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37日目 これで涙を拭いて
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春の日差しが僕たちを優しく包み込み、二つの影を伸ばす。気温とは関係なく伸びる黒く象られた人型のそれは、今置かれている二人の心情までは、正確に映し出されていなかった。もし、正しく反映されていれば、それは時には大きく、また時には小さくなっているはずだ。胸の高鳴りと共に。だが、変わらず一定の大きさを保つそれは、自分に落ち着きを取り戻すように訴えてくるようであった。
「ふぅ~」
一つ大きなため息をこぼす。目の前の彼女はそれだけで、大きな身体を震わせた。思っていたよりも、繊細な性格をした生徒なのかもしれない。
「なんで、こんな場所まで私を連れてきたんですか?」
返事を言おうと口をその言葉の形にした瞬間。予想に反して、彼女の口から放たれた言葉の方が、早く空気を振動させた。
「いや、そっちの方が良いかなって思ってさ。あんな、皆んなの見せ物みたいな形を教室で作っちゃったらさ、僕がどんな答えを言おうと嫌な盛り上がりを見せるじゃん。そんなの、僕は好きじゃないからさ。急に、移動しちゃって悪いとは、思ってるんだけど」
「やっぱり。気づいちゃいますよね・・・。それはそうですよ。急に話したことのない、こんな力士みたいな体格をした女子から告白されたら。何か裏があるんじゃないかって、皆んな疑いますよね」
「うん? 気づく? 疑い? 何を話してるの?」
聞き慣れぬ言葉に僕は思わず、驚いた表情を浮かべて聞き返す。だが、彼女の顔は至って真剣そのもの。決して、僕の聞き間違いだったというわけではなさそうであった。
「惚けてももう分かってますから。私が、無理矢理皆んなの笑い物になるように仕向けられたのが分かったんですよね。それなのに。コケにされたと分かっているのに。こんな誰の目にも届かないような場所に、私を連れ出してくれるなんて。あなたは、とても優しい人なんですね・・・」
途中から嗚咽を漏らしながら、訴えてくる彼女。気がつけば、目には光を反射するものも見てとれた。僕は、それを目の前でされても、ただ動揺するしかとれる方法がなかった。だって、こんな場面に遭遇したことなんて、今までになかったんだから!!
「あの・・・えっと・・・。良かったら、これでも使って・・・?」
ズボンに手を突っ込み、綺麗に畳まれたハンカチを彼女に差し出す。四葉のクローバーがプリントされた、少し小さいハンカチ。いつからこれを愛用しているのかは分からない。だが、物心ついた時にはこれを持っていた。特に捨てる理由もないし、ただポケットの中で鎮座してくれるので、今ではこれが入ってないと落ち着かなくなっているほどであった。
「まさか、こんなところで役に立つとはな・・」
溢れる声は、彼女の耳には届いていないことを祈る。無意識にでた言葉だが、振り返って考えてみれば、ハンカチを差し出すところまではすごくかっこよかったのではないか? 自画自賛だが。それが、先程の情けないセリフで一気に台無しになってしまったような気がする。
「うん? てか、ちょっとまってよ。さっきさ、告白をすることで、僕をコケにしようとした。みたいなこと言ってたよね?」
ハンカチに目を押し当て、下を向いてしまっている彼女は、僅かに頭を縦に揺らした。
「つまりさ、それって・・・。この告白が全部冗談だったってこと?」
「はい」
「そこは、下を向いたまま答えて欲しかったよ!!」
なぜか、そこを強調するように目からハンカチを外し、視線を僕を貫いてしっかりとした口調で言い放たれた。なぜ、そこを隠しながら言ってくれないのだろうか。僕の心にハンカチを押さえつけなければいけない状況だよ。心の涙が滝のように流れ落ちているから。
「私・・・もう少し身長が高い人がタイプなんです・・・」
「なんで追い討ちをかけるの!!??」
僕の盛大なツッコミは昼休みの喧騒の中でも、確かにかき消されることなく彼女の耳に届いたようだ。目に僅かにたまる雫が、笑顔と共にシワを寄せた弾みでほおに一線となり、そのまま地面に落ちていった。
彼女の言葉はしばしば僕のガラスの心を貫いてくるが、その都度の返しでかなり心は落ち着いたようだ。しばらく、似たような問答を繰り返していると、彼女の表情から悲しみの色は消え失せた。
「すいません。もう、だいぶ落ち着きましたんで。あなたも、これ以上声を荒げる必要はないですよ?」
「いや、僕だって好きで騒いでいたわけじゃ・・・」
そんな僕の声は、彼女の耳には届いていないようだ。なるほど、ここまで彼女と付き合ってきたから分かった。彼女は、自分の言いたいこと、聞きたいことを終えると、その後の集中力が散漫になるようだ。
「あの・・・これ・・」
「うん?」
「このハンカチなんですけど、後で洗濯して返します。必ず。次は、あなたにだけに会いにいくために、教室に行きます」
彼女は、両手で四葉のプリントを撫でながら、そう口走る。
「別に来たくなかったから教室に来なくていいよ。というか、聞きそびれていたけど、君に告白してこい、って命令した人は誰なの? 君の名前も僕はまだ知らないんだけど」
「それは、ごめんなさい。まだ、話してなかったかしら? 私の名前は、純華。佐藤純華。よろしくね。そして、このことは、あまり私の口から聞いたって言わないで欲しいんだけど・・みやびさん」
「佐藤さん。こちらこそよろしく。あー、なるほどね。後藤さんか・・・。こう言っちゃあ何だけど、彼女ならやりそうだ」
彼女は口元に手を当てて、その下で微笑みを浮かべる。それは、僕の目にはとても眩しく見えた。
「ふぅ~」
一つ大きなため息をこぼす。目の前の彼女はそれだけで、大きな身体を震わせた。思っていたよりも、繊細な性格をした生徒なのかもしれない。
「なんで、こんな場所まで私を連れてきたんですか?」
返事を言おうと口をその言葉の形にした瞬間。予想に反して、彼女の口から放たれた言葉の方が、早く空気を振動させた。
「いや、そっちの方が良いかなって思ってさ。あんな、皆んなの見せ物みたいな形を教室で作っちゃったらさ、僕がどんな答えを言おうと嫌な盛り上がりを見せるじゃん。そんなの、僕は好きじゃないからさ。急に、移動しちゃって悪いとは、思ってるんだけど」
「やっぱり。気づいちゃいますよね・・・。それはそうですよ。急に話したことのない、こんな力士みたいな体格をした女子から告白されたら。何か裏があるんじゃないかって、皆んな疑いますよね」
「うん? 気づく? 疑い? 何を話してるの?」
聞き慣れぬ言葉に僕は思わず、驚いた表情を浮かべて聞き返す。だが、彼女の顔は至って真剣そのもの。決して、僕の聞き間違いだったというわけではなさそうであった。
「惚けてももう分かってますから。私が、無理矢理皆んなの笑い物になるように仕向けられたのが分かったんですよね。それなのに。コケにされたと分かっているのに。こんな誰の目にも届かないような場所に、私を連れ出してくれるなんて。あなたは、とても優しい人なんですね・・・」
途中から嗚咽を漏らしながら、訴えてくる彼女。気がつけば、目には光を反射するものも見てとれた。僕は、それを目の前でされても、ただ動揺するしかとれる方法がなかった。だって、こんな場面に遭遇したことなんて、今までになかったんだから!!
「あの・・・えっと・・・。良かったら、これでも使って・・・?」
ズボンに手を突っ込み、綺麗に畳まれたハンカチを彼女に差し出す。四葉のクローバーがプリントされた、少し小さいハンカチ。いつからこれを愛用しているのかは分からない。だが、物心ついた時にはこれを持っていた。特に捨てる理由もないし、ただポケットの中で鎮座してくれるので、今ではこれが入ってないと落ち着かなくなっているほどであった。
「まさか、こんなところで役に立つとはな・・」
溢れる声は、彼女の耳には届いていないことを祈る。無意識にでた言葉だが、振り返って考えてみれば、ハンカチを差し出すところまではすごくかっこよかったのではないか? 自画自賛だが。それが、先程の情けないセリフで一気に台無しになってしまったような気がする。
「うん? てか、ちょっとまってよ。さっきさ、告白をすることで、僕をコケにしようとした。みたいなこと言ってたよね?」
ハンカチに目を押し当て、下を向いてしまっている彼女は、僅かに頭を縦に揺らした。
「つまりさ、それって・・・。この告白が全部冗談だったってこと?」
「はい」
「そこは、下を向いたまま答えて欲しかったよ!!」
なぜか、そこを強調するように目からハンカチを外し、視線を僕を貫いてしっかりとした口調で言い放たれた。なぜ、そこを隠しながら言ってくれないのだろうか。僕の心にハンカチを押さえつけなければいけない状況だよ。心の涙が滝のように流れ落ちているから。
「私・・・もう少し身長が高い人がタイプなんです・・・」
「なんで追い討ちをかけるの!!??」
僕の盛大なツッコミは昼休みの喧騒の中でも、確かにかき消されることなく彼女の耳に届いたようだ。目に僅かにたまる雫が、笑顔と共にシワを寄せた弾みでほおに一線となり、そのまま地面に落ちていった。
彼女の言葉はしばしば僕のガラスの心を貫いてくるが、その都度の返しでかなり心は落ち着いたようだ。しばらく、似たような問答を繰り返していると、彼女の表情から悲しみの色は消え失せた。
「すいません。もう、だいぶ落ち着きましたんで。あなたも、これ以上声を荒げる必要はないですよ?」
「いや、僕だって好きで騒いでいたわけじゃ・・・」
そんな僕の声は、彼女の耳には届いていないようだ。なるほど、ここまで彼女と付き合ってきたから分かった。彼女は、自分の言いたいこと、聞きたいことを終えると、その後の集中力が散漫になるようだ。
「あの・・・これ・・」
「うん?」
「このハンカチなんですけど、後で洗濯して返します。必ず。次は、あなたにだけに会いにいくために、教室に行きます」
彼女は、両手で四葉のプリントを撫でながら、そう口走る。
「別に来たくなかったから教室に来なくていいよ。というか、聞きそびれていたけど、君に告白してこい、って命令した人は誰なの? 君の名前も僕はまだ知らないんだけど」
「それは、ごめんなさい。まだ、話してなかったかしら? 私の名前は、純華。佐藤純華。よろしくね。そして、このことは、あまり私の口から聞いたって言わないで欲しいんだけど・・みやびさん」
「佐藤さん。こちらこそよろしく。あー、なるほどね。後藤さんか・・・。こう言っちゃあ何だけど、彼女ならやりそうだ」
彼女は口元に手を当てて、その下で微笑みを浮かべる。それは、僕の目にはとても眩しく見えた。
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