きもちいいあな

松田カエン

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獣軍連邦潜入編

90.ライニールと、それから……。

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 朝起きては縫物を続け、時折やってくるライニールに構われる。食事も持ってきたが、本当に、この黒豹は、本当に私に、口移しで食べさせた。量が食べれなくてよかったと、心から思うことがあるとは思わなかった。私がそれほど食べれないというのは、聞いていなかったようだが、命令と言われても頑として受け付けないでいると、諦めてくれた。

 問題は飲み水だ。私は食事より水の方が重要だが、それをライニールに告げることは出来なかった。口移しで延々飲まされるのは嫌だ。せっせと縫ったベールは、ようやく半分ほど私の毛が織り込まれた。最初に縫い始めたところより、慣れた今の方が上手くなっていて、ほどいてやり直したい欲求に駆られる。が、我慢した。布も痛むし、第一そんな時間はないはずだ。私が、…………そう、あの大きな熊の養子になるまで、そう時間はない。そうだ。私は一度養子にもらわれるはずだ。そうだった。

 サークレットを付けられてから、異常に思考が薄い。覚えていたはずのことも忘れてしまう。それを恐怖に思っても、その数分後には何に恐怖したかを忘れている。さすがにこれはおかしい。
 夜、私のところに訪れた肉棒に、サークレットを外せないか訴えてみた。

「あー?まあ、伝えては、っ、みるけど、よぉ」
「ん、っふ、ぁ、……ったの、む」

 濡れた結合部が、抜き差しされるたびにぬちぬちといやらしい音を出す。今日は上半身を起こし気味の肉棒に跨り、私が上で腰を振った。膝が立ったままなので、それに寄り掛かるようにしながら尻を動かす。だいぶ、学習が進んで、フィルジが私の気持ちがいいところに、くびれでぐりぐりと刺激してくるようになった。

「あっそこ、うぁっ」
「ここ、かぁ?」

 こりこり、こりこりと前立腺を擦られる。揺れに合わせてふらふらしていた私のおちんぽの先端から、つうっと透明な体液が漏れた。
 フィルジはそれを亀頭に塗り広げるように指の腹で擦り、好色な眼差しを向けてくる。青い舌がぺろりと口の中から覗いた。

「クンツ、ほらキス」
「んっ、んんぅ……」

 こっちに倒れてこい、と腕を引かれ、覆いかぶさるように男に口づけをする。ナカを擦られる箇所がかわり、私はきゅっと雄を締め付けた。そのまま身体を密着させ、腰を振りたくる。「ま”っ」となにか制止したげな声を漏らしたが、上から抑え込んだままおちんぽを肉襞で味わった。
 先走りに精液が混じり始めているのか、ねっとりと絡みついている感覚があるのが自分でもわかる。さてもう少しか?と考えながら、男の舌に吸い付き、舐め回しながら軽くわき腹を撫でた。途端にびくびくとナカで跳ねる感覚がある。
 うごめく内部に腰が引き気味なのをしっかりと腰を抱き込むことで固定し、私は男のおちんぽを十分に味わった。のけ反り気味に喉を晒すので、顎下や喉仏に軽く唇を這わせる。それからさりげなく胸をゆっくりと揉んだ。

 最近気づいたのだが、肉棒は胸も性感帯のようである。最初はくすぐったそうにしていたが、時折軽く引っ掻いてやると、わずかに熱い吐息を漏らすようになっていた。
 私も乳首は気持ちがいいので、肉棒にも気持ちよくなってもらおうと思うのだが、やりすぎると怒り出すので、軽くに留める。そのうちここも触ってと言わせてやろうふふん。

「はぁ……」

 私を遠ざけるのは諦めたのか、フィルジの身体から力が抜けた。視線を合わせれば、どこかばつの悪そうな顔をしている。ナカで刺激されて、普段であればまたゆっくりと硬くなってくるのだが、今日はしんなりと柔らかいままだった。
 どこで無駄打ちしてきたのだこの肉棒は!と怒ることなどしない。この男が、オリヴァー先輩を連れて行ったのは、昨晩のことだ。

「せんぱいは、げんきか?」
「元気だよ。なかなかあれ以上魅了が通らねえけどよぉ。ステータス的に、俺苦手なんだよなぁ洗脳系。しかも従順に見せかけてるのが質悪い」

 オリヴァー先輩は、元気に魔肛持ちらしく、淫蕩に振舞い、肉棒に散々強請ったらしい。それに圧されて結構な回数注いできたのだと、肉棒が肩を竦めながら答えた。それを聞いて私は少しむっとする。

「きのうも、わたしはいっかいだった」
「……わかってる」
「きょうはもっと、だせ」
「けどよぉ…………つかなんで、俺こんな疲労感じるぐらいに搾り取られてんだ?」
「せんぱいはじょうずに交尾ができるからな。ほんらいならじゆうをあたえて、お前はわたしにせんねんするべきだろう」

 長く喋ると頭がくらくらする。本当にこのサークレット、大丈夫なのだろうか。ご主人様のことは信じているが、少し不安にもなる。

「とりあえず、今日はもう打ち止めで。明日はもう少し考える。それでいいよなぁ?クンツ」
 適当なことを言いつつ、肉棒は私の頭を撫で、眦にちゅっと口づけを落とした。

 いいわけあるか!こいつ、本当に切り上げる気だな!なんという!えっちもそんなにうまくないというのに、回数もこなせないで何が肉棒だ!お前など、また張り型に降格させるぞ?!

 じろりと睨みつけると、私は腰を上げておちんぽを引き抜いた。抜いたことで私がやめる気になったとでも勘違いしたのか、身体を起こそうとしている。なので私はくるんと向きをかえ、奴の胴に逆向きに伸し掛かると、ぱくんと男の性器を口に含んだ。

「おいクンツ!」

 肉棒が喚くが、そんなこと私の知ったことではない。ぬるぬるとした私の体液で濡れているばかりで、ほとんど精液がついていない肉棒を丁寧に舐め啜り、ぢゅっと先端に吸い付く。口に少量の精液の味を感じながら、ぐぽぐぽ喉と口で舐め回した。
 喉奥にごりごりさせると息が詰まって苦しい。が、単なる剛直を咥えていると物足りない気がしてくる。太いけれど、器用に動く、……あの舌で喉を塞がれたい。ふわふわと息苦しさと甘さを感じて、気持ち良くなりたい。肉棒は気持ちがいいにはいいのだが、何かが違う。

「おいっも、出るっ!出るからッ!」

 気づかないうちに夢中で嬲っていたらしい。ぱちんと強めに臀部を叩かれて、私は大きく太く育ったおちんぽを、ずるりと口から引き抜いた。
 打ち止めと言った割には、反り返って、びきびきで、悪くない。

「本当になんでそんなにフェラうめぇんだよぉ……」
 泣き言をいう男にいそいそと跨り、にや、と笑いながらずぶずぶと埋めていく。
「わたしがうごくのと、おまえがうごくの、どちらがよい?」
「……俺がやる。お前なんかなぁ!俺の!オナホなんだからなっ!」
 肉棒は半分やけになっているようだった。ぐっと身体を起こして私を逆に押し倒してくるので、そのままベッドに横たわる。形勢逆転しても、少しも嬉しそうではない。

 考えてみれば、群青騎士にはそれぞれ専用奴隷が1人ずつついているのだ。1人で2人分を賄えるはずがない。が、私の食事は、こいつしかいないのだ。こいつがいなければ干上がってしまう。孤児たちを無差別に襲うことだけは、やめておきたい。仕方がないので、本意ではないが、多少は媚びておくか。はあ。面倒だな。これがご主人様が相手なら良いのに。

「おなほに、おちんぽから、びゅっびゅとせいえき、だして?」
「っ~~~!お前、なぁ!」
「っあん」

 意外に、こういう言い方が気に入ったらしい。なるほど?
 なので、気持ちよく達してもらうべく、私は淫語を囁いた。「おまんこきもちいいっ」だの「そこ、もっとぐりぐりしてっ」だの、わざとらしいまでに声を出せば、本当に好きなのだろうな、あっという間に達してしまった。寮ではあまり好かれなかった言い回しが、ここで生きてくるとは思いもしなかった。
 ……少し薄い気もしないでもないが、まあ今日は許してやろう。だいぶ疲労困憊しているようだしな。ぐったりとベッドに沈み込むフィルジによしよしと撫でてやると、何度かキスをせがまれてしまった。こいつ、前よりキスが好きになったな。最初のころは、私と口を合わせるのもあまり好かない様子だったのに。

「かえるまえに、せんじょうしてくれないか?ライニールになめとられるのはいやだ」

 そうだ。ライニールもどうにかしてほしい。そう訴えると、肉棒はライニールのことは聞いていなかったらしく、少し驚いた表情で目を瞬かせていた。しきりに首を傾げながら、サークレットとライニールのことをヒュギル様に聞いてくれると約束して、部屋を出ていく。
 それから数分と経たず、黒豹が招かれもせずに、私の部屋に入り込んできた。鍵は無論かけたままだ。拒絶だと思ってほしいのに、いとも簡単に開けてくる。

「こんばんは、クンツ。さ、今日も舐め取ってあげる」
「いらない。きょうはきれいだ」

 食事が足りてないから、自分ではあまり洗浄魔法を使う気にはならない。昨日はオリヴァー先輩を連れ出すという名目で、さっさと立ち去られてしまったが、今日はきっちり魔法を使わせた。なので私は綺麗なのだ。舐め取られるようなものはない。服も着こんだぞ。そうして満を持して断ると、ぐいっと一気に距離を詰められた。
 ライニールの瞳孔がくわっと丸くなる。日差しや室内の明かりでは、たいてい細くなっているので、この反応は顕著だった。思わず後ずさるが、腕を掴まれてそれ以上は下がれない。

「何言ってるの汚いよ。あの蝙蝠に抱かれたんだろ、全然汚いじゃないか。綺麗にしなきゃ駄目に決まってる。俺の匂いが全然しない。ほら早く脱いで」
「っ」
「これはヒュギル様の命令なんだから」

 ご主人様の、めいれい。

 そう言われると弱い。私は一度だけきつく目を閉じると、そろそろと服を脱いだ。すぐさまベッドに押し倒されて全身を舐められる。これで綺麗になる。よかったな。そう声をかけられるたびに、私は目を閉じた。
 何も減るようなことはしていないのに、ライニールの舌が、唇が、私の全身を這うたびに、何かがじわじわと減っていく気がした。

 おやすみ、と上機嫌で若い青年が立ち去った後も、すぐには起き上がれなかった。じゅすと、私のジュストはどこにある?そうだ、肉棒にも、ライニールにも触られたくなくて、隠したのだ。ベッドの下から、トランクケースを引っ張り出して開けると、そこには大きな狼のぬいぐるみが、窮屈そうに収まっていた。手を伸ばしかけ、私は大きく息を吐く。

 身体を、洗ってこよう。このまま触れば、ジュストを汚してしまう気がする。

 巡回をやり過ごして、身体を洗いに行く。水を飲んで、喉を潤して、なるべく手早く、身体を洗った。水瘤の水は、昨日よりさらに、減っていた。
 次の日、肉棒はサークレットは代えられないし、私の日中の世話をするようにライニールに話をしたことも本当らしい、とどこか苦々しい表情をしながら伝えてきた。
 ヒュギル様に直接会わせてもらえないか頼んだが、今はどうしても難しいらしい。おおがたいべんとのあっぷでーと準備?というものがあるらしく、ヒュギル様はその準備の手伝いに掛かりきりだそうだった。そんなものより、愛玩動物ペットの私の方が断然可愛いと思うが、どうやら私を魔界に連れていく際の仕込みをしているらしい。必要不可欠なことだと言われて、引き下がった。

 ベールを縫い、ライニールの相手をし、肉棒にも精液をもらう。私は基本部屋に引きこもっているが、時折外から声がした。私の体調を心配するものが多かったが、稀に働きもしないでずるい、というぼやきも聞こえた。私はただ孤児院に世話になるだけの存在に成り下がっている。申し訳なく思った。大型獣人の子供たちは、私がずっと無視をしているせいか、もう、だれも、来てくれなくなった。

 時々、ベールを縫う手が止まり、ぼんやりすることが増えてきた。

 私はここで、なにをしているのだろう。どうしてここにいるのだろう。任務を遂行するための命令書を呼び出すにも魔力が必要だが、自分の立ち位置を思い出すために何度か見返していた。ただそれのせいか、ここにきて内包している私の魔力は、少しずつ減り始めていた。非常食の擬態ポーションも使ってしまった。
 肉棒を搾り取るにも、身体が満足に動かなくなってきた気がする。相変わらず、肉棒はオリヴァー先輩に手こずっているらしい。

 「少し痩せた?やっぱり食べないせいか?」とやや深刻そうな顔をしたライニールに、無理やり食べさせられて、吐いてしまった。それも片付けてはくれたが、口は舐められるし辟易してしまった。
 おまんこして、と誘っても、ライニールは俺を選ぶならいいよ、としか言ってくれない。ライニールを選びたくないが、彼を襲って勝手に搾り取る体力もなかった。

 これは、良くない状態ではないか。

 そう気づいた時には、朝になってもめまいで起き上がることができなかった。水瘤の水が枯れ、もっと上まで水を飲みに、そして身体を清めにいった翌日のことだった。

 ベールはあともう少しだし、大熊が私を引き取ると言っていた日にちは、あと数日に迫っている。……さて、なぜ私は、あの大きな熊に、引き取られるんだったか。
 身体を起こすとめまいがひどく、ベッドに横たわるしかない。どうにかこうにか服だけは着替えたが、机に向かう気に慣れず、私は身体をベッドに投げ出した。

 サークレットの意識阻害のせいで、私にはすべてがあやふやになっていた。

 今日は、もう寝ていようか。どうせまた、ライニールが私を勝手に引っ張り出すだろう。ぼんやりと天井を見上げ、視線を彷徨わせ、それから力なく瞼を閉じる。考えることも疲れた。
 意識を手放そうとしていると、ごん、と重いものが当たる音が聞こえた。それらは、だんだんと音が大きくなってくる。
 なんだ、うるさいな。私がうっすらと目を開けるのと、ばきゃ、と音がして私の部屋のドアが壊されるのが、ほぼ同時だった。

「いつまでも部屋に篭ってんなよ!辛気臭えなあクンツ!」
「ああもうクーちゃんっ!痩せてるじゃない!なにが俺が世話してる、よライニールのばかぁ!」
「クーちゃんおはよう~!ふたりとも!いそがないと、こわい軍人さん来るよっ!」

 蝶番が外れ、隙間からもこもこと、ギィスと、ツェルリリと、ブラムがお互いに押し合いながら、部屋の中に入ってこようとしている。が、開いた隙間は1人分だというのに、誰も譲ることなく押し合いしているせいで入れない。私は呆然とその様子を見守った。
 そのうちに、やはり一番身体の大きく力の強い大猪獣人が真っ先に入ってきた。ついで大猩々のツェルリリ、遅れて泣きべそをかきながら、ブラムが一生懸命さらに大きく隙間を広げようと奮闘している。

「クーちゃん、ジュストはどこ?あと、ベールって、ああこれね!」
 ぱたぱたと忙しなく私の作っていたベールを手にし、ジュストを探し回るツェルリリ。
「ジュストは、べっどの、したの、とらんくに……っぐぇっ?」
 答えている間に、無理やりに身体をギィスに起こされた。毛布を巻かれ、ひもを巻かれる。なにを、なん?え?

 私がぽかんと見やっていると、眉間にしわを寄せたギィスが、私を見て唸った。

「なんだそれ、気持ち悪いっ!」
「えっ」

 私の頭に付いていたサークレットを両手の指でしっかりと掴むと、そのままぴんっと引っ張った。だめだ、と制止する間もなかった。物理耐久度はほとんどなかったのか、細い金色の鎖は、いともたやすく、ギィスの手で引きちぎられてしまった。

 とたんに、濃霧に巻かれていた私の頭が、一気に晴れ渡る。

 ユストゥスのこと、結婚のこと、オリヴァー先輩のこと。そして、肉棒、……フィルジ、私に、ご主人様、と言わせていた、ヒュギルの、2のことを。
 どういう作用をしたのかわからない。だが、魅了魔法チャームで確かに2人に持っていた好意が、サークレットが引きちぎられた瞬間、引きずられるように消えた。

「うぅっ」

 頭が痛い。いたい。でも、痛みが持続している。私が何かを忘れるときに感じる痛みは、いつも一瞬だった。大丈夫、まだ、ユストゥスのことを、忘れていない!覚えてる!
 はっと顔を上げると、満面の笑みを浮かべるギィスと目が合った。

「行くぞクンツ!親分はな、子分のことは守るもんなんだよ!」
「違うわよ!クーちゃんはあたしの親友!ギィスの子分じゃないの!」
「ふた、ふたりともはやくうぅ!」

 私を縛り上げたギィスは、そのまま軽々と私を背負うと、ジュストとベールを大事に抱いたツェルリリとともに、部屋を飛び出した。

「遅れんなよブラム!」
「ふえぇえまってぇ!」

 身軽に動きながら、ギィスは木を登り始めた。ツェルリリも器用に片手だけでよじ登っていた。ちらりと下を見やれば、人が多くいるのがわかる。孤児院の先生方や他の子供たち、それ以外に、軍服を着た大人が多数いた。なんなのだろう、随分と物々しい雰囲気がある。

 険しい表情のライニールと目が合った気がしたが、すぐにその姿は見えなくなった。


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