11 / 12
入院一ヶ月目
⒋ 易刺激性との闘い
しおりを挟む
入院して2週間ほどが経ったある日、看護師が両手にお花を抱えて病室にやって来た。
「お友達からお見舞いが届いたんだけど……」
お花の他にも、イラストが趣味の私のためにぬり絵や色鉛筆、お手紙などたくさん贈ってくれたようで、その一つ一つに自分の趣向を汲み取ってくれたことが垣間見られて愛を感じた。
「ただね、雨季さん、」
私の担当看護師がとても申し訳なさそうな顔で言い淀んでいた。
「病院では生花の受け取りができなくて……」
私も知らなかったのだが、最近では衛生面から病院は生花の受け取りができなくなっているらしい。
残念だが、親に引き取りに来てもらうことにして、自宅での写真撮影と水やりを徹底的にしていただくよう念押しした。
もう1つの問題はちゃんと私にも分かっていた。
「筆記具ですよね……」
「そうなの……まだ雨季さんは筆記用具の自己管理が許可されていないから、ステーションで預かりになっちゃうんだ、本当にごめんね」
自己管理をさせてはいけないと思われるような行為をした自分に責任があるのだから、何も文句は言えない。
寧ろ、大切な友人に貰ったものに対して、宜しくない使い方をしてしまう危険があるうちは看護師さんたちに預かってもらえる方が嬉しかった。
「でも塗り絵は本類だから渡せるよ! あとお手紙も!」
お手紙はもちろん嬉しかった。ぬり絵も嬉しい。
でも塗れないぬり絵をどうしろと言うんだ、とちょっと思ってしまった。
看護師が病室を出てから手紙を読み、ぬり絵を開いて「どんな風に塗ろうかなあグヘヘ」と妄想したもののその虚しさに気づいてしまっておもむろに閉じ、結局テーブルの上に飾ることにした。
また、幸いにも『作業療法』といって、それこそぬり絵や折り紙などの作業をして気分転換や趣味の時間を過ごす治療があったので、毎日いただいたぬり絵を持参して『マイぬり絵女』として楽しむことができた。
筆記用具の自己管理が許可されてからは、あの色鉛筆を使って。
この頃になると、毎日ホールに本を読みにくる私の顔は “入院の先輩方” にも覚えられていて、挨拶したり話しかけたりしてくれる患者さんが増えてきた。
ちょうど同時期に同世代の女性患者が多く入院していて、よく4~5人で固まって『女子トーク』をしていた。
その中で、病棟で過ごす上でどうしても解決したい急務の課題を発見した。
看護師の顔と名前が一致しない。
彼らは常にマスクを着用しているため、余計に覚えづらいのだ。
それに、日によってメガネだったりコンタクトだったりと非常に紛らわしいやつもいる。
そこで、彼女たちと遊び半分で看護師にあだ名を付けまくった。
どんな風にあだ名を付けていたのかは、別の話に載せる。
我ながら愛のこもった実に素晴らしいネーミングセンスだったと思う。
この時期の私の病状としては、『易刺激性《いしげきせい》』という、精神障害で併発することが多く些細な刺激に対して過敏になる症状に悩まされるようになっていた。
元々苦手だった大きな音への恐怖感に拍車がかかり、感受性の高さから周りのマイナスな感情(怒り、気分の落ち込み、悲しみ、助けを求めている、など)を敏感に感じ取るため、怒鳴り声や泣き喚く声が天敵になり、酷い時には働いていた辛い時期のことがフラッシュバックして泣き出し動けなくなることもあった。
ある夜、ホールで仲のいい女子3人で話していると、急に患者の中年女性にブチギレられた。
「あなたたちこの病院の対応に満足してる!?」
3人の中で最年長だった私は正義感から対応役に進み出て、
「はい、してますよ?」
と無難に治ってくれと願いながら答えた。すると、
「産まれてくる自分の子供にも目を合わせてそう言えるの!?」
まるで意味が分からなかった。
こちとら彼ピもおりませんけど。
その女性は説教のように怒鳴り続け、「責任者呼びなさいよ!」と言ってきたのをこれ幸いと私が看護師に助けを求めに行った。
看護師に宥められて尚も叫び続けており、よくよく聞いてみると
「この子たちがかわいそうだよ!」
と、我々は怒られているのかと思いきや、憐れまれていたらしい。
謎すぎる濡れ衣事件だった。
とりあえず各々の病室に戻ることにして、私は個室に戻って独り泣いた。
ほかの2人を守らなければという思いで必死に耐えていたが、ヒステリックな声を聞いているだけで限界だったのだ。
その女性は翌朝も何やら叫んでいて、さすがに昨晩のような気力もなく病室にこもることにした。
この易刺激性とは退院するまで闘っていた。
というか今でも、突然の大きな音や周りのイライラ、怒鳴り声にはかなりの苦手意識があり、いつフラッシュバックしたり動けなくなったりするか分からない綱渡りのような感覚で過ごしている。
「お友達からお見舞いが届いたんだけど……」
お花の他にも、イラストが趣味の私のためにぬり絵や色鉛筆、お手紙などたくさん贈ってくれたようで、その一つ一つに自分の趣向を汲み取ってくれたことが垣間見られて愛を感じた。
「ただね、雨季さん、」
私の担当看護師がとても申し訳なさそうな顔で言い淀んでいた。
「病院では生花の受け取りができなくて……」
私も知らなかったのだが、最近では衛生面から病院は生花の受け取りができなくなっているらしい。
残念だが、親に引き取りに来てもらうことにして、自宅での写真撮影と水やりを徹底的にしていただくよう念押しした。
もう1つの問題はちゃんと私にも分かっていた。
「筆記具ですよね……」
「そうなの……まだ雨季さんは筆記用具の自己管理が許可されていないから、ステーションで預かりになっちゃうんだ、本当にごめんね」
自己管理をさせてはいけないと思われるような行為をした自分に責任があるのだから、何も文句は言えない。
寧ろ、大切な友人に貰ったものに対して、宜しくない使い方をしてしまう危険があるうちは看護師さんたちに預かってもらえる方が嬉しかった。
「でも塗り絵は本類だから渡せるよ! あとお手紙も!」
お手紙はもちろん嬉しかった。ぬり絵も嬉しい。
でも塗れないぬり絵をどうしろと言うんだ、とちょっと思ってしまった。
看護師が病室を出てから手紙を読み、ぬり絵を開いて「どんな風に塗ろうかなあグヘヘ」と妄想したもののその虚しさに気づいてしまっておもむろに閉じ、結局テーブルの上に飾ることにした。
また、幸いにも『作業療法』といって、それこそぬり絵や折り紙などの作業をして気分転換や趣味の時間を過ごす治療があったので、毎日いただいたぬり絵を持参して『マイぬり絵女』として楽しむことができた。
筆記用具の自己管理が許可されてからは、あの色鉛筆を使って。
この頃になると、毎日ホールに本を読みにくる私の顔は “入院の先輩方” にも覚えられていて、挨拶したり話しかけたりしてくれる患者さんが増えてきた。
ちょうど同時期に同世代の女性患者が多く入院していて、よく4~5人で固まって『女子トーク』をしていた。
その中で、病棟で過ごす上でどうしても解決したい急務の課題を発見した。
看護師の顔と名前が一致しない。
彼らは常にマスクを着用しているため、余計に覚えづらいのだ。
それに、日によってメガネだったりコンタクトだったりと非常に紛らわしいやつもいる。
そこで、彼女たちと遊び半分で看護師にあだ名を付けまくった。
どんな風にあだ名を付けていたのかは、別の話に載せる。
我ながら愛のこもった実に素晴らしいネーミングセンスだったと思う。
この時期の私の病状としては、『易刺激性《いしげきせい》』という、精神障害で併発することが多く些細な刺激に対して過敏になる症状に悩まされるようになっていた。
元々苦手だった大きな音への恐怖感に拍車がかかり、感受性の高さから周りのマイナスな感情(怒り、気分の落ち込み、悲しみ、助けを求めている、など)を敏感に感じ取るため、怒鳴り声や泣き喚く声が天敵になり、酷い時には働いていた辛い時期のことがフラッシュバックして泣き出し動けなくなることもあった。
ある夜、ホールで仲のいい女子3人で話していると、急に患者の中年女性にブチギレられた。
「あなたたちこの病院の対応に満足してる!?」
3人の中で最年長だった私は正義感から対応役に進み出て、
「はい、してますよ?」
と無難に治ってくれと願いながら答えた。すると、
「産まれてくる自分の子供にも目を合わせてそう言えるの!?」
まるで意味が分からなかった。
こちとら彼ピもおりませんけど。
その女性は説教のように怒鳴り続け、「責任者呼びなさいよ!」と言ってきたのをこれ幸いと私が看護師に助けを求めに行った。
看護師に宥められて尚も叫び続けており、よくよく聞いてみると
「この子たちがかわいそうだよ!」
と、我々は怒られているのかと思いきや、憐れまれていたらしい。
謎すぎる濡れ衣事件だった。
とりあえず各々の病室に戻ることにして、私は個室に戻って独り泣いた。
ほかの2人を守らなければという思いで必死に耐えていたが、ヒステリックな声を聞いているだけで限界だったのだ。
その女性は翌朝も何やら叫んでいて、さすがに昨晩のような気力もなく病室にこもることにした。
この易刺激性とは退院するまで闘っていた。
というか今でも、突然の大きな音や周りのイライラ、怒鳴り声にはかなりの苦手意識があり、いつフラッシュバックしたり動けなくなったりするか分からない綱渡りのような感覚で過ごしている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる