38 / 42
38日目 見えなかった人影
しおりを挟む
「ねぇ。私の方からも一つ聞いてもいいかな?」
微笑みを空に発散させ、純華さんは僕を真正面から捉える。風向きが変わったのか、彼女の髪は先ほどよりも逆向きに靡いている。ついでに、僕の背中から吹いていた風も、正面から受け止められ、どこか胸に圧迫感を覚えた。
「この四葉のハンカチ・・・。誰かに貰ったものなんでしょうか? どこか・・・あなたに合ってないような気がして」
その顔は真剣そのもの。そこに、一切の笑みも浮かべてはいない。僕は後頭部を自分の手でなぞりながら、少し首を歪ませる。
「それは・・・。変に思われるかもしれないけど、僕にも特に思い当たる節がないんだ。気がついたら持っていて、捨てるのもなんだし、って感じで今までとりあえず肌身離さず持っていたんだ」
「誰かから頂いたもの。ということなのでしょうか?」
僕は更に角度をつけて首を傾げた。
「いや、どうなんだろうね。本当に身に覚えがなくて。なんとも言えないな~」
「そう・・ですか、すみません。変なことを聞いちゃって」
キーンコーン
昼休み終了5分前を告げる鐘の音が校内中に響き渡る。例に漏れず、僕と純華さんのところにも。心休まる休憩の終了であり、同時に再び授業の始まりを知らせる理由も含まれるチャイム。生徒の落胆の声も風に乗って、二人の下にまで届いてくる。それに反応してか、純華さんは僕の前で僅かに目を細めた。
「もう・・・授業が始まりますから・・。戻りますか、それぞれの教室に」
「そうだね」
僕の返答を待たずに先を歩き出した純華さん。その背中はとても大きいはずだが、なぜかこの時に限りとても小さく見えた。いや、もしかしたら実際に縮んでいたのかもしれない。それか、光による屈折がもたらしたのか。だが、僕には、それを彼女に追求するだけの時間と、勇気がなかった。
「って! 僕もこんなことしている場合じゃないじゃん!! 早く教室に戻らないと!」
純華さんの背中が見えなくなるまで、その場にずっと立ちぼうけていた僕だったが、急に我に戻った。この場所は、僕の教室から少し距離が離れている。時間に余裕があるならまだしも、残り五分のチャイムが鳴ってからしばらく時間も進んでいる。
「ちょっと走らないと間に合わないかもな・・・」
僕は誰にも聞こえることのない小さな声でそう呟くと、足に力を込めてその場から駆け出した。この場から時刻を伺うことが叶わなかったからか、僕は何か非常に焦り、駆られていたのかもしれない。だからこそ、集中力が散漫としていたのだ。この場に他に誰かいたことなど、僕は一ミリも気づくことなかった。そして、その人は一度静寂に包まれた場所に、再び振動と音を投下するのだった。
「四葉のクローバーのハンカチ。流石、鯛は腐っても鯛と言ったところ、彼女も小さいにしろ歴としたお嬢様だったのね。あれの存在に気付かずにしろ、違和感として覚えるなんて」
校舎の影から飛び出し、自らの影を地面に移した。特徴的な頭から伸びる二つの触覚とも思える髪束が、しっかりと影にも反映されていた。
「でも、あくまでそれだけですけど・・・。私の方が、まだ彼に近い存在。彼にレッドカーペットを歩かせるのは、私の役目で、その時彼の手を引くのも私が独占するんだから・・・」
手で少しずれたメガネをかけ直すと、影は再び校舎の中に溶け込んでいった。
微笑みを空に発散させ、純華さんは僕を真正面から捉える。風向きが変わったのか、彼女の髪は先ほどよりも逆向きに靡いている。ついでに、僕の背中から吹いていた風も、正面から受け止められ、どこか胸に圧迫感を覚えた。
「この四葉のハンカチ・・・。誰かに貰ったものなんでしょうか? どこか・・・あなたに合ってないような気がして」
その顔は真剣そのもの。そこに、一切の笑みも浮かべてはいない。僕は後頭部を自分の手でなぞりながら、少し首を歪ませる。
「それは・・・。変に思われるかもしれないけど、僕にも特に思い当たる節がないんだ。気がついたら持っていて、捨てるのもなんだし、って感じで今までとりあえず肌身離さず持っていたんだ」
「誰かから頂いたもの。ということなのでしょうか?」
僕は更に角度をつけて首を傾げた。
「いや、どうなんだろうね。本当に身に覚えがなくて。なんとも言えないな~」
「そう・・ですか、すみません。変なことを聞いちゃって」
キーンコーン
昼休み終了5分前を告げる鐘の音が校内中に響き渡る。例に漏れず、僕と純華さんのところにも。心休まる休憩の終了であり、同時に再び授業の始まりを知らせる理由も含まれるチャイム。生徒の落胆の声も風に乗って、二人の下にまで届いてくる。それに反応してか、純華さんは僕の前で僅かに目を細めた。
「もう・・・授業が始まりますから・・。戻りますか、それぞれの教室に」
「そうだね」
僕の返答を待たずに先を歩き出した純華さん。その背中はとても大きいはずだが、なぜかこの時に限りとても小さく見えた。いや、もしかしたら実際に縮んでいたのかもしれない。それか、光による屈折がもたらしたのか。だが、僕には、それを彼女に追求するだけの時間と、勇気がなかった。
「って! 僕もこんなことしている場合じゃないじゃん!! 早く教室に戻らないと!」
純華さんの背中が見えなくなるまで、その場にずっと立ちぼうけていた僕だったが、急に我に戻った。この場所は、僕の教室から少し距離が離れている。時間に余裕があるならまだしも、残り五分のチャイムが鳴ってからしばらく時間も進んでいる。
「ちょっと走らないと間に合わないかもな・・・」
僕は誰にも聞こえることのない小さな声でそう呟くと、足に力を込めてその場から駆け出した。この場から時刻を伺うことが叶わなかったからか、僕は何か非常に焦り、駆られていたのかもしれない。だからこそ、集中力が散漫としていたのだ。この場に他に誰かいたことなど、僕は一ミリも気づくことなかった。そして、その人は一度静寂に包まれた場所に、再び振動と音を投下するのだった。
「四葉のクローバーのハンカチ。流石、鯛は腐っても鯛と言ったところ、彼女も小さいにしろ歴としたお嬢様だったのね。あれの存在に気付かずにしろ、違和感として覚えるなんて」
校舎の影から飛び出し、自らの影を地面に移した。特徴的な頭から伸びる二つの触覚とも思える髪束が、しっかりと影にも反映されていた。
「でも、あくまでそれだけですけど・・・。私の方が、まだ彼に近い存在。彼にレッドカーペットを歩かせるのは、私の役目で、その時彼の手を引くのも私が独占するんだから・・・」
手で少しずれたメガネをかけ直すと、影は再び校舎の中に溶け込んでいった。
0
あなたにおすすめの小説
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた
里奈使徒
キャラ文芸
白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。
財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。
計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。
しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。
これは愛なのか、それとも支配なのか?
偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?
マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。
「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる