ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第1章 統一戦争

11話

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 軍内部での私への風当たりはとてもじゃないが弱いとは言えない。
 むしろ厳しいものだ。
 保守的な軍上層部において私を英雄として市民に誇った反面、内心では私のことをあざ笑っている。
 彼らは私をマスコットとして使えればそれでよく、それ以上のことは何も求めてはいなかった。
 で、あるからに私が作戦を立案しても到底それを受け入れる気はないようだったが、ウルマニスのお墨付きとなればしぶしぶ受け付けなければならない。
 だがそれは私にとって良いこととは一概に言えなかった。

 重苦しい雰囲気が支配する陸軍総司令部。
 ここには独立時に軍を指揮した元帥や当時それに従った将官が数多く在籍し、またこの日に合わせて各地から気鋭なる若手参謀たちも多く集っていた。
 その中でもひと際異彩を放っているのが私ことリューイ・ルーカス。
 いくら大尉とは言えこの場に参列するには階級が足りない。
 周りが上官ばかりでどうやって自信を持って発言できようか。
「緊張しているのかね?」
 突然背後から声を掛けられた。
 バッと振り返るとそこには前回旅団が編成された際の旅団長の姿が。
 確か名前は……ベルント・シューマイン。
 第一師団長であり、当時は第一師団から第一混成旅団に多く大隊が派遣されていたこともあり彼自ら志願したそうだ。
 彼とは戦いを共にしたこともあり、上級将校の中では信頼できる部類に入る。
 とは言っても、私がぐんぐんと階級を上げることに不快感を抱いていてもおかしくはなく、油断できる相手でもない。
「えぇ、戦争には慣れていてもこのような上級将校の方々を相手にすると萎縮してしまいます」
 そういうとベルントは口を開けて大きく笑った。
 私が眉を顰めるとなおも笑いながら口を開いた。
「いやなに、君も人間らしいとこがあるのだな」
「それは一体どういうことでしょうか?」
「君の隊内での評判は聞き及んでいるよ。冷静沈着、しかし時には熱く部下を激励し、篤く部下を加護する。素晴らしいではないか」
 ベルントは付け加えた。
「動揺することない、とまで言われている君の姿を部下に見せてみたいものだよ」
 その言葉に私は背筋が凍った。
 こんな姿を部下に見せればどうなるだろうか。
 部下が私についてくることは二度となくなるだろう。
「仮に部下がいれば虚勢でも胸を張りますよ」
「――なるほど」
 大きくうなずいたベルントは腕時計をチラッとみると口を開いた。
「さて、そろそろ時間だな」
「ですね」
 そういうと我々は会議室へ向かった。

 連なる席に腰を下ろすはラトビアが誇る俊英参謀たち。
 それを従える各方面軍司令官。
 司令官と参謀の後ろには各師団長と副官たち。
 一番奥の席には海軍司令長官。
 最も力があるものが座る席には首相、カールリス・ウルマニス。
 私の席は――
 ウルマニスの横。
(なんという重圧だろうか)
 階級が上の者しかいない状況で毅然とふるまえるほど、私も豪胆ではない。
 むしろ萎縮している。
「閣下、失礼を承知でお尋ねするが、いくらご友人であろうとこのような席に尉官を招くというのはいささか問題があると思われますが」
 そういって声を上げたのは北部方面軍司令官、フォンド・フェーリヒ。階級は中将。
 ウルマニスは彼の指摘を右手で制すると秘書を手招きし、資料を配るように指示した。
「それについてはこの資料を見ていただきたい」
 秘書が次々に資料を配っていく。
 よくもまぁ平然と資料を配れるものだと感心するが、普段はこれよりも恐ろしい議員共を相手にしているのだと思えば不思議なことでもない。
「この資料は今次作戦において極秘制作された計画書である。名をプラン02という」
「このような作戦、成功すると思っているのですか!?」
 声を上げたのは東部方面軍司令官、ノイマン・ウェイリス。階級は中将。
 視線を落とし手元の資料を再度確認する。
 確かにこれは常識ではない、だが。
「――前代未聞というほどでもなかろう?」
 ウルマニスは含み笑いをもってノイマンの問いに返した。
 すると彼は私のほうに視線を向け
「具体的な内容については彼女に説明してもらう」
 その声に反応するかの如く、私に視線が浴びせられた。
「では、私がウルマニス閣下に代わりまして私が説明いたします」
 震える足を叱咤して自らを元気づける。
 私なら、できる。

 作戦の概要は以下の通りだ。
 本作戦は北部と南部の隣国、エストニアとリトアニアを併合するプランだ。
 この二国を併合すれば東部の大国ソビエトにもある程度対抗ができ、南部の大国ポーランドとは均衡することができるだろう。
 成功を収めるのに重要な要素はおよそ
・他国の介入を許さないほど電撃的に両国を屈服させること。
・被害を最小限に抑えること。
 以上の二つだ。
 簡単に言うが非常に難しいというのは私も十分承知している。
 だからこそ、やる価値があるのだ。
 本作戦において最初に攻略するのはエストニアだ。
 我が国の半分程度の国力しか有さず、首都も海岸線に近く簡単に落とせると思われる。
 まず、国境付近で北部方面軍が敵前線部隊を抑え込み、その間に新編する中央軍が海路により敵首都を強襲し、議会を占拠。即時講和を実現させる。
 次にリトアニアにその矛先を向ける。
 南部方面軍はエストニアが降伏するまでじわじわと後退しつつ遅滞戦闘に努める。
 エストニアが降伏し次第、北部方面軍と合流した南部方面軍は東部に戦力を集中させ敵の戦線に穴をこじ開ける。
 そこから自動車化部隊を含む中央軍が突入し、敵の首都を落とす。
 以上の概略を説明した後に、編成案も各司令官に説明する。

 北部方面軍
  第2師団 民兵支援連隊

 南部方面軍
  第3師団 第4師団 第1航空連隊

 中央軍
  第1旅団 第1巡洋艦隊 海軍海上輸送連隊
 
 第1旅団は第一師団と自動車化大隊及びいくつかの支援部隊によって構成され、この旅団が各首都を落とす主力となる。 

「――以上となります」
 私が説明を終えると反論の声は一切上がらなかった。
 意外と言えば噓になる。
 自分の作戦に自信があった、それだけに――
「賛同する者はご起立いただけるかな?」
 ウルマニスの声に、全員が立ち上がった。
 ――うれしいものだ。
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