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第1章 統一戦争
2話
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私が目を覚ました時、目の前には一人の女性がいた。
いや、正確に言えば抱きかかえられていた。
その女性は母であり、生まれた家庭といえば当時はまだ珍しくない軍人一家であった。
当初、生まれてくる子供を軍人にするつもりだった両親だが、私の姿とその能力を見るとその考えをすぐさま翻した。
私は転生者であるため、他のどの子どもと比べても優秀であった。
幼年学校時にはすでに高等学校で習うほどの数学を難なく解いてみせた。
将来は学者に、と二人は考えていたが、当の本人はそうではなかった。
(この国には明るい未来などない、あるのは暗黒のみだ)
そう断じると、数年をかけて自らの良く知る世界と、ここが同一であるのかを検証した。
結果、良く知る世界であるが、僅かな差異がある程度だと言う事が解った。
国名が違う程度の違いで、自らの知識を存分に生かせることを確認した私は親に軍人になりたいと伝えた。
1931年の冬のことであった――
翌年の春、無事に試験に合格し陸軍軍学校に入学することとなった。
校名はラトビア陸軍士官学校。
近年独立したばかりのラトビアでは唯一の陸軍学校であり、その生徒数も厖大であった。
学校は三年制で構成される。
第一学年は本科と呼ばれる座学を中心とした授業を主に行い、適正を一年間かけてゆっくりと測る。
第二学年では、それぞれが適性審査書と照らし合わせつつ自らの兵科を選択する。
第三学年の上半期まで座学は続き、10月になると登山訓練や実地訓練と呼ばれる実際の部隊に配属され訓練を行う。
第一学年を難なく突破した私は騎兵科で異例のS評価を受け、他の科目でも総じて平均点より上の評価を得た。
無理もない、今後の世界で行われるであろう戦争を全て個人の趣味として調べ上げていた私にとってこの転生は容易なものであった。
騎兵科を志願しようとしたが、機甲科が新設されると聞きそれを選択した。
機甲科は学校の端に独自の寮と共に建設されていた。
機甲科には5両の戦車と10名の生徒。
加えて、戦車先進国へ留学していた教官に補助員を加えた計20名で行われた。
同期に女子は一人しかおらず、彼女とは寮の部屋も訓練車も同じだった。
「リューイ・ルーカスだよね?」
突然話しかけてきたのはそのただ一人の同性である少女だった。
髪は金色で、活発な印象を受ける。目も大きくて淡い青色の瞳も綺麗だ。
私とは違い、女性らしさも豊富な体系をしている。
「はい、よろしくお願いします」
礼儀正しくそう返すと、少女は目を丸くした。
「え? なんでそんなに距離感あるの?」
どうしてといわれても、と呆れた。
名前すら知らないのに親しくできる眼前の少女が異常なのだろうか。
それとも私が異常なのだろうかと、すこし困惑した。
「私は貴方の名前すら知らないのですが」
むしろ何故むこうが知っているのかと。
もしや騎兵科でS評価を受けたことで有名となったのだろうかと勘ぐったが、そもそも兵科評価は公開されない。
「あっ……そうか。ごほん、私の名前はリマイナ・ルイ。よろしくね」
リマイナは手を差し出す。
私も小さく微笑むと固く握手を結んだ。
これが十数年の付き合いになるとは全く思っていなかった。
「まだ、リューイは私のこと知らないんだもんね」
「ちょっとリューイ痛い!」
肩を蹴られて悲鳴を上げるリマイナだが、気にせずに数度蹴る。
といっても彼女の声はエンジン音にかき消されほとんど届いていない。
私たちが駆る戦車はルノーFT。
フランスが開発した旧式ではあるが時代を変えた高性能戦車で乗員は戦車長と操縦手の二名。
現在は私が戦車長を務めている。
「ファイア!」
そう叫ぶと主砲の引き金を引いた。
山なりの弾道を描きながら飛んでいった戦車砲は標的のすぐ脇をかすめ、後方の地面に当たり爆発した。
「初弾至近弾ってすごすぎない?」
驚いたようにリマイナがいってくるが無視して砲弾を装填する。
先程の弾道を加味しつつ照準し、引き金を引くと今度は的の中央を貫く。
着弾を確認するとすぐさまリマイナを蹴った。
彼女は心得たとばかりに戦車を前進させる。
前方に向けていた砲塔を今度は左に向け、キューポラから身を乗り出して標的を探す。
すると木と木の間に的があることを確認。
すぐさま砲塔の中に戻り、微調整を行う。
このまま、砲塔の床を踏んで音を出せば戦車は止まるのだが、そんなことを戦場でする暇はないと判断。
「ちょっとリューイ!?」
流石のリマイナもおかしいと気が付き抗議の声を上げようとするが、この場では私が上官だ。
この訓練で自らの実力を教官に見せつけると決めていた。
その為に行進間射撃と言うものを実施すると決断した私は標的よりもさらに後方に照準を合わせた。
そして――
「ファイア!」
リューイが叫んだ。
凄まじい爆音とともに放たれた鉄の砲弾は真直ぐ突き進み、標的の中央を射抜いた。
「うそ……」
リマイナは操縦することを忘れ、ハッチから身を乗り出して標的だったものを見た。
その姿を見て私は声を荒げた。
「リマイナ学生、まだ戦闘中だ。操縦席に戻りたまえ」
リマイナは慌てて操縦席に戻ると再度戦車を走らせた。
(普段のリューイとは別物、なんなの。目の前の少女は……)
彼女の不安をよそに、次々に標的を打ち砕いていった。
訓練行程を終え、教官の元に戻るとすでに各砲撃地点で観測を行っていた補助員が教官へ報告を行っていた。
続々と同期の学生たちが戻ってきて、教官から評価を下される。
評価を聞いたものから戦車の整備に戻り、それが終わると夕食となる。
のだが、最初に戻ってきたはずの私とリマイナへの評価が最後まで下されなかった。
「リューイ学生、あれは何かね?」
全員へ評価を伝えた後、教官が口を開いた。
禿げあがった頭皮が印象的なその教官の表情は怒りに満ちていた。
「ハッ! 行進間射撃であります」
リューイは教官の形相を無視して毅然と答えた。
教官は眉をひそめ、追及した。
「私は何と言ったか」
間髪を入れずに堂々と答える。
何も間違ったことはしていない。
「『標的をぶち壊せ』と命令されました」
私の回答に教官はわざとらしく頷く。
「そうだ。だれが、行進間射撃をしろといったかね?」
教官の問いにリマイナは震えていた。
一つのことをコツコツ積み上げるのが彼の教育方針であると最初に言われていたのだ。
リューイがやったことはそれに反する行為であった。
それにこの教官は大尉であるが現場の叩き上げでここまでのし上がった人間だった。
彼の与える威圧感は言葉に尽くせない。
「しかし『行進間射撃をするな』とも言われておりませんでした」
リューイは一切動じることなくこう答えた。
(なんでこうも……)
リマイナは内心呆れていた。
いや、敬服していた。
彼女の足は震え、今すぐにでも逃げたいと言っているのにリューイはどうだろうか。
一切臆することなく教官と向かい合っている。
「……解った。今回は不問としよう、だが次、このような危険な行為をするな。貴様らは俺の子供みてぇなもんなんだ」
諦めたようにため息を吐く教官はリューイの頭を乱雑に撫でた。
非常に迷惑そうにするリューイだが、教官はお構いなく撫でる。
「それと」と言い、リマイナの方を向く教官。
「リマイナ学生、貴様は幾分かまともな人間らしい。こいつのブレーキ役になれ」
といい、その場を去っていった。
「リューイ、怒られなくてよかったね!」
寝室に戻ると抑揚のある明るい声でリマイナは早速こう切り出した。
私たちはいつもこのようにして寝室で所謂反省会や感想などを言い合っている。
言い合っていると言うと語弊があるだろうか?
まぁ剣呑な雰囲気ではなく、極めて和やかな雰囲気だ。
「そうね、でも頭を撫でられたのは癪かしら」
私は自らの髪をすきながらこのように言った。
彼女の内部情報である精神は男の物なのだが、
(まぁ、12年も生きれば女にも近づくよな)
と、このように男として生きていた時間と同じほどの時間を生きてくれば正常な女性の心に使づいていくものだ。
私はベッドに腰掛けると寝転んだ。
歩兵科などと違い、機甲科は基本的に規則が少し緩い。
座学は平常通り行われるが、実地での訓練については不定期だ。
歩兵課などは夜間非常呼集訓練もあるが、この戦車課は燃料不足から夜間訓練などめったにない。
「リューイの髪って本当にきれいだよね」
リマイナもベッドに腰かけて笑う。
何が楽しいのか分からないが、足を交互に揺らしている。
「ん? まぁ。美容には気を付けているから……」
前世では苦労したものだ。
イケメンは正義、可愛いは正義。
そんな単純で残酷な現代日本で生きていたのだから美容に気を付けるのも無理はない。
折角銀色の長い髪と美しい白い肌を貰ったのだ、雑に扱うのは申し訳ない。
「ねぇ、リマイナ。今度の夏季休暇一緒に旅行しない?」
不意にそんなことを尋ねた。
リマイナは目を丸くしていたが、すぐに溢れんばかりの笑みを浮かべた。
「いく! 何処に行くの?」
質問と返答の順序が逆ではないかとも呆れたが、そんな野暮なことを口に出すほどコミュニケーション障害ではない。
「ドイツよ」
将来世界を揺るがす大戦を起こすこの大国は今どうなっているのか。
どの程度史実と違うのか。
それを確かめる必要があった。
「わぁ……」
ワルシャワという隣国ポーランドの首都を一度通り、そのままドイツ領に進入し、首都ベルリンに向かう列車に私たちは乗っていた。
時は1932年、7月。
総統が就任するのまであと、6カ月。
そんなこと知る由もなく、汽車は進んでいく。
リマイナはボックス席の向かいに座って車窓を眺めている。
「ポーランドの農業地帯はきれいだなぁ……」
彼女は線路の脇に広がる穀物の畑などを見て目を輝かせている。
(なにがそんなに面白いのだろうか)
リューイは呆れながらも風景を堪能していた。
確かに広がる大地は壮大であり、浪漫を感じさせる。
この大地を騎兵が駆け回っていたことを考えると胸がワクワクしてくる。
「ふぁぁ……眠いわね」
しかし、汽車旅は実に退屈なのだ。
国境を超えたときに検査官が来る程度でそれ以外は非常にゆったりとした旅だ。
「それにしてもリューイ、こんな客室取れるなんてすごいね!」
リマイナは興奮気味にこう言ってくる。
いま私たちがいるのはこの列車の中でも数室しかない個室だ。
頼もうと思えばワインや昼食を頼むこともできるが、年齢的な問題や時間的関係で今回頼むことはなさそうだ。
「そんなに高くなかったわよ」
実際、ある方法を使えばそれほど高くなくこの部屋に乗ることが出来る。
「どうやったと思う?」と言わんばかりにリマイナを見つめた。
リマイナもそれに気が付き、しばし考えたがしまいには分からないと言った風に首を振った。
「ドイツ陸軍の見学に行くって言ってきたわ」
見学というとあれかもしれないが要は研修と言ってきた。
陸軍的にも、軍学校的にも進んだ軍事技術を持つドイツの陸軍を参考にしたいという思いがあるのだろう。
願い出てから翌日には返答が帰って来た。
「え? でもそれって……」
リマイナは何かに気が付いたのか少し暗い声音で何かを言いかける。
少し先回りしてその答えを返す。
「そうね、報告書くらいは提出しないといけないかしら」
すると見るからにリマイナは落胆した。
どうやら本気で観光を楽しむつもりだったらしい。
「別に私だけ視察に行ってリマイナは別行動でもいいのよ?」
教官に一人同行させてもいいかとは聞いたが、誰を同行させるかなどは言っていないし、報告書の提出を求められることもないだろう。
「大丈夫! 何日かは遊べるんでしょ? それに私も気になるから一緒に行く!」
満面の笑みでリマイナは答えた。
彼女としてはリューイと共に旅をするのが目的であったので、何をしようとあまり関係はなかった。
リマイナの言葉に少し感動した。
少なくとも転生する前には親友と呼べる者はいなかった。
友人はいたかもしれないが、学校生活上だけの話で休日共に出かけたりするなどと言う行為はまずしたことが無かった。
「あ、そうそう。一人の客人がもうそろそろ来るはずよ」
感動を押し隠す様にこういった。
すると列車は止まり、数人の足音が聞えて来た。
「ついたみたいね」
外を見ればワルシャワの都市が広がっていた。
農作地と都市が隣接しているこの都市は一度ゆっくり観光してみたいものだ。
「え? え?」
リマイナは困惑する。
すると数度扉がノックされる。
「『ライヒの戦列は』」
扉の奥からは即座に返答が帰って来た。
「『ウラルまで続く』」
「どうぞ」と優しい声で扉の奥に伝える。
ゆっくりと扉が開かれ一人の男性が姿を現した。
「はじめましてね。総統?」
そこにいたのは後の世に大きく爪跡を残すことになるちょび髭がトレードマークの――
――アドルフ・ヒトラーその人であった。
いや、正確に言えば抱きかかえられていた。
その女性は母であり、生まれた家庭といえば当時はまだ珍しくない軍人一家であった。
当初、生まれてくる子供を軍人にするつもりだった両親だが、私の姿とその能力を見るとその考えをすぐさま翻した。
私は転生者であるため、他のどの子どもと比べても優秀であった。
幼年学校時にはすでに高等学校で習うほどの数学を難なく解いてみせた。
将来は学者に、と二人は考えていたが、当の本人はそうではなかった。
(この国には明るい未来などない、あるのは暗黒のみだ)
そう断じると、数年をかけて自らの良く知る世界と、ここが同一であるのかを検証した。
結果、良く知る世界であるが、僅かな差異がある程度だと言う事が解った。
国名が違う程度の違いで、自らの知識を存分に生かせることを確認した私は親に軍人になりたいと伝えた。
1931年の冬のことであった――
翌年の春、無事に試験に合格し陸軍軍学校に入学することとなった。
校名はラトビア陸軍士官学校。
近年独立したばかりのラトビアでは唯一の陸軍学校であり、その生徒数も厖大であった。
学校は三年制で構成される。
第一学年は本科と呼ばれる座学を中心とした授業を主に行い、適正を一年間かけてゆっくりと測る。
第二学年では、それぞれが適性審査書と照らし合わせつつ自らの兵科を選択する。
第三学年の上半期まで座学は続き、10月になると登山訓練や実地訓練と呼ばれる実際の部隊に配属され訓練を行う。
第一学年を難なく突破した私は騎兵科で異例のS評価を受け、他の科目でも総じて平均点より上の評価を得た。
無理もない、今後の世界で行われるであろう戦争を全て個人の趣味として調べ上げていた私にとってこの転生は容易なものであった。
騎兵科を志願しようとしたが、機甲科が新設されると聞きそれを選択した。
機甲科は学校の端に独自の寮と共に建設されていた。
機甲科には5両の戦車と10名の生徒。
加えて、戦車先進国へ留学していた教官に補助員を加えた計20名で行われた。
同期に女子は一人しかおらず、彼女とは寮の部屋も訓練車も同じだった。
「リューイ・ルーカスだよね?」
突然話しかけてきたのはそのただ一人の同性である少女だった。
髪は金色で、活発な印象を受ける。目も大きくて淡い青色の瞳も綺麗だ。
私とは違い、女性らしさも豊富な体系をしている。
「はい、よろしくお願いします」
礼儀正しくそう返すと、少女は目を丸くした。
「え? なんでそんなに距離感あるの?」
どうしてといわれても、と呆れた。
名前すら知らないのに親しくできる眼前の少女が異常なのだろうか。
それとも私が異常なのだろうかと、すこし困惑した。
「私は貴方の名前すら知らないのですが」
むしろ何故むこうが知っているのかと。
もしや騎兵科でS評価を受けたことで有名となったのだろうかと勘ぐったが、そもそも兵科評価は公開されない。
「あっ……そうか。ごほん、私の名前はリマイナ・ルイ。よろしくね」
リマイナは手を差し出す。
私も小さく微笑むと固く握手を結んだ。
これが十数年の付き合いになるとは全く思っていなかった。
「まだ、リューイは私のこと知らないんだもんね」
「ちょっとリューイ痛い!」
肩を蹴られて悲鳴を上げるリマイナだが、気にせずに数度蹴る。
といっても彼女の声はエンジン音にかき消されほとんど届いていない。
私たちが駆る戦車はルノーFT。
フランスが開発した旧式ではあるが時代を変えた高性能戦車で乗員は戦車長と操縦手の二名。
現在は私が戦車長を務めている。
「ファイア!」
そう叫ぶと主砲の引き金を引いた。
山なりの弾道を描きながら飛んでいった戦車砲は標的のすぐ脇をかすめ、後方の地面に当たり爆発した。
「初弾至近弾ってすごすぎない?」
驚いたようにリマイナがいってくるが無視して砲弾を装填する。
先程の弾道を加味しつつ照準し、引き金を引くと今度は的の中央を貫く。
着弾を確認するとすぐさまリマイナを蹴った。
彼女は心得たとばかりに戦車を前進させる。
前方に向けていた砲塔を今度は左に向け、キューポラから身を乗り出して標的を探す。
すると木と木の間に的があることを確認。
すぐさま砲塔の中に戻り、微調整を行う。
このまま、砲塔の床を踏んで音を出せば戦車は止まるのだが、そんなことを戦場でする暇はないと判断。
「ちょっとリューイ!?」
流石のリマイナもおかしいと気が付き抗議の声を上げようとするが、この場では私が上官だ。
この訓練で自らの実力を教官に見せつけると決めていた。
その為に行進間射撃と言うものを実施すると決断した私は標的よりもさらに後方に照準を合わせた。
そして――
「ファイア!」
リューイが叫んだ。
凄まじい爆音とともに放たれた鉄の砲弾は真直ぐ突き進み、標的の中央を射抜いた。
「うそ……」
リマイナは操縦することを忘れ、ハッチから身を乗り出して標的だったものを見た。
その姿を見て私は声を荒げた。
「リマイナ学生、まだ戦闘中だ。操縦席に戻りたまえ」
リマイナは慌てて操縦席に戻ると再度戦車を走らせた。
(普段のリューイとは別物、なんなの。目の前の少女は……)
彼女の不安をよそに、次々に標的を打ち砕いていった。
訓練行程を終え、教官の元に戻るとすでに各砲撃地点で観測を行っていた補助員が教官へ報告を行っていた。
続々と同期の学生たちが戻ってきて、教官から評価を下される。
評価を聞いたものから戦車の整備に戻り、それが終わると夕食となる。
のだが、最初に戻ってきたはずの私とリマイナへの評価が最後まで下されなかった。
「リューイ学生、あれは何かね?」
全員へ評価を伝えた後、教官が口を開いた。
禿げあがった頭皮が印象的なその教官の表情は怒りに満ちていた。
「ハッ! 行進間射撃であります」
リューイは教官の形相を無視して毅然と答えた。
教官は眉をひそめ、追及した。
「私は何と言ったか」
間髪を入れずに堂々と答える。
何も間違ったことはしていない。
「『標的をぶち壊せ』と命令されました」
私の回答に教官はわざとらしく頷く。
「そうだ。だれが、行進間射撃をしろといったかね?」
教官の問いにリマイナは震えていた。
一つのことをコツコツ積み上げるのが彼の教育方針であると最初に言われていたのだ。
リューイがやったことはそれに反する行為であった。
それにこの教官は大尉であるが現場の叩き上げでここまでのし上がった人間だった。
彼の与える威圧感は言葉に尽くせない。
「しかし『行進間射撃をするな』とも言われておりませんでした」
リューイは一切動じることなくこう答えた。
(なんでこうも……)
リマイナは内心呆れていた。
いや、敬服していた。
彼女の足は震え、今すぐにでも逃げたいと言っているのにリューイはどうだろうか。
一切臆することなく教官と向かい合っている。
「……解った。今回は不問としよう、だが次、このような危険な行為をするな。貴様らは俺の子供みてぇなもんなんだ」
諦めたようにため息を吐く教官はリューイの頭を乱雑に撫でた。
非常に迷惑そうにするリューイだが、教官はお構いなく撫でる。
「それと」と言い、リマイナの方を向く教官。
「リマイナ学生、貴様は幾分かまともな人間らしい。こいつのブレーキ役になれ」
といい、その場を去っていった。
「リューイ、怒られなくてよかったね!」
寝室に戻ると抑揚のある明るい声でリマイナは早速こう切り出した。
私たちはいつもこのようにして寝室で所謂反省会や感想などを言い合っている。
言い合っていると言うと語弊があるだろうか?
まぁ剣呑な雰囲気ではなく、極めて和やかな雰囲気だ。
「そうね、でも頭を撫でられたのは癪かしら」
私は自らの髪をすきながらこのように言った。
彼女の内部情報である精神は男の物なのだが、
(まぁ、12年も生きれば女にも近づくよな)
と、このように男として生きていた時間と同じほどの時間を生きてくれば正常な女性の心に使づいていくものだ。
私はベッドに腰掛けると寝転んだ。
歩兵科などと違い、機甲科は基本的に規則が少し緩い。
座学は平常通り行われるが、実地での訓練については不定期だ。
歩兵課などは夜間非常呼集訓練もあるが、この戦車課は燃料不足から夜間訓練などめったにない。
「リューイの髪って本当にきれいだよね」
リマイナもベッドに腰かけて笑う。
何が楽しいのか分からないが、足を交互に揺らしている。
「ん? まぁ。美容には気を付けているから……」
前世では苦労したものだ。
イケメンは正義、可愛いは正義。
そんな単純で残酷な現代日本で生きていたのだから美容に気を付けるのも無理はない。
折角銀色の長い髪と美しい白い肌を貰ったのだ、雑に扱うのは申し訳ない。
「ねぇ、リマイナ。今度の夏季休暇一緒に旅行しない?」
不意にそんなことを尋ねた。
リマイナは目を丸くしていたが、すぐに溢れんばかりの笑みを浮かべた。
「いく! 何処に行くの?」
質問と返答の順序が逆ではないかとも呆れたが、そんな野暮なことを口に出すほどコミュニケーション障害ではない。
「ドイツよ」
将来世界を揺るがす大戦を起こすこの大国は今どうなっているのか。
どの程度史実と違うのか。
それを確かめる必要があった。
「わぁ……」
ワルシャワという隣国ポーランドの首都を一度通り、そのままドイツ領に進入し、首都ベルリンに向かう列車に私たちは乗っていた。
時は1932年、7月。
総統が就任するのまであと、6カ月。
そんなこと知る由もなく、汽車は進んでいく。
リマイナはボックス席の向かいに座って車窓を眺めている。
「ポーランドの農業地帯はきれいだなぁ……」
彼女は線路の脇に広がる穀物の畑などを見て目を輝かせている。
(なにがそんなに面白いのだろうか)
リューイは呆れながらも風景を堪能していた。
確かに広がる大地は壮大であり、浪漫を感じさせる。
この大地を騎兵が駆け回っていたことを考えると胸がワクワクしてくる。
「ふぁぁ……眠いわね」
しかし、汽車旅は実に退屈なのだ。
国境を超えたときに検査官が来る程度でそれ以外は非常にゆったりとした旅だ。
「それにしてもリューイ、こんな客室取れるなんてすごいね!」
リマイナは興奮気味にこう言ってくる。
いま私たちがいるのはこの列車の中でも数室しかない個室だ。
頼もうと思えばワインや昼食を頼むこともできるが、年齢的な問題や時間的関係で今回頼むことはなさそうだ。
「そんなに高くなかったわよ」
実際、ある方法を使えばそれほど高くなくこの部屋に乗ることが出来る。
「どうやったと思う?」と言わんばかりにリマイナを見つめた。
リマイナもそれに気が付き、しばし考えたがしまいには分からないと言った風に首を振った。
「ドイツ陸軍の見学に行くって言ってきたわ」
見学というとあれかもしれないが要は研修と言ってきた。
陸軍的にも、軍学校的にも進んだ軍事技術を持つドイツの陸軍を参考にしたいという思いがあるのだろう。
願い出てから翌日には返答が帰って来た。
「え? でもそれって……」
リマイナは何かに気が付いたのか少し暗い声音で何かを言いかける。
少し先回りしてその答えを返す。
「そうね、報告書くらいは提出しないといけないかしら」
すると見るからにリマイナは落胆した。
どうやら本気で観光を楽しむつもりだったらしい。
「別に私だけ視察に行ってリマイナは別行動でもいいのよ?」
教官に一人同行させてもいいかとは聞いたが、誰を同行させるかなどは言っていないし、報告書の提出を求められることもないだろう。
「大丈夫! 何日かは遊べるんでしょ? それに私も気になるから一緒に行く!」
満面の笑みでリマイナは答えた。
彼女としてはリューイと共に旅をするのが目的であったので、何をしようとあまり関係はなかった。
リマイナの言葉に少し感動した。
少なくとも転生する前には親友と呼べる者はいなかった。
友人はいたかもしれないが、学校生活上だけの話で休日共に出かけたりするなどと言う行為はまずしたことが無かった。
「あ、そうそう。一人の客人がもうそろそろ来るはずよ」
感動を押し隠す様にこういった。
すると列車は止まり、数人の足音が聞えて来た。
「ついたみたいね」
外を見ればワルシャワの都市が広がっていた。
農作地と都市が隣接しているこの都市は一度ゆっくり観光してみたいものだ。
「え? え?」
リマイナは困惑する。
すると数度扉がノックされる。
「『ライヒの戦列は』」
扉の奥からは即座に返答が帰って来た。
「『ウラルまで続く』」
「どうぞ」と優しい声で扉の奥に伝える。
ゆっくりと扉が開かれ一人の男性が姿を現した。
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そこにいたのは後の世に大きく爪跡を残すことになるちょび髭がトレードマークの――
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料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
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