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最終章 終わりの刻
2話
しおりを挟む「モスクワはどのようにして攻めるか」
モスクワを目前にドイツ軍は進軍を停止。
ドロホヴォから40kmのクベンカに臨時司令部を置いた。
モスクワから3つ目の環状線を目前に作戦を確認していた。
「敵の数は少ない、おそらく我々の侵入経路に目星をつけて、重点的に守りを固めるだろう」
ヘプナーの言葉に皆がうなずいた。
「誰か一人が正面から攻勢をかけて、その間に南北から迂回するのはいかがですか?」
グデーリアンはそう尋ねた。
中央で敵主力を釘付けにしている間にこちらの主力が後方へ浸透する。
戦車の機動力をもってすれば可能だろう。
だが、それに意を唱えたものが居た。
「敵の増援が迂回中の部隊とかち合えば破綻しますよ」
ロンメルはそう言って彼の提案を否定した。
「ではグデーリアン。どうする」
ホトはロンメルに意見を求めた。
先の意見を否定するということは、何か代案があるに違いなかった。
「攻勢を1つの街道に絞ります」
その言葉を聞いて皆が呆然とした。
こちらは敵に兵力で勝っているのだ。
にもかかわらずそのような捨て身ともとれるような策を取る必要はあるのか。
「敵は2つか3つの街道に防衛目標を設定するでしょう。つまりは敵はこちらより少ないにもかかわらず分散せざるを得ない」
そう言ってロンメルは地図上の駒を3つの街道の上に置いた。
「我々は中央を一挙に打破するのです」
ロンメルはそう言うと一気に指揮棒で中央の駒を弾く。
まさしく電撃戦。
彼は独ソ戦最後の戦闘をそれで終わらせようとしていた。
「ドイツ空軍のほぼすべてのこの空域に投入。48時間以内にクレムリンを陥落させましょう」
若さゆえの挑戦。
彼の言葉を聞いて3人の将軍は笑みを浮かべた。
「帰ったらワインで祝杯をあげよう」
するとヘプナーがこんなことを言い出した。
「4軍の統合指揮をグデーリアン君に任せたい」
彼の言葉に異議を唱える者はいなかった。
グデーリアンは覚悟を決めたように力強くうなずくと手のひらを中空にささげた。
「ライヒに栄光あれ」
「先鋒はわが隊だ」
指揮所からの帰り道、ロンメルは副官のモスト大尉に嬉しそうに告げた。
「また、番犬を先頭に立たせるんですか?」
モスト大尉の問いにロンメルは笑みを浮かべると「悪いかね?」と尋ねた。
大尉は苦笑いを浮かべるとこう答えた。
「番犬も喜ぶでしょうな」
「最終決戦である。おそらく、敵の大規模な抵抗があるのはこれで最後であろう」
翌朝、グデーリアンが全軍に語り掛けた。
「これより、モスクワ攻略作戦を開始する。将校よ、兵の先頭に立ち兵の模範となれ」
彼の言葉に、将校たちは覚悟を決める。
「兵よ。将校の手足となり、目の前の敵を打ち滅ぼすべし」
兵たちは銃を握り締める。
「全速前進! 目標クレムリン! 腐った納屋の大黒柱を切り落としてしまえ!!」
彼の号令以下、4個の軍集団が前進を開始した。
また、後方からは10個の歩兵師団が続く。
時はまだ、1941年11月10日。
戦争の終わりが見え始めていた。
「閣下! ドイツ軍の攻勢です!!」
ドイツ軍進撃を開始する。
その報告は瞬く間にコーネフの元へと届けられた。
「現在コビャコヴォで第435師団が交戦中! しかしながら敵は膨大! 今すぐにも突破されかねません」
兵の報告を聞いてコーネフはたまらず尋ねた。
「ほかの街道からは来てないのか?!」
彼が防衛線を引いた街道は3つ。
真西へ延びるE30という道。
北西へと続くM9。
南西のE101、この3つであった。
「敵の攻勢はE30のみです!」
やられた。
コーネフはとっさに察知した。
「アラビノとペトロフスコエにいる師団をコビャコヴォへ送れ!」
すぐに彼はM9とE101に展開していた部隊を差し向けるように命じると、矢継ぎ早に指示を送る。
「後方の2個師団も送れ!」
この瞬間、コーネフは明らかなミスをした。
2個師団と言わずにもっと送るべきだったのだ。
だが、彼はそれができなかった。
ソ連軍35個師団のうち5個師団がカミラ王女と共にクリモフスクにいたためである。
彼女がそこにいるということには何か意味がある。
おそらく敵の迂回攻撃の情報を掴んでいるのだろうとコーネフは詮索してしまった。
それが彼に迷いを生ませた。
「前方に機銃陣地!」
「吹き飛ばしなさい!」
その頃、私は全軍の先頭に立ってコビャコヴォに展開する敵部隊を蹴散らしていた。
敵は1個師団というが、その割に砲の数が少ない。
「進め! 進め! 残党は後方の味方に任せなさい!」
私はそういって雄たけびを上げながら進む。
目の前では戦闘機が上空を制圧し、スツーカが地上を爆撃している。
敵が整わぬうちに私たちがそこへと突入する。
「こんな完璧に航空支援を受けられるのはフランス以来かしら」
うれしくなって私は笑みを浮かべた。
「この戦い負ける気がしないわ」
戦力を集中し、名将がそろい。
指揮はグデーリアンの元統一された。
ドロホヴォとは違い、敵は疲弊している。
「負けるはずがないじゃない」
「殿下、コビャコヴォで戦闘が始まった模様です」
王女のもとに戦闘が始まったという報告が届いたのは少ししてからであった。
「やっぱり、真正面から殴り込みに来ましたわね」
王女は地図を見てほくそ笑んだ。
敵がやや南から迂回してくる可能性も考えて東寄りにに陣取っていたが、その必要もなくなった。
「敵はE30のみ、ですわね?」
王女の問いにジャスパーは「そうです」と答えると地図上に駒を置く。
「我らは移動しますわ。目標はE101の街道上、アラビノですわ」
王女はそう言って戦闘が始まったコビャコヴォの真南にある街を指した。
それを見て、ジャスパーは彼女の意図を察した。
「本当にやるんですね?」
ジャスパーの問いに王女は鼻で笑うとこう答えた。
「今更怖気づくわけにはいきませんわ」
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