に、罠を仕掛けてきた相手を逆手に取り、出し抜く快感が勝っていた。

「さて、どうする？次はどんな手を打ってくるつもりだ？」

　その言葉の裏には、複雑な感情が隠されていた。宮登の純粋さを傷つけてしまうことへの罪悪感。しかし、それ以上に、罠を仕掛けた相手を出し抜いたという快感。相反する思いが胸の内で絡み合い、関根の唇には薄い笑みが浮かぶ。それは彼の中に渦巻く歪んだ感情を象徴するような、苦くも誇らしげな表情だった。
　軽く肩をすくめるような仕草をしながら、関根は宮登を見据えた。その視線はどこまでも冷静で、勝利を確信した者の光を帯びていた。

「そうだと思って、こちらも作戦を用意しておいたんですねぇ」

　関根が嘲笑を浮かべたその瞬間、さらにそれをあざ笑うかのように、明美がひょこっと姿を現した。彼女の口元には勝ち誇ったような笑みが浮かび、目にはいたずらを仕掛けた子どものような輝きが宿っていた。