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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜
X-24話 不穏な香り
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それからの俺たちの行動は異常に早かった。コルルの準備がとてつもなく早かったこともあるのだが、必要な物を鞄に詰め込み、背中に背負うとその足でキリの村を二人は後にした。
この村に対して未練が全くないかと聞かれればそんなことはないと答えるだろう。だが、次の村に駆り立てる何かが俺の胸の中で渦めいていた。コルルの父親から充てられた手紙に書かれていた内容。そして、同時に混入されていた子供が描いたと思われる絵。
常識的に考えればあの絵を描いたのは、入っていた箱を渡した俺だと考えるだろう。だが、当事者である俺本人ですらあの絵に関しての記憶は一切なく、箱と同様に本当に自分が関与しているのかさえも疑っている状態であった。
補足しておくと、箱にもう一つ入っていたコルルに書き残された手紙は既に彼女本人に渡してある。今、アルゴーの集落に向かう旅路の最中俺の隣でそれを黙読している。
しばらくすると、読み終えたのか手紙をクシャッとまとめると強引にポケットの中に突っ込んだ。その表情にはどこか苛立ちを隠しきれていないという感じがひしひしと言葉を介さなくても伝わってくる。その様子は触れることすら躊躇うほどの既に限界まで膨らました風船のようであった。
「手紙には良いことは書かれていたかい?」
意を決して彼女に話しかける。だが、彼女からの返事はそっけないものしか返ってこない。
「いや、別に~」
「そうか。でもその手紙は大事に扱った方がいいと思うぞ。お父さんが残してくれた最後の形見みたいなものなんだから」
「まぁね。それはそうなんだけど」
彼女はここで不意に言葉を区切る。二人が歩く足音だけが二人の間で生まれては消えていく。
「クーリエさんについてのことしか書かれてないもんだからさ~。ほんと、どう扱えばいいのよって話なんだよね。あのバカ親父は」
「お、俺のことかい!? 一体それは何が書かれているんだろうな。気になるよ」
「なに動揺してるのよ。クーリエさんもその文章を見たから私のことを誘ってくれたんじゃないの?」
首を横に傾げながら尋ねてくるが、俺はそれを首を横に振ることで返す。
「人の手紙を盗み見するほど捨てちゃいないよ。あれは君に充てられた手紙。そう判ると俺は中身を見ずに、隣においたよ」
「え? じゃあなんで私を誘ってくれたの」
「それはだな——」
不意に俺の嗅覚は違和感を捉えた。先程までの森に囲まれた通路を歩いていた時とは全くもって異なる香り。それは嗅いだことのある匂いで、思わず俺は続きの言葉を繋げる事すら忘れ、その場に立ち止まる。
鋭く鼻を突き刺す匂い。それも、森林が醸し出す身体の芯から癒してくれるような匂いではなく、嗅げば嗅ぐほど嫌な感情が湧き上がってくる感じ。
「何か物が燃える匂いがしてこないか、コルル?」
「燃える匂い? 私は感じないけど」
「じゃあ、気のせいなのかな?」
そう思い、意識的に匂いを嗅ぐことを諦めるが、自然体でも入ってくるその香りにどこか嫌な気が孕んでいるように思えてくる。俺は辺り一面を見渡す。どこにも異変は見受けられず、ただ鬱蒼とした木々がそこに生えている。思いちがいであってほしいと思いながらも、コルルに尋ねざるをえなかった。
「アルゴーの集落はこの近くにあるのか、それとももうちょっと遠くにあるか知ってるかい?」
コルルは一瞬頭を悩ませるが、すぐに俺の目を見て答える。
「近いと言えば近いけど、まだ半分くらいしか進んでいないと思うわ。ただ、アルゴーの集落はその医療技術の高さから各村、各都市から何度か集落を狙われたことがあるってお父さんから聞いたことがあるわ。そしてね、それを受けて警戒心を高めたある時の集落の長が、色んな場所に物見櫓を建てて、侵略がないか常に監視するようになったって。もしかしたら、その櫓がここから近いところにあるのかも!」
俺はその言葉を聞くと急いでコルルの手を取り駆け出していた。
この村に対して未練が全くないかと聞かれればそんなことはないと答えるだろう。だが、次の村に駆り立てる何かが俺の胸の中で渦めいていた。コルルの父親から充てられた手紙に書かれていた内容。そして、同時に混入されていた子供が描いたと思われる絵。
常識的に考えればあの絵を描いたのは、入っていた箱を渡した俺だと考えるだろう。だが、当事者である俺本人ですらあの絵に関しての記憶は一切なく、箱と同様に本当に自分が関与しているのかさえも疑っている状態であった。
補足しておくと、箱にもう一つ入っていたコルルに書き残された手紙は既に彼女本人に渡してある。今、アルゴーの集落に向かう旅路の最中俺の隣でそれを黙読している。
しばらくすると、読み終えたのか手紙をクシャッとまとめると強引にポケットの中に突っ込んだ。その表情にはどこか苛立ちを隠しきれていないという感じがひしひしと言葉を介さなくても伝わってくる。その様子は触れることすら躊躇うほどの既に限界まで膨らました風船のようであった。
「手紙には良いことは書かれていたかい?」
意を決して彼女に話しかける。だが、彼女からの返事はそっけないものしか返ってこない。
「いや、別に~」
「そうか。でもその手紙は大事に扱った方がいいと思うぞ。お父さんが残してくれた最後の形見みたいなものなんだから」
「まぁね。それはそうなんだけど」
彼女はここで不意に言葉を区切る。二人が歩く足音だけが二人の間で生まれては消えていく。
「クーリエさんについてのことしか書かれてないもんだからさ~。ほんと、どう扱えばいいのよって話なんだよね。あのバカ親父は」
「お、俺のことかい!? 一体それは何が書かれているんだろうな。気になるよ」
「なに動揺してるのよ。クーリエさんもその文章を見たから私のことを誘ってくれたんじゃないの?」
首を横に傾げながら尋ねてくるが、俺はそれを首を横に振ることで返す。
「人の手紙を盗み見するほど捨てちゃいないよ。あれは君に充てられた手紙。そう判ると俺は中身を見ずに、隣においたよ」
「え? じゃあなんで私を誘ってくれたの」
「それはだな——」
不意に俺の嗅覚は違和感を捉えた。先程までの森に囲まれた通路を歩いていた時とは全くもって異なる香り。それは嗅いだことのある匂いで、思わず俺は続きの言葉を繋げる事すら忘れ、その場に立ち止まる。
鋭く鼻を突き刺す匂い。それも、森林が醸し出す身体の芯から癒してくれるような匂いではなく、嗅げば嗅ぐほど嫌な感情が湧き上がってくる感じ。
「何か物が燃える匂いがしてこないか、コルル?」
「燃える匂い? 私は感じないけど」
「じゃあ、気のせいなのかな?」
そう思い、意識的に匂いを嗅ぐことを諦めるが、自然体でも入ってくるその香りにどこか嫌な気が孕んでいるように思えてくる。俺は辺り一面を見渡す。どこにも異変は見受けられず、ただ鬱蒼とした木々がそこに生えている。思いちがいであってほしいと思いながらも、コルルに尋ねざるをえなかった。
「アルゴーの集落はこの近くにあるのか、それとももうちょっと遠くにあるか知ってるかい?」
コルルは一瞬頭を悩ませるが、すぐに俺の目を見て答える。
「近いと言えば近いけど、まだ半分くらいしか進んでいないと思うわ。ただ、アルゴーの集落はその医療技術の高さから各村、各都市から何度か集落を狙われたことがあるってお父さんから聞いたことがあるわ。そしてね、それを受けて警戒心を高めたある時の集落の長が、色んな場所に物見櫓を建てて、侵略がないか常に監視するようになったって。もしかしたら、その櫓がここから近いところにあるのかも!」
俺はその言葉を聞くと急いでコルルの手を取り駆け出していた。
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