無愛想な君

凛明麗羅

文字の大きさ
7 / 8

君とレモン味の酎ハイ

しおりを挟む
 コンビニで飲み物とつまみを買って、家まで歩いた。歩きながらほろ酔いだった頭が冴えてきて、アッシュは後悔した。
 話たいのは事実だったが、アッシュは口下手で、今まで会話して何かが良い方に好転した経験がなかった。
 高校の時、友達と喧嘩した時もそうだった。アッシュは学校外でバンドを組んでいて、練習やバイトで忙しかった。最初はクラスでも友人がそこそこいたが、他のクラスメイトが深い関係になるにつれてアッシュとは距離ができていった。
 それでも根気強く誘ってくれる友人もいた。アッシュも予定が空いていたら誘いに乗っていたから、ただ予定が空いていないのだと理解してくれる、その年頃にしては大人な性格の友人だった。今日は空いてないんだよな、と言ってクラスメイトとの仲をうまく取り持ってくれていた。
 バンドの活動が忙しくなると、たまの誘いも断るようになった。バンドをしていることは学校ではノーだけが知っている。ずっと誘ってくれていた友人は何かあったのかと心配して話しかけてきた。
 素直に学外での活動が忙しいと言えばよかったのだと思う。もしくは、言えないにしても、ありがとうと感謝を述べていればよかったのかもしれない。
 アッシュは「興味がない」と答えた。「そんなことをしている暇がない」とも言った。
 その時はバンドの活動について学校の誰かに知られたくないという気持ちでいっぱいだった。
 そうでなくとも、学校でアッシュは目立っている。表立って騒がれることはなかったが、クラスの雰囲気やアッシュの無愛想さを度外視したところで人気があった。有り体に言えば、顔とスタイルがいいからモテていた。その上、バンド活動をしているなんて広まった日には、顔に釣られてやってきた分別のない女子に学外の時間まで荒らされることになる。
 バンドより興味がないのも、忙しくて暇がないのも事実だった。でも、言い方が悪かった。それだけではアッシュの気持ちが友人に伝わるわけがなかった。
 友人はアッシュは人間関係に興味がないのだと思った。クラスメイトとうまくやる気がないのだと。それからめっきり遊びに誘われなくなった。
 クラスでは斜に構えたいけすかないやつだという認識になって、アッシュと話す人はいなくなった。
 隣で歩いているナインの顔をうかがい見る。
 ナインは眉を顰めて歩いていた。
 アッシュはナインに対するさっきの大人気ない態度を思い出して、あの時から何も変わっていない自分を呪った。




 家に着いて、二人は大した会話もなく隣り合って酒を飲んでいた。ナインは酒は弱くないはずと言っていたが、黙ってノンアルコールの缶を渡した。
 文化祭、ナインはアッシュを遠く感じたと言った。それはアッシュの演奏が悪かったわけでも、ナインの興味が薄れたわけでもないらしい。汗をかいているアッシュを見て、何があったというのか。アッシュの想像の及ばないことがあったのだろうか。
 このままでは埒が開かない。アッシュは1缶開けたところで思い切って話しかけた。

「ナイン、俺の何かが悪いわけじゃないなら、どうして態度が変わったんだ」

 ナインは帰り道ずっと顰めていた眉をさらに寄せた。アッシュの飲み終わった缶をじっと見ている。

「わからないんです、俺も」
「さっきからずっと言ってるけど、なんでわからないんだ。言いたくない……言えないだけなんじゃないのか」
「違います」
「何が違うって言うんだ」

 それきりまたナインは黙り込んだ。
 アッシュは手持ち無沙汰で、9%の缶を開けて飲んだ。何かしていないと気が紛れない。ただ、店でも多めに飲んでいたからか、缶酎ハイにしては強いアルコールに頭がぼうっとしてきた。

「お前が俺を見ている目が好きだったんだ。キラキラして、強い力をもった眼が」

 アッシュはあの眼がもう一度見たくて、ナインの横顔をじっと見た。

「こっち見ろよ」

 ナインの眼がアッシュを捉える。華やかな顔に合う、大きくて切れ長な瞳がアッシュを映していた。
 それが綺麗で、アッシュは眼が離せなかった。

「先輩」

 顔をそらそうとするナインを両手で捕まえて、自分を映してるガラス玉をしげしげと眺めた。

「先輩!」

 アッシュの手が振り解かれる。
 ナインは顔を紅潮させてアッシュに叫んだ。

「先輩がそんなだからですよ!」

 グッと手を掴まれて、マットレスに押し付けられる。荒々しい様子とは裏腹に、ナインは恐る恐るアッシュの胸に手のひらを置いた。手のひらを押し付けるように、ぎこちなくアッシュの胸の形に沿うように。

「こうして、触りたくなってしまうんです」

 見つめあったまま近付いてくる瞳にアッシュは見惚れていた。
 ほぼゼロ距離でナインが目を瞑った。
 唇にしっとりとした温かな感触があった。押し付けられて、ナインの呼気が、その湿ったむにっとするあわいからアッシュの口内に流れ込んだ。
 アッシュはぼうっとした意識の中、ただありのままを受け入れていた。
 ナインの唇はむっちりとして、ほの温かかった。さっき飲んだレモン酎ハイの味がする。
 ナインはかすかに触れるぐらい離れて、また唇を押し付けた。何度も、味わうように。
 そのうち、アッシュの開けた口の隙間から、舌を割り入れた。ナインに歯列をゆっくりなぞられて、底から背筋を武者震いが駆け上がった。
 二人の口からあつい吐息が漏れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

処理中です...