ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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最終章 終わりの刻

5話

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「進撃は順調のようです。アラビノでは統合軍第4軍団のブルガリア第2師団が交戦中のようですね」
 グデーリアンの元には戦勝報告が相次いで舞い込んでいた。
 特にすさまじいのはロンメルであり、進撃開始からわずか1時間足らずで8kmも前進し、早くもミチキノまで到達しようとしている。
 しかも、戦闘しながらである。
「ホト閣下の第3軍集団はコビャコヴォに着いたか?」
 グデーリアンの問いに副官は「戦力の3割ほどがコビャコヴォで命令を待ってます」と答えた。
 後続の部隊はいまだ、進軍中でまだ、コビャコヴォについていない。
「アラビノの第4軍団と入れ替わりで南進させろ」
 彼はそう命じた。
 E30街道だけで攻勢をかけるというのはロンメルの作戦であったが、どうしても彼はそれだけでは心もとなかった。
 1本の街道だけを進めば、簡単に後方を遮断され、簡単に孤立してしまう。
「いいんですか」
 参謀の問いにグーデリアンはうなずいた。
「遊兵とするわけにもいくまい」


「蹴散らせ! 対空砲なんかに怖気づくような訓練をした覚えはないわ!」
 その頃、私たちは苦戦していた。
 敵の76mm対空砲が思ったよりも、対戦車能力が高かった。
「歩兵大隊! 肉薄して爆破できるかしら?」
 私は戦況を変えるべく、ロレンス中佐を呼び出した。
「お任せください、我々の腕を信じてください」
 彼は端的にそう答えると、小隊を一つ呼び寄せた。
 その面々は見覚えがあった。
「あら、Ω小隊じゃないの」
 私の言葉にロレンス中佐は笑みを浮かべる。
「えぇ、戦車で援護していただけるのなら、つぶして見せましょう」
 中佐の頼もしい言葉に私は安堵した。
 彼がそう言うのなら、そうなのだろう。
「旅団長。リマイナ大尉の中隊をお貸しください」
「大尉に任せるわ」
 私はそう答えると判断をリマイナにゆだねた。
「いいよ、教官殿。行きましょう」
 リマイナはそう言って微笑むと、ロレンス中佐に手を差し伸べた。
 中佐はその手を掴み返すと「貴官に私の命を預けるぞ」と笑った。
 Ω小隊をまとめたロレンス中佐は地図を広げた。
「対空砲陣地の傍に森がある」
「うんうん」
 まるで何かの講義のようであった。
「旅団長がこっちから滑走路に侵入して……敵の気を引き付ける」
 突然出てきた私の名前に「えぇ? 私もやるの?」と声を上げると「勿論じゃないですか」と中佐は笑みを浮かべた。
「解ったわよ。それで?」
 私がそう言って地図を覗く。
「それで、敵がこっち向いて」
 対空砲陣地のある場所から滑走路のほうを指さす。
 どうやら、滑走路に侵入した私が注意を引き付けるということを指し示しているようだ。
「で、森から迂回した我々が、後ろから。どーん、だ」
 ロレンス中佐はそう言って手のひらを叩きつけた。
「で、どうやって滑走路に突入するのよ。あの有様よ」
 私はそう言って左右に滞空陣地が広がる滑走路を指さした。
 向かって右側には機関銃陣地が連なり、左側には対空砲陣地が連なる。
 その中をどうやって突入して気を引けというのだろうか。
「そりゃぁ、大佐の腕次第でしょう」
 中佐の言葉に私は苦笑いを浮かべた。
「いいわよ、やるんでしょ?」
 私の挑発的な笑みで問い返すとロレンス中佐は「任せてください」と答えた。
 小さくため息を吐いて、頬をぱんぱんと叩くとやる気を込めた。

「クラウス大尉、私に続いて滑走路に入るわよ。ユリアン大尉、援護してください」


「大佐、敵戦車中隊が滑走路に!」
 飛行場の司令は拳銃片手に指揮を執っていた。
「結局は力押しか!!」
 大佐はそう言ってこぶしを手すりにたたきつけた。
 結局は番犬の力押しだ。
「全力で押し返せ!」
 大佐はそう言って声を上げた。
 火力を集中させ、一気に押し返す。
 少しでも敵の橋頭保を築かれたら、番犬に付け込まれる。
「あの悪魔には気をつけろ」
 全軍にそう周知されている。
「とにかく全力で押し返せ!」
 大佐は躍起になっていた。


「あはは!! 流石はロレンス中佐ね!」
 滑走路に突入した私たちはすさまじい集中砲火を食らっていた。
 所詮機銃弾程度で4号戦車の装甲を貫通できるはずがない。
「旅団長! そろそろ対空砲がこっちに向きますよ!」
 操縦手がそういって声を上げた。
 バッとそちらを見やればこちらへとゆっくりと砲口を向けてくる対空砲があった。
「煙幕弾用意! 撃て!」
 私はそう叫ぶと、滑走路に向かって煙幕弾を撃たせる。
「一旦撤退するわよ」
 煙幕が展張されたのを確認すると私はそう言った。
 
「さ、リマイナ。頑張って」


「おぉ、旅団長は頑張ってるな」
 森の中からロレンス中佐は呑気に滑走路で起きていることを眺めていた。
「ほんと、むちゃするよね」
 リマイナもまた、どこか楽し気に言った。
 彼女は覚悟を決めて、砲塔の中に潜り込んだ。
「教官、ついてきてね」
 リマイナはそう言って無線機に笑うと「任せてくれたまえ」と中佐が答えた。
「第3中隊、全速前進。目標前方の対空砲陣地」
 彼女は低い声音でそう命じる。
 直後、唸り声をあげた戦車が森の中から飛び出し、飛行場へと躍り出る。
「散開! 敵をかく乱するよ!!」
 リマイナがそう声を上げると15両の戦車が一気に散開する。
 突然のことに対空砲を操作していた兵たちは追いつくことができない。
「分隊単位に移行! 制圧せよ!」
 ロレンス中佐がそう声を上げると、Ω小隊各位は二手に分散し、対空砲陣地を瞬く間に制圧する。
 その様子はまさしく神業であった。
 銃剣で敵の咽喉を切り裂き、小銃で敵の心臓を打ち抜く。
 正確無比なそれは一種の職人技のようであった。

「旅団長、こちらΩ小隊。制圧完了」


「まったく、早いわね」
 滑走路から一旦撤退した私のもとにロレンス中佐からの連絡が来たとき、まだ部隊を再編できていなかった。
 私は無線機を手に取ると、ある男に声をかけた。
「お父さん、悪いけど。あとはお願い」
 その言葉に「任せろ」と力強く応じたのは、父であった。
「第2旅団突入用意! 蹴散らせ!」
 父の声と共に、背後で構えていた装甲車が唸り声を上げた。
 装甲車は戦車に比べ、火力も低く、装甲も薄い。
 だが、大きく勝っていることがある。
「第1大隊は後方へ浸透! 第2大隊は歩兵大隊と共に侵攻!」
 彼は装甲車の砲塔から指示を飛ばす。

「娘にいいところを見せるとしようか」
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