ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

文字の大きさ
95 / 127
第2章 新天地

50話

しおりを挟む
 状況を一旦整理しよう。
 まず、舞台はモスクワ西方100kmの中規模都市ドロホヴォ。
 円形に広がるその市街地を、ドイツ軍は猛烈な砲撃により現地に展開していた部隊諸共に粉砕。
 周辺警戒に当たっていた第36戦車師団がロンメル将軍の挑発に乗り突出。
 これを救うべくジューコフは2個戦車師団を差し向けるものの、ドイツ軍第14装甲師団に足止めされ、第36戦車師団は孤立状態である。
 しかしながら、数の差には無理がありロンメル将軍は右翼に展開していた第23装甲師団を左翼に転進させることで戦線の崩壊を防いだ。

 北方からはグデーリアン率いる第2装甲軍が迫る。
 現在彼らはドロホヴォ北方に築かれた防御陣地と交戦しており、現地を守る4個歩兵師団相手に苦戦している。

 南方からはホト大将率いる第3装甲軍が邁進。
 統合軍の左翼を支援しつつ、南方から包囲網を構築する。
 戦況はドイツ軍が圧倒的優位。
 しかしながら、ドロホヴォ東方からは無数の敵の大部隊がモスクワより迫る。
 時間がたてばたつほどソ連有利になるだろう。


「問題は第4装甲軍をどこに向かわせるかだ」
 戦闘を落ち着かせた指揮官たちは無線機で会話を交わしていた。
 ドロホヴォの西方を統合軍が、南方を第3装甲軍が、北方を第2装甲軍が抑えている今、第4装甲軍の扱いが問題になった。
 予備として後方に置くのもいいだろうが、それでは聊か勿体ないような気がしていた。
「敵の退路を断つか?」
 ヘプナー大将はそう提案した。
 それにグデーリアンは難色を示す。
「敵が意地になって抵抗するでしょう」
 古来より都市攻防戦で四方を囲むという戦術はとられてきた。
 だが、それは失敗することも多々あった。
 敵の士気が高ければ撤退することのできない敵は意固地になって抵抗しようとする。
「ソ連はそこまでの力があると?」
 ヘプナー大将の問いにグデーリアンは「そうです」と応じた。
 フランスを駆逐した彼にとってソ連とフランスはあまりにも違った。
 順序だった撤退や時折行われる敵の反撃はフランス軍が苦し紛れに行ってきたそれとはあまりにも質が違った。
「では中央に来てはいただけませんか?」
 ロンメルはそう尋ねた。
「貴隊と共に中央を支えればいいのか?」
 ヘプナーは怪訝そうに尋ねた。
 それに、ロンメルは口角を吊り上げて「違います」と答えた。

「我々がドロホヴォに突入にしましょう」

 モスクワのために訓練してきていた成果をこのドロホヴォで見せつけようとしていた。
 

「大佐、やるぞ」
 将軍たちとの会議を終えたロンメルは私にそう告げた。
「いいのですか」
 私はロンメルにそう尋ねかえす。
 彼の意はわかっている。
 市街地戦闘用に訓練してきていた歩兵部隊を投入するということであった。
「構わん、ここが正念場だ」
 ロンメルはそう言うと東をにらんだ。
 将軍たちの見解は一致した。
 この戦いでモスクワの趨勢が決定する。
「貴官には市街地突入のために露払いをしてもらいたい」
 ロンメルの言葉に私はニヤリと笑った。
「つまるところ、アレを突破しろと」
 私はそう言って地平線を指さした。
 そこには稜線から砲塔を出してこちらに砲撃してくる無数の戦車。
「そうだ、できないか?」
 ロンメルノ挑発するような言葉に私は毅然と答えた。
「将軍が、そう望まれるのなら。やりましょう」
 私の返答に「よろしい」と彼は答えると無線機を手に取り、集合を命じると後方にいた第4装甲軍と交代し一旦後退した。


「よく来てくれた。中佐」
 ジューコフは突然現れたトゥハチェンスキにそう微笑んだ。
「残りの部隊はどうだね」
「1時間としないうちにドロホヴォ郊外に到着します」
 トゥハチェンスキの返答にジューコフは不敵な笑みを浮かべた。
 これでソ連軍の戦力は40個師団を答えた。
 ドイツ軍の戦力を上回ったことになる。
「歩兵部隊を前線に押し上げろ! 敵と交戦している戦車師団は一旦後退しろ」
 ジューコフはそう言って命じた。
 彼の命令を聞いた参謀はそれぞれの方面に前線の構築を命じる。
 結果的に34個の歩兵師団のうち5個師団がドロホヴォ市街地に配置され、残りの師団が敵に対応するべく郊外の防衛線に配置された。
「中佐。今何個師団使える?」
 トゥハチェンスキに視線を転じるとジューコフはそう尋ねた。
「4個師団が戦闘用意を完了させております」
「そうか、どうだ。肩慣らしにでも行くか」
 ジューコフは笑みを浮かべてそう尋ねた。
 彼の問いにトゥハチェンスキは堂々と答える。

「肩慣らしと言わず、番犬を狩り取ってきましょう」

 トゥハチェンスキはそう答えると踵を返して指令室を出て行った。
 彼の後姿を見つめてジューコフは呟く。
「すべては貴官の筋書き通りか?」
 

「出撃用意!」
 トゥハチェンスキは自らの大隊のもとへとジープで向かうと飛び降りるなりそう声を上げた。
 それと同時に4個装甲師団隷下にいた合計8個の戦車連隊に出撃命令が下る。
 彼らの総指揮を命じられた准将はトゥハチェンスキのもとを訪れると肩をポンとたたいた。
「書記長の秘蔵っ子である貴官らの力を見せてくれ」
 いわれるまでもなかった。
 この市街地戦が今後の戦争の趨勢を大きく左右するというのはだれの目に見ても明らかだった。
 両軍あわせて80万以上の兵が戦っている。
「我々の力を見せつけるとします」
 トゥハチェンスキは見事な敬礼で応じると配下の戦車大隊に前進を命じた。
「ミハウェル、これからどうなるの?」
 爆速でドロホヴォの市街地を駆け抜けているとエレーナはそう不安げに尋ねた。
 彼女の問いにトゥハチェンスキは小さく微笑むと「大丈夫だ。俺たちが勝つ」と答えた。
 前世では奴に負けたが今度こそその首を掻っ切ってやる。
「どちらの筋書きが勝るか、勝負だ」
 不敵な笑みを浮かべて呟いた。


「さて、どうしたものかしら」
 私は頭を抱えていた。
 前世ではなかった展開だけに混乱していた。
 できるだけ、私の知識が活かせるように差異はほんの少しに収めて、いざと言う時に大きく方向を転換させようと思っていた。
 それが、この戦いであった。
 これから先は私の知識は活かせない。
 今までの経験と頭脳での勝負になる。
「えらく自信がなさそうだな」
 砲塔の上でぼうっと中空を見つめているとロンメルがそう声をかけてきた。
「えぇ。不安で押しつぶされてしまいそうです」
 私はそう言って笑った。
 この日のためにすべてを積み上げてきた。
 無数の兵を犠牲にしてきた。
 そのすべては、枢軸軍が勝利するために。
 我がリトアニアを戦後世界において史実のような目に合わせぬようにするためだった。
「こんなものは前哨戦に過ぎないぞ」
 ロンメルは力強い瞳で地平線を見つめるとそう言った。
 その先にはドロホヴォの市街があるが、彼が視ているのはそれではないだろう。
「モスクワ、スターリングラード。ゴーリキー……敵はいくらでも後退するぞ」
 終わりのない戦争を悲観して彼はそう言った。
 とんでもない戦争を始めたものだ。
 彼は心の中でヒトラーを少しばかり憎んでいた。
「モスクワを落とせば流れは大きく変わりますよ」
 私はそう言うと、後方へと目をやった。
 そこには小隊単位に分散した歩兵たちが作戦を確認していた。
「閣下の手腕を期待しております」
 私はそう言うと、微笑んだ。
 ロンメルはそれにニィッと笑うと「任せたまえ」と答えてその場を去っていった。
 その代わりにある男が声をかけてきた。
「旅団長、もうすぐで終わりですね」
「あら、中佐。珍しいわね」
 それはロレンス中佐だった。
 彼が楽観的な意見を述べるとは。
「彼らもこれで報われますな」
 彼の言葉に、私は小さくうなずいた
 脳裏に浮かぶのは同期の姿。
 そして、アフリカで人知れず死んでいった部下たち。
「えぇ。ここさえ落ちればモスクワは目の前よ」
 私は静かにそう答えた。
「我々が敵を穿つのであとは中佐にお任せしますよ」
 それに続くようにどこからか現れたアウグスト少佐が答えた。
 私たちに課せられた任務は一つ。
 敵の防衛網を食い破り、歩兵部隊の突入を支援する。
「あら、少佐震えているわよ」
 視線を落とすとアウグスト少佐の右手が震えていた。
「失礼な。武者震いですよ」
 彼の言葉に私はくふと笑う。
 私の陰に隠れていた彼だが、その実力は確かだ。
「少佐、普段出しゃばって申し訳ないわね」
「いえいえ。裏方も性に合っておりますので」
「そうかしら? なら、兵站部にでもいく?」
 私がそう言って冗談を言うと彼は「とんでもない!」と声を上げた。
「旅団長のようなお美しい女性を輝かせるのが好きなだけですよ」
 その言葉に私は口笛を吹いて感心した。
 ドイツ軍人らしからぬその振る舞い。
 やはり、部下に好かれるだけはある。
「んふ。うれしいことを言ってくれるわね」
 私はそう言って微笑むと両手をパンパンとたたいた。

「さて、仕事に戻りましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...