ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』

第20話 さよならの向こうにあるもの[4]

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やがて春休みのある朝がやってきた。
この日だけは、なつみは目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
窓の外はまだ少しだけ冬の気配を残しているけれど、カーテンの隙間から差し込む光はもう春そのものだった。
新しい春色のワンピースを着て、白いカーディガンを羽織り、首元にはそらたからもらったペンダント。
鏡の前で身だしなみを整えるとき、ドキドキする気持ちが胸をふくらませた。

(今日、そらたにちゃんと“ありがとう”を伝えなきゃ)

ポケットに、お母さんと一緒に選んだ水色のハンカチが一枚。
でも、それは新品ではなかった。
この一週間、夜な夜な少しずつチクチクと針を動かして、小さなクローバーの刺しゅうと「そらた」の名前を隅に縫い付けた、なつみの手作りだった。

(“まほうつかいのしるし”、これでいいかな……)

まだ少しだけ不安が残るけれど、気持ちを込めたからきっと伝わる。
そう信じて、なつみは家を出た。

早朝の町は静かだった。
そらたの家までの道を歩きながら、ふいに色々なことが思い出されてくる。
初めて一緒に図書館に行った日のこと、
夏休みに汗だくになって冒険をした日、
体育祭で一緒に転んで泥だらけになったこと、
そして卒業式の帰り道に公園のベンチで話したこと――
全部が胸の奥でやさしく光っていた。

そらたの家の前に着くと、引っ越しトラックが停まっているのが見えた。
大きなダンボール箱や家具が家の前に積まれ、そらたの家族が忙しそうに動き回っている。
そらたは家の前でリュックサックを背負って立っていた。
紺色のパーカーと新しいデニムパンツ、スニーカーも今日のためにきれいに磨いてある。
そらたも、どこか緊張したような面持ちで、でもなつみの姿に気づくとぱっと明るく笑った。

「そらた!」

なつみが駆け寄ると、そらたははにかんだように「なつみ……来てくれてありがとう」と言った。
彼の声は少しだけ震えていた。

「当たり前でしょ!」
なつみは思わず声を張り上げた。
「最後に“ゆうしゃ”と“まほうつかい”で“しるし”探しできて、私、すごくうれしかった」

そらたは照れくさそうに笑いながら、
「ぼくも、なつみの“勇者”でいられて、幸せだったよ」と言ってくれた。

なつみは一瞬だけ黙り込み、そしてポケットの中のハンカチをぎゅっと握った。
(いましかない――)

「ねえ、そらた」
なつみは小さく呼びかけ、ポケットからハンカチを取り出した。
そらたの目の前で広げてみせる。
水色の布に、四つ葉のクローバーと「SORATA」の名前、
その隅には小さな星のワンポイントもついていた。

「これ……なに?」
そらたが少し驚いたように尋ねる。

「“まほうつかいのしるし”だよ」
なつみははにかみながら、
「そらたは、これから新しい場所に行くんだよね。
だから……いつでも勇気がなくなったり、不安になったりしたとき、このハンカチを握っててほしい。
私の“しるし”だから」
そう言ってそっと手渡す。

そらたはじっとそのハンカチを見つめ、ゆっくりと手のひらで包み込んだ。
「……すごい。なつみ、こんなの作れたんだ」
「一生懸命、練習したんだよ。そらたに渡したかったから」
「ありがとう。大事にする」

ふたりの間に、少しだけ静かな風が吹き抜ける。
家の玄関では、そらたのお母さんが「もうすぐ出発するよ」と声をかけている。

「また会えるよね?」
なつみはまっすぐそらたの目を見て言った。
声は少しだけ震えていた。

「もちろん!」
そらたは力強くうなずく。
「次に会うときまで、ペンダントも、この“しるし”も絶対なくさない」

「うん、私も――ずっと宝物にする」

ふたりは自然と手を取り合い、小さく「バイバイ」と手を振った。
手のひらの感触が、しっかりと心に刻まれた。

引っ越しトラックが動き出す直前、そらたはリュックサックのポケットにハンカチを大事そうにしまい込み、何度も振り返ってなつみに手を振った。
なつみも何度も大きく手を振り返す。

桜の花びらがふたりの間を舞い、
あたたかな春の光が、これからの未来をやさしく包んでいた。

そらたの姿がだんだん遠くなっていく。
それでもなつみの胸の中は不思議と穏やかだった。

(さよならじゃない。――またきっと、どこかで会える)
(そらたの“しるし”も、私の“しるし”も、ちゃんとつながってる)

なつみはペンダントを指先でそっとなぞり、もう一度前を向いた。
新しい春、新しい冒険、新しい約束。
全部がこれからの自分を強くしてくれる気がした。

ランドセルの中には卒業式でもらった色紙や友だちからの手紙、
そして、なにより大切な“しるし”たち。
未来はまだ見えないけれど、なつみは少しも不安じゃなかった。

――歩き出すたび、春の光がなつみの背中をそっと押してくれていた。
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