きもちいいあな

松田カエン

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王都防衛編

109.ものすごく、怒られている。

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 娼館から戻ってきてから、ユストゥスが全部エリーアス様に正直に話すものだから、それはもう、ものすごく怒られた。
「……どうして、クンツはそういうことばっかりするの?」
 リビングのソファーの腰掛けたエリーアス様が、気だるげな表情のまま心底悲痛な声を出す。エリーアス様の目の前で正座していた私は、悲しみを帯びた視線を受けて首を竦めた。居心地悪そうなユストゥスは、私の隣に座り肩を落としている。エリーアス様が座るソファーの背後にはマインラートとベッカーが並び立っていた。おじさまはエリーアス様に声をかけようとしては、マインラートに邪魔されている。2人の手話を見る限り、おじさまは私の減刑を求める嘆願をしているようだが、それをマインラートは許してくれていないようだ。
 艶っぽい表情でため息を零すエリーアス様は、性交を終えて後は寝るだけ、といったむんむんな色気がにじみ出ている寝衣姿だった。さすがにちょっと申し訳ないような気がしてくるが、ここで私の責任を認めてしまったら、今後の行動に差し障りがあるかもしれない。それは嫌だ。
「わっ私のせいではない」
<黙って怒られようぜもう……>
 ユストゥスの、諫めてこようとする手話を振り払うようにして声を張り上げた。
「私は部屋を出ようとしただけだし、変なところに繋がったのも、娼館の不手際だ」
 そうだ、私は確かに他の部屋を覗きに行こうとはしたが、それでもあの部屋を開けようとはしていなかった。あんな面白みもない部屋を見て何が楽しいというのだ。しかもあの後、一部屋ずつ問題が起きたと従業員が弁解に現れ、順番に追い出されていった。ユストゥスは途中で私たちだけ別の部屋に移動されることを危惧していたようだが、特にバレることもなくあの娼館を後にしたのだ。
 つまり問題は何もなかったと考えるべきだろう。拳を握って切々と訴えると、エリーアス様が自分の髪を指先でくるんと巻くようにして弄った。そして背後に並び立つ専属奴隷のうち、ベッカーに顔を向ける。
「クンツ、ちょっと悪戯が過ぎるからお仕置きするけど、ベッカーは見ない方が精神衛生上いいと思うよ。マインラート、アレ持ってきてもらえる?」
 ひゅっと私は息を飲んだ。エリーアス様がお仕置きするというのであれば、私はお仕置きされてしまうのだ。隣のユストゥスを見れば、それ見たことか、と言わんばかりの表情をしている。お、お前とて共犯なのだからな!
「おじさま……」
 行かないで止めてほしいと、私はベッカーに一縷の望みをかけて視線で訴えるが、耳をぺったり倒したベッカーはマインラートに引っ張られるようにリビングを後にしてしまう。うう……っ明日はいっぱい絵本を読んでもらうぞ。お菓子も貰って、いっぱい撫でてもらわなければ、私は復活できないからな!
 私が恨みがましく見送っていると、エリーアス様はユストゥスに視線を向けた。
「近衛騎士のうち、片方はオズワルド、と呼ばれていたんだね?」
<それは間違いない>
 神妙な面持ちで頷くユストゥスに、エリーアス様は重いため息を零した。
「幸か不幸か、顔見知り、昔の同僚だ。僕が群青騎士団に入ってから没交渉だったから、あんまり期待しないで欲しいけど、一応連絡とってみる。でもユストゥス、君らしくもないよ。今立場微妙なの自覚してるだろ?」
 エリーアス様の指摘を受けて、ユストゥスは膝に手を乗せたまま、目を伏せた。エリーアス様の言葉を、甘んじて受けようというその態度に心がざわつく。獣耳でも生えていたら、今頃ぺったりと垂れていたところだ。何も言い返さない男の代わりに、私はむっとしてエリーアス様に食って掛かった。
「こいつは関係ないだろう。私が行くと言わなければ、ユストゥスはついて来なかった。言いたいことがあるなら私に言うべきではないのかエリーアス様」
「……へええ?クンツも成長したね。この僕に対してそんな啖呵を切るなんてね」
 ふふ、と心底面白そうな笑みを浮かべるエリーアス様に、私はぞくりと背筋が震えた。アッえと、その……。
 隣でユストゥスが目を見開いて、こちらを見ている気配があるが、エリーアス様の微笑みの怖さに、私は視線を逸らすことが出来ない。どうして私はエリーアス様に噛みつくようなことを言ってしまったのだろう。ユストゥスにすべてを押し付けて逃げればよかった。後悔している私の前で、エリーアス様は口に何かを含んだ。そしてソファーから降り、床に手をついて下から私の顔を覗き込んでくる。
 謝ろうと口を開いた瞬間、間近に迫ったエリーアス様の綺麗な碧眼に思わず見惚れてしまった。白金のまつ毛のカーブですら綺麗だ。はく、と声にならずに唇を動かした瞬間、口づけがされた。舌を伝って、唾液と、何かとろりとしたものが流し込まれる。思わずちゅっと吸い付きながらごくりと飲み下すと、きらりとエリーアス様の眼が輝いた。それだけで引いていくと、エリーアス様はもう一度ソファーに腰掛け、ゆっくりと足を組んだ。
「そうだねクンツはお仕置きしないと駄目だから、ユストゥスの分も合わせてお仕置きしよっか。そこまで言って、もしや逃げたりしないよねクンツ。上脱いで、全部」
「うっお手柔らかにお願いします……」
 私は何を飲まされたのだろう。少し甘いシロップのような味がした。でもここで、エリーアス様が私にそんなものを飲ませてくれるはずがない。私は言われた通りに上着を脱ぎ、着ていたシャツも脱いだ。丁寧に畳んでいるところに、マインラートだけ、なにか小さな小箱のような物を手にして戻ってくる。エリーアス様はそれをマインラートから受け取ると、箱をぱかりと開いて中を見せてくれた。
 中に入っているものは、よくわからない金属片だった。そのうち二つを手に取り、私に差し出してくる。洗濯ばさみのようにバネが付いており、指で摘まむと口が開く。私が首を傾げている横で、ユストゥスが小さくため息を吐いた。
<マインラート、いいのか?これお前の玩具だろう>
<これは今は使っていないんです。エリーには、もっとバネの強いものを使っているので。でもコレ本当におもちゃのようなものですよ>
「マインラートのおかげで、痛いのも気持ちよくなってきちゃうし、怖いよほんと」
 痛い?痛いとはいったい何の話だ?意思疎通し合っている3人に恐れおののいていると、エリーアス様が「さて」と私に向き直った。
「それ乳首に挟むクリップだから、自分で乳首に付けて」
「っ……なぜ、そんな」
「自分でやった方が楽だと思うよ」
 にこやかに微笑まれて、拒否が出来そうになかった。軽く指を挟んでみる。指ではそれほど痛くもないが、しっかり挟んで外れることはなかった。これを、乳首に……?
「うう……」
 縮こまっている乳首を、指先で摘まんで硬くしこらせる。ぷくっと芯を持って勃ち上がった乳首を前に、私は恐る恐るエリーアス様を見上げた。
「これを、本当に付けるのか?」
 どこかに逃げ道はないのか、私が往生際悪く足掻いていると、緩くエリーアス様が微笑む。
「自分で付けられないならユストゥスに頼みなさい。君のせいで巻き添え食らってるんだから」
 隣に座ったユストゥスと目が合う。私が固まっていると、苦笑を浮かべたユストゥスが軽く頷いて手を動かした。
<本当に迷惑を被ってんのはエリーアスだからな……。少し遊びに付き合ってやれ>
「……ほ、ほんとうに、付ける気か?うそ、うわ……あっ」
 私が腰を引きかけたところに、ユストゥスがクリップを手にすると、あっという間に右側の乳首に付けてしまった。じわりとした鈍痛が先端から広がる。わずかに私が震えてるのがわかるだろうに、ユストゥスはもう片方もあっさりと挟んでしまった。
 じんじんする。突起の先についた異物に、私は浅く呼吸を吐いた。
「次は重り付けて、ユストゥス」
 言いながら、エリーアス様は小箱をユストゥスに手渡してしまう。お、重り……?重りと言ったか??この状態で、重りをどこに付けるのか、私とてわかりたくなくともわかってしまう。クリップに重りを引っかけられるような小さな輪があることも、その輪に通せるだけの小さなフックが重りについていることも、しっかりと気づいてしまった。わからない振りをしたかった。
 ユストゥスはエリーアス様の指示に、少しだけ躊躇した。目に見えない垂れた耳が見えるような表情で、エリーアス様に視線を向ける。だがエリーアス様は、不貞腐れた表情でぷいっと顔を逸らした。その先にあったマインラートの手を取り、その甲に口づけを落としている。
<……>
「そんな目をしても駄目、君にもお仕置きなんだから。ユストゥスは大事な大事なクンツに、本当は痛いことしたくないもんね」
「しっ、したくないならっ、しなくていいんだからな、なっ?」
 ふるふると私が首を横に振ったところで、ユストゥスは私の背後に座ると、箱から一つ取り出し、私の胸をむにっと掴んだ。やわらかな胸筋が無防備に張り出し、クリップの先にユストゥスが重りを吊るす。
「ひぃ、んっ」
 ユストゥスの手が離れると、重力に従って乳首が下に引っ張られた。もう片方にも同じように吊るされる。じんじん痛みを感じるが、あのエリーアス様の笑みを見た後では勝手に外す気になれない。ユストゥスもそうなのだろう。なんとも言えない表情をしている。
「僕に悪いと思った分だけ、ぶら下げて」
 その指示に、さすがにユストゥスは軽く舌打ちをした。エリーアス様はマインラートを引き寄せて、自分の膝の上に横抱きに座らせている。それからちゅっちゅと首筋や頬にキスを落とす。甘えるように抱き締められて、さすがにマインラートも少しだけ居心地悪そうに身を揺らすが、それでもどこか嬉しそうな表情をしていた。
「やっ、あ、ひっ……ちくびっちくび、がっ、伸びてしまう……っ」
 ユストゥスが私の乳首に次々に重りを吊るしていく。身じろぎをすれば、その分だけ遠心力を持って重りが揺れ、皮膚が引っ張られる。クリップに挟まれた突起は真っ赤に充血し、ぷっくりと加虐を与えてくる金属を押しのけようとしていた。思わず背を丸めて下を向く。引き攣れたその痛みに、じわりと涙が浮かんだ。
「いいかいクンツ、今近衛騎士と事を構えたら、本部が嬉々として、君とユストゥスの身柄を押さえに来るんだよ?僕が頑張って手元に置いておこうとしてるっていうのに……不可抗力で会ってしまったのはわかるけど、そもそも娼館になんて行かなければ良かったんだからね」
「うぅっ……らって……」
 ひくっと横隔膜が震えた。そのせいでぶらりと重りが揺れてますます身体が震えてしまう。そのせいで揺れが大きくなる。悪循環だとわかっていても、身体が止まらない。……それでいて、下半身が熱で張り詰めてしまう。
 この程度の痛みなら、本当なら痛いけれど、痛くないのだ。これならよほど、拳や関節を壊してしまった時の方が激痛が走る。なのに、堪えきれず身を捩ってしまう。恥ずかしい。
「や、だっ……ゆすとぅす……」
 とうとう正座の姿勢も保っていられず、私はぐらりと身体を崩した。ちゃり、と胸元の重り同士が擦れる音がする。
「だめ。ちゃんと正座して。ユストゥスもほら、座らせてあげて」
 ユストゥスの手が私の身体に添えられて、姿勢を戻される。胸を張った分だけまたぶらりと重りが揺れた。股間が張り詰めていたい。頭がぐらぐらする。茹ったかのように、身体が火照って仕方がなかった。痛いだけなはずなのに、どうして。ユストゥスの胸板に手を突き、軽く頭を振る。はふ、と熱い吐息を漏らすと、腰に腕を回された。
 さっきの、口移しで飲まされたもの。あれのせいだろうか。
<エリーアス、クンツに何飲ませた?>
 私の様子にユストゥスが顔をしかめている。それに対してエリーアス様はこともなげに答えた。
「媚薬。クンツが耐性のないやつ使ったから、少量でもちゃんと効き目あるね。座ってられなさそうなら、クンツのこと吊るして、ユストゥス」
<おっまえ、めちゃくちゃ怒ってるじゃねえか……>
「怒るに決まってるでしょ、クンツは僕の気持ち、ぜーんぜんわかってくれてないし。ほら早く吊るして。乳首は下に向くようにね」
 追い立てるようにエリーアス様がユストゥスに畳みかけている。眉間にしわを寄せた男は、私の顔を覗き込み、額に浮かんだ汗を指でそっと拭ってくれた。
<これは多分、俺に対しても仕置きなんだろうな。……クンツ、ちゃんと我慢しろよ>
 ユストゥスが気が乗らない表情で、私の腰を抱えるようにして円形ベッドの上に運ぶ。ぶらぶら揺れる重りに、ひいひい声が漏れた。下半身も脱がされてしまい、私は1人だけ夜のリビングで裸を晒す。その状態でうつ伏せになるようブランコで肩と腰で固定された。両手首もしっかりと背に回される。
 この体勢なら膝を伸ばせばしっかりと足がつくのだが、それをエリーアス様は許さなかった。ユストゥスがただただエリーアス様の指示に従って、私の片足の太ももとふくらはぎを曲げてくっつくようにして固定してしまう。もう片方も同じようにするつもりだったのか、背後で少し揉めている。
「足がついたら駄目じゃないか」
<片足じゃどうせ支えきれない。一部は自由を与えてやってくれ>
「……しょうがないなあ」
 少しの押し問答のあと、折れたのはエリーアス様だった。よ、よくやったユストゥス!あとでなでなでしてやるからなっ!
 ちろりと様子を伺うと、エリーアス様とユストゥスが、ベッドの外側で立っていた。その後ろでマインラートが何か、エッ、ロウソク……?あとそれ、えと、乗馬鞭というものではないか……?エリーアス様たちが邪魔で、マインラートが何を用意してるか見えないっ。見える角度を探そうと身体を揺らせば、乳首が重りに引っ張られてうめき声が漏れた。
「はい、じゃあユストゥス。クンツが反省するまでお尻ぺんぺんして。スパンキング用に手袋貸す?」
 エリーアス様の言葉に、呼吸が止まるかと思った。今はただでさえ乳首に重りが付いていて、呼吸するだけで揺れるというのに、尻叩かれて、揺らさない自信は、ない。おそらく痛みをぼかすためなのだろうが、飲まされた媚薬のせいで、痛みを感じているのにそれが気持ちよくなってしまっている。だからまだましなのかもしれないが、痛くないと気持ちよくなれなくなったらどうしようと、一抹の不安に怯えた。
「す、すまなかったエリーアス様!反省しているッ!反省しているからッ許してくれ!……ゆ、ユストゥス!」
 声を張り上げるたびに乳首の重りが揺れて鈍痛が続くが、そちらに構っている場合ではない。振り返ってどうにか許しを乞う。  私は真の悪い子ではない。もちろん反省もしている。だから許してほしい。
 手袋を断って近づいてくるユストゥスから逃れようと、自由になる片足で、ベッドを蹴った。だが天井を支点にしているブランコが、前に逃れたところでそれ以上離れられるはずもなく、ぐらりと揺れてユストゥスに尻を突き出してしまった。そんな私の腰をユストゥスがしっかりと掴む。
 私の専属奴隷はちらりとエリーアス様に視線を向ける。だがエリーアス様は腕を組んだまま、首を横に振った。ユストゥスは一度目を閉じるとゆっくりと開き、私の臀部をまあるく、ひと撫でした。
 それから手を振り上げる。
 パシン。
「ひぁ、う~~っ!」
 乾いた音が響くとともに、私はその刺激から逃れようと身体を捩り、じゃり、と重りに引っ張られた乳首の痛みに声を上げた。

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