ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第1章 統一戦争

35話

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 私がもうそろそろ眠りにつこうかという頃、丘の上で爆発が起きた。
 奇襲か。
 すぐさまそう察知した。
「総員起こし! 戦闘用意!」
 あぁ、また部下が死ぬ。
 そう考えると陰鬱な気分になった。
 最も早く戦闘用意を完了させたのは海蛇大隊の第22小隊であった。
 海蛇大隊の中でも最も練度が高いとされているのがこの小隊。
 実戦にも慣れている。
「第22小隊は丘の上を確認しに行きなさい。また、出来るのならばその場で再度、前哨拠点を構築。できなければ即時撤退よ」
 私の命令に第22小隊は素早く答えるとすぐさま前進を開始した。
 彼らはもとより陸戦の訓練を積んだ基地警備隊出身者だけで編成されている。
 たった数十人ではあるが海蛇大隊のなかでは随分と頼りにしている。
「第2中隊所属小隊は準備が完了次第、第22小隊と合流!」
「了解であります!」
 威勢の良い返答に私は満足する。
「第1中隊はこの場にて待機! 第3中隊は左翼、第4中隊は右翼に展開!」
 この真夜中に奇襲を仕掛けてきたということは敵も練度には自信があるようだ。
 恐らく、前方からの砲撃で敵の注意を惹きつけその間に両翼に展開した部隊で横やりを入れるつもりだろうが、そうはさせない。
「第22小隊より『前哨拠点ハ壊滅。即座ニ撤退ス』です!」
 通信兵が受話器片手に私に向かって報告する。
 わかったわ、と伝えるとヴェゼモアを呼んだ。
「戦車中隊は右翼に展開する第4中隊の後方で待機、自動車化中隊も同じよ」
「了解しました。すぐに移動します」
 これで、手持ちの駒を配置し終えた。
 敵が両翼を狙うのならばこちらは片翼から突破し、そのまま敵後方に浸透してやろうではないか。
 
 数分としないうちにわが軍のものではない戦車の音が聞こえ始めた。
 やはり予想通り敵は左翼と右翼からの同時攻撃を行い両翼包囲を狙っているようだ。
 予備部隊として待機させている丘から帰還した第2中隊を左翼の補強に向かわせる。
 現在海蛇大隊は対戦車火力の増強に苦心している。
 その解決策の一つとして、自動車化中隊に配置されるような対戦車小隊をより小回りの利く規模に分割し、各小隊に対戦車ライフルを装備した対戦車班を一つずつ配置している。
 結果として対歩兵火力は多少低下したが、今までとはくらべものにならないほど対戦車火力が増大した。
 四方八方から響き渡る銃声。
 まだ深夜だというのに敵も元気なことだ。
 そう敵を嘲嗤う。
 私は左翼の指揮をロレンス大尉に任せると自車の搭乗員を集め、右翼へと向かった。
 そこでは今か今かと出撃の命令を待つヴェゼモアの姿や中隊員の姿があった。
「君らは戦争狂かなにかかしら?」
 私が呆れるように言う。
 スゥッと息を吸い、次に放つ言葉を脳でまとめる。
「諸君!反撃の時は今ぞ!」
 私の言葉にその場にいた全員の視線が私に注がれる。
「右翼に展開する自動車化中隊、戦車中隊は前進し敵大隊本部を強襲せよ!!」
 私はその言葉と共に右手を振り下ろす。
 この手で奴らの命を絶ち切ってやろう。
 一斉に前進する我らが中隊。
 轟音を響かせながら進む。
 すぐに第4中隊が展開する防衛地点に到着し、止まることなく砲撃を繰り返す。
「第3小隊、第2小隊は両翼に展開! 第1小隊は我に続け!」
 無線機に向かってそう叫ぶと私の背後から付き従っていた猛獣たちが横に広がる。
 力の差、見せつけてやろうじゃないか。


 そのころ、ロレンス大尉が左翼で必死に抵抗していた。
 彼の手持ちは第1、第2、第3中隊。
 すべてが歩兵であり、よく敵の攻撃に耐えている。
 しかしそれも限界に近づきつつあった。
「第3中隊、損耗率30パーセント!」
「第1中隊から2個小隊を派遣!」
 寄せられてくる報告に動ずることなくロレンス大尉は答えていく。
「第2中隊、損耗率20パーセント!」
「死守しろ!」
 ここで抜かれれば愛弟子が後ろから攻撃を仕掛けられてしまう。
 彼女は彼に自らの背中を託したのだ。
 彼はそれに応えなければならない。
「丘の上は確保できそうか!」
 彼は矢継ぎ早に指示を出した後にそう問うた。
「敵の狙撃手の妨害により困難であります!」
 クッと眉間にしわを寄せるロレンス大尉。
 戦術的にもっとも重要な眼前にある丘陵を我々は確保できていない。
 敵もそうなのだが、こちらは防衛側。
 敵よりも情報が不足している分、なんとしても視界が利く丘の頂上は確保したい。
「……第13小隊を丘陵の稜線に張り付け、可能な限り情報の収集に努めろ!」
 苦肉の策だ。
 恐らく敵は丘のさらに数百メートル先にある小高い山の斜面に展開しているようだ。
 そこは森であり、こちらから視認することはできないが、稜線に隠れた敵を狙撃なんぞできるはずもないだろう。
 視界はその分狭まるがないよりはマシだ。
 しかし、次の瞬間信じられない報告を耳にした。
「第13小隊、敵の狙撃兵により小隊長が戦死」
 悲しみよりも先に驚愕が襲った。
 彼は何度も戦果を潜り抜けた猛者だ。
 稜線から不用意に身をさらすことはないだろう。
 だとすれば何か、ほんの少しだけ意図せず出てしまった頭部を撃ち抜いたとでもいうのだろうか。
 だとすれば、それは。
 化け物か何かだ。


 ソビエト第1親衛戦車大隊が展開する山の中。
 一発の銃声が山中に響き渡った。
「さすがだな」
 俺は戸惑うことなく称賛の声を隣にいた少女に投げかける。
「もっと褒めてくれてもいいんですよ? ミハウェル?」
「作戦中は階級をつけろと何回言ったわかるんだエレーナ中尉」
「これは失礼いたしました。ミハウェル・トゥハチェンスキ少佐殿」
 茶化すように言ってくる少女に俺は呆れたように溜息を吐く。
 軍学校では二つ下の後輩で、同郷で幼馴染ということもあり面倒を見ていたが、まさか同じ部隊に配属されるとは思っていなかった。
「にしても、よくもまぁ当てれるもんだな」
 俺は感心しながら双眼鏡で丘の稜線を睨む。
 確かに頭頂部は出ているもののそれも数センチといったものだ。
 あれを狙撃してしまうのだからこの少女は恐ろしい。
「で、どうするの? まっすぐ? それとも反撃を喰らってる味方の援護?」
 エレーナはさも当然かのように俺の賛辞を流すとそう問うてきた。
 確かにまっすぐ山を下っていけば敵を突破し、あの悪魔の背後を脅かすことができるだろう。
 しかし、それではいけない。
「野良犬を仕留めに行く」
 俺はそういうと「出撃準備」を下令した。
 俺たちから見て右翼に展開しているのが第2中隊。
 やつらは頑強な抵抗を受けながらもなんとか前進を続けている。
 左翼に展開しているのが第3中隊。
 先ほどから敵機甲部隊の反撃を喰らい後退中。
 恐らくそれを指揮しているのはあのリューイ・ルーカスだろう。
 そしてこの山で待機しているのが第1中隊。
 中隊長はエレーナだ。
「さぁ出撃だ!」
 俺を含め20両の戦車が山を下る。
 うち3両が大隊本部。これには俺も含まれている。
 装備車両はBT7。
 のこりの17両が第1中隊でうち16両は大隊本部とおなじくBT7を装備している。
 しかし、エレーナの駆る車両だけは違う。
 KV-1。射撃の腕を見込まれ、搭乗員の練度も高いことから試作車両を無理行って彼女に配備させた。
 速度こそ後れを取り中隊指揮を行えないことも多いが、それ以上に支援火力としての効果があまりにも大きい。
 そして、その装甲。
 今の敵には彼女の戦車を穿つことはできないだろう。
 俺は勝利を確信し、部隊を自軍左翼へと進ませた。


 山から敵の戦車中隊が降りてきたという報告を聞いたとき私は耳を疑った。
 わざわざ敵が重要拠点である山を放棄し、我々の反撃を挫こうとしてきたのだ。
 あまりの事態に困惑する私だったが、隣にいたリマイナの車両が砲撃した音で正気を取り戻した。
 なんとか優位にあるが、ここで敵の増援が来るとどうなるか分かったものではない。
 そこで自動車化中隊に敵増援の迎撃を命じる。
 同時に、戦車中隊各車両に敵の増援が接近していることを伝え、すぐに殲滅すると命令する。
 現在敵は我々の攻撃をうけて廃村に逃げ込んでいる。
 そこで両翼から2号戦車が展開し、隙あらば側面、背面から攻撃する。
 彼らが注意引いている間に3号戦車が突入し一挙に殲滅すると命令。
 命令を聞くと動ずることなく手足如く機動する。
 数分としないうちに村の中から砲撃が行われ、同時に二号戦車も応戦し始めた。
「突入!」
 頃合いを見計らい全車突入の命令を下す。
 闇夜に乗じて突入した我々に敵は混乱するばかりであり、ろくな抵抗もなく撃破されていく。
「右斜め前方、納屋の裏」
 私は先陣を切り、村の中を進んでいく。
 すると納屋の陰から車体が飛び出しているのを発見し、すぐさま砲手に伝える。
「ファイア」
 静かにそう伝えると爆音が響き渡った。
 直後、納屋は吹き飛びその後ろにいたBT7も炎に包まれた。
 次の敵を探そうと視界を左に移すと――

 ――そこには砲口をこちらに向けた敵がいた。

 死ぬ。直感的に私はそう思ったが、次の瞬間にはその戦車は爆音ととも四散した。
 何事かと思い、後ろをみるとリマイナが必死の形相で敵に砲塔を向けているのが目に入った。
「ありがとう」
 私が小さく口にすると彼女は煤汚れた顔をぬぐおうともせずに
「これが私のしごとだから!」と笑顔で言ってきた。
 頼もしい味方を得たものだ。
 しかしその直後無線機から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「こちら第1自動車化中隊! 敵の攻撃激し! 至急増援求む! 敵の中に正体不明の大型戦車!」
 私は勝利の余韻に浸かることは許されないらしい。
 そう嗤うと村を占領した中隊を集め、声高に命ずる。
「これより第1自動車化中隊及び第2自動車化中隊の援護に向かう! 疲れているとは思うがここが正念場ぞ!」
 こうして、バルトニア・ソビエト戦争で最初に行われた大規模戦闘。
 パルキンスキ夜戦の中盤戦は過ぎていった。
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