ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

51話

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「全部隊は作戦に則り前進を開始せよ!!」
 1941年11月7日。ロンメル率いる統合軍によるドロホヴォへの総攻撃が始まった。
 先頭の部隊はもちろんリューイ・ルーカス率いる第1旅団であった。
 レニングラードを陥落させた部隊がモスクワへ牙をむいた。


「第1中隊を先頭に右後方に第2中隊! 左後方には第3中隊よ!」
 先鋒の戦車大隊は上空から見て三角形のような陣形を取っていた。
 私は第2中隊と第3中隊の間に予備車両と共に陣取る。
 これは後方の歩兵大隊にも指揮を出せる位置だ。
 私たちは第4装甲軍の歩兵たちで構成された前線を歓喜の声に送られて飛び抜けると、ドロホヴォに向かって一直線に走り出した。
「各大隊、警戒を厳にしなさい」
 私はそう命じると双眼鏡をもって周囲を偵察する。
 陣形は縦に長く伸びている。
 例えばこれを横から攻撃されればひとたまりもない。
「前方から敵戦車大隊!!」
 その報告を聞いて、私は笑みを浮かべた。
 聞かずともわかる。
 敵の指揮官は彼しかいない。

「諸君! 因縁の相手が出てきたわよ!!」


「前方に敵先鋒集団!!」
 市街地を抜けると先頭を駆けていた第1中隊から報告が上がる。
「どうする?」
 エレーナの問いにトゥハチェンスキは毅然と答えた。
「どうもしない。数の暴力に任せて敵の出鼻を挫く」
 あくまでも彼は正面衝突を望んだ。
 彼らの背後には8つもの戦車連隊が続く。
「戦車数では大きく勝っているんだ。強者の戦いをするとしよう」
 トゥハチェンスキはそう答えると後方に「敵部隊発見」と報告を上げると声を上げた。

「第1中隊にすぐさま合流するぞ!!」


「敵大隊はいまだに交戦用意ができていないようです!」
 発見の続報は吉報であった。
 敵は市街地を抜けたばかりで部隊は大きく縦に伸びており、まともに戦える状況ではないという。
「素晴らしい!」
 歓喜の声を上げると無線機を手に取った。
「敵を各個撃破するわよ! 敵にひるまず突入しなさい!!」
 私の言葉に兵たちは「応!」と力強く応じた。
 
 私たちの目の前には敵歩兵部隊が構築した郊外の防衛線がある。
 だが、そんなもの我々の前には無意味であった。
「掃射!!」
 戦車に備えられた機銃により掃射された敵の塹壕はいとも簡単に歩兵部隊の侵入を許した。
「すぐさま乗車し行軍再開!!」
 塹壕を制圧しきる前にそう声を上げた。
 普通なら、このまま浸透したところで退路を切られこちらが包囲殲滅されてしまうだろう。
 だが、今回は違う。

「戦果を拡大せよ!!」
 ロンメルの号令と共に私たちが穿った戦線の穴に第14装甲師団と第23装甲師団が殺到する。
 すぐさまその突破口は拡大される。
「勝利は目前よ! 我々のすべてを尽くしてこの戦争を終わらせるわよ!」
 私は士気を上げるべくそう叫んだ。


「第1中隊、物陰に隠れて砲撃戦を行え!」
 トゥハチェンスキはそう叫びながら大隊の最後尾を駆ける。
 第2中隊がもう間もなく市街地を抜け、第3中隊はまだまだだ。
 この戦闘は彼の記憶に最もよく残っていた。
 前世でこの戦闘はトゥハチェンスキの敗北に終わり、その後ソ連は衰退の一途を辿った。
「そうはさせない」
 トゥハチェンスキはそう呟くと後方の連隊の一つに連絡を取り、市街地で待ち伏せするように依頼した。
 というのも、前回のソ連軍戦車部隊は縦隊で市街地を飛び出し、勢いそのままに番犬を迎撃しようとした。
 だが、番犬はそれを軽くいなすと進路を一旦北方へと変え、見事に歩兵大隊を市街地に送り込んだ。
 彼らは横隊で盾となり、その背後を歩兵部隊が駆け抜けていった。
 誰にも彼らを止めることはできず、我々は必死に歩兵部隊を食い止めようとしたがあえなく失敗。
 ドロホヴォは陥落した。
「未来を知っている者の強さだよ」
 トゥハチェンスキは得意げに笑った。
 

「敵戦車大隊が間もなく市街地から出てきます」
 偵察からの報告に私はニヤリと口角を吊り上げた。
「ここで逃げたら男が廃る」
 10余年、女として生きてきた。
 だが、ここにきて男としての矜持がよみがえりつつあった。
「悪いわね。みんな」
 私は小さくそういうと砲塔から身を乗り出し無線機を手に取って語る。
「敵の大隊は何度も刃を交えた因縁の相手よ! ここで逃げたら末代までの恥じゃない?」
 合理的な策ではない。
 真っ当な軍人、参謀であれば「ここは敵をいなして足止めしつつ、歩兵部隊を浸透させる」とでもいうのだろう。
 それは嫌だった。
 子供じみた理由かもしれない。
 死闘を繰り広げてきた相手との最後の戦いがそんなものであってはいけない。
「いいよ」
 リマイナがそう答えた。
 彼女の返答に続くように兵たちも声を上げる。
「んふ。意気やよし。大隊長いいかしら?」
 私は両大隊長にそう尋ねた。
 無線機の奥からは深いため息とともに二人の返答が返ってくる。
「まったく……構いませんよ」
「大隊長をお支えするまでです」
 ロレンス中佐とアウグスト少佐の返答に私は笑みを浮かべる。
「いつも迷惑をかけるわね」
「軍学校から慣れているので」
 私がそう言って詫びるとロレンス中佐は小さく笑ってから答えた。
 彼の返答を聞いて私は安堵した。
 小さく息を吐くとキッと目を見開く。

「私に続け!!」
 私は足元の操縦手を蹴飛ばすとそう声を上げた。


「敵大隊が来ます!!」
 予想外の報告にトゥハチェンスキはたじろいた。
 彼はこのような事態を想定していなかった。
 敵は必ず前世と同じように動くと思っていた。
「クソッタレ! これが番犬か!!」
 トゥハチェンスキは拳を握り締めて砲塔の側面を殴るとそううめいた。
 だが彼にはそんな暇はなかった。
「乱戦になるぞ! 距離を取れ!!」
 彼の命令に兵たちは素早く応じた。


「さすがね、冷静に距離をとった」
 私は敵の采配を見て唸った。
 さすがはトゥハチェンスキだ。
 彼の才覚を認めるほかないだろう。
「でも合理的に動くだけがすべてじゃないのよ」
 私はそう小さく笑みを浮かべる。
 右手を高く掲げ、背後に続く兵たちの視線を集める。
「第2中隊! 右翼へ!」
 私の号令と共に第2中隊が右翼へと進路を変える。
「各自自由射撃! 動きながらでも当てなさい!!」
 それは、むちゃな命令かと思うかもしれない。
 だが、開戦以降主要な戦闘をこなしてきた我が戦車大隊の練度は並ではない。
「第1中隊は左翼へ!」
 私は2つの中隊を左右に配置した。
 目的はただ一つ。
 敵に穴をあけることではない。
 ただ一つ。
 トゥハチェンスキを殺す。
「リマイナ。ついてこれるかしら?」
 私は挑発的な笑みを浮かべて背後のリマイナに笑いかけた。
 彼女は小さく笑うと自慢げに答えた。

「私を誰だと思ってるの?」
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