無愛想な君

凛明麗羅

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君のあたたかな

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 アッシュはなすがまま、ナインを止めなかった。酔っていたのもあるが、合わさった唇が柔らかくて拒むのを躊躇わせた。ただ気持ちよくて、目を閉じてナインの愛撫を享受する。
 だんだんあやしくなる手つきにも、安心して身を任せていた。
 シャツの裾から大きな手が滑り込んで、ゆっくり形を確かめるように肌をなぞられる。

「先輩、なに溶けてるんですか」

 主人に撫でられて蕩けた猫のように、アッシュはマットレスに沈み込んでいた。ナインはそう言いつつ、ゆっくり手を動かし続けている。

「ふ、んぅ……」

 ドロドロに溶けた意識の中で、アッシュは己を撫でる手に体を押し付けた。覆い被さっている体に手を伸ばして、引き寄せる。
 胸板と腹、下腹部、太ももまでぴたりと合わさって、鼓動を感じた。ナインの頭を抱えて、首筋に顔を埋める。ナインの柔らかな髪がぬるい香りを醸して、鼻腔いっぱいにその空気を吸い込んだ。
 その熱と圧迫に確かな安心を感じる。

「ナイン……ぅ」

 ナインの耳元でささやいた。足りなかったものがここにある気がする。

「ぐ……っ」

 ナインは切羽詰まった声を上げた。アッシュはくっついた内腿に膨らみを感じる。ちょっとしたいたずら心で、抱きついたままゆっくり太ももを揺らして膨らみをさすった。
 布越しにもぴくぴくしている。
 腕を緩めてナインの顔を見る。眉を限りなく寄せて、苦しそうにしている。
 ーーもしかして、文化祭の後の違和感はこの顔だった?

「っく、悪い子、なんですね。そんなことしたら襲っちゃいますよ」
「襲いたかったのか?」

 悪い気がしない。これまで男とシたことも、男と付き合ったことすらないが、こうして抱き合って勃起した性器を布越しに触っても、楽しいだけで気持ち悪くはなかった。

「俺のこと、憧れてるわけじゃなかったんだ。……遊んでやろうか?」
「……そんな簡単に襲えたら苦労しませんよ」

 ちゅ、とキスが降ってきた。ちゅ、ちゅ、時間をかけて顔のあらゆるところにキスされる。鼻の出っ張ったところ、頬は生え際もしっかり、目尻は凹凸に吸い付くように、髪をかき分けて額。
 最後に唇に長めに口付けて、ナインは離れていった。
 手、と言われて差し出された手を握ったら、上体を引き起こされた。そのまま床にずり落ちて、マットレスにもたれかかる。ナインも隣に座った。

「そういうことなんです」

 膝を立てて座ったナインの股間は盛り上がったままだ。細身なパンツの中でさぞ窮屈だろう。

「どういうこと?」

 ナインは困った顔でくすくす笑った。

「先輩って思ったより意地悪ですね」

 ナインは項垂れながら口を開いた。

「俺もわからなくて、困っているんです。文化祭の日汗をかいて先輩のTシャツが透けてて、その胸に触りたくてしかたなかった。なんでかは自分でもわからず、その後会うたびに思い出して困っていました。今日、お酒を飲んでいつもより緩い先輩に、気付いたらキスしてしまって、俺こういうことがしたかったんだって。先輩に触りたくて、近付きたくて。でも最初からそうだったわけじゃないんです」

 肩口にもたれかかってくるナインの体温が暑くて、アッシュはその不快感さえも嬉しかった。
 さっきまでのあやしい空気も悪くなかった。
 ーーー俺って男もイケたのか。

「襲わないのか?」

 アッシュの問いに、ナインは顔を顰めた。

「なんでそんなこと言うんですか? さっきからなんでそんな……」

 ナインは心の中にあるわだかまりを上手く口にできず、もごもごしていた。
 アッシュはそんなナインになにも言わなかった。ナインになら今襲われたっていい、と思えた。他の誰かだったら違っただろう。そもそも、自分ごとだと思えないかもしれない。それか気持ち悪くて吐き気がするかも。
 一眠りして酔いが覚めたら、仰天するかもしれない。今この一瞬、後も先も考えない気持ち良さに身を任せてしまいたかった。

「遊びじゃ、嫌です。他にどんな彼女か彼氏かいるのか知りませんが、俺を選んでください」
「いいよ」

 顔をぐっと近付けながら、空気と共に口から言葉がこぼれ落ちた。
 そのまま焦点が合わなくなって、目を瞑った。しっとりと口が塞がれる。このままさっきの続きをするのかとアッシュは考えたが、一呼吸、息がかかる前にナインは離れていった。

「なんですかその顔」

 クスクスとナインが笑う。よっぽど物欲しそうな顔だったんだろう。
 さらりと頬を撫でられて、アッシュもつられて笑った。

「朝起きて、もう一回聞きます。アッシュ」
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