きもちいいあな

松田カエン

文字の大きさ
137 / 175
王都防衛編

幕間:午前3時<ユストゥス視点>

しおりを挟む



 不意に意識が浮上した。目を閉じたまま周囲の気配を窺う。狼獣人の特性でいくら深く寝ていても、すぐに目が覚める俺は外から聞こえる物音に、まだ夜が明けてないことを確信した。
 昨日はクンツを起こして『食事』を与えて、ぶつくさ怒るお嫁様を抱き、自分の食事を終えて、いつもと同じ時間にはベッドに入ったが、唐突に姿を現したヒュギルのせいで、神経が昂ってなかなか寝付けなかった。
 その上、この時間に起きちまうとかついてねぇ。また寝直したい。軍部で鍛えた癖は抜けてないから、短時間で寝るのもお手の物だ。寝ようと思えば5秒で寝れる。
 寝直すためにクンツを抱き寄せようとして、俺は息を詰めた。

 普段ならふすふすしてる、クンツの愛くるしい寝息が聞こえない。……起きてる?俺が目を開く前に、眉間をすいっと撫でられた。瞼がぴくんと跳ねちまったが、でもクンツには気付かれなかったらしい。

「ふふ……しわ」

 くすりと漏らした吐息のような声に、俺は全力で現状維持を努めることにした。

 前にも似たことがあったことを思い出す。俺が寝てて、腹を空かせたクンツが起きた。あの時はなかなか起きない狸寝入りの俺に焦れて、寝たまま挿入しようと躍起になったんだったか。
 お嫁様が腰をゆっくり動かして、しっとり柔らかまんこに俺のちんこを迎え入れてくれたのはほんとえっちで可愛かった。腹が鳴る音は聞こえないが、奔放で淫乱なクンツのことだ、また俺を欲しがってくれるのかもしれない。

 そんな期待して待ってたが、クンツは俺の顔を撫で回すばかりであんまり動こうとしなかった。聞こえる呼吸は穏やかで、寝てる時とほぼ同様のタイミングを刻んでる。寝ぼけてんのか?珍しい。
 散々俺の眉間や目尻、頬や口元を撫で回したクンツは、またくふりと笑った。

「ふけたなあ、ユストゥス」

 ………あ‶っ?
 人が気にしてることをこいつは……!!なんてったって、一年以上お前に振り回されっぱなしだからな!?

 寝てるふりをやめて、小憎らしいことを言うクンツの頬を引っ張ってやろうかと思ったのに、身体が動かなかった。
 『今』のクンツは、俺と出会ってまだそんなに経ってない。それに、俺にはエリーアス向ける興味の半分も持ってなかった。そんなクンツが、俺の外見の変化を気付くものだろうか。そんな思いが駆け巡ったからだ。

「みみ……どこに……おいて、きたんだ?……くふふ………」

 スローテンポに話すクンツに頭を撫で回されて、胸に抱き込まれる。優しく髪を梳くその手は、前にも体験済みだった。喉が変な音を立てそうになるのを必死で堪える。息をするだけで震えそうだったから、呼吸を止めた。

「大丈夫……だい、じょうぶ……わたひ、が………んむ……ぅ」

 不明瞭に慰めながらぽんぽんと撫でまわし、やがて落ち着きの良い場所を見つけたのか、クンツは俺を胸に抱き込むと、すやすやとまた夢に戻っていってしまった。むっちりと弾力があって柔らかいおっぱいで、まるでジュストを抱き込むかのようにきゅうっと俺を抱き締めてくれる。
 止めていた息を、そろそろと吐きだした。

 反射的に揺さぶって叩き起こしたい衝動に駆られる。覚えてるだろって、寝衣を脱がせながら、噛みつきながら聞きたい。食事せいえきを与えるんじゃなくて、クンツとどろどろになるまで愛し合いたい。俺の触ってないところが一つもないぐらい、俺のもんにしたい。
 ……クンツは忘れてない。俺を覚えてる。でも記憶の断絶が起こってるから普段は思い出すことなんてねえ。そんな話をつい昨日、ヒュギルから聞いたばかりだ。そのことは言われなくてもわかってる。

 なのに、なあ。
 こんなの、卑怯だろ……?

 ヒュギルが急に現れたことで、記憶が揺さぶられたのか?なあクンツ。……俺が、もし俺が元の姿に戻れたら、ちゃんと思い出してくれるか?
 今の俺のことを忘れちまったクンツだって、日々の積み重ねでここにいてくれる、可愛い幼妻だってことは理解してる。でも、今までのクンツも、ちゃんとここにいる。……いるんだ。いて、くれるんだ……。

 規則正しく上下に揺れるクンツの胸に顔をうずめて、俺は震える吐息を漏らす。甘い雌の匂いとまろやかな子供臭。それとクンツ生来の体臭だろう、若い雄の匂い。胸が上下に揺れて、とくとくと鼓動を刻んでる。

 夜が完全に明けるまで、ずっとそのままで俺はクンツに抱きしめられていた。寝ることなんてできなかった。ずっとこのままの時間が続けばいいと、そう思ってた。





「おいユストゥス!お前私の寝衣に水をこぼしただろ!?冷たい!」
 案の定、クンツは起きた時何も覚えてなかった。ぷりぷり怒りながら、濡れた胸元を俺のせいにしてる。ま、実際俺のせいなんだけどよ。

<知らねえな。よだれ盛大に出てたぞ>
「む……」

 俺がすっとぼけると、確かにそれはあるかも?と顔に浮かべ、首を傾げながら服を脱ぎ始めた。

「まあ、いい。それより、私の食事の時間だろうユストゥス。…なんだお前、目が赤いぞ?擦ったのか?痛いか?」
 ぼさぼさの髪のまま俺に身体を寄せてきたクンツは、俺の目が赤く充血していることに気付くと、そっと俺の目元に手を伸ばした。指先で優しく触れてくるその触れ方が、昨晩のクンツを思い出されて胸が苦しくなる。
 俺は自らその指先を堪能するように顔を寄せた。すると少しだけ驚いたようで、わずかに身体を引き、訝しそうに俺を見やってくる。思わず苦笑しちまった。
 クンツの、お嫁様のわかりやすい表情はいつもと変わりがなく、可愛い。

<大丈夫だ、ありがとな。それより今日も魔具突っ込むぞ。その前にたんと精液飲ませてやるからな>
「望むところだ!ディー先輩のためだからな!」

 むん、と胸を張ったクンツに軽く口付けをして、ベッドに押し倒す。ぐうっと腹を空かせて、その本能のままにクンツは俺の背に腕を回してくる。
 昨日、ヒュギルが現れてからずっと、そして早朝の出来事で昂ってる自覚があった俺は、いつも以上に丁寧に優しく抱いた。

 ただ、感じやすいお嫁様を念入りに愛撫したせいで、朝っぱらから足腰立たなくしてしまい、ベットに突っ伏したクンツに恨言を言われる羽目になった。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...