32 / 68
番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』
第3話 もうひとりのまほうつかいとゆうしゃのしるし計画[1]
しおりを挟む
放課後の図書室は、昼間よりもさらに静かだった。
窓の外には、傾きはじめた夕陽のオレンジ色がにじみ、木々の影がゆっくりと伸びていた。
結城ほのかは、読みかけの詩集を閉じ、そっと息をついた。
その向かいには、相澤ひよりが同じように本を抱えて座っている。
「……ひより」
「うん?」
「もし、わたしがいなくなったら……なつみは、どうなると思う?」
ぽつりと、ほのかが言った。
ひよりは返事をためらった。
言葉ではなく、その場の空気が一瞬で変わったことだけが、ふたりの間に流れていた。
「……やだよ、そんなこと言わないでよ」
ひよりの声はかすかに震えていた。
ひよりは視線を落とし、小さく唇をかんだ。
目の奥がじんと熱くなる。すぐに泣きそうになる自分をなだめるように、そっと指先を組み替える。
「ごめん。……でも、考えておきたいの」
(本当は、こんな話をするのも怖い。話した途端に、現実になってしまいそうで。
でも――黙っている方が、もっと怖い。
なつみが知らないうちに、私が突然“いなくなる”未来だけは、残したくない。)
ほのかは、机の上に手を重ねた。
少し冷たい木の感触が、逆に気持ちを落ち着かせる。
「病気は……すこしずつ進んでる。お医者さんは、『急変のリスクもあるから』って言ってた」
「……」
「だから、ちゃんと準備したい。“なつみが前に進めるように”って思えるように、なにか残したい」
ほのかの目は、どこか遠くを見ていた。
まっすぐだけど、寂しさをたたえた横顔を、ひよりはそっと見つめるしかなかった。
「“しるし”を残したいの」
「しるし……?」
「うん。宝探しみたいに、なつみが“たどっていける”ような……地図と、“しるし”」
ひよりの目が少し見開かれる。
「それって……なつみちゃんが、“ゆうしゃごっこ”で遊んでるって言ってた、あれ?」
「そう。あの子ね、毎日“たからもの”を探しててさ。自分で地図を描いて、棒切れで“魔法の剣”って叫んで……かわいいんだけど、すごく真剣なの」
ほのかの声に、ふっと笑みが混じる。
「だったら、その“遊び”が、ほんとうの“たからもの”につながったら素敵だなって思ったの」
(あの子の世界は、まだ遊びの中にある。でも、その遊びの延長線に、“ほんとうに大切なこと”が隠れてるって気づいたのなら、わたしが、その地図の先にある“しるし”になれたら――)
「……」
「だから、“ゆうしゃのしるし”を、5つ。なつみのために、残したい」
ひよりは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
それは悲しみではなく―――
ほのかの優しさが、真っすぐで、とても静かだったからだ。
「……わたし、手伝う」
ひよりはしっかり頷いた。
「最後まで付き合うから。なつみちゃんが、その“しるし”を見つけるまで」
「ありがとう、ひより……」
ほのかは、かすかに潤んだ目で笑った。
窓の外には、傾きはじめた夕陽のオレンジ色がにじみ、木々の影がゆっくりと伸びていた。
結城ほのかは、読みかけの詩集を閉じ、そっと息をついた。
その向かいには、相澤ひよりが同じように本を抱えて座っている。
「……ひより」
「うん?」
「もし、わたしがいなくなったら……なつみは、どうなると思う?」
ぽつりと、ほのかが言った。
ひよりは返事をためらった。
言葉ではなく、その場の空気が一瞬で変わったことだけが、ふたりの間に流れていた。
「……やだよ、そんなこと言わないでよ」
ひよりの声はかすかに震えていた。
ひよりは視線を落とし、小さく唇をかんだ。
目の奥がじんと熱くなる。すぐに泣きそうになる自分をなだめるように、そっと指先を組み替える。
「ごめん。……でも、考えておきたいの」
(本当は、こんな話をするのも怖い。話した途端に、現実になってしまいそうで。
でも――黙っている方が、もっと怖い。
なつみが知らないうちに、私が突然“いなくなる”未来だけは、残したくない。)
ほのかは、机の上に手を重ねた。
少し冷たい木の感触が、逆に気持ちを落ち着かせる。
「病気は……すこしずつ進んでる。お医者さんは、『急変のリスクもあるから』って言ってた」
「……」
「だから、ちゃんと準備したい。“なつみが前に進めるように”って思えるように、なにか残したい」
ほのかの目は、どこか遠くを見ていた。
まっすぐだけど、寂しさをたたえた横顔を、ひよりはそっと見つめるしかなかった。
「“しるし”を残したいの」
「しるし……?」
「うん。宝探しみたいに、なつみが“たどっていける”ような……地図と、“しるし”」
ひよりの目が少し見開かれる。
「それって……なつみちゃんが、“ゆうしゃごっこ”で遊んでるって言ってた、あれ?」
「そう。あの子ね、毎日“たからもの”を探しててさ。自分で地図を描いて、棒切れで“魔法の剣”って叫んで……かわいいんだけど、すごく真剣なの」
ほのかの声に、ふっと笑みが混じる。
「だったら、その“遊び”が、ほんとうの“たからもの”につながったら素敵だなって思ったの」
(あの子の世界は、まだ遊びの中にある。でも、その遊びの延長線に、“ほんとうに大切なこと”が隠れてるって気づいたのなら、わたしが、その地図の先にある“しるし”になれたら――)
「……」
「だから、“ゆうしゃのしるし”を、5つ。なつみのために、残したい」
ひよりは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
それは悲しみではなく―――
ほのかの優しさが、真っすぐで、とても静かだったからだ。
「……わたし、手伝う」
ひよりはしっかり頷いた。
「最後まで付き合うから。なつみちゃんが、その“しるし”を見つけるまで」
「ありがとう、ひより……」
ほのかは、かすかに潤んだ目で笑った。
0
あなたにおすすめの小説
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました
来栖とむ
ファンタジー
「私の目標は、十七歳での完全リタイア。――それ以外はすべて『ノイズ』ですわ」
ブラックIT企業のネットワークエンジニア兼、ガチ投資家だった前世を持つ公爵令嬢リゼット。 彼女が転生したのは、十七歳の誕生日に「断罪」が待ち受ける乙女ゲームの世界だった。
「婚約破棄? 結構です。むしろ退職金(慰謝料)をいただけます?」
死を回避し、優雅な不労所得生活(FIRE)を手に入れるため、リゼットは前世の知識をフル稼働させる。
魔法を「論理回路」としてハックし、物理法則をデバッグ。
投資理論で王国の経済を掌握し、政治的リスクを徹底的にヘッジ。
……はずだったのに。 面倒を避けるために効率化した魔法は「神業」と称えられ、 資産を守るために回避した戦争は「救国の奇跡」と呼ばれ、 気づけば「沈黙の賢者」として全国民から崇拝されるハメに!?
さらには、攻略対象の王子からは「重すぎる信仰」を向けられ、 ライバルのはずのヒロインは「狂信的な弟子」へとジョブチェンジ。
世界という名のバックエンドをデバッグした結果、リゼットは「世界の管理者(創造主代行)」として、永遠のメンテナンス業務に強制就職(王妃確定)させられそうになっていて――!?
「勘弁して。私の有給休暇(隠居生活)はどこにあるのよ!!」
投資家令嬢リゼットによる、勘違いと爆速の隠居(できない)生活、ここに開幕!
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ソツのない彼氏とスキのない彼女
吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。
どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。
だけど…何故か気になってしまう。
気がつくと、彼女の姿を目で追っている。
***
社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。
爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。
そして、華やかな噂。
あまり得意なタイプではない。
どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
Bravissima!
葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと
俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター
過去を乗り越え 互いに寄り添い
いつしか最高のパートナーとなる
『Bravissima!俺の女神』
゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜
過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。
互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。
✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧
木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生
如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター
高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長
完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る
雪城 冴
キャラ文芸
1/23本編完結‼️第9回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
【中華サスペンス】
皇帝が隠した禁忌の秘密。
それを“思い出してはいけない少女”がいた――
【あらすじ】
特殊な眼を持つ少女・翠蓮(スイレン)は、不吉を呼ぶとして忌み嫌われ、育ての父を村人に殺されてしまう。
居場所を失った彼女は、宮廷直属の音楽団の選抜試験を受けることに。
しかし、早速差別の洗礼を受けてしまう。
そんな翠蓮を助けたのは、危険な香りをまとう皇子と、天女のように美しいもう一人の皇子だった。
それをきっかけに翠蓮は皇位争いに巻き込まれ、選抜試験も敵の妨害を受けてしまう。
彼女は無事合格できるのか。
◆二章◆
仲間と出会い、心を新たにするも次なる試練が待ち受ける。
それは、ライバル歌姫との二重唱と、メンバーからの嫌がらせだった。
なんとか迎えた本番。翠蓮は招かれた地方貴族から、忌み嫌われる眼の秘密に触れる。
◆三章◆
翠蓮の歌声と真心が貴妃の目にとまる。しかし後宮で"寵愛を受けている"と噂になり、皇后に目をつけられた。
皇后の息子から揺さぶりをかけられ、もう一人の皇子とは距離が急接近。
しかし、後宮特有の嫌がらせの中で翠蓮は、自分の存在が皇子に迷惑をかけていると知る。
わずかに芽生えていた恋心とも尊敬とも付かない気持ちは、押さえつけるしかなかった。
◆最終章◆
後宮で命を狙われ、生死をさまよう翠蓮は、忘れていた記憶を取り戻す。
かつて王家が封じた“力”とは?
翠蓮の正体とは?
身分違いの恋の行方は?
声を隠すか歌うのか。
運命に選ばれた少女が、最後に下す決断とは――
※架空の中華風ファンタジーです
※アルファポリス様で先行公開しており、書き溜まったらなろう、カクヨム様に移しています
※表紙絵はAI生成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる