ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

61話

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「撃て!!」
 その頃、私は焦っていた。
 いくらリマイナが優秀と言えど、持ちこたえるのには限度がある。
「跳弾!!」
 だが、そう簡単に物事は運ばない。
「再度装填! 急ぎなさい!」
 私は砲塔から中に向かって叫ぶ。
 その間にも敵の戦車は私に向かって照準を合わすべく砲塔を旋回させる。
「全速前進! 敵戦車の後方を抜けるわ!」
 私は思い切って敵に向かうことにした
 敵は今、こちらに向かって横っ面を向けている。
 まだ、敵の主砲は私をとらえきれていない。
 直後、戦車はうなり声をあげて前進を開始した。
「装填完了!」
 装填手がそう叫んだ。
「引き付けるのよ!」
 私はそう叫んだ。
 敵はあと5両ほどいるはずだ。
 弾はできるだけ残したい。
「ファイア!」
 敵の車長の声が聞こえた気がした。
「停車!」
 そう叫ぶと、すぐさま戦車は停車する。
 勢いを一気に殺したがために慣性が私に働き、振り落とされそうになる。
 それでも何とか縁につかまり耐えると、敵の砲弾が目の前で炸裂した。
 砲弾が私の耳を掠めて行くが、なんということはない。
 満面の笑みを浮かべ、宣言するのだ。
「勝ったわ」
 直後、私は射撃を命じた。


「7号車撃破されました!」
「4号車と連絡とれません!」
 アレックス准将は村の中心部で息をひそめていた。
 もはや戦意は消えうせた。
 信じた王女に裏切られ、部下たちはどこか様子がおかしい。
「……短い間だったが、ご苦労だったな」
 アレックス准将はそう呟いた。
 足元の搭乗員たちは「面倒な上司につかまったものですよ」と笑った。
「あの王女は何者なんだろうな……」
 准将はそう呟いた。
 誰も答えることはできなかった。
「最期の一仕事をするとしよう」
 准将はそう呟くと、軍帽を目深にかぶった。
 直後、けたたましいエンジン音が響く。
 戦車に慣れていない准将ですら、それがなんなのか判別することは容易であった。
「野良犬だ」
 その直後、街路から1両の戦車が飛び出してきた。


「アレックス・フォード」
 敵を追い求めて村中心部の広場に出ると、1両の敵戦車がいた。
 距離は10メートルほど。
 いきなり撃たれるかと身構えたが、どうやらそうではないらしい。
「久方ぶりだな。番犬殿」
 目の前の男はそう言って私に笑みを浮かべた。
「4度目、ね」
 私の言葉にアレックスは「そんなになるか」と感慨深そうに笑った。
 1度目は、1939年の対ソ連戦。
 その時は味方だった。
 2度目は、フランス本土戦。
 ダンケルクから撤退しようとする英仏軍に対し、私が強襲上陸で奇襲攻撃を仕掛けた。
 その時、港湾防衛の任についていたのが、彼の部隊であった。
 3度目は、イギリス本土決戦。
 プリマスに上陸した私たちを迎撃したのは彼であった。
 思えば妙な縁だ。
「どれも私が勝ってるわ」
 私はそう言って笑った。
 彼は常に負け続けている。
 今回も、負ける気がしなかった。
「あぁ、君は常に勝っている」
 アレックスもそう言って私を認めた。
「だが、引導を渡すのは私だ」
 彼はそう言うと「ファイア!」と叫んだ。
 私はとっさに後進を命じ目をギュッと閉じるが、いつになっても衝撃を受けることはない。
 慌てて周りを見ると周囲は煙幕に包まれ、エンジンの音が少しずつ遠くなっていった。
「やられた!」
 私はそう叫ぶと、無線機をつかみ上げた。
「敵の大将首が遁走中! 逃がしてはならないわ!!」
 

「情けないですな。准将閣下」
 村の中を駆ける最中、射撃手がアレックス准将に笑った。
「虚勢を張る以外ないだろう?」
 虚勢を張り、あの番犬を身構えさせた隙に逃げる。
 姑息かもしれないが、狡猾と言ってほしいものだ。
「で、どこに逃げるんですか?」
 操縦手はそう言って尋ねた。
 それに准将は笑みを浮かべて答えた。
「王女殿下に仇なす、狩人の元へ」
 准将の目から光が消えていた。


「すばらしい!! 素晴らしいですわ!!」
 村で繰り広げられる光景を見て王女は恍惚とした笑みを浮かべていた。
「すべてはわたくしの思い通りですわ!」
 王女は高笑いをする。
 彼女の目は金色に光り輝いており、その姿には神々しさすらあった。
「発動のタイミングもわたくしの自由! これで野良犬を殺せますわ!!」
 この戦いは王女による人体実験のようなものであった。
 彼女はこの戦闘で自らの力と性能を試したのであった。
「ジャスパー! 今宵は宴ですわよ!」
 純粋無垢な笑みを浮かべる王女にジャスパーは頭を抱えた。
 いったい何がそんなに面白いのだろうか。
「ジューコフなんて要りませんわ! わたくし一人いればこの戦争に勝てますわ!」
 王女はそう言って笑うと、ドロホヴォを見つめた。
「ジューコフ閣下。あなたには英雄になっていただきますわ」
 彼女はそう言うと、無線機をつかんだ。
 
「総員、撤退ですわ。一旦立て直しますわ」


「中隊長! 敵が退いていきます!」
 敵部隊撤退。
 それをいち早く察知したのはリマイナであった。
「終わった……?」
 彼女はそう言って脱力するとヘナヘナと砲塔内に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
 装填手がリマイナの肩を支えると、そう尋ねた。
 その問いにコクリと頷くと大きなため息を吐いた。
「やっと、終わった」
 彼女は10両以上の敵戦車を撃破した。
 にもかかわらず1発たりとて被弾しておらず、それは神業というほかなかった。
 

 ドロホヴォの戦い。
 周囲で無数に発生した小規模戦闘をすべて合わせて、そう総称される。
 両軍は幾人もの優秀な将校を失い、戦死者数はいまだに統計がとれていない。
 この戦闘が終わった時、ドイツ軍の4人の将校は安堵のあまり腰を抜かしたという。
 しかしこれはまだまだ前哨戦。
 これから先に待ち受けるのはソ連首都。
 モスクワであった。
 11月10日にはドイツ軍は部隊の再編を終えるとモスクワへ迫った。
 
 対してソ連軍は名将ジューコフを失い、ソ連軍は慌てて西部戦線の司令官であったコーネフ元帥をモスクワ防衛総司令に任命。
 周辺の防御をかなぐり捨ててモスクワへ兵力を集中。
 しかしそれはあまりにも遅かった。
 ドイツ軍がモスクワに到達したとき、ソ連軍が用意できたのはドロホヴォの敗残部隊が10個。
 それに、極東や中東からドロホヴォ救援のために向かっていた師団が10個。
 南北の戦線から引き抜いた15個師団がモスクワへ向かうのみに過ぎなかった。
 もはやソ連軍が有する数の利は崩壊しつつある。
 
 ドイツ軍はドロホヴォで戦った合計30個師団のほかに後続の10個歩兵師団。
 数的にドイツはソ連を大きく上回った。
 戦争は佳境を迎えつつあった。
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