きもちいいあな

松田カエン

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王国崩壊編

147.身を焼かれる。

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 その場にいた者の視線が私に集中する。黒髪の男の、若干鋭い眼差しが丸く見開かれた。視線が合いそうになり、私はヒュギル様の影にまた隠れる。ぎちぎち服を引っ張るせいで綺麗な服に皺が寄ってしまった。

「ちょ、クーちゃんこっち、こっち来て座って!」
「いやだ!」

 ヒュギル様が背後に隠れようとする私を引っ張り出そうとするので、力いっぱい抵抗してしまった。だって引っ張り出されるということは、あの御仁の前に立つということで……!
 どうしてこんなに顔が熱いかわからない。身体も火照るしドキドキしてしまう。体格差から腰にしがみつく私を、引き剥がそうとして力尽きたヒュギル様が小さくため息を付いた。

「クーちゃん……」
「アッ!」

 ヒュギル様の魔力に身体を拘束され、私の身体が宙に浮く。ふよふよとさっきまで私が寝転がっていたベッドに戻されてしまった。服がヨレヨレになったヒュギル様が眉間に皺を寄せる。

「ちょっと動かないでね」

 言葉で言い聞かせるように告げているが、がちがちに濃密な魔力に身体が拘束されて動けない。
 動けないのにひどい!とじわりと涙が浮かべると、ぎゅんぎゅんと複数の魔法陣を展開し始めたヒュギル様と私の間に男が割って入った。少しばかり長い襟足が目に入る。
 私より少しばかり背が高いが、肩幅も肉幅も薄い男の背中から目が離せなかった。

「ヒュギルこそ少し落ち着いてくれ。何をするつもりだ?」
「何ってクーちゃんの頭の再スキャンと、何なら時間遡及そきゅうでもう一回やり直しを」
 告げながらじわじわと迫ろうとするご主人様に、肉棒が慌てて飛びついた。

「待て待て待ってヒュギル様!さすがに範囲指定したとしても時間遡及は駄目ですよぉっ!」
「止めるなフィルジ!このボクが失敗するわけないんだからっ!」
「駄目ですってば!落ち着いて!」

 肉棒とヒュギル様がキャッキャ戯れているのを尻目に、男がため息を付いた。そして振り返り、ともすれば睨んでいると勘違いされそうな眼差しを私に向けてくる。
 ベッドの上で後ずさった私に気付いた男は、その場で跪いて下から私を見上げてきた。青金の不思議な色合いの瞳が私を捉える。

「……忘れたのは俺だけか?ここにいるヒュギルや肉棒のことは?」
「わ、わかる」
「じゃあ一輪寮のバルタザール、ディーター、クリス、アンドレ、ジギー、それにベッカーは?」
「覚えている」
「エリーアス、……獣群連邦のドゥシャン、アーモス」
「……知らない」

 立て続けに複数の名を口に出され、姿が思い出せる者とそうでない者がいる。というかこの男、私のことに詳しいのか?ぽかんと口を開けて見つめているとふっと視線が和らいだ。

「俺の名はユストゥス。群青魔道騎士団備品で、お前の専属奴隷のユストゥスだ」
「ゆすとぅす……ユストゥス」
 言葉を噛み締めるように繰り返す。

 ユストゥス。ユストゥス。

「やだっ!やり直すね!ボクがクーちゃんの忘却解除するのにどれだけ練習したと思ってるの?!練習で全部成功してんのに本番で失敗するなんて、いったいどんな無能なんだねボク?!」
「ずっと見てたから知ってますって!シミュレーションじゃ飽き足らず、実際に肉爆弾リンデンベルガーとっ捕まえて何体解除したと思ってるんですか!」

「頼むから、やめてくれ」

 わあわあ騒いでいた2人の魔族が、それでぴたりと動きを止めた。ユストゥスの声は、暗く重く沈む鉛のような声だった。

「次で完全に失敗して、クンツが廃人にならないって保証はどこにもねえ。……それより忘却は解除されたのか」

 ユストゥスの言葉に、ヒュギル様の元から一つの魔法陣が飛んできて回転をし始める。私の頭の周囲を飛び回ったと思ったら、ぱっと跡形もなく消えた。不貞腐れた顔で、ご主人様は肉棒の腕を振り払う。

「忘却は解除されてるね。跡形もない。……それはこのボクが、ヒュガリアル・ジオラ・ギルファウスの、魔族名にかけて保証するね」

 顔を歪めたヒュギル様の呻くような言葉に、男が立ち上がりながら私に腕を伸ばしてきた。身を硬くした私にかまわず、男の胸に抱かれる。

「そうか。……そうか。よかった」
 大きく安堵したような、か細い吐息を伴なった頷きだった。男の体臭を感じて、どうしようもなく胸が高鳴る。

「私は……お前を知っていて、忘れたのか?」
「ああ。でもそれは大したことじゃねえ。クンツが、お前がお前でありさえすればいい」

 不思議な気分だった。大抵私たちが記憶を失ったと知った相手は激昂するか悲しむか、そのどちらかの行動を選択する。
 だから身構えることが多いのだが、この目の前の男は自分を忘れられたというのに、安堵の言葉を口に乗せた。

「頭はどうだ?痛くねえか?」
「痛くはない。が、お前を見ているとここが痛む」
「どこが痛む?」
「ここ」

 私が胸に手の平を乗せると男は目を細めた。瞳を見つめるには勇気がなくて、男の口元を見やる。

「ここがとても痛いのに。でも嫌じゃなくて不思議だ」
「そうか」

 男の手が私の頭を撫でた。本当に不思議だ。こうして抱きしめられていることも嫌ではない。安心する。ほうっと吐息を漏らして身を寄せると、空気を読まない私の腹が鳴った。

「あ……」

 朝はきちんと『食事』したような気がするのだが、記憶が曖昧だ。馬車に乗ってここに来て……半分は霞がかっている。
 ヒュギル様と誰かとここに来たはずだが、それからどの程度時間が経ったか想像がつかない。この部屋には時間を示すものは何もなかった。

「戻るにしても、一旦クーちゃんに精液を与えてからにした方がいいだろうからね」

 脱力したヒュギル様が軽く指を鳴らすと、壁の一部が変化してドアとなった。勝手に開かれた先に見えるのは天蓋付きのベッドのようだ。高級そうで気後れがする。

「そうだな。じゃあ借りるぜ。クン「肉棒」」

 私はドキドキと高鳴る胸を押さえながらユストゥスとやらの腕を抜け出て、間抜け面した肉棒に歩み寄った。腕を取り隣の部屋へ誘おうとすると、驚いたように瞬きされた。

「はっ?お、俺ッ?!」
「何をとぼけた顔をしている。お前私の食事係だろうが」

 獣群連邦で何度も食べたおちんぽだ。用意されたおちんぽは、きちんと食してやるのが私のモットーである。好き嫌いは言わない。そんな私の肩を誰かが掴んだ。

「クンツ、俺がお前の専属奴隷だ。お前にとっては初対面かもしれない、が……?」
「えっ、い、いやっ!そんなことは頼めない!わた、っ私にはコレがあるから大丈夫だ!」

 ぽぽぽっと顔が赤くなってしまう。ぶんぶんと頭を振って否定し、肉棒の襟首を捕まえて全力で隣室にぶん投げた。控えめに言っても少しばかり大きな物音が立つ。
 ユストゥスが訝しそうに私を見つめてくる。普段は出てこない羞恥に苛まれて私は顔を逸らした。

「クンツ、おま「せっ、専属奴隷かもっしれないが、その……その、私は貴方と……その、ぉまん……、っ私の食事方法はちょっと、特殊なのでっその……」」

 ううう恥ずかしい……。

 肉棒の肉棒をおまんこでもぐもぐすることに抵抗は全くない。それをしなければいけないのが群青騎士だからだ。その相手がご主人様でも、他の奴隷でもやることは変わらない。
 魔肛で陰茎から精液を絞って、『種』にそれを受けなければ、私たちの身体は生命活動の維持ができない。

 が、その相手がこのユストゥスと言われると、話は別になる。
 どうしてだかわからない。でも恥ずかしい。

 でかい図体でと自分でも思っているのに、気恥ずかしさから身体が身悶えてしまうのを止められなかった。ユストゥスは戸惑い、わずかに躊躇して、私の気持ちが伝播したかのように少しばかり顔を赤らめさせた。

「俺がお前に精液を与えるのは初めてじゃない」
「は……うそっ」
「嘘なもんか。お前の身体のほとんどは、俺が躾けた」
「えっ、ええっ!」

 羞恥に身体中を焼かれるようだった。乳首もおまんこも、ペニスも喉奥も、全部?
 相手が気に入るように振る舞うすべも、上手い方ではないが身に着けた。それら全てをこの男が全部?
 言われてみれば、記憶の欠落を感じる。それも一度や二度だけではない。もっとたくさんだ。

「は、は、破廉恥だっ!えっち!変態っ!」

 私は怒鳴ってその場に蹲った。
 私はいったいこの男に、どんな反応を見せた?どんな声で喘いだ??わからない。恥ずかしい……っ!

「ヒュギルこれ……」
「ユストゥスのこと忘れた原因もわかってないのに、好意だけカンストしてる理由がボクにわかると思うね?」
「お前にわかんねえんじゃ、俺にわかるわけねえか……」

 2人とも途方に暮れた声を漏らしたが、私は顔を上げられなかった。精液を欲する身体がぐうぐうとうるさい音を立てる。
 歩み寄ってきたユストゥスがしゃがみ込んで私の頭を撫でた。びくっと身体が反応したが、それでも顔を上げることができなかった。

「クンツ、なあクウ。俺とセックスしようぜ」
「むりっ!あ、あなたはわかっているのか?!わ、わたしとな!ものすごおく破廉恥なことをするのだぞっ!」

 言い聞かせるように囁かれ、私は膝に顔を埋めたまま頭を振る。ユストゥスは思案する様子を見せた。

「肉棒とならできるのか?」
「無論だ。肉棒には単なる性処理に過ぎないだろうし、私にとっては単なる食事に過ぎない」

 何を言ってるのだ?と思わず少し顔を上げて告げると、また目が合いそうになり慌てて膝に顔を埋めた。

「んじゃ俺とは?」
「お、お、思えるわけなかろうがばかものぉっ!貴方は知らないかもしれないがな!せっせっくすとはな!肌と肌が触れ合う行為なのだぞ!」

 しかも!おちんぽを、お、おまんこに入れてもらわなくてはいけないのだ!それをこのユストゥス相手に強請るなど……!

「……ヒュギルが相手」
「ご主人様……?匂いを嗅いでいただき、私は食事するだけだ」

 だから何を知りたいのだこいつは。逆に訝しげに視線をそろそろとあげると、私の目の前に両膝を付いたユストゥスがなぜだか両手で顔を覆っていた。わずかに覗く耳が真っ赤だ。

「クーちゃん、ユストゥスにだけ貞操観念と羞恥心持ってない?これ」

 にやにやと笑ったヒュギル様が、ユストゥスを肘で突いている。ヒュギル様は身体が大きいのでユストゥスの身体は突かれるたびにぐらぐら揺れていた。

「俺はどっちでもいいんだけどぉ、クンツがこの状態だと支障がでるんじゃねえですかぁ?」

 せっかく私が放り込んだというのに、肉棒が隣室からひょっこりと顔を出した。

「私は別に、肉棒がおちんぽくれたらそれで……」
「でもクーちゃん、専属奴隷とえっちできないと誰かと交換されちゃうんだよね?たしかそんな話だったと思うけどね」
「はうっ?!」

 そ、そうだった?!私はユストゥスのおちんぽを受け入れなければ、違う専属奴隷を宛がわれることになる。この凛々しく美しい男を、私は手放さなければならないのか……?
 離ればなれになることを考えた瞬間、滂沱の涙が溢れ出た。

「いやだぁ……ごしゅじん、ごしゅじんさまっどうにか、どうにがじでぇ」
「って言われても……」

 えぐえぐと泣く私に、ヒュギル様がその美しい顔を曇らせた。


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