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君とレモン味の酎ハイ
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コンビニで飲み物とつまみを買って、家まで歩いた。歩きながらほろ酔いだった頭が冴えてきて、アッシュは後悔した。
話たいのは事実だったが、アッシュは口下手で、今まで会話して何かが良い方に好転した経験がなかった。
高校の時、友達と喧嘩した時もそうだった。アッシュは学校外でバンドを組んでいて、練習やバイトで忙しかった。最初はクラスでも友人がそこそこいたが、他のクラスメイトが深い関係になるにつれてアッシュとは距離ができていった。
それでも根気強く誘ってくれる友人もいた。アッシュも予定が空いていたら誘いに乗っていたから、ただ予定が空いていないのだと理解してくれる、その年頃にしては大人な性格の友人だった。今日は空いてないんだよな、と言ってクラスメイトとの仲をうまく取り持ってくれていた。
バンドの活動が忙しくなると、たまの誘いも断るようになった。バンドをしていることは学校ではノーだけが知っている。ずっと誘ってくれていた友人は何かあったのかと心配して話しかけてきた。
素直に学外での活動が忙しいと言えばよかったのだと思う。もしくは、言えないにしても、ありがとうと感謝を述べていればよかったのかもしれない。
アッシュは「興味がない」と答えた。「そんなことをしている暇がない」とも言った。
その時はバンドの活動について学校の誰かに知られたくないという気持ちでいっぱいだった。
そうでなくとも、学校でアッシュは目立っている。表立って騒がれることはなかったが、クラスの雰囲気やアッシュの無愛想さを度外視したところで人気があった。有り体に言えば、顔とスタイルがいいからモテていた。その上、バンド活動をしているなんて広まった日には、顔に釣られてやってきた分別のない女子に学外の時間まで荒らされることになる。
バンドより興味がないのも、忙しくて暇がないのも事実だった。でも、言い方が悪かった。それだけではアッシュの気持ちが友人に伝わるわけがなかった。
友人はアッシュは人間関係に興味がないのだと思った。クラスメイトとうまくやる気がないのだと。それからめっきり遊びに誘われなくなった。
クラスでは斜に構えたいけすかないやつだという認識になって、アッシュと話す人はいなくなった。
隣で歩いているナインの顔をうかがい見る。
ナインは眉を顰めて歩いていた。
アッシュはナインに対するさっきの大人気ない態度を思い出して、あの時から何も変わっていない自分を呪った。
家に着いて、二人は大した会話もなく隣り合って酒を飲んでいた。ナインは酒は弱くないはずと言っていたが、黙ってノンアルコールの缶を渡した。
文化祭、ナインはアッシュを遠く感じたと言った。それはアッシュの演奏が悪かったわけでも、ナインの興味が薄れたわけでもないらしい。汗をかいているアッシュを見て、何があったというのか。アッシュの想像の及ばないことがあったのだろうか。
このままでは埒が開かない。アッシュは1缶開けたところで思い切って話しかけた。
「ナイン、俺の何かが悪いわけじゃないなら、どうして態度が変わったんだ」
ナインは帰り道ずっと顰めていた眉をさらに寄せた。アッシュの飲み終わった缶をじっと見ている。
「わからないんです、俺も」
「さっきからずっと言ってるけど、なんでわからないんだ。言いたくない……言えないだけなんじゃないのか」
「違います」
「何が違うって言うんだ」
それきりまたナインは黙り込んだ。
アッシュは手持ち無沙汰で、9%の缶を開けて飲んだ。何かしていないと気が紛れない。ただ、店でも多めに飲んでいたからか、缶酎ハイにしては強いアルコールに頭がぼうっとしてきた。
「お前が俺を見ている目が好きだったんだ。キラキラして、強い力をもった眼が」
アッシュはあの眼がもう一度見たくて、ナインの横顔をじっと見た。
「こっち見ろよ」
ナインの眼がアッシュを捉える。華やかな顔に合う、大きくて切れ長な瞳がアッシュを映していた。
それが綺麗で、アッシュは眼が離せなかった。
「先輩」
顔をそらそうとするナインを両手で捕まえて、自分を映してるガラス玉をしげしげと眺めた。
「先輩!」
アッシュの手が振り解かれる。
ナインは顔を紅潮させてアッシュに叫んだ。
「先輩がそんなだからですよ!」
グッと手を掴まれて、マットレスに押し付けられる。荒々しい様子とは裏腹に、ナインは恐る恐るアッシュの胸に手のひらを置いた。手のひらを押し付けるように、ぎこちなくアッシュの胸の形に沿うように。
「こうして、触りたくなってしまうんです」
見つめあったまま近付いてくる瞳にアッシュは見惚れていた。
ほぼゼロ距離でナインが目を瞑った。
唇にしっとりとした温かな感触があった。押し付けられて、ナインの呼気が、その湿ったむにっとするあわいからアッシュの口内に流れ込んだ。
アッシュはぼうっとした意識の中、ただありのままを受け入れていた。
ナインの唇はむっちりとして、ほの温かかった。さっき飲んだレモン酎ハイの味がする。
ナインはかすかに触れるぐらい離れて、また唇を押し付けた。何度も、味わうように。
そのうち、アッシュの開けた口の隙間から、舌を割り入れた。ナインに歯列をゆっくりなぞられて、底から背筋を武者震いが駆け上がった。
二人の口からあつい吐息が漏れた。
話たいのは事実だったが、アッシュは口下手で、今まで会話して何かが良い方に好転した経験がなかった。
高校の時、友達と喧嘩した時もそうだった。アッシュは学校外でバンドを組んでいて、練習やバイトで忙しかった。最初はクラスでも友人がそこそこいたが、他のクラスメイトが深い関係になるにつれてアッシュとは距離ができていった。
それでも根気強く誘ってくれる友人もいた。アッシュも予定が空いていたら誘いに乗っていたから、ただ予定が空いていないのだと理解してくれる、その年頃にしては大人な性格の友人だった。今日は空いてないんだよな、と言ってクラスメイトとの仲をうまく取り持ってくれていた。
バンドの活動が忙しくなると、たまの誘いも断るようになった。バンドをしていることは学校ではノーだけが知っている。ずっと誘ってくれていた友人は何かあったのかと心配して話しかけてきた。
素直に学外での活動が忙しいと言えばよかったのだと思う。もしくは、言えないにしても、ありがとうと感謝を述べていればよかったのかもしれない。
アッシュは「興味がない」と答えた。「そんなことをしている暇がない」とも言った。
その時はバンドの活動について学校の誰かに知られたくないという気持ちでいっぱいだった。
そうでなくとも、学校でアッシュは目立っている。表立って騒がれることはなかったが、クラスの雰囲気やアッシュの無愛想さを度外視したところで人気があった。有り体に言えば、顔とスタイルがいいからモテていた。その上、バンド活動をしているなんて広まった日には、顔に釣られてやってきた分別のない女子に学外の時間まで荒らされることになる。
バンドより興味がないのも、忙しくて暇がないのも事実だった。でも、言い方が悪かった。それだけではアッシュの気持ちが友人に伝わるわけがなかった。
友人はアッシュは人間関係に興味がないのだと思った。クラスメイトとうまくやる気がないのだと。それからめっきり遊びに誘われなくなった。
クラスでは斜に構えたいけすかないやつだという認識になって、アッシュと話す人はいなくなった。
隣で歩いているナインの顔をうかがい見る。
ナインは眉を顰めて歩いていた。
アッシュはナインに対するさっきの大人気ない態度を思い出して、あの時から何も変わっていない自分を呪った。
家に着いて、二人は大した会話もなく隣り合って酒を飲んでいた。ナインは酒は弱くないはずと言っていたが、黙ってノンアルコールの缶を渡した。
文化祭、ナインはアッシュを遠く感じたと言った。それはアッシュの演奏が悪かったわけでも、ナインの興味が薄れたわけでもないらしい。汗をかいているアッシュを見て、何があったというのか。アッシュの想像の及ばないことがあったのだろうか。
このままでは埒が開かない。アッシュは1缶開けたところで思い切って話しかけた。
「ナイン、俺の何かが悪いわけじゃないなら、どうして態度が変わったんだ」
ナインは帰り道ずっと顰めていた眉をさらに寄せた。アッシュの飲み終わった缶をじっと見ている。
「わからないんです、俺も」
「さっきからずっと言ってるけど、なんでわからないんだ。言いたくない……言えないだけなんじゃないのか」
「違います」
「何が違うって言うんだ」
それきりまたナインは黙り込んだ。
アッシュは手持ち無沙汰で、9%の缶を開けて飲んだ。何かしていないと気が紛れない。ただ、店でも多めに飲んでいたからか、缶酎ハイにしては強いアルコールに頭がぼうっとしてきた。
「お前が俺を見ている目が好きだったんだ。キラキラして、強い力をもった眼が」
アッシュはあの眼がもう一度見たくて、ナインの横顔をじっと見た。
「こっち見ろよ」
ナインの眼がアッシュを捉える。華やかな顔に合う、大きくて切れ長な瞳がアッシュを映していた。
それが綺麗で、アッシュは眼が離せなかった。
「先輩」
顔をそらそうとするナインを両手で捕まえて、自分を映してるガラス玉をしげしげと眺めた。
「先輩!」
アッシュの手が振り解かれる。
ナインは顔を紅潮させてアッシュに叫んだ。
「先輩がそんなだからですよ!」
グッと手を掴まれて、マットレスに押し付けられる。荒々しい様子とは裏腹に、ナインは恐る恐るアッシュの胸に手のひらを置いた。手のひらを押し付けるように、ぎこちなくアッシュの胸の形に沿うように。
「こうして、触りたくなってしまうんです」
見つめあったまま近付いてくる瞳にアッシュは見惚れていた。
ほぼゼロ距離でナインが目を瞑った。
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アッシュはぼうっとした意識の中、ただありのままを受け入れていた。
ナインの唇はむっちりとして、ほの温かかった。さっき飲んだレモン酎ハイの味がする。
ナインはかすかに触れるぐらい離れて、また唇を押し付けた。何度も、味わうように。
そのうち、アッシュの開けた口の隙間から、舌を割り入れた。ナインに歯列をゆっくりなぞられて、底から背筋を武者震いが駆け上がった。
二人の口からあつい吐息が漏れた。
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