きもちいいあな

松田カエン

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王国崩壊編

137.Q:それは伸びますか?/A:伸びません。

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 私はむすっと腕を組んだまま、目の前の男を見やる。私の目の前に立った男は、どこか苦しそうな、困ったような表情で私を見下ろした。ちらりと斜め後ろに目をやれば私たちのやりとりを肴にしようとしてか、2人ほど奴隷が集まってきていた。
 場所は玄関に近い廊下だ。明らかにわかって眺めているようだが、おそらくこの2人なら通りすがりでも足を止めるだろう。

 そちらに意識を向けていると、ユストゥスにパンッと手を打ち鳴らされ、嫌々ながら視線を前に戻す。私の奴隷は小さくため息を付いて、がりがりと頭を掻いた。私が怒っているというのに、その困惑した態度が腹立たしい。

<なあクンツ。お前今日もやったんだってな。性行為中に他の奴隷の話を振るなって昨日も言っただろ?比べたり持ち上げたり下げたりするのはマナー違反だって、教えた……あー……教えられただろうが。どうしてやるんだ>
「だから昨日も言ったが、私はやってない」
<誰とは言わないが、やられたって報告が来てるんだ。なんだって急にそんなこと……>
「やっていないといったらやっていないのだ!」

 私の専用奴隷だというのに、どうして私の言うことを信じない!

 疑ってかかるユストゥスに、私は怒り心頭だった。
 昨日だって、ユストゥスがごはんの最中に懇々と説教してくるものだから、私はきちんと言った。ちょっと話をしただけで、比べるなんてそんなことはしていないと。
 それで昨日は引き下がったというのに、今日になってまた説教だ。しかも2人きりではない、他人の目がある廊下で呼び止めてまで!

 言い切る私にユストゥスは眉間に皺を寄せた。目つきが悪いからそれだけで怒ってるように見えてくる。でもな!そんなことで私が自分を曲げると思うなよ!私はじっと睨み返した。
 するとユストゥスはいつもよりより丁寧に手を動かした。

<わかってくれりゃ内容まで問うつもりはなかったが……クンツ、お前普段言わないなんか言っただろう。何言った?>
「何って……おちんぽは急に伸びることがあるのか、聞いただけだ」

 怒りを全身で表しながらそう訴えると、ユストゥスはこめかみを指先で揉んで、どこか遠くを見るような顔をした。
 ちなみにユストゥスには、この話を何度もしている。でもそのたびに俺の身体なんだから伸びてないのは俺が一番知ってる、と少しも聞く意味を持たなかった。

<お前またその話……つか、それを他のやつに言ったのかよ……>
「本当に伸びたんだ!おちんぽが伸びて、ぐぽぐぽ私の奥を掻きまわすようになったから、どうしてそんなことが起こるのか、聞いてるだけだ!そしたらお前はそんなことあるわけないと言っただろう!でもあるのだから、理由を知りたくて聞いたんだ!」
「なに騒いでるの?」

 柔らかな声色に、私はぴくっと反応して背後を振り返った。訓練着に着替えたディー先輩が不思議そうにこちらを見ている。
 種の調整が上手くいったディー先輩は、無事奴隷たちとの初結合も済ませて、私たちと同じく訓練にも出れるようになった。ただまだ戦場へは出ておらず、身体を鍛え直ししているところから始まっている。
 今日も訓練に勤しむのだろう。最近過保護な専属奴隷のイェオリも一緒だったようだが、私たちを遠巻きに見ていた他の奴隷……ハイラムとハイルヴィヒと、何やら手話で会話をしている。

「ディー先輩聞いてくれ、ユストゥスが私が嘘を付いてると責めてくるのだ!」
<クンツがちんこ伸びたなんて言うからだろ?!>
「伸びたんだ!嘘じゃない!」

 手話と声で言い争う私たちを見て、ディー先輩はほんのりと頬を赤く染めたままちらりと自分の奴隷を見やった。

「伸びるって……伸びるの?」
<膨張を伸びると言うなら伸びるとも言えるけど、子熊の場合は違うようだね>

 少し考える素振りを見せながらイェオリが応える。ディー先輩は性的な行為を嫌悪していたこともあって、こういう話題は得意ではない。だがだいぶ克服してきたのか、少しであれば話を聞いてくれるようになった。

「だって、本当に……いっ今まで入らなかったのに、入るようになったのだっ」

 ディー先輩にまで半信半疑な態度を取られて、私はぎゅっと拳を握った。嘘を付いていると思われるのは嫌だ。俯くと固く握った拳をほっそりとした手で握られる。
 柔らかかった手の平がうっすらと硬くなり、剣だこができ始めているのがわかる。こんな時ではあるが、血色の良い顔色にも安心した。

「クンツの言うこと、僕は信じるよ」
「ディー先輩……」

 優しいディー先輩の言葉に、私はそっと両手で手を握り返した。

「イェオリ、理由がわかるなら教えてあげて。ね?」

 話を振られたイェオリが、意味深にユストゥスを見上げた。ユストゥスはなんとも言えない表情をしている。
 蚊帳の外から<バラしてしまえイェオリ><エイデンなど、また勃たなくなるところだったのだぞ>と、奴隷2人が囃し立てているのが見えた。思わず私がそちらを威嚇すると、楽しげに頬を歪めるばかりだ。

 まったく。おちんぽは素晴らしいというのに、この2人も時々意地悪だ。

 イェオリは考えながらゆっくりと頷くと、手を動かした。

<子熊の言っている入った、というのは結腸のことだろう?>
「結腸?」
 聞きなれない言葉にディー先輩が首を傾げた。

<腸の奥にあるくびれのことさ。悪魔の実の種はその奥にあるんだ。あのあたりは精巣も近くて、性感帯になりやすい。魔肛持ちならそこで快感を得ることはたやすいだろうね>
「そうなんだ……」

 ディー先輩はそっと自分の下腹を撫でる仕草をした。控えめながらどこか淫蕩なその仕草に、ハイラムが軽く口笛を吹きかけて止まる。タンッ!と乾いた音とともに、釘のような鋭い鈍色がハイラムの顔すれすれに、寄り掛かっていた壁に刺さった。
 少しでもズレれば目に刺さっていたところだというのに、ハイラムは笑みを深くしながら軽く肩を竦める仕草をするだけだ。逆側に立っていたハイルヴィヒは<こっわ>と小さく手を動かした。

 い、今の投げたのは、イェオリか……?

 立ち位置と刺さった角度から見てイェオリしかいないのだが、動いたように見えなかった。私とディー先輩が戸惑っていると、イェオリは何事もなかったかのように手で説明を続ける。

<ただ結腸は、結構直腸の奥でね。そこを突ける長さの性器はなかなかないんだよ。うちだとユストゥスとベッカーぐらいかな。ただ巨根だから突けるというわけでもない。上手く襞を手繰り寄せて、捻るように突き入れないと入らないんだ>

 ほ、ほう……?なんだか難しい話になってきたぞ?

「そんなことできるの?」

 私がぐぃんぐぃん回転して飛んでいくおちんぽを想像している横で、ディー先輩は感心したように頷いた。私の脳内のおちんぽはなんだか獣群連邦で見たワームみたいに気持ち悪くなっていて、慌ててその妄想を取り払う。

<実は結構難しい。受け入れる側が協力しないと無理なんだよ。つまりこの場合は子熊だね>
「私?」

 ぱちりと瞬きをして自分を指差すと、イェオリはゆっくり深く頷いた。なぜだかさっきまで言い争っていたユストゥスが、顔に手を当てて軽く舌打ちをする。
 ……若干、耳が赤い……?

<ユストゥスの突き上げに合わせて、クンツが腰を揺すって受け入れないと入らないだろうね。つまり子熊が奥まで受け入れたいと思わないと入らないわけだ。ユストゥスのアレのサイズは、獣人の時と比べると一回り小さいからなおさら。まあ、それでもベッカーに次いで二番目に大きいんだけどね>
「そんなに、大きくは……その、思わなかったけど……」

 真っ赤になりながらディー先輩が問うと、イェオリはその頬を撫でて目を細めた。

<ユストゥスは自分の騎士以外に、ソコには押し込まないようにしてるからね。専属奴隷の僕らに対する配慮だ。専属奴隷でも開けてない未知の部分を開くような無神経なことはしない。ま、奴隷も納得して、騎士が望めば入れることもあるみたいだけど。……というわけで、結腸に入るペニスの話をしている時点で誰の話をしているか、みんな想像がついてしまうわけだよ子熊くん。ベッカーは君とはしないしね>
「は……」

 ぼんっと顔が赤くなるのを感じた。奴隷たちのペニスのサイズは確かに様々だが、誰のおちんぽの話と言わなければ分からないだろうと思っていた。

 わた、わたしは、みんなに聞いたぞ……?急に伸びて、気持ちいいところを突き回すことがあるのかと。

「だって!だって伸びたと思ったのだ……!あ、あんなにっ、急にぐぽぐぽって、きもちいい奥に入って、私の弱いところをこね回すのだぞ?!今まで入らなかったのにっ!それも毎回っ!」

 イェオリは素早くディー先輩の耳を塞いで、私が並べる卑猥な言葉を聞こえないようにした。それでも何となく察したディー先輩の顔は真っ赤だ。イェオリは混乱する私を楽しそうに目を細める。
 それとは別に奴隷2人がキャッキャと楽しそうにユストゥスを責めていた。

<ほらほら、どういう教育してんだユストゥス~?>
<ペニスがぐっぽり入ってきもちいい。陰茎が伸びるなんて初めて知った。あんなに気持ちいいのは初めてだ。などとピロートークに言われる我らの身にもなってみよ>
<あー……これは、マジで悪かった>

 ユストゥスは赤面した顔を片手で隠したままがっくりと肩を落とした。ハイルヴィヒに背中を叩かれ、少し足を踏み出したユストゥスの胸板が私の肩に当たった。
 思わず見上げてしまう。なんだか、ここのところ特に凛々しく見えてしまう男の横顔に、顔を上げていられず視線を落とした。

 ユストゥスはそんな私の背に手を当てると、そのまま強引にも思える力強さで抱き寄せる。私はユストゥスの鎖骨あたりに、顔を埋める形になって固まった。
 押し付けられた肉体の力強さ。すんっと匂いを嗅ぐと、感じるユストゥスの体臭。
 身体が疼いて、脳の一部が痺れるような感覚がある。これは違う、と訴える違和感は薄くどこかに消えていった。

 なぜだかドキドキと鼓動が高なる。

 顎を掴まれ顔を上にあげられた。親指が私の唇に触れそうで触れない。なのにその仕草をされるだけで、唇が割り開かれる。
 じっと不思議な色合いの青金の瞳に見つめられるだけで心のざわめきに、ずきりと頭痛を感じた。頬を撫でられ、その手の温かさに私がうっとりと瞳を閉じながら頬を寄せたところだった。

 ぐにゅっ。

「っ~~~?!っいひゃいいいぃいっ!」

 驚いて目を見開くと、眉間に皺を寄せたまま私の頬を抓るユストゥスがいた。
 ユストゥスは、このばかはっ!私の頬をむぎゅうっと、まるでパンを捏ねるときにように揉みこんではぎゅううっと抓る。悲鳴を上げているのに離してくれない。

「びゃかっ!びゃかあっ!」

 怒鳴っても言葉が上手く喋れず、その手を引き剥がそうにも掴んで引っ張れば、その分頬も引っ張られる羽目になり、私は泣いた。
 さっきまでのなぜだかきらきらしていた気持ちも、何もかも吹き飛んでしまった。
 強弱をつけて頬を引っ張り、私を散々泣きわめかせたユストゥスは、真っ赤に腫れた頬に満足したのかようやく離してくれた。

<いいか、これに懲りたらもう馬鹿なこと言うなよ?主語がなくたって通じることもあるんだからな>
「ううっ……ユストゥスのばかっ!お前など嫌いだ!」
「クンツ……」

 涙ぐむ私を慰めてくれたのはディー先輩で、ユストゥスのばかは、私の奴隷だというのに偉そうな口を叩いていた。背中を丸めるようにぎゅっと抱きつくと、ディー先輩が優しく抱き返してくれる。その私の背後でイェオリが手を動かした。

<わざと憎まれないといけないのも、辛いものだね>
<……それでも、忘れられるよりよっぽどいいさ>

 私に見えないように手を動かし苦笑するユストゥスに、ディー先輩に慰められて少しばかり気持ちが落ち着いた私は、顔を上げてキッと睨みつける。

「おっお前のおちんぽなど、もう奥に入れてやらないからなっ!絶対だぞ!泣いて縋ってもだめだからなっ!」

 挿入させないとは言わない。いくらにっくきユストゥスのおちんぽでも、私の大事なごはん精液を出してくれる大切なだ。おちんぽは悪くない。悪いのはユストゥスだ!
 ゔ―ゔ―唸っていると、そこにマインラートを伴なったエリーアス様が現れた。

「どうしたの?またクンツで遊んでる?」
「私とは、いったいどういう意味……」

 反射的にぐわりと振り返ってエリーアス様に噛みつこうとしたところで、私は動きを止めた。一歩後ろに下がって静かに控えるマインラート以外の全員の視線がエリーアス様に、正確にはエリーアス様の頭に集中する。

「えっなに、似合わないかな?」
 照れたように笑うエリーアス様の髪の毛が、長かった髪の毛が……。

「髪がない……」
 思わず言葉が転げ落ちた。途端にエリーアス様は不機嫌そうに唇を尖らせる。
「ちょっと。急に人が禿げたみたいに言わないでクンツ」

 エリーアス様の長かった髪の毛がばっさりと切られて、ショートヘアになっていた。 外見の変化に付いて行けず、私はなくなった髪を探すようにエリーアス様の周囲を一蹴ぐるりと回る。
 首の後ろを覆っていた白金がなくなって、艶めかしいうなじが露わになる。サイドも耳の半分を覆う程度の長さになっており、前髪も眉にかかるかかからないかぐらいの長さだった。落ち着いた印象をもたらしていた髪型が変わった所為か、活動的でだいぶ若く見える。

「この髪型も、僕に似合うだろう?」

 私たちが反応できないのを順に眺めたエリーアス様は、晴れやかに笑った。


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