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「第四章:勇者一人前」
「ヒロの1分」
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~~~フルカワ・ヒロ~~~
「『筋力増強』、『魔法抵抗付与』、『物理抵抗付与』」
支援魔法を張り直して戦闘準備を整えた俺は──
「『疾走』!!!!」
力ある言葉を発声、気合い一番踏み込んだ。
ジャカへ行くと見せかけて、斜め後方にいるパヴァリアへ。
しかし──さすがは七星というべきだろう、ふたりは即座に対応した。
「『三段突き』!」
ジャカが振り返りざま槍で三段突きを繰り出し──
「『直撃ち』!」
パヴァリアが俺を迎え撃つように鎖分銅を投じた。
「『曲走』!」
この動きを読み切っていた俺は、パヴァリアの後方へ、スピードスケートの選手のような高速で回り込んだ。
そして──
「『下段斬り』!」
パヴァリアの後ろ足を、防具で護り切れないだろう左のふくらはぎの裏を狙った。
小剣は上手く命中してくれたが、HPの推移は7200→7190と軽微だ。
「はいはい知ってまーす!」
精神的なショックみたいのは、まったくなかった。
レベルも劣る、筋力なんか目も当てられない俺如きの非力なアタックで、多少なりとも損害を与えられたことがむしろ奇跡だ。
「『三日月!』
鎖分銅を引き戻しながら、同時に鎌を振り回して攻撃してくるパヴァリア。
この攻撃を『跳躍』で跳んで躱した俺は──
「『下段斬り』!」
落下速度をこめた全力の下段攻撃で、パヴァリアの右の膝頭を斬りつけた。
HP推移は7190→7175とちょっと増えたけど、ほぼ誤差。
「知ってる知ってる! だけどさあ……だからどうしたよ!」
曲走で距離をとりながら、俺は笑った。
「こっちの体力に終わりは無いんだ! ダメージを食らったって即座に回復する! でもあんたらはそうはいかねえだろ! 亡霊騎士ったって、切れ落ちた肉や骨は繋がらねえだろう! だったら俺の方が有利だ!」
実際には、カーラ到着というゲームオーバーがある時点でこっちの不利。
だけど俺は、自らを鼓舞するようにそう言った。
「『流星群』!」
素早く近づいてきたジャカが、槍の射程に入るなり秒間10発連続突きという大技を繰り出してきた。
「ぬお……!?」
曲走の技後硬直が解けていなかった俺は、これを間一髪のところで避けた。
「勇者様気をつけて! いくらMPが回復するって言ったって、硬直の合間につけ込まれたら意味ないんだからね!」
しゃがみ込んだまま左肩の傷の回復を待っているレインが、心配そうに叫んだ。
「わかってるわかってる! だからあんまり目立つなよ!」
ジャカとパヴァリアのヘイトがレインに向かないよう、俺は大声で叫んだ。
そしてすぐに──
「『疾走』……からの『下段斬り』!」
ジャカの横をすり抜けるように疾走しながら、同時に小剣を閃かせた。
狙いはジャカの左膝。
HP推移は7800→7770と、こちらもほとんどダメージは無いが、それでいい。
ふたりのターゲットをこちらにもらいつつ、部位攻撃によって足を削る。
レインが復活した暁には、そこがきっとつけ目になる。
そこまでもっていければ俺の勝ちだ。
「ああーっはっはっは! 来い来い来おおおおーい! おまえらがお求めの勇者はここだぞおおおーっ!」
俺は叫ぶと、派手に動き回った。
ふたりの攻撃に身を晒しながら、ぎりぎりの回避を続けた。
もちろん一筋縄じゃあいかなかった。
七星の一角を担うふたり。
最強の最高の最速の一撃を、俺は死に物狂いで躱し続けた。
「っくおああああああああ──」
最初は読みで。
だけどそれは、すぐに通用しなくなった。
当たり前だ。
ふたりと違って俺は戦闘のプロじゃない。
ただ人より速くて、体力が無限ってだけ。
「──ああああああちょ!? ああああああーっ!?」
跳んだり転がったり、四つん這いになって移動したり──とにかく考えられる限りの、全力の機動を繰り返した。
恥ずかしいは無かった。
みっともないも無かった。
ただただ全力の、切羽詰まった感覚だけが俺の背中を押していた。
「あああああああくそっ! おっかねえええええええ! っつうかなんでおまえらそんなに強えええんだよ! いったい何食って! どんな生活してたらそんな風になれるんだよ! 生まれつきの恵体だってか!? 家族環境に恵まれてたってか!? さらに理想的なトレーニングを積んで!? おかげさまで王国の第一軍団の最精鋭に選ばれて!? おうおうおう! そいつは良かったなあ! うらやましいや!」
叫びながら──
「こちとら産まれてついての未熟児で! ほどなくして心臓を病んで! あげくの果てには実の親から見捨てられて! 精神的にも相当病んで! ようやく得た安住の地も、なんやかややっぱりそうじゃなくて! 違ってて! なんだよ勇者のハラワタは美味いらしいって! バカじゃねえの!? こっちにだって人権ってもんがあんだよ! そもそも自由なんだよ! 好きなように生きて! 好きなように死ねる権利があるんだよ!」
罵りながら──
「わかるかよ!? その権利ってのにはさあ! 自由ってのにはさあ! 好きなコのために生きる権利と、死ぬ自由もあるんだよ! それは永久不変で! 誰にも取り上げられないもんなんだよ! いやいやいや、今まさに俺が具体的に誰を好きとか、そうゆーのがあるわけじゃないぜ!? あるわけじゃないんだけど……でも! このコは死なせたくないなとか、俺はともかくとしてこのコには生き延びて欲しいなとか、そうゆー気持ちはあるんだよ! ふつふつ湧いてくるんだよ! 動かしがたいものなんだよ! だから……!」
理屈を超えた思いを口にしながら──
「だからさあ! 俺は絶対おまえらには屈しないんだ! 屈してやらないんだ! おまえらみたいな連中の思い通りには、絶対ならないんだ! おまえらがどれだけ手ぐすね引いていようと! 万全の計略を敷いていようと! 圧倒的な技を繰り出そうと! すべて! 残らず! 鼻先ですり抜けてやる! 絶対! 絶対! 絶対生き延びてやる! そして……! そして……!」
──とにかく俺は、必死で生き残ろうとあがいてた。
「うおああああああああああ──」
叫んだ。
持てる限りの全力を、つま先から頭の頂きまでの全てを。
血を、体液を、肉体そのものを燃焼するように。
吼えるように叫んだ。
「──あああああああああああああああああーっ!」
「『筋力増強』、『魔法抵抗付与』、『物理抵抗付与』」
支援魔法を張り直して戦闘準備を整えた俺は──
「『疾走』!!!!」
力ある言葉を発声、気合い一番踏み込んだ。
ジャカへ行くと見せかけて、斜め後方にいるパヴァリアへ。
しかし──さすがは七星というべきだろう、ふたりは即座に対応した。
「『三段突き』!」
ジャカが振り返りざま槍で三段突きを繰り出し──
「『直撃ち』!」
パヴァリアが俺を迎え撃つように鎖分銅を投じた。
「『曲走』!」
この動きを読み切っていた俺は、パヴァリアの後方へ、スピードスケートの選手のような高速で回り込んだ。
そして──
「『下段斬り』!」
パヴァリアの後ろ足を、防具で護り切れないだろう左のふくらはぎの裏を狙った。
小剣は上手く命中してくれたが、HPの推移は7200→7190と軽微だ。
「はいはい知ってまーす!」
精神的なショックみたいのは、まったくなかった。
レベルも劣る、筋力なんか目も当てられない俺如きの非力なアタックで、多少なりとも損害を与えられたことがむしろ奇跡だ。
「『三日月!』
鎖分銅を引き戻しながら、同時に鎌を振り回して攻撃してくるパヴァリア。
この攻撃を『跳躍』で跳んで躱した俺は──
「『下段斬り』!」
落下速度をこめた全力の下段攻撃で、パヴァリアの右の膝頭を斬りつけた。
HP推移は7190→7175とちょっと増えたけど、ほぼ誤差。
「知ってる知ってる! だけどさあ……だからどうしたよ!」
曲走で距離をとりながら、俺は笑った。
「こっちの体力に終わりは無いんだ! ダメージを食らったって即座に回復する! でもあんたらはそうはいかねえだろ! 亡霊騎士ったって、切れ落ちた肉や骨は繋がらねえだろう! だったら俺の方が有利だ!」
実際には、カーラ到着というゲームオーバーがある時点でこっちの不利。
だけど俺は、自らを鼓舞するようにそう言った。
「『流星群』!」
素早く近づいてきたジャカが、槍の射程に入るなり秒間10発連続突きという大技を繰り出してきた。
「ぬお……!?」
曲走の技後硬直が解けていなかった俺は、これを間一髪のところで避けた。
「勇者様気をつけて! いくらMPが回復するって言ったって、硬直の合間につけ込まれたら意味ないんだからね!」
しゃがみ込んだまま左肩の傷の回復を待っているレインが、心配そうに叫んだ。
「わかってるわかってる! だからあんまり目立つなよ!」
ジャカとパヴァリアのヘイトがレインに向かないよう、俺は大声で叫んだ。
そしてすぐに──
「『疾走』……からの『下段斬り』!」
ジャカの横をすり抜けるように疾走しながら、同時に小剣を閃かせた。
狙いはジャカの左膝。
HP推移は7800→7770と、こちらもほとんどダメージは無いが、それでいい。
ふたりのターゲットをこちらにもらいつつ、部位攻撃によって足を削る。
レインが復活した暁には、そこがきっとつけ目になる。
そこまでもっていければ俺の勝ちだ。
「ああーっはっはっは! 来い来い来おおおおーい! おまえらがお求めの勇者はここだぞおおおーっ!」
俺は叫ぶと、派手に動き回った。
ふたりの攻撃に身を晒しながら、ぎりぎりの回避を続けた。
もちろん一筋縄じゃあいかなかった。
七星の一角を担うふたり。
最強の最高の最速の一撃を、俺は死に物狂いで躱し続けた。
「っくおああああああああ──」
最初は読みで。
だけどそれは、すぐに通用しなくなった。
当たり前だ。
ふたりと違って俺は戦闘のプロじゃない。
ただ人より速くて、体力が無限ってだけ。
「──ああああああちょ!? ああああああーっ!?」
跳んだり転がったり、四つん這いになって移動したり──とにかく考えられる限りの、全力の機動を繰り返した。
恥ずかしいは無かった。
みっともないも無かった。
ただただ全力の、切羽詰まった感覚だけが俺の背中を押していた。
「あああああああくそっ! おっかねえええええええ! っつうかなんでおまえらそんなに強えええんだよ! いったい何食って! どんな生活してたらそんな風になれるんだよ! 生まれつきの恵体だってか!? 家族環境に恵まれてたってか!? さらに理想的なトレーニングを積んで!? おかげさまで王国の第一軍団の最精鋭に選ばれて!? おうおうおう! そいつは良かったなあ! うらやましいや!」
叫びながら──
「こちとら産まれてついての未熟児で! ほどなくして心臓を病んで! あげくの果てには実の親から見捨てられて! 精神的にも相当病んで! ようやく得た安住の地も、なんやかややっぱりそうじゃなくて! 違ってて! なんだよ勇者のハラワタは美味いらしいって! バカじゃねえの!? こっちにだって人権ってもんがあんだよ! そもそも自由なんだよ! 好きなように生きて! 好きなように死ねる権利があるんだよ!」
罵りながら──
「わかるかよ!? その権利ってのにはさあ! 自由ってのにはさあ! 好きなコのために生きる権利と、死ぬ自由もあるんだよ! それは永久不変で! 誰にも取り上げられないもんなんだよ! いやいやいや、今まさに俺が具体的に誰を好きとか、そうゆーのがあるわけじゃないぜ!? あるわけじゃないんだけど……でも! このコは死なせたくないなとか、俺はともかくとしてこのコには生き延びて欲しいなとか、そうゆー気持ちはあるんだよ! ふつふつ湧いてくるんだよ! 動かしがたいものなんだよ! だから……!」
理屈を超えた思いを口にしながら──
「だからさあ! 俺は絶対おまえらには屈しないんだ! 屈してやらないんだ! おまえらみたいな連中の思い通りには、絶対ならないんだ! おまえらがどれだけ手ぐすね引いていようと! 万全の計略を敷いていようと! 圧倒的な技を繰り出そうと! すべて! 残らず! 鼻先ですり抜けてやる! 絶対! 絶対! 絶対生き延びてやる! そして……! そして……!」
──とにかく俺は、必死で生き残ろうとあがいてた。
「うおああああああああああ──」
叫んだ。
持てる限りの全力を、つま先から頭の頂きまでの全てを。
血を、体液を、肉体そのものを燃焼するように。
吼えるように叫んだ。
「──あああああああああああああああああーっ!」
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