「勇者のハラワタは美味いらしい」

呑竜

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「第三章:殺し屋たちの宿」

「絶対痛くしないから」

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 ~~~フルカワ・ヒロ~~~



 俺があてがわれたのは、二階の一番奥の部屋だった。
 必要最低限の家具、バスタブにベッドと、内装はいたって普通なのだが、扉には鉄のびょうが打たれ、窓には頑丈な鎧戸よろいどがされている。

「襲撃者に備えるためか、必要に応じて内部の者を閉じ込めるためか……なんにしても絶妙に禍々まがまがしい部屋だなあ……」

 俺がしみじみとつぶやいていると……。

「いやあー、しっかし、驚いたよねえー?」

 部屋の隅に荷物を降ろしたレインが、体側たいそくで結ばれている紐をほどいて鎖帷子チェインメイルを脱ぎ出した。

「ベラさんとドナさんの来歴、覚悟もさ。全然普通じゃないんだもん。いや、そもそもが殺人鬼って時点でおかしいんだけどさ。にしても目的完了と同時に死ぬ覚悟ってのはすごいなあと……うん? なあに? 勇者様?」

「いやいやいや、なあにじゃないよレイン。ナチュラルに俺の部屋にいるのもおかしいが、まずもって最大級の違和感はそれ。なんでおまえはいきなり鎧を脱ぎ出してるわけ?」

「えー? だってそりゃあ、脱がないと休まらないじゃん」

「うんまあな、休息は大事だからな。そんだけ重いもん身に着けてたら休まるもんも休まらないもんな。それはそうなんだけど……」

 俺が言いよどんでいる間にレインはテキパキと鎧を脱ぐと、鎧下だけの身軽な格好になった。
 
「正確にはね、アールの指示なの。勇者様と一緒の部屋で休むようにって」

「アールの? ああ、護衛的な意味でか」

 それなら納得だとうなずく俺。
 ベッドはひとつしかないけど、まあ椅子があるしな。
 
 そうと決まれば、俺も革鎧を脱いで休むことにしよう。
 再生スキルのおかげで身体的疲労は無いんだけど、精神的疲労のほうはそこそこにある。
 ゴルドーからこっち、まったく気の休まる暇が無かったもんな。

「なあーんてね。まあそれもあるんだけど……。それだけでもないというか……。正直気が進まないんだけど、やむにやまれぬというか……」
 
 どうしたのだろう、レインはうつむきながら口をもにょらせている。
 鎧下の裾をいじって、もじもじしている。

「どうした? ああ、バスタブでも使いたいのか? たしかにけっこう濡れたもんなあー。女の子としては気持ち悪いわな。いいよ、先に入れよ。せっかくあのふたりが用意してくれたんだから」

 現代みたいに蛇口をひねればお湯がドバーッみたいなわけにはいかないのだ。
 ローチ姉妹の好意を無にしないためにも、冷まらないうちに使うべきだろう。
 
「あ、でも、アールに頼めば炎の魔法で追い炊きとか出来たりするのかな? あとで聞いてみるか……」

「誤解しないで欲しいんだけど」

「ってうおわっ!?」

 ふと気が付くと、レインがすぐ近くにまで接近していた。
 本気で息のかかるぐらいの至近距離にいるので、俺は慌てて身を遠ざけようとしたが……。

「あれ? なんで? え? どうして俺、捕まえられてるの?」

 レインが俺の両手首を握っている。
 気が付けば後ろは壁で、そもそもの体力差もある──これは逃げられない。 

「ま、まさかおまえ、俺を『つまみ食い』しようってんじゃ……」

 ゴルドーの恐怖が蘇る。

「違うよ、そうじゃないっ。いやまあ、本質的には似た行為なんだけど……っ」

「似た行為ってなんだよ、何するんだよ怖えええよっ」

 俺は声を震わせた。
 おかしい、こいつはアールとの契約で俺を傷つけるような行為は出来ないはずなのに……。

「違うからねっ? ホントにそうゆーんじゃないからっ」

 何かを否定しながら、レインは膝を俺の腿の間に差し込んだ。
 さらに距離感を縮めてきた。
 
「好きとかじゃないからっ。契約の時に飲まされた勇者様の血のせいだからっ。癖になるというかっ、無いと困ったことになるというかっ」

「へ? え? 血? 俺の?」

 そう言えばあの時、アールは言っていた。

 ──勇者の血には万病を快癒する力があるという。肉や臓腑がそうであるように、死ぬほど美味いという。多幸感があり中毒性があり、味わえば味わうほどにが欲しくなってしかたがなくなる。

「つまり麻薬的な効果があって……だから・ ・ ・ってことか?」

 状況を察した俺を、レインが責めるようににらみつけてきた。

「ボクは頑張ったもん。血の効果が抜けてしまえば正常・ ・になるからって。絶対なんて求めないようにしようって……なのに勇者様が……あんな……あんなことするから……っ」

「あ……っ」

 そうだ、俺はついさっき……。

 ──エッチでもスケベでも変態でも構わんわ! 今! 俺は! この感触が楽しめればそれでいい!

 レインが身動きとれないのをいいことに、後ろからあれやこれやとしてしまったのだ。

「あれからね? ボク……おかしいの。体に火が点いちゃったみたいなの。熱くて、ぐらぐらしてて……ねえ、勇者様?」

「ひゃいいいっ!? なななななんですかあああーっ!?」

 レインは俺の首筋に顔を埋めると、ぼそぼそと言った。

「絶対痛くしないから、ちょっ・ ・ ・とだけ ・ ・ ・……いいでしょ?」

 言うなり、チロリと舌を覗かせた。
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