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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜

X-39話 揺らされる身体

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「ねぇ、ねぇってば!」

 外部からの力で身体を揺らされ、俺は時間をかけながら微睡みの世界から覚醒する。テントの外を朧げな目で見てみると依然として暗闇に包まれていた。どうやら、俺が寝過ごしてしまったとかそういったお咎めで起こされたわけではないようだ。

「やっと起きた・・・。いつまで寝てるの?」

「コルル? 何か用でもあったのか?」

 どうやら俺を眠りから叩き起こした、いや正確には揺らし起こしたのはコルルのようだ。すでに寝巻き姿に身を包んだ彼女が見下ろすようにして、俺の方をじっと見つめていた。依然としてどんな格好をしても美しさの変わらない彼女に惚れ惚れするが、どうやら彼女には他に明確な用事があるように見える。俺は、布団に寝転がっていた身体を小さくうめき声を上げながら、起き上がらせた。

「用事があるかって・・・。そう言っていたのはクーリエさんじゃない。もう。本当に疲れ切っていたのね。治療している人を集めたテントから帰ってきた時そう言っていたじゃない」

「テントから戻ってきた時——? あぁ! 確かにそんなことを口にしたような気がするな。すっかり忘れていたよ」

「もう! しっかりしてよね~。で、伝えたいことって何?」

「えぇとだな。どこから話せばいいんだろうかな。本当に色々なことが一気に起きてだな」

 後頭部に手を伸ばし、誤魔化すように力強く手で掻きむしる。別に何かひた隠しにしなければいけないことは一つもないのだが、何分刺激が強い内容が多くを占める。適切な過程を踏んで話していかなければ途中で聞くに耐えないことになりうる可能性があった。

 コルルは俺がどのように話そうか悩んでいる間もじっと黙って俺のタイミングを伺っている。その姿はさながら聖女様。悩みを静かに聞き、良き相談役として困っている人を幾人も導くことができる。まさにそれを身に宿しているようであった。

「まず、今回の集落に火が蔓延したその過程から説明——」

「そこは飛ばしていいでしょ? 問題なのは僕がそれを引き起こした張本人であり、そして僕を操っていた博士が殺されたってことでしょ?」

 暗闇から生まれた声の主は疑いようもない人物の声。まさに、この村のの声であった。

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