ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

42話

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 戦え、戦え。
「第3班突入!」
「第6班支援射撃!」
 エレーナは6つに分けた小隊を自らの手足のように操ると、防御に出てきた敵の中隊をいともたやすく崩壊させた。
「第1から第3班。敵の塹壕を制圧。捕虜収容所はどれか解らず」
 第1班の班長からの連絡にエレーナは「問題ありません」と答えると双眼鏡で敵の駐屯地を眺めた。
 敵はこちらの意図を把握しているはずだ。
 つまり必ず、防御を固めてくる。
「みぃーつけた」
 エレーナはそう呟くと双眼鏡を投げ捨てた。
 もうこんなものいらない。
「第4班、前進。塹壕を保持してください」
 エレーナはそう吐き捨てると第5班と第6班の10人に目配せすると「行きますよ」と微笑んだ。
「全員でいかなくていいのか?」 
 その問いにエレーナは微笑むと腰の軍刀を抜き放った。
「敵は必ず塹壕に意識が向かってます。それに、私たちなら10人で十分でしょう?」
 エレーナは挑発的な笑みを浮かべると他の者たちはニィッと笑った。

「総員、着剣。 今までの成果を見せましょう」


「……第2中隊を第1中隊の代わりに送りなさい」
 私はしばし悩んだ後そう命じた。
 第3歩兵中隊も動かせなくもないが、逆方向からの攻撃に対応するために各方位に分散して配置している。
「アウグスト少佐、戦車のエンジンに火を」
 私の言葉にアウグスト少佐は一瞬驚いたような顔をして「了解しました」と応じるとクラウス大尉とユリアン大尉に素早く仔細を命じていた。
 リマイナもそれに続いていこうとしていたので私は呼び止めた。
「リマイナ大尉はここに残りなさい」
 私の言葉に「第3中隊はどうしますか」とアウグスト少佐が尋ねた。
「貴方が指揮を執りなさい」
 そう命じるとアウグスト少佐はいささか目を輝かせた。
 老練な彼はここ最近後方から指揮を執ることが多かった。
「中隊指揮と大隊指揮を同時にできるかしら?」
 私は試すような笑みを浮かべてアウグスト少佐を挑発した。

「お任せください」

 老兵はただ静かにそう答えると二人の若い大尉を連れて地上へと出て行った。
「さて、ロレンス中佐。リマイナ大尉」
 地下室に残った二人に声をかける。
 旅団隷下の部隊はすべて稼働状態にした。
「貴方、大隊直轄の小隊を1個作ってたわよね」
 私はロレンス中佐に目を合わせることなくそう言った。
「……まだ、提案段階です」
 ロレンス中佐は苦し紛れにそう答えたが、それは苦しかった。
 確かに彼が出した書類は提案、という形だった。
「なら、予算は概算で出すべきね。慣れないことをするからよ」
 私の言葉にロレンス中佐は息をのんだ。
 軍学校で私たちの教官をしていた時から思っていたことだが、彼はいささか書類仕事や策謀の類に弱い。
 前線でたたきあげられたからだろうか。
「心にとどめておきます」
 ロレンス中佐はそう首を垂れると「お許しください」と詫びた。
 私は彼の言葉に「いいのよ、むしろよくやったわ」と微笑んだ。
「その小隊を今から今からΩ(オメガ)小隊とするわ。すべての始まりであり、すべてを終わらせる小隊。いいでしょう?」
 何かあれば私は選抜部隊を編成しては突撃を繰り返していた。
 一々編成するくらいなら最初から編成しておけばいい。
 きわめて合理的だ。
「Ω小隊に召集をかけるわ。今すぐここに集まりなさい」
 
 私の命令から3分と立たずに1個小隊がこの地下室に集合した。
「見慣れた顔も多いわね」
 並んだ兵たちを見ると中にはイギリス本土戦の生き残りも複数混ざっているようだった。
「あら、クロムスキン曹長がいないわね」
 私はアフリカの地から共に戦う兵の名を上げた。
 するとロレンス中佐は頭を抱えた。
「声はかけたんですが、どうも第2中隊がいいらしいです」
 その言葉に私は「そう、第2中隊」とつぶやいた。
 今彼らは敵と戦う最前線にいる。
 はたして彼は生きているだろうか。
「まぁいいわ。1人に固執してもしょうがないもの」
 私はそう切り捨てるとΩ小隊の面々に顔を向けた。
「さぁ諸君。戦争よ、闘争よ」
 口角を吊り上げ、自らを偽装する。
 戦争狂である別の自分を作り、彼らを鼓舞しなければならない。
「蛮勇であり、無謀であり、優秀である敵を屈服させなければならない」
 私の言葉に兵たちは笑みを浮かべる。
 根本的に彼らは普通の兵とは違うのだ。
 血肉争う闘争を好む、まさしく狩猟民族の血が流れていた。
「さぁ諸君、戦いましょう」
 私はそうにやりと笑った。


「クリア」
 銃火が激しくかわされる南に比べ、駐屯地の西側は比較的穏やか多だった。
「敵目視、5名ほど」
「西側の防衛は1個小隊とみていいですね」
 男たちの報告を聞いてエレーナはそう答える。
 彼女たちは現在、駐屯地の西側から侵入し周囲を警戒しながら前進していた。
 すると彼女たちの目の前には監視塔と鉄条網が張り巡らされた防衛線であった。
「外殻防御の内側にもこんなのがあるなんてな」
 男のつぶやきにエレーナは小さくうなずいた。
 彼我の距離は500メートル程。
「5名は前進してください。私が監視塔にいる敵を狙撃します」
 エレーナのつぶやきに誰も反論することはなかった。
 彼女の狙撃の腕は皆が認めるところであり、その腕は特殊な彼らの中でも群を抜いていた。
「敵は3名だ」
 男の言葉にエレーナは「ありがとうございます」と微笑むと小銃を構えた。
 確かにそこには3人の敵兵がいた。
 だが、エレーナは4度素早く射撃した。
「外したのか?」
 男の問いにエレーナは微笑むと「監視塔の中に一人いたので」と答えた。
 その言葉に男は呆然とした。
 見えてもいない敵を撃ち抜いたとでもいうのだろうか。
 いや、彼女ならできるかもしれない。
 直後、敵が騒がしくなる。
「見つかりましたかね。総員、自由射撃。制圧しながら各自前進してください」
 エレーナの命令は一見無責任のようにも感じた。
 だが、一々命令するよりも自由にやらせたほうが効果的であった。
「了解!!」
 喜々として笑みを浮かべる戦争狂(ウォーモンガー)がそこにはいた。


「緊急! 緊急!! 敵の精鋭部隊が接近中!!」
 第1旅団、第3歩兵中隊の第32小隊はエレーナ率いる精鋭班の猛攻撃を受けていた。
 そんな中で一人の兵が必死に地下室のリューイに叫ぶ。
「反撃しろ! 敵を近づけさせるな!!」
 小隊は混乱に包まれていた。
「敵は何人だ?!」
 副小隊長の声が響くが「わかりません!」と返すほかない。
 遮蔽物から顔を出せばすぐさま敵の狙撃を受ける。
「連中、バケモンだ!!」
 一人の兵がそうわめき始めた。
「手りゅう弾でも拳銃でもいい! とにかく反撃しろ!!」
 一人の軍曹がそう声を上げる。
 もはや、まともに射撃戦をするのは不可能だ。
「小隊長!!」
 通信兵が無線機からの通信を聞くなり、信じられないといった顔で傍らにいた小隊長に声をかけた。

「旅団長御自らこちらに出向かれるそうです!」
 

「第1、第3戦車中隊は南進。第2中隊は私についてきなさい。第3中隊各員もよ」
 私はそう言って命令を発する。
「ユリアン大尉、ついてこれるわね?」
 私の挑発的な笑みを浮かべる。
 するとユリアンはリマイナを一瞥すると姿勢を正し「お任せください!」と応じた。
 私はそれに微笑むとアウグスト少佐の肩をたたく。
「私の戦歴でもこんな事態は初めてよ、南に進出している歩兵中隊の指揮は任せるわ」
 その言葉に少佐は「承知!」と肩の力が抜けた美しい敬礼で応じた。
「貴方の経験を信頼するわ」
 この老練な将は何よりも経験を第一にしている。
 だからこそ、戦車大隊を使うときでも表立たず、私から直接ユリアン大尉とクラウス大尉に指揮をしていた。
 自らもより経験のある私から直接指揮をうけることで両大尉の経験不足を何とかしようとしたに違いない。
「さぁΩ小隊諸君! 行くわよ」
 私はそう声を上げ、こぶしを振り上げるとその後ろにΩ小隊の小隊員がその後ろに続いた。

「第2戦車中隊は一挙に前進し敵小部隊を索敵しなさい」
 私の命令にユリアン大尉は「了解!」と勢いよく応じると中隊を引き連れて一気に速度を上げた。
「さて皆さん、私たちはゆっくり行きますよ」
 そう微笑むと「応」と力強い返答が返ってきた。
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