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32日目 俺は、二刀流なんだよ!教室に響く声の主

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「えぇ~、昨日も挨拶をしたと思うが、その時にいなかった顔ぶれもいるからな。今一度、担任となった先生。つまり、俺の名前だけ話そうと思う」

 僕は今、教室にある自分の席に静かに着席していた。時刻は現在8時30分を指し、丁度、朝のホームルームが始まったところだ。担任と思われる男性の先生が、かけているメガネを右手で器用に直しながら、そう話す。あくまで雰囲気ではあるが、優しそうには見えない。どちらかというと、強面の先生という印象を持った。

「俺の名前は、宮本武蔵。お前達と直接関わる授業は、煩わしいことに二つ。俺は、ガキの頃から、何でも同時に二つのことをこなせるみたいでな。教科も二つ指導できるんだ。一つ目が、国語。そして、二つ目が体育だ。本来なら、こんなが起きることが目に見えているクラスの担任なんてしたくなかったんだがな!」

 『何かすごい怒ってらっしゃらないか?』僕は、心の中でそう呟かざるを得なかった。登校中に感じていた眠気も、あの教卓に立つ先生の顔を見るだけで、軽く吹き飛んでいく。怖いというより、どことなく殺気?のようなものすら、飛ばしているような気がする。あくまで、直感的にだが。

「はぁ。俺は、この学校で剣道を教えたかったんだよ。分かるか? 俺は、ほんとガキの頃から剣を握っててよ。その時も、二刀流でみんなに死ぬほど怒られてきたが。でも、そんなの関係ねぇ!俺は、やりたいようにやるだけだって、突っぱねてこの歳まで剣道一筋でやってきたんだ!」

 『剣道一筋? あれ、その時点で全てのことを二刀流してきたって言葉と矛盾してる』 なるほど。こんなどうでも良いことを瞬時に思い浮かぶなんて、よっぽど今日の僕は頭が冴えているらしい。それとは対照的に、先生はこの場に適していないほど、熱く物語っているが。それも、目に少し煌めくものを浮かべて。

「なのに、この学校じゃあ、女子しかいないから剣道が教えられないときた。正直、やる気を失ったよ。教鞭を取る力も失った。そんな時だ!理事長に呼ばれたんだよ!来年から、授業の一環として、剣道を選択の候補に入れるってな。まぁ、条件としてあるクラスの担任を引き受けなければいけなくなったが、そんなことはどうでも良かった。俺の念願が・・・叶ったと思ったんだよ。なぁ!! 問題児。北村龍馬!!!」

「は、はい・・・。何でしょうか・・・?」

 突然自分の名前を呼ばれて、意図せず身体がブルっと震える。今まで、教卓から右に左にと歩きながら語っていた瞳が、今は僕の方を貫いている。だが、そこに先ほどまでの殺気のような冷たさは感じさせない。あるのは、少年のように、輝く好奇心に満ち溢れた眼差し。

「お前が、この学校始まって以来最初の男子生徒だ。俺は、すぐに理解したよ。から、体育に剣道が増えたってな!! さぁ、聞かせてくれ。今から配る選択授業の希望調査シートに、お前は何を書き込む!!!」

 注がれる視線。このクラスにいる全生徒からの視線を一心に集めているという緊張感からか、僕の鼓動は激しく高鳴っている。その上、この視線の持ち主は、全てが女子生徒だ!これもまた、激しく僕を動揺させる要因の一つ!!

「え、えぇと・・・。取り敢えず手元に来てから考えても良いでしょうか?」

「冷静な男め。こういう時は、衝動に任せて行動を起こすことが良いというのに」

 宮本先生は、ちっと舌打ちをしてから、列を作る机の最前列に座る学生に希望調査シートを渡し始めた。

「はぁ~。いきなり、あんなやばそうな先生に目をつけられたし。この先、どうなっちゃうんだろ・・・。それに」

 そう。僕の不安は、何も宮本先生からの熱烈なラブコールだけではない。いや、それどころか、先生の方がおまけとも言える。僕のクラス、1-A組。生徒数は20人。男女数で表現すると、男性1人、女性19人。そして、僕の席は、横5名、縦4名で割った座席表のど真ん中に位置する!!注がれる視線は、何も先生に話しかけられる前から起きていた。そして、こそこそと耳打ちをする態度も。

 僕には、このクラスで上手にやっていける自信が・・・一ミリもない!!!!









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