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キリの村編 〜クーリエ 30歳〜
X-13話 直感的確信
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すでに崩壊が始まっていた洞窟内を縦横無尽に侵食していく水流はそこにあるもの全てを巻き込みながら、未だ水が流れていないところを発見するやその地域を水没させる。水流に岩肌からこぼれ落ちた魔性石が入り混じれているが、それが放つ優美な光も濁流の前では色を掠めていた。
俺の身体は目的もなくただ流れゆく水に身を委ねていた。何もそうしたくてしているとか、勝利の余韻に浸っているとかそういう話ではない。意識が飛んでいたのだ。それも怪物に拳を突きつけるずっと前から。怪物の攻撃により負った頭部への衝撃とそこからの大量の流血で俺の思考は暗闇の底に落ちた。そこから意識が覚醒することは今この時点ですら一度も起こり得なかった。
水の流れが途端にゆっくりになる。この洞窟内を全て水で満たしたのかもしれない。または、湖と洞窟との境界線の役割を果たしていた岩壁が完全に水で流され、二つが一体化してしまったのか。どちらにせよ、自分の意思でここから脱出することが叶わず、指の一本すら動かすこともできない無力な人間にとっては特に関係ないことでもある。何せ、あと数分後に肺まで水が侵入し、呼吸困難に陥るという未来は変わりようがないからだ。
目を瞑ることよりも暗闇な世界が無力な人間を全身から包み込む。先ほどまで耳元で大きく鳴り響いていた水流の音や、天井から岩が降って落ち、水に吸い込まれる音も聞こえなくなる。神秘さを浮かべる漆黒の無音の世界に放り込まれた。途端に全身が水で濡れ呼吸ができなくなる。だが、それと同時に適度に冷たい温度と包容感が安らぎを覚えさせてくる。
ゴポゴポと10個ほど連続して水泡を作り、水面に向かって上昇させるが、それも次第に断続的になり大きさも小さくなっていった。やがて、水泡は上がらなくなる。その代わりゆっくりと、水底に向かって沈み始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
下降が下から何者かに支えられることで停止する。その手は慈しみを持ち合わせる、小さくも暖かい手。何者かは全身ボロボロな一向に目を開ける気配がない年上の冒険者を両手で抱え込むと一気に浮上を開始した。
その時に小さくこうつぶやく。
「世話の焼ける人だわ」と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鐘の音が寝ぼけている頭を強く震わせ、次第に視界がクリアになっていく。いつぞやに感じた春の温かみを含ませた安らぎの風が俺の髪を靡かせる。そこがキリの村であることは間違いなさそうであった。
辺りを見渡すが、そこは狭い一室であった。木製の扉に、必要最低限の窓。そして、今俺が寝転がっていたベット。これだけの説明だとコルルの家の物置小屋で目覚めた時と同じだが、この部屋はそこと違うものが一つ壁に変えられていた。
「十字架か・・・。それに鐘の音。」
幼少期でもこの部屋に入ったことはなかったと思うが、それだけでここがどこなのか分かった。俺に残酷な運命を決定つけた場所。そう、アンディー牧師が多くの人を導く教会だ。頭の中で答えが出たのと同時に、木製の扉がゆっくりと開かれる。
「無理をしたようじゃな、クーリエよ。まぁ、怪物の住処に殴り込みをしようと言うんじゃ。多少の無茶は大目に見るがこれはじゃな。まぁ、怪我自体はほとんど治りかけてるし、良いんじゃが。こちらの寿命を縮めるほどの大怪我を負って帰ってくるのはやめてほしいわ」
まるでこのタイミングで俺が目覚めるのを神の啓示で知り得たと言わんばかりに部屋に入ってくると、俺に話しかけてくる。その手にはお盆に乗った水とお粥が握られているように見えた。それを視界に捉えるのと同時に音が鳴る腹を俺は急いで手で覆い隠すが、彼はそんなこと気にも留めていないと言わんばかりに、ベットの横に置かれた椅子に腰掛けると、お盆ごと俺のへその上においた。彼の表情はいつになく真剣そのものだ。
「して、君の口からじゃなきゃ分からんことを聞くぞ。まぁ、答えはほとんど分かってはいるんじゃが。ミス・コルルの父上の話じゃ」
俺は、空腹を訴える腹を他所に真剣な眼差しで彼の顔を真っ正面から見つめる。その行為はまるで、情けないが口では言いたくないから、視線で察してくれと言わんばかりだ。
「生きてお主が助けることができたのか、それともすでに神のもとへ導かれたのか、どちらかだけ教えてもらえんじゃろか。じゃないと彼女の姿を毎日見てられん」
「コルルは生きているのですか」
そう問う俺に、彼は安堵を与える笑顔を見せながら答える。
「あぁ、生きておる。ちなみに、この5日間怪我でうなされながら目を開けることのないお主を毎日看病してくれとるぞ。それに、湖の放り出された意識不明のお主を救い出したのも彼女じゃ。重ねて礼を言った方が良いじゃろな」
「えぇ。この後すぐにお礼を言わなきゃいけませんしね。それに——。いえ、何もないです。コルルの父さんの件ですよね。すいません、生きている状態で彼を見つけるまでは良かったんですが、捉えられている状態から救い出している途中に怪物の奇襲を受けてしまい、目の前で殺されてしまいました」
なぜか、続きの言葉を言うのが躊躇われた。あんなに信用できる人だと思っていたのに、父さんの部屋のクローゼットから見つけなければいけない箱があるんだと言うことができなかった。そこにあるものは、直感的に俺が最初に見なければいけないものだという強い確信があった。
俺の身体は目的もなくただ流れゆく水に身を委ねていた。何もそうしたくてしているとか、勝利の余韻に浸っているとかそういう話ではない。意識が飛んでいたのだ。それも怪物に拳を突きつけるずっと前から。怪物の攻撃により負った頭部への衝撃とそこからの大量の流血で俺の思考は暗闇の底に落ちた。そこから意識が覚醒することは今この時点ですら一度も起こり得なかった。
水の流れが途端にゆっくりになる。この洞窟内を全て水で満たしたのかもしれない。または、湖と洞窟との境界線の役割を果たしていた岩壁が完全に水で流され、二つが一体化してしまったのか。どちらにせよ、自分の意思でここから脱出することが叶わず、指の一本すら動かすこともできない無力な人間にとっては特に関係ないことでもある。何せ、あと数分後に肺まで水が侵入し、呼吸困難に陥るという未来は変わりようがないからだ。
目を瞑ることよりも暗闇な世界が無力な人間を全身から包み込む。先ほどまで耳元で大きく鳴り響いていた水流の音や、天井から岩が降って落ち、水に吸い込まれる音も聞こえなくなる。神秘さを浮かべる漆黒の無音の世界に放り込まれた。途端に全身が水で濡れ呼吸ができなくなる。だが、それと同時に適度に冷たい温度と包容感が安らぎを覚えさせてくる。
ゴポゴポと10個ほど連続して水泡を作り、水面に向かって上昇させるが、それも次第に断続的になり大きさも小さくなっていった。やがて、水泡は上がらなくなる。その代わりゆっくりと、水底に向かって沈み始めた。
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下降が下から何者かに支えられることで停止する。その手は慈しみを持ち合わせる、小さくも暖かい手。何者かは全身ボロボロな一向に目を開ける気配がない年上の冒険者を両手で抱え込むと一気に浮上を開始した。
その時に小さくこうつぶやく。
「世話の焼ける人だわ」と。
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鐘の音が寝ぼけている頭を強く震わせ、次第に視界がクリアになっていく。いつぞやに感じた春の温かみを含ませた安らぎの風が俺の髪を靡かせる。そこがキリの村であることは間違いなさそうであった。
辺りを見渡すが、そこは狭い一室であった。木製の扉に、必要最低限の窓。そして、今俺が寝転がっていたベット。これだけの説明だとコルルの家の物置小屋で目覚めた時と同じだが、この部屋はそこと違うものが一つ壁に変えられていた。
「十字架か・・・。それに鐘の音。」
幼少期でもこの部屋に入ったことはなかったと思うが、それだけでここがどこなのか分かった。俺に残酷な運命を決定つけた場所。そう、アンディー牧師が多くの人を導く教会だ。頭の中で答えが出たのと同時に、木製の扉がゆっくりと開かれる。
「無理をしたようじゃな、クーリエよ。まぁ、怪物の住処に殴り込みをしようと言うんじゃ。多少の無茶は大目に見るがこれはじゃな。まぁ、怪我自体はほとんど治りかけてるし、良いんじゃが。こちらの寿命を縮めるほどの大怪我を負って帰ってくるのはやめてほしいわ」
まるでこのタイミングで俺が目覚めるのを神の啓示で知り得たと言わんばかりに部屋に入ってくると、俺に話しかけてくる。その手にはお盆に乗った水とお粥が握られているように見えた。それを視界に捉えるのと同時に音が鳴る腹を俺は急いで手で覆い隠すが、彼はそんなこと気にも留めていないと言わんばかりに、ベットの横に置かれた椅子に腰掛けると、お盆ごと俺のへその上においた。彼の表情はいつになく真剣そのものだ。
「して、君の口からじゃなきゃ分からんことを聞くぞ。まぁ、答えはほとんど分かってはいるんじゃが。ミス・コルルの父上の話じゃ」
俺は、空腹を訴える腹を他所に真剣な眼差しで彼の顔を真っ正面から見つめる。その行為はまるで、情けないが口では言いたくないから、視線で察してくれと言わんばかりだ。
「生きてお主が助けることができたのか、それともすでに神のもとへ導かれたのか、どちらかだけ教えてもらえんじゃろか。じゃないと彼女の姿を毎日見てられん」
「コルルは生きているのですか」
そう問う俺に、彼は安堵を与える笑顔を見せながら答える。
「あぁ、生きておる。ちなみに、この5日間怪我でうなされながら目を開けることのないお主を毎日看病してくれとるぞ。それに、湖の放り出された意識不明のお主を救い出したのも彼女じゃ。重ねて礼を言った方が良いじゃろな」
「えぇ。この後すぐにお礼を言わなきゃいけませんしね。それに——。いえ、何もないです。コルルの父さんの件ですよね。すいません、生きている状態で彼を見つけるまでは良かったんですが、捉えられている状態から救い出している途中に怪物の奇襲を受けてしまい、目の前で殺されてしまいました」
なぜか、続きの言葉を言うのが躊躇われた。あんなに信用できる人だと思っていたのに、父さんの部屋のクローゼットから見つけなければいけない箱があるんだと言うことができなかった。そこにあるものは、直感的に俺が最初に見なければいけないものだという強い確信があった。
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