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王都防衛編
幕間:午前3時<ユストゥス視点>
しおりを挟む不意に意識が浮上した。目を閉じたまま周囲の気配を窺う。狼獣人の特性でいくら深く寝ていても、すぐに目が覚める俺は外から聞こえる物音に、まだ夜が明けてないことを確信した。
昨日はクンツを起こして『食事』を与えて、ぶつくさ怒るお嫁様を抱き、自分の食事を終えて、いつもと同じ時間にはベッドに入ったが、唐突に姿を現したヒュギルのせいで、神経が昂ってなかなか寝付けなかった。
その上、この時間に起きちまうとかついてねぇ。また寝直したい。軍部で鍛えた癖は抜けてないから、短時間で寝るのもお手の物だ。寝ようと思えば5秒で寝れる。
寝直すためにクンツを抱き寄せようとして、俺は息を詰めた。
普段ならふすふすしてる、クンツの愛くるしい寝息が聞こえない。……起きてる?俺が目を開く前に、眉間をすいっと撫でられた。瞼がぴくんと跳ねちまったが、でもクンツには気付かれなかったらしい。
「ふふ……しわ」
くすりと漏らした吐息のような声に、俺は全力で現状維持を努めることにした。
前にも似たことがあったことを思い出す。俺が寝てて、腹を空かせたクンツが起きた。あの時はなかなか起きない狸寝入りの俺に焦れて、寝たまま挿入しようと躍起になったんだったか。
お嫁様が腰をゆっくり動かして、しっとり柔らかまんこに俺のちんこを迎え入れてくれたのはほんとえっちで可愛かった。腹が鳴る音は聞こえないが、奔放で淫乱なクンツのことだ、また俺を欲しがってくれるのかもしれない。
そんな期待して待ってたが、クンツは俺の顔を撫で回すばかりであんまり動こうとしなかった。聞こえる呼吸は穏やかで、寝てる時とほぼ同様のタイミングを刻んでる。寝ぼけてんのか?珍しい。
散々俺の眉間や目尻、頬や口元を撫で回したクンツは、またくふりと笑った。
「ふけたなあ、ユストゥス」
………あ‶っ?
人が気にしてることをこいつは……!!なんてったって、一年以上お前に振り回されっぱなしだからな!?
寝てるふりをやめて、小憎らしいことを言うクンツの頬を引っ張ってやろうかと思ったのに、身体が動かなかった。
『今』のクンツは、俺と出会ってまだそんなに経ってない。それに、俺にはエリーアス向ける興味の半分も持ってなかった。そんなクンツが、俺の外見の変化を気付くものだろうか。そんな思いが駆け巡ったからだ。
「みみ……どこに……おいて、きたんだ?……くふふ………」
スローテンポに話すクンツに頭を撫で回されて、胸に抱き込まれる。優しく髪を梳くその手は、前にも体験済みだった。喉が変な音を立てそうになるのを必死で堪える。息をするだけで震えそうだったから、呼吸を止めた。
「大丈夫……だい、じょうぶ……わたひ、が………んむ……ぅ」
不明瞭に慰めながらぽんぽんと撫でまわし、やがて落ち着きの良い場所を見つけたのか、クンツは俺を胸に抱き込むと、すやすやとまた夢に戻っていってしまった。むっちりと弾力があって柔らかいおっぱいで、まるでジュストを抱き込むかのようにきゅうっと俺を抱き締めてくれる。
止めていた息を、そろそろと吐きだした。
反射的に揺さぶって叩き起こしたい衝動に駆られる。覚えてるだろって、寝衣を脱がせながら、噛みつきながら聞きたい。食事を与えるんじゃなくて、クンツとどろどろになるまで愛し合いたい。俺の触ってないところが一つもないぐらい、俺のもんにしたい。
……クンツは忘れてない。俺を覚えてる。でも記憶の断絶が起こってるから普段は思い出すことなんてねえ。そんな話をつい昨日、ヒュギルから聞いたばかりだ。そのことは言われなくてもわかってる。
なのに、なあ。
こんなの、卑怯だろ……?
ヒュギルが急に現れたことで、記憶が揺さぶられたのか?なあクンツ。……俺が、もし俺が元の姿に戻れたら、ちゃんと思い出してくれるか?
今の俺のことを忘れちまったクンツだって、日々の積み重ねでここにいてくれる、可愛い幼妻だってことは理解してる。でも、今までのクンツも、ちゃんとここにいる。……いるんだ。いて、くれるんだ……。
規則正しく上下に揺れるクンツの胸に顔をうずめて、俺は震える吐息を漏らす。甘い雌の匂いとまろやかな子供臭。それとクンツ生来の体臭だろう、若い雄の匂い。胸が上下に揺れて、とくとくと鼓動を刻んでる。
夜が完全に明けるまで、ずっとそのままで俺はクンツに抱きしめられていた。寝ることなんてできなかった。ずっとこのままの時間が続けばいいと、そう思ってた。
「おいユストゥス!お前私の寝衣に水をこぼしただろ!?冷たい!」
案の定、クンツは起きた時何も覚えてなかった。ぷりぷり怒りながら、濡れた胸元を俺のせいにしてる。ま、実際俺のせいなんだけどよ。
<知らねえな。よだれ盛大に出てたぞ>
「む……」
俺がすっとぼけると、確かにそれはあるかも?と顔に浮かべ、首を傾げながら服を脱ぎ始めた。
「まあ、いい。それより、私の食事の時間だろうユストゥス。…なんだお前、目が赤いぞ?擦ったのか?痛いか?」
ぼさぼさの髪のまま俺に身体を寄せてきたクンツは、俺の目が赤く充血していることに気付くと、そっと俺の目元に手を伸ばした。指先で優しく触れてくるその触れ方が、昨晩のクンツを思い出されて胸が苦しくなる。
俺は自らその指先を堪能するように顔を寄せた。すると少しだけ驚いたようで、わずかに身体を引き、訝しそうに俺を見やってくる。思わず苦笑しちまった。
クンツの、お嫁様のわかりやすい表情はいつもと変わりがなく、可愛い。
<大丈夫だ、ありがとな。それより今日も魔具突っ込むぞ。その前にたんと精液飲ませてやるからな>
「望むところだ!ディー先輩のためだからな!」
むん、と胸を張ったクンツに軽く口付けをして、ベッドに押し倒す。ぐうっと腹を空かせて、その本能のままにクンツは俺の背に腕を回してくる。
昨日、ヒュギルが現れてからずっと、そして早朝の出来事で昂ってる自覚があった俺は、いつも以上に丁寧に優しく抱いた。
ただ、感じやすいお嫁様を念入りに愛撫したせいで、朝っぱらから足腰立たなくしてしまい、ベットに突っ伏したクンツに恨言を言われる羽目になった。
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