きもちいいあな

松田カエン

文字の大きさ
52 / 175
新規任務準備編

48.せかいで、いちばん

しおりを挟む



 魔具で身体を清めて、それから服を身に着けて外に出ようとしたところで、ひと悶着あった。

「嫌だ。絶対着ない」
「なんでだよ。着たところ俺に見せてくれ。絶対似合う」
「もう一着あるだろう。そちらを着る。でなければこのままでいい」
「お前なー……」

 パンツのみ身に着けたまま、私は目の前に置かれた服を拒絶した。そこにあるのはオドヴァール殿に与えられた、私には似合わない可愛らしい服が鎮座していた。

「まぁだ揉めてんのか」
「ドゥシャン、おはよう。ユストゥスがひどいのだ。私にこのひらひらの服を着ろと言ってくるのだぞ!」

 のっそりと天幕の中に入ってきたドゥシャンに、私は飛びついた。よじ登る私にドゥシャンは苦笑してしゃがみ込む。ドゥシャンがしゃがんでしまうと、立って腕を組んだユストゥスと、ほぼ視界が変わらなくなってしまう。見下ろしたかったのに、これでは予定が狂ってしまった。
 半目のユストゥスに見つめられ、私は首を竦める。

「降りて服着ろ」
「それじゃない服を寄越せ。でなければ降りない」
 ぎゅうっとドゥシャンの首に抱き着けば「あー……クーちゃん?」とドゥシャンに声をかけられた。

「今日は国境を越えんだ。検問所はコンラーディン王国と獣群連邦の職員がいるからな。身綺麗にしておいた方が心証がいいんだ」
「身綺麗でないと、なにか良くないことがあるのか」
「無駄に検査時間が長引く」
「……べつに、もう一着でも、良いだろう」
「より早く、検問所は通りたい。悪いが、降りて服を着てくれ。天幕も畳んじまわないといけねえ」

 ドゥシャンは言わなかったが、ただでさえ行程が遅れている。だからこそ早く通りたいということだろう。私はしぶしぶドゥシャンから降りながら、ユストゥスを睨んだ。

「笑ったら、二度と着ないからな」
「はいはい。ほら急げ」

 プリーツシャツに手を通し、ボタンを留め、キュロットを履く。サスペンダーをつけて靴下を履く。下着には穴を空けてもらったので、キュロットからもしっかり尾が出た。
 ユストゥスが私の髪を櫛で梳かしてくれる。耳も毛並みを整えられた。さりげなくスカーフをポケットに押し込もうとすると、ドゥシャンに奪われる。

「クーちゃん、オドヴァール様が用意してくれた服だ。ちゃんと着ような」
「……結び方を私は知らないのだ」

 むすっとしていると、元々蝶結びされていたことを知ったユストゥスに、あっさり胸元をスカーフで飾られてしまった。革靴を履いたところでユストゥスが数歩、私から離れる。全身を見るつもりだ。それに気づいた私は、ドゥシャンの背に隠れた。

「クーちゃん似合っとるぞ」
「嘘だろう」
「いやいやオドヴァール様はセンスがいい。よく似合っとる」

 訝しげにドゥシャンを見やり、私は押し黙る。あまり嫌々言って、オドヴァール殿のセンスを疑うようなことになるのもちょっと失礼かもしれない。よくわからない羞恥に耐えながら、私はユストゥスの前にそっと進み出た。
 ……ぶんぶん尾が振られて、少し風が巻き上がっている。目がきらっきらに輝いていた。ええ……?本気か。

「すっごいかわいい。さすが俺の嫁!」
 満面の笑みで、絶賛された。さすがに頭を疑う。
「嘘だろう……?」
「いや、マジでかわいい。なあおっさん、今日は俺がクンツ抱えて走ってもいいか?」
「お前さんが?……まあいいが、遅れんなよ?」
「な……っ私は嫌だ!この格好でユストゥスに抱かれていくなど!」
 もともと籠に入れられるのもどうかと思っていたのだ。本当なら私も走っていきたい。

「ユスだろクウ。嫌ならまあ布で包んでもいいし、な。いいだろ?クウを抱っこしたい!」
 言うが早いか、ユストゥスは私を抱き上げた。いつもの縦抱きではなく、背中と膝下に腕を回した横抱きである。
「ゆ、ゆ……ユス、重いだろう?降ろせ。籠に入っていくから」
 籠に入るのも嫌だが、でもこうやって運ばれるよりはマシだ。そう訴えつつ、今落とされるよりはと狼の首に腕を回すと、ぐっと顔を寄せられた。逃げられない。
「んっ、ん……」
 ちゅっちゅっと軽いキスを落とされて、最後に下唇を甘噛みされた。にや、とユストゥスは上機嫌に笑う。

「まあ軽いとは言わねえけど、いい重さだって」
「ほらじゃれてねえで、天幕でろ。朝飯食っちまえ」
「おー」

 私はユストゥスに横抱きにされたまま、天幕から連れ出された。
 今日も、いい天気だな……。現実逃避にぼんやりと空を見上げてため息をつく。それからアーモスがこちらを見ていることに気づいて、ユストゥスの腹を叩いた。

「ぐえっ」
「降ろせ」

 短く言って、ユストゥスの手から抜け出る。腹を抑えてその場に蹲る狼をよそに、荷物をまとめているアーモスに近づいた。しゃがみ込んで、下からのぞき込む。

「アーモス、おはよう。目が腫れているぞ、どうした。ドゥシャンにいじめられたか」
「あっいや、これは……それより、昨日は、ごめん!」
「……なにかあっただろうか」
 はて?と首を傾げていると、復活したのかユストゥスがよろよろと近づいてきた。

「昨日飯に睡眠薬盛ってたんだよこいつ。俺とドゥシャン寝かせて、お前と交尾したいからって」
 ユストゥスにバラされたアーモスの顔が、赤くなったり青くなったりしている。そうか、昨日の薬……。ようやく昨日の薬の用途がわかってほっとする。下剤だったらユストゥスに飲ませてしまったから、危ないところだった。

「そうなのか?なんだ、言ってくれれば、いつでもおまんこしたのに。どうする、今からでもするか?」
「クーちゃん!あんまアーモスを誘惑せんでくれ!道を踏み外したらどうする!」
 私の誘いが聞こえたのか、天幕を畳みながらドゥシャンが声を張り上げた。道を踏み外すなどと、そんな大げさな。

「あれだろう、旅で溜まっていたのだろう?そばに都合のいい穴があれば、使いたくもなるというものだ」
「ちっちが……っ!おれ、クーちゃんが、好きでっ!それで……でも、ごめん……俺、ほんとひどいことしようとしてた」
 私の言葉に、アーモスは作業していた手を止め、ぎゅっと私の手を握ってきた。散々ドゥシャンに怒られたのか、またその目が潤む。

「ふふ、なぜ謝る?私もアーモスのことは好きだぞ」
「は……っちょ、お、おいお嫁様!」
 にこにことアーモスに返していると、そこにユストゥスが割り込んできた。なので肘でもう一度、狼の腹に一発食らわせる。ユストゥスは油断していたのか、また地面に沈んだ。
「うるさいぞ変態狼。アーモスは私にマシュマロをくれたのだ。だから好きだ。ドゥシャンも好き。マシュマロも好き」
 ここにはいないが、エリーアス様も寮の皆も大好きだ。ベッカーのお菓子も好きだし、バルタザールの立体パズルも好き。おまんこするのも大好きだ。好きなものがいっぱいあって、私は幸せだな。

「く、クーちゃん……じゃ、じゃあそこの狼のことは、どう思ってんの……?」
 やや怪訝そうな表情を浮かべたアーモスに、そう問われた。ちろりと情けなくへたり込んだ灰色狼を見やる。もっとかっこよく見えるときはかっこいいのに、今日は全然だめだな。

 そう思うのに、目が離せない。胸の奥がきゅうっとなって、いつもより早い鼓動を刻む。少し、今日は暑いな。顔に熱が集まってきてる気がする。少しでも熱を逃そうと、ほう、と息を吐く。ざくざくとアーモスの視線が刺さっている気がした。


「せかいで、いちばん、だいきらい」


 なんてったってあの狼は、私にいつもいつも嫌がらせをしてくるのだ。今日なんて、この服を着せたんだぞ。似合わないというのに!あと私を抱いて運ぶというのも、気に食わない。本当に、私に対する嫌がらせにかける情熱はぴか一だ。
 ……でも、誰よりも、きらいでも、私の狼だから、わたしのユスだから。仕方ない。

「そ、そっか……っぐず……っきらいかあ……」
「ああ、大嫌いだ」

 鼻をすすりながら、アーモスは私の手を離した。耳がぺにょんと垂れている。対してユストゥスはその辺りを掃き掃除するのではないかと思うぐらいに、ぶんぶん尻尾を振っていた。嫌いと言われて尾を振るなんて、ユストゥスはやっぱり変態なのではないのか。

「もう頼むから、みんな急いでくれ。……アーモス、ほら顔ふけ。クーちゃんはやめとけって言っただろ?」
「ふっく……ううぅ」
 天幕を畳み終えたドゥシャンが、手つかずの朝食に呆れ、アーモスには布を手渡す。アーモスは顔を布で拭きながら、ドゥシャンに頭を撫でられては、その手を振り払っていた。きっと難しいお年頃というやつなのだろうな。

「そうだ、アーモス!マシュマロ、皆で食べよう。きっとおいしいぞ!」
 昨日忘れていた焼きマシュマロを思い出して誘うと、アーモスは泣きながら、少し笑ってくれた。

 あわただしい朝食を終えて、移動を始めたのはそれから30分後のことだった。

 結局ユストゥスに抱かれたが、布を頭からかぶって顔を見えないようにした。花嫁のレースのようだと頭のおかしいことをいう狼には辟易したが、言い争っていると少しも進まなくて、ドゥシャンに迷惑をかける。やむなく妥協して運ばれた。
 そして太陽が頂点に上がったころ、国境検問所にたどり着いた。

 そこは山のふもとから3合程度上ったところにあった。さらに上って、5合目辺りで下る場所があるらしい。私が収容される孤児院は首都に近いところにあるらしく、今からだとあと4日後の到着になると言われた。……この行程中に一度、報告を入れる必要がありそうだ。でも皆の前で、ぬいぐるみに話しかけるのは少し困るな。
 そう悩んでいたが、なんと獣群連邦に入れば、宿に泊まることになるらしい。本当は大部屋を取るのだが、私が幼女なので、私には個室を用意してくれるとのことだった。幼女万歳!

 検問所というから、王都を出るときにあったような、仰々しい壁や門があるのかと思えば、なんてことはない建物が二つ建っているだけだった。一つは我が国の検問所で、もう一つは獣群連邦の検問所らしい。その両方に立ち寄れば、獣群連邦に行けるということだった。

「……こんなに簡単に、国境を跨げてよいのか?」
「クーちゃんの目には、そう見えるかもしれんが、ここでちゃんと申告しねえと、すぐに取っ捕まっちまうからなあ」
 獣群連邦では人族がほとんどいないこともあって、ここで発行された認定書がなければ、すぐに捕まってしまうらしい。そして逆に獣人たちが我が国に入国するにも、認定書がなければ、宿に泊まることもできないということだった。

「でも私たちはずっと野宿していたが……」
 この道中、王都を出てから一度も宿には泊まらなかったし、なんなら村や町を避けて移動していた感がある。今更ながらそれに気づくと、アーモスが吐き捨てるようにつぶやいた。

「この国のやつらは、どうせ俺たちを人間と思ってねえんだよ。耳が違って尾がついてるだけで、追い回しやがる」
「王都以外にゃ、戦場ぐらいでしか俺たちの姿はねえからな。余分な争いを生まねえために、立ち寄らねえことにしてんだ」
 そうドゥシャンに締めくくられた。

 最初に王国の検問所に入り、手続きを始める。が、荷物が多いので、私とユストゥスは荷物番ということで、その場で待機を命じられた。私などは、より存在がわかりやすいようにと、荷物の一番上に乗せられてしまう。
 手続きが終わったら、職員が外に出てきて、荷物と人数を確認するらしい。それを2回繰り返すのだそうだ。正直面倒な話だと思う。

「ゆ……ゆ、ユス、これ、目立ってないか?」
 さすがに検問所ということで、人の往来もそれなりに多い。獣人も人も半々だった。明らかに商売人といういでたちの者や、傭兵らしき姿の者ばかりだ。
 獣人たちはなぜか、布で顔を隠しているにも関わらず、興味津々に見てくる者が多い。それにつられて、人族は不思議そうにこちらを見てくるのが大半だ。

「恥ずかしいんだが……ユス?ユストゥス?」
 降りてもいいかと聞こうと思って、ユストゥスを探したら、どこかに行ってしまったのか、私の狼の姿は影も形もなかった。えっなん、ええ……?
 荷物はあるものの、1人で残されると少し不安になる。あの変態狼がどこに行ったか、探しに行かなくては。誰かに迷惑をかけていたら困る。そう自分に言い訳して、荷物から飛び降りる。ふわっと布が舞い上がって外れてしまった。あっ。
 慌てて布を被りなおすが、やはり遅かった。

「あらあら、やっぱり!ガガジェの匂いがすると思ったら……こーんなかわいいお嬢さん1人にするなんて!」
「大丈夫かい?国外にゃ子供は連れ出せねえはずなのに……ったく親は何やってんだ」
「どっちの検問所にいるんだ親御さんは。君みたいなかわいい子は、すぐに攫われちまうぞ」
 わっと獣人に囲まれてしまった。ひ、人族がぽかんとこちらを見ているからやめてくれ。

「あ、あの、大丈夫だ。問題ない。ドゥシャ……保護者なら、そっちの検問所にいるから。わ、私は荷物番で……。っ……ユストゥスー!」
 何をやっているのだあの狼は!早く戻って来い!!

 ドゥシャン程の大きさの獣人はいないが、それでも私が小さく見えるぐらい、体格の良い者たちばかりが集まっていた。初めに声をかけてきた豹の獣人は、女性だが私よりもごつく、身長も大きい。

「ああわるい。そいつは俺の嫁さんだ。退けてくれないか」
「嫁……?」
「うわロリコン……」
「結構いい男なのにうそでしょ……」
 散々な言われっぷりを物ともせずに、ユストゥスが獣人をかき分けて戻ってくる。

「お前は!お前は私を置いてッ」
「ああ悪かった。ちょっと野暮用があってな」

 言いながら、ユストゥスは誰かに親しげに手を振った。つられてその視線の先を見るが、ユストゥスが誰に手を振ったのかはわからなかった。周囲の人は、私が1人ではないということを知ると、解散していく。良かった……。
 好意的に見てくれているのはわかっているが、それでもあんなに身近に迫られてると身が硬くなる。うっかり手を出してしまいそうで怖い。手加減できる自信がない。

「それで、野暮用とは、なんだったのだ」
 人が散ったところでほっと一息つくと、ユストゥスがにんまりと笑った。

「必要物資調達ってとこ。……それと、クウにサプライズ。手ぇ出せ」
「?」
 なんだろう。首を傾げながら両手を差し出すと、ユストゥスが私の手のひらに、小さな紙包みを乗せた。

 あ。これは。これは見覚えがある。

 震える指で開くと、中には一枚のクッキーが入っていた。良く私が、寮で食べていた、ベッカーのクッキー……。

 それだけでももう涙腺が緩むのに、油染みのできた小さな紙には、いくつも文字が敷き詰められていた。

『待ってるからな!』と書いたのはライマー先輩だろうか。前に見た通り、字が汚い。
『負けんな!』これは……アンドレ先輩だろうか。意外に字が綺麗だ。もっと汚いと思っていた。
『心はいつもそばに』これはクリス先輩に違いない。繊細さがにじみ出ている。
『君いないとつまんないよ』このきざったらしい文字はジギー先輩だ。報告書を書くときに、散々いじられたから覚えている。
『また一緒に飴を食べよう』飴を分けたのはディー先輩だけだ。彼の字は、こんな字をしていたのか。初めて知った。
『エリ君本部監禁中でメッセジないごめん!』これには笑ってしまった。バルタザール、急ぎすぎてつづりが間違っている。

 ぼろぼろと涙が溢れ出て止まらなかった。狼はゆっくり尾を振って見守っている。

 こんなのを持って、国外になんて行けない。一度、一度あの寮に帰りたい……。ちゃんと挨拶もせずに出てきてしまったから、ちゃんと行ってきますを言いたい。
 ……違う、皆に会いたい。いやだ。行きたくない。会いたい……っ!
「ユス、一度帰ってみなに……」

 キン、と頭痛が走った。

 咄嗟に両手で頭を抑える。手の中から何かが零れ落ちたが、気に掛ける暇はなかった。とんとんとこめかみを叩いて痛みを逃す。
 ああびっくりした。何だったのだろう。

「……わ、なんだこれは」
 頬を濡らす水滴に驚いて、頭からかぶっていた布で拭う。ちょっと悩んだが、息も苦しいので鼻もかんでしまう。さっぱりした。

「どうしたユス。そんなところにしゃがみ込んで」
 私の足元にいたユストゥスに、私はぱちりと瞬きをした。ユストゥスはなぜか驚いた表情でこちらを見上げてくる。
「おま……クウ、これ……」
「なんだそれは?食べ物か?……ユス、地面に落ちたものを食べるのは行儀が悪いらしいぞ」
 を手にしたユストゥスに、私はそう偉ぶって教えてやる。すると、男は顔をこわばらせた。

「クウ、お前、ベッカーのことは、覚えてるか?」
「うん?私のおじさまだろう。どうした?何かあったのか?」

 震える声で告げてくるから、思わず私も真摯に返す。すると、ユストゥスは手の中のものを私に差し出そうとした。だが、留まる。無意識で私の手が、その手を覆っていたからだ。
 食べ物、私は食べ物といったか。ユストゥスの手の中の、何を見て、食べ物だと思ったのだろう。……だめだ。思い出せない。

 さっき頭痛がした。あの頭痛は普通のものではないのだろう。少し呼吸が早くなるが、意識して深呼吸を繰り返した。ユストゥスが、私に耳を向けてぴくぴく動かしている。

 大丈夫。私は大丈夫だ。問題ない。ちゃんと、任務をこなせる。大丈夫。

「ユス。それは、どうやら、のようだ。悪いが、持っていてくれないか。実は旅に出てから、ここのところ頭痛が多いんだ」
「お前それって……!」
「大丈夫。ちゃんと任務をこなせば、問題ない。……ユス、わたしのおおかみ。私は、出来る子だ。そうだろう?」
 だから、そんな顔をしないでくれ。褒めておだててほしい。私はやれるのだから。

「……………そうだな。クウならできる。大丈夫。お前の記憶は、俺がきちんと持っててやる。だから、ちゃんと任務を済ませて、一緒に戻ろうな」
 何かを深く噛み締めていたユストゥスは、ようやくにやっと笑って、私をそっと抱きしめてきた。きつく、きつく抱き締められて、苦しいがその苦しさが心地いい。

「ふふ、お土産も買わないとな」
「そうだな。いっぱい買って帰ろう」

 ドゥシャンとアーモスが、職員を伴って検問所から出てくる。王国での手続きが終われば、次は獣群連邦での手続きだ。私が戻って来れるのは、いつになるだろう。そう思うと少し心がざわついたが、あえてその気持ちは押し殺す。

 2か所の検問所で手続きを終えたのち、私は振り返らずに、その場所を後にした。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...