「勇者のハラワタは美味いらしい」

呑竜

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「第一章:謎の援軍」

「アールの狙いは」

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 ~~~フルカワ・ヒロ~~~



 誇り高き騎士を堕とし己の意の向くままに働く隷騎士サーヴァントとするのは、いかに悪魔といえども至難の業なのだそうだ。
 そもそも倒すのが大変だし、倒してからも儀式を成功させるのがまた大変なのだそうだ。
 高レベルの騎士でなければ隷従させる意味が無いし、高レベルの騎士は抵抗レジストがそもそも高い。
 本人が同意してくれれば話は早いのだが、そんな状況にはなかなかならない。
 理由を聞くと、なるほどたしかにその通りだ。

 そこを上手く運ばせるためにアールが選んだのが鉄枷による拘束と、俺の血の静脈注射だった。
 中毒性のある媚薬みたいな効果のある俺の血はレインを狂わせ、屈服させた。そして……。

「なあ、今どんな気持ち?」

「……ねえ、それってひょっとして、煽りで言ってるの?」

 俺の前を走っていたレインが、こめかみをヒクつかせながら振り返った。
 
「いやあそういう意味じゃないんだけどさ。単純に疑問ってーか、実際そんな風にされたらどんな気分になるんだろうかという……」

「やっぱり煽りじゃないかっ!」

「いや、あれ? あれえー……?」

 質問の理由を上手く説明出来ないでいる俺の隣に、レインが足取りを緩めて並んだ。

「ちぇ、しょうがないから教えてあげるよ。簡単に言うなら常時王様の命令を聞いてるような感じだね。どんだけ本心では嫌っていても反抗出来ないし、命令されたら死んでも聞かなきゃならない、みたいな?」

「ああー……」

「キミを傷つけないように言われたし、一緒にくっついて協力するようにも言われた。ボクはだから、どうあれ従うしかないのさ。どんだけ失礼なことを言われようと殴ったりは出来ないし、どんだけ無謀なこととわかっていても、こうして一緒に逃げざるを得ない」 

 ちなみに俺たちは絶賛逃走中である。
 ゴルドーの東門を抜け、ぐるりと森の中を迂回して西門周辺の森で待っているアールと合流するために、走っている真っ最中である。
 文字通り走って逃げるのかよ馬とか使えよという話なのだが、厩は宿の1階にあり、迂闊に取りに戻って他の七星セプテムに見つかるのを恐れたのだ。

 俺が逃げたと悟られるのをなるべく遅くしたいという事情もある。
 俺とレインが馬に乗って出かけたと門番の口から漏れれば即座に逃亡を疑われるだろうが、徒歩ならまさか逃げたとは思われまいという意味で。

「やっぱ無謀……かな?」

「そりゃそうだろ。今こうして必死こいて走ってるのが証拠じゃないか」

 再び走る速度を速めたレインに置いて行かれまいと、俺は必死で追いすがった。
 七星は当然馬を使って追って来るだろうし、そうなればこの程度の小細工で稼ぎ出した時間なんて、すぐに詰められてしまうことだろう。

「それにね、どう頑張ったところで相手は七星だよ? そりゃあボクのことは不意打ちで仕留められたかもしれないけどさ、他のみんなはそんなわけにはいかないよ」

「んー……やっぱ難しい?」

 鉄壁てっぺきのベックリンガー。
 黒槍こくそうのジャカ。 
 神弓しんきゅうのシャルロット。
 縛鎖ばくさのパヴァリア。
 不死しなずのミト。
 皆殺みなごろしのカーラ。
 閃光のレインを加えた七人の武勇はゴルドーはもちろん遥か他国にまで知れ渡っている。
 ひとりひとりが一騎当千の英雄であり、普通に考えれば太刀打ちなんか出来るわけがない。

「上手い事逃げられりゃあいいんだけど……。その、速力では無理でもさ、隠れてやり過ごすとか……」

「わかるけど、でも今回のはさすがにそういうレベルの話じゃないだろ? 向こうはなんせ七星だ。地の利その他、いくらでも使えるコネがある。やろうと思えば山狩りだって出来るんだよ?」

 俺たちがああだこうだと話しながら走っていると……。

「──その通り」

 辺りに響くような朗々たる声で、誰かが言った。
 なんて、言うまでもなくそれはアールだった。
 西の森に入ってすぐのところで馬に跨《またがり》り、俺たちを待ち構えていた。
 傍らには馬がもう一頭。
 俺は馬を操れないから、レインと一緒に乗れということなのだろうが……。

「単純に逃げても無駄だ。隠れても、おそらく見つかる」

「じゃ、じゃあいったいどうすれば……」

 俺が暗澹あんたんたる気持ちになっていると……。

「言ったであろう? こちらから仕掛けると、先制攻撃でもって、猛る相手の出鼻をくじくのだ」

 驚愕する俺たちに向けて、アールは不敵に笑って見せた。
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