ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

43話

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「敵は戦車中隊を投入したみてぇだな」
 エレーナのもとに後方から戦場を俯瞰していた者からの報告が届く。
「いいですねぇ。リューイ・ルーカス」
 エレーナは口角を吊り上げるとそう言って笑った。
「皆さん、対戦車戦闘はしたことありますか?」
 一旦物陰に隠れるとエレーナはそう言って笑った。
 それに配下の男たちは「ねぇな」と応じて笑う。
「ではご教授して差し上げましょう」
 エレーナはそう言って口角を吊り上げると不敵な笑みを浮かべた。

 一つ、戦車の視界は狭い。
「いいですか、平行方向には視野が利きますが、上下を確認するにはキューポラから顔を出すほかありません」
 エレーナの言葉通り兵たちは周囲の兵舎を占領するなり上層の階へと移動する。
 直下に敵の戦車が来た途端上からエンジンに向かって手りゅう弾を投擲する。

 一つ、敵は精鋭なのですぐに逃げましょう。
「退避ィ!!」
 エレーナは声を全力で鳴らして叫ぶとすぐさま兵舎から這い出た。
 それを狙って敵の歩兵が攻撃してくるが、慌てずに応戦する。

 一つ、敵は焦ると砲塔から身を乗り出します。
 何度かそんなことを繰り返して3両ばかり破壊すると敵は焦り、車長が砲塔から身を乗り出して索敵しようとする。
「迂闊ですねぇ」
 エレーナはそう言ってつぶやくと車長を狙撃する。
 直後、周囲に潜伏していた歩兵が車内に手りゅう弾を投げ込む。

「どうしたんですか! リューイ・ルーカス!! こんなものですか!」
 5両以上の戦車を破壊したところでエレーナは雄たけびを上げた。
 直後、エレーナの頬を銃弾が掠めた。


「第2小隊、全滅しました」
 私のもとにユリアン大尉に悲痛な声が届いた。
 第3中隊の歩兵小隊を1つ援護に付けたはずだが、無意味だったようだ。
「援護の歩兵小隊は?」
 私の問いにユリアン大尉は「敵歩兵により小隊長や下士官が狙撃され統率を失いました」と苦々しく答えた。
「そう、解ったわ。あなたたちは負傷者の収容に全力を尽くしなさい」
 私の命令にユリアン大尉は「まだやれる」と言いたかっただろう。
 だが、分不相応であると察したように「承知、致しました」と小さく答えた。
 私は通信を終えると後ろに振り返った。
「まだまだね」
 私の微笑みにリマイナは困ったような顔を浮かべた。
「誰もがリューイみたいにできるわけないよ」
「私、そんなに特殊かしら」
 私がおどけて笑うとリマイナは溜息を吐いた。
 そしてロレンス中佐に目線を向けると二人で苦笑いを浮かべていた。
「んふ、じゃぁそろそろ行くかしら」
 私はそう呟くと見張り台の上にするすると登っていった。
「じゃぁみんな、私が撃ったら射撃の後左右に展開ね」
 その言葉に皆が不敵な笑みを浮かべた。
「これからが、本番よ」
 小さく呟いてスコープの先にいるエレーナに照準を合わせる。
 そして、ゆっくりと引き金を引いた。


「敵の狙撃です」
 エレーナは傷口を拭うと物陰に隠れた。
「総員、野良犬が来ますよ」
 彼女は何か本能のようなもので感じ取っていた。
 今までの敵とは違う空気が周囲を支配していた。
「敵1個小隊! まっすぐこちらに向かってきます!!」
 その言葉を聞いてエレーナは確信した。
 こんな脳みそ筋肉な戦術を執るのはあの女しかいない。
「全員、物陰に隠れて応戦」
 弱気なエレーナの発言に皆が眉をひそめた。
「どうした、怖気づいたのか?」
 男はエレーナを挑発するように笑った。
 だが、エレーナは腰を下ろして銃を肩に立てかけると体育座りのような体勢になってしまった。
「ミハウェルが負けた相手ですよ」
 その言葉はひどく説得力があった。
 トゥハチェンスキは彼らの中でも飛びぬけていた。
 時折、未来でも見えているのではないかと思うほどだった。
「大丈夫です、あの野良犬は賢くも愚かなので」
 エレーナの言葉に皆が半信半疑であったが、お互いに目を見合わせて頷きあうとそれぞれ物陰に隠れた。
 その直後、猛烈な射撃が襲い掛かる。
「随分と気前がいいじゃねぇか」
 物陰で隣に隠れてる男がそう言って苦笑いを浮かべた。
「さて、敵はどう動きますかね?」
 エレーナはそう言って鏡を物陰からひょぃっと出す。
 すぐに銃弾で鏡が割られてしまう。
 だが、一瞬敵の動向を見ることができた。
「敵は横に展開して包囲しようとしてます」
 さすがは野良犬だとエレーナは敵を称えた。
「皆さん手りゅう弾は何個残ってますか?」
 エレーナの問いに皆口々に己が持つ手りゅう弾の残数を答えた。
 平均して残り3発ほど。
「さぁ。仕掛けましょう」
 エレーナはそう言って発煙弾を放り投げた。
 それに続いて男たちは右手に持った手りゅう弾を投擲する。


「手りゅう弾!」
 前線の兵がそう叫んだ。
「退避ィ!!」
 私はそう叫ぶと双眼鏡で敵をにらんだ。
 なるほどいいタイミングだ。
 1個分隊を正面に残して左右に残りの部隊を送った直後に仕掛ける。
 こうすれば左右の部隊は浮足立ち、結果として応戦できるのは中央の部隊しかいない。
「さすがはエレーナね」
 私はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
 トゥハチェンスキもなかなかに優秀だが、歩兵運用に限ればエレーナのほうが優秀かもしれない。
 直後、手りゅう弾が炸裂した。
「発煙弾が混じってます!」
 味方の兵が声を上げる。
 なるほど、手りゅう弾に発煙弾を紛れ込ませたようだ。
「総員──ッ!」
 私が命令を下すよりも早くエレーナが動いた。


「総員煙に紛れて突撃!!」
 エレーナは突然そう雄たけびを上げた。
 彼女の変貌に男たちは口角を吊り上げた。
 今こそ、決着をつける時。
 彼女の態度がそう物語っていた。
「ミハウェル。待っててね」
 エレーナはそう呟くと銃剣が付けられた小銃を手に持って、飛び出した。

「確実に物陰にいる連中を始末しながら進みなさい」
 エレーナは表情を険しくさせながら冷酷にそう命じた。
 この煙の中、敵は混乱を起こしている。
 対してエレーナ達は高度な訓練を積んでおり例え光のない暗闇であろうとお互いの位置を正確に把握することができる。


「総員! 一旦撤退しなさい! この監視塔を基準に前線を──」
 私が必死に命令を出していると耳たぶに銃弾が掠めて行った。
 鮮血が飛び散る。
 痛い、思わずうずくまりそうになる。
 だがここで私の姿が見えなくなれば兵は動揺を起こす。
「諸君! 落ち着きなさい!」 
 私はそう叫んで監視塔を降りた。
 
 下に降りるとそこには5名ばかりの兵しかいなかった。
 もうすでに10名以上が死んでいることを示唆していた。
 いまだ煙は晴れない。
 その奥からは拳銃や刺突する音。
 味方の兵が出しているであろううめき声が聞こえる。
「殺せ」
 煙の中から少女の声が響いた。
 直後、煙の中から5人の兵が飛び出す。
「応戦!!」
 私はとっさにそう叫んだ。
 敵は5人。こちらは私含めて6人。
 初撃を凌げば数の差で圧倒できる。
 しかし、それは甘い見積もりだった。
 飛び出してきた敵兵の手によって私の周囲にいた5人の味方の兵は刺殺された。
「りょだん……ちょう。にげ……」
 最期、見知った顔の兵がそう言って私に手を伸ばした。
 私は彼の手を握り返そうと腕を伸ばした。
 だが、私の手は空を切った。
「これまでです。リューイ・ルーカス大佐」
 私ののど元に銃剣が突き付けられた。
 ゆっくりと、視線を向けるとそこには

 ひどく冷酷な表情をした赤く長い髪を垂らしたエレーナが私に小銃を突き付けていた。
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