ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第1章 統一戦争

39話

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「戦車前進!」
 煙幕を含めた準備砲撃が終わった町に私は戦車小隊を率いて突撃する。
 視界はない。
 主砲を乱射し敵を混乱に陥れる。
 当てる必要はないのだ、敵を混乱させ、損害を出し、分断すればいいだけだ。
 街の中で相互に連携を取れなくさせることで敵を確固撃破する。
 故に、まず第1小隊の3号戦車が私と共に突入し、活路を開きつつ、第2、第3小隊が街の中で分散し機関砲を乱射する。
 各地で響く火薬の音。
 私はそれを心地よく思いつつ、通信手に対歩兵用に備え付けられている機銃の射撃を命じる。
 当たれば万々歳。
 敵が恐れ慄けば十分。
 そう思って前進を続ける。
「第2小隊! 順調に前進中! 現在町の中央部」
「第3小隊! 同様に進撃中。もう間もなく集合地点に到着します!」
 我々は町の中央で一度合流する手はずとなっている。
 まっすぐ中央部に向かって突撃した私たち第1小隊はほかの隊よりも多少早く現地に到着してしまい、持て余している。
 しかしすぐに第2、第3小隊が集合した。
 私は砲塔から身を乗り出し各部隊の車両数を確認しようとすると第2小隊が一両足りない。
「第2小隊! 1両足りなくないかしら?!」
 私が叫んでそう尋ねると小隊長は驚いたように砲塔から身を乗り出して「人員報告!」と叫んだ。
 するとすぐに足りない車両が判明した。
 第2小隊の3号車。
 私は舌打すると通信手に命じて3号車に対して通信を試みさせる。
 だが、何度通信を送ろうと反応はない。
「クソッタレ!」
 私は思わず砲塔を殴る。
「申し訳ありません。私が確認していれば……」
 と第2小隊長が落ち込んでいるが、この煙幕の中では仕方がない。
 恐らく道に迷っているだけだろうと判断し、部隊全てを使い3号車捜索へと向かう。
「捜索対象は第2小隊3号車! 恐らく道に迷っているものと思われるわ!!」
 私はそう叫び、「我に続け」と続けると戦車を前進させた。
 と同時に各小隊長に対して常に小隊配下の部隊と通信を取り合うようにと命じ散開させる。
 道に迷って挙句通信機が破損しただけ、私はその時楽観的に考えていた。
 しかし、第3小隊の4号車から報告が上がってきた。
「第2小隊の3号車発見……うおっ?!」
 通信手が驚きの声を上げると同時に無線に響く破裂音。
 そして絶え絶えになった通信手が最後の力を振り絞り叫んだ。
「捜索目標は鹵獲されました!! 繰り返す……捜索、目標は……敵の手にわたっ――」
 そこで彼の言葉は尽きた。
 次に通信機から聞こえてくるのは砂嵐のようなザザザというノイズだけ。
 そして次々と上がる接敵報告と損害報告。
「こちら第3小隊5号車! 戦車発見! 攻撃します!!」
「こちら第2小隊2号車! 5号車! それはわが車である至急砲撃をやめられたし!」
 私は舌打をする。
 同士討ちが始まっている。
 全ての報告が上がるたびに訂正や誤認報告。
 特に顕著なのが第2小隊と第3小隊。
 彼らは鹵獲された2号戦車と同じ車両を使っているためそれだけ誤認が発生しやすい。
 加えてのこの煙幕だ。
 良かれと思って展開させた煙幕だが、このように我々にとってマイナスに作用することもあるのだなと感心する。
「各小隊! 損害を気にせず町の外に逃げなさい! 外に出次第、丘の上で再集結!」
 私は最終手段に打って出た。
 誤認射撃が乱発している今、これ以上町の中に長居しても意味がないどころか損害が増え続けるだけだ。
 街の各所から聞こえる炸裂音を背中に受けながら私は戦車を走らせた。
 しかし――。
 
 足元からの強烈な衝撃。
 今までに体感したことのない衝撃に私は身を揺られながらも、キューポラを掴みなんとか耐える。
「損害報告!」
 私はそう叫んで部下に状況確認させる。
 その間、私は車外を睨み、周辺偵察に努める。
 まだ周辺は煙幕でおおわれている。
 敵が私たちの現在位置に気が付いたとしても正確な位置までは分からないはず。
 などと考えていると損害報告が上がってきた。
「右の履帯破損! 修理におよそ五分!」
 クソが、内心悪態をつく。
「何名必要かしら?」
「三人は必要かと」
 私は損害を報告してきた操縦手に尋ねた。
「解ったわ」と言い、通信手、装填手にそれぞれ修理を手伝うように命じる。
 そして砲手には短機関銃を手渡し「白兵戦用意」と命じる。
 5分間、この視界が全くない状況でどこからやって来るともわからない敵にたいして脅えながら過ごさなければならないらしい。
 仮にこれが敵の策だとすればかなりの策士だ。
 砲手には砲塔の上で待機することを命じ、私はそこから一段下がった車体の上でハッチから無線のコードを伸ばし、耳に添えながら待機する。
「こちら旅団長、だれか聞こえているかしら?」
 私が無線機にそう語りかけると向こう側から返答があった。
「こちら第1自動車化中隊、中隊長です。いかがなさいましたか?」
 つながったのは攻撃命令を待っていた第1自動車化中隊だった。
 うまく行けばこのまま救出してくれるだろうかとも思ったが、それは諦めることにした。
 下手をすれば私もろとも彼の中隊が全滅する恐れすらある。
「現在履帯破損によりスタック中。町から出てきた戦車部隊は付近にいた部隊に収容する許可を出すわ。」

「大丈夫ですか?」
 私の命令に中隊長は不安そうに尋ねる。
「えぇ。なにせ私は英雄、リューイ・ルーカスよ」
 そう強がって見せる。
 ご武運を、と言って中隊長は無線を切った。
 さて、どうしたものか。
 他の車両を呼んで危険にさらすのは気が引ける。
 かといって私たちだけで抜け出せるだろうか。
 否、やるしかない。
 そう考えているうちに何やら話し声が聞こえてきた。
 バッと車体の陰にいる操縦手たちを見るが、彼らではない。
 別方向から聞こえている。
 かといって砲手でもない。
 これは――
 
 ロシア語だ。
 
 下を見る限りまだまだ修理に時間がかかりそうだ。
 私は砲手にハンドサインを出し声の方向を伝える。
 すると話し声が途絶えた。
 遠ざかったか。
 そう楽観視する。
 しかし私はある重大なことに気が付いてしまった。
 エンジンをかけたままであった。
 つまりこれは敵に常時位置情報を提供しているようなもので、もしかすればすでに包囲されているかもしれないことを意味していた。
 私は修理に勤しむ操縦手に急ぐようにと伝え、臨戦態勢を取る。
 こういう時に海蛇大隊で歩兵戦に参加していてよかったと心底思う。
 周囲の視界は3mもない。
 不意の遭遇戦となる。
 身構えていると足音が聞こえ始めた。
 10m、といったところだろうか。
 相当に近いはずだ。
 だが、姿は見えない。
 直後、一発の銃声と共に金属の弾ける音がした。
 撃ってきた!
「撃て!」
 私はそう叫ぶと同時に銃声の方向へと闇雲に射撃を行う。
 牽制になればそれでいいのだ。
 ダダダダダとドイツ製の短機関銃を射撃する。
 敵も負けじと撃ち返すがどちらも有効な射撃はできていない。
 だが次第に敵の射撃は精度を増し、私が座る車体のすぐ横にまで銃弾が到達し始める。
 私は身の危険を感じつつも、敵がいるであろう方向へと撃ち続ける。
 やがて、私の放った一発が敵に命中したのであろう、叫び声が聞こえ、数秒銃撃が止んだ。
 それと同時に車体の裏から操縦手が顔を出し「修理完了!」と泥まみれになりながら報告してきた。
「よし! 前進用意!!」
 私は叫んで車体の上を走り砲塔へと飛び込む。
 全員が乗車したことを確認し、私は前進を命じる。
 すぐに敵の射撃も再開されたが、すでに我々の脅威ではない。
 三号戦車の車体を抜けるものなら抜いてみろと馬鹿にしながら私たちは町を去っていく。
 何度か小さな爆発が下から突き上げてきたが履帯が破損することはなく、何とか丘陵の陣地へと帰還することができた。

 部下のもとへと戻ると明らかに車両数が減っている。
 損害を確認すると各小隊合わせ行方不明が4両、合計14名となった。
 私は丘の上から町を睨むとこうつぶやいた。

「必ず地獄に落としてやるわ」と。
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