ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第1章 統一戦争

36話

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 敵の戦車中隊を殲滅した我々は、敵の増援を迎撃していた自動車化中隊の救援に向かっていた。
 闇夜の中から敵の側面を攻撃する。
 それにしても自動車化中隊でKV-1を含む敵戦車中隊を食い止めるとは、いままで侮っていたが意外と彼らもやるのではないだろうか。
「さて、初戦は勝利で飾るわよ」
 私はそう言うと、自動車化中隊に夢中になっている一両の戦車を撃破する。
 配下の小隊も次々と敵を屠っていく。
 ただ、機関砲しか装備しない2号戦車はやはり苦戦しているようだ。
「第2と第3小隊は下がりなさい。残りは第1小隊と私でやるわ」
 私の命令に一瞬不服そうな声が聞こえたが、すぐに各小隊が動き始めた。
 
 背後に残ったのはヴェゼモア、リューイなどなど、歴戦の猛者ばかり。
 いずれも首都攻防戦の生き残りが車長を務める車両ばかりで、ほかの補充兵たちも随分と優秀だと聞いている。
「前進! 敵を撃滅せよ!」
 彼らはいわゆるところのチート並みの練度を持っている。
 走行間射撃をいともたやすく行う。
 2000年代の戦車とは違い、機械的なものでカバーするのではない。
 練度だ、練度と勘でそれをカバーする。
 対して敵も随分と正確な射撃を繰り返すが、惜しくも外れている。
 もったいない、確かに彼らの腕はいいのだろう。
 だが、戦車そのものの質が悪ければどうしようもない。
 私は敵を憐れみながらも敵戦車を屠っていった。


 山を下って勢いを乗せた突撃。
 俺はこれに十分な自信を持っていた。
 だが、目の前に現れた2個自動車化歩兵中隊にいともたやすく押しとどめられてしまってはどうしようもない。
 第1中隊配下の3個小隊を手足のように前後させ攻撃に緩急をつけたが、いずれも突破するには至らない。
 敵は大した陣地もない。
 火力もないのに、無理に前進しようとすれば撃破される。
 何がそうさせているか、練度だ。
 彼らは我々の戦車のことを我々以上に知っている。
 だからこそ、少ない火力で我々の戦車を撃破できるのだ。
 そうやって攻めあぐねいていると、先遣させた第3中隊からの連絡が途絶した。
 やはり1個大隊で敵の2個大隊規模の部隊を攻撃するのは無理があったかと今更になって悔やむ。
「少佐殿? まだ戦争はおわってないですよー」
 エレーナが呑気な声で物思いにふけっていた俺に声をかけてくる。
 直後、左側に展開させていた第3小隊から爆炎が上がった。
 悪魔だ。悪魔が来た。
 俺の右手が小刻みに震え始める。
「ミハウェル?」
「…………」
 エレーナが心配そうに声をかけてくるが、俺には何も返すことができなかった。 
 トラウマ、そう。トラウマだ。
 確実に勝つと確信していた戦いで、どうしようもない彼女の練度という悪魔のような単語に俺は何度も踏みつぶされた。
 何度俺の頭上に鉄の雨が降ったかわからない。
 何度彼女に部下を、上司を、同僚を殺されたかわからない。
「リューイ・ルーカスゥ!」
 俺はそう叫ぶと操縦手に全速前進を伝えた。
「ちょっとミハウェル?!」
 エレーナが俺を制止しようと声をかけてくるが、あいにく耳には届かなかった。
 憎い、憎い、憎い。
 あの魔犬が憎い。殺してやりたい。
 

 無謀にも突撃してくる一両の戦車。
 まだ、そんな闘志が残っていたのかと感心しつつも砲手にゆっくり狙うように命令する。
 向かってくるのはBT7。主砲の火力は低く、十分に近づかなければこの3号戦車を撃破することは難しい。
 だが、砲手は焦って狙いをつけたのか、油断したのかわからないが、それでも十分すぎる猶予がある中で彼は主砲を発射した。
 否、してしまった。
 それだけならまだ何とかなった。
 しかし、不運は続いた。
 砲弾は右側に逸れると、その後方で爆発した。
 向かってきた戦車の履帯が弾き飛ばされて外れ、車体はドリフトするような形で滑り、そのまま私の戦車の後ろに回り込んでくる。
 これが幸運。
 なによりも指揮官に必要とされる才能。
 まさかと思い、敵の車両を確認する。
 いまなら刻まれた字だって目視で確認することができる。
 第1親衛大隊大隊長車と、そこには刻まれていた。
 こいつは正気かと思うと同時に口角が釣りあがるのを感じた。
 そうだ、これだ。
 この闘志を待っていた。
「私を貫け! 異国の勇者よ!」
 気が付けばそんな魔王のような言葉を発していた。
 気持ちの昂りからだろうか。
 敵は何事かを叫ぶと右手を振り下ろした。
 同時に敵の主砲は赤く燃え、一発の砲弾が弾き出された。
 その爆風に私は顔を右手で覆う。
 直後甲高い金属音。
 
 私はまだ、生きている。
 何故だ?
 そう思い、右手を添えていた砲塔の縁を見ると塗装が剥がれ、金属板がめくれあがっているのが見えた。
 敵も不運なものだな、そう嗤う。
「砲塔旋回! 目標後方75度の敵戦車!」
 私がそう叫ぶと車内があわただしくなる。
 相手も装填と照準修正を行っていることだろう。
どちらが先に砲撃準備を終えるか。
 まるでナイトのような一騎打ち。
 だが、予想外のところから横やりが入った。
「リューイは私が守る!」
 そう叫びながら突っ込んできたのはリマイナだった。
 彼女は敵戦車に体当たりするとそのまま後進し、砲撃に必要な距離を取った。
 相手の戦車は私の砲撃により、右の履帯が。
 リマイナの突進により、左の履帯が破損している。
 どうすることもできないだろう。
 だが、直後リマイナの戦車の近くに一発の砲弾が着弾した。
 その爆炎は彼女の戦車を呑み込み、すぐに収束していった。
「リマイナ!」
 私が叫ぶとリマイナはいつもの調子で「大丈夫だよ~」などと呑気に返してきた。
 それを確認した私は砲撃してきた主を睨む。
「クソッタレ」
 思わずそう呟いた。
 視線の先にはKV-1戦車。
 だが、いつまで経っても次弾が来るようには見えない。
 かといって我々が今砲撃してもあの戦車は撃破することができない。
 それどころか相手は発行信号で『交渉を求む』などと送信してきた。
 あまりの異常事態に私の脳は追いつかないが、とりあえずは『応じる』とだけ返した。

 KV-1から降りてきたのは予想外にも少女であった。
 齢は15か6程だろうか。
 紅の髪とそれに準じた淀みのない瞳。
 背丈は私よりは少し大きく、リマイナよりは小さいかといった程度。
 すらりと伸びた四肢にくびれのある腹部。
 第一印象は美しい、そう感じた。
「第1親衛戦車大隊、大隊副長兼第1中隊長のエレーナ・アルバトフ中尉です」
 見事な敬礼を見た私は彼女を軍人だと認めなければならなかった。
 彼女は生粋の軍人だ。
 敬礼の仕草に堅苦しさも気が抜けた感じもない。
 まさに歴戦の古参兵といった風体だった。
「同大隊、大隊長のミハウェル・トゥハチェンスキ少佐だ」
 履帯がどちらも破損した車両から降りてきたのはヴェゼモアよりは少し若いであろう男の士官。
 齢20か23前後だと思われるのにすでに少佐だという。
 18で中佐の私が言えたものではないが随分と優秀なのだろう。
「第1混成旅団、旅団長のリューイ・ルーカス中佐よ」
 私はそういってミハウェルに握手を求めた。
 彼は少し困惑した素振りをみせると後ろに控えるエレーナ中尉に促されて握り返してきた。
 握りしめてきた右手が小刻みに震えているのを見て緊張しているのかな? と思い笑顔でいると顔色を真っ青にしていた。
 私の笑顔、そんなに怖かったのだろうか……。
 そして私の後ろからリマイナがふわりと砲塔から飛び降りると私の横に並んだ。
「同旅団、第1戦車中隊副長のリマイナ・ルイ中尉です。中隊長は現在中隊の再集結を行っておりますので、私が代理ということでお願いします」
 普段の彼女からは想像もできない物腰の低い丁寧な態度に私は驚いた。
「で、交渉というのは?」
 私がエレーナに尋ねた。
 彼女はくすっと笑い肩を揺らす。
「わが隊の撤退猶予と貴隊の10時間の進撃停止を」
 突きつけられた条件は厳しいものであった。
「呑まない場合は?」
 私は動揺を隠し平静を装って尋ねる。
 すると彼女はさも当然のようにこう言った。
「私の車両で貴方達を壊滅させるでしょう」と。
「なら、なぜそうしないのかしら?」
「お互いの利益にならないから。でしょうか」
 私は眉をひそめる。
 何を言っているのかがよくわからない。
 我々を壊滅させるとなにが彼女たちに不利益あるのだろうか。
「私はともかく、このミハウェル少佐は我々の希望なのです。彼を失うことは国家最大の損失です」
 それほどの人物なのかと目を見開く。
 だが、彼の名を前世で聞いたことがない。
 この世界だけの人物なのだろうか。
「……お互いの最大利益を尊重するべきね」
 私はしぶしぶそう答える。
 ここで拒否したとしても私は彼女の部下に殺されるだろうし、私の利益にならない。
 利害は一致しているだろう。
「ありがとうございます」
 エレーナは安心したように笑う。
 その顔は古参兵というよりは町娘と言ったほうが的確で、おそらくそれが彼女の素面なのだろうな、と少し安心する。
 すると彼女は身を翻すと戦車に飛び乗った。
 そしてこちら側に手を伸ばすと頬を赤らめて
「ミハウェル、乗ってください」
 といった。
 私たちの視線がミハウェル少佐に向くとかれは諦めたように溜息を吐くと
「解ったよ、エレーナ」ととても穏やかな口調で返した。
 そして彼は自らの戦車に乗っていた部下たちに声をかけるとエレーナの戦車の上で座る。
「少佐」
 私が声をかけるとミハウェル少佐はビクリと肩を震わせ「なんだ?」と応えた。
「いずれまた、刃を相まみえん」
 古風な言葉でそう言うと、彼は笑って「当たり前だ。俺は貴様を殺すために生きている」と堂々と答えた。
 私はそれに「貴方になら殺されても文句はないわ」といい手を振った。
 エレーナがそれを見ると操縦手に前進を命じ、彼らは闇の中へと消えていく。
 するとすぐにヴェゼモアが残存兵力をかき集めて私のもとへとやってきた。
「中佐、追撃しますか?」
 ここで約束をたがえて追撃すれば彼らを殲滅できるだろう。
 だが、

「そういうのは趣味じゃないのよ」
 ヴェゼモアにそう応えると、ミハウェルたちが向かった先と反対側に歩みを進めた。
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