ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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最終章 終わりの刻

6話

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「敵装甲車が突入してきました!」
 その頃、飛行場守備隊は絶望的状況にあった。
 番犬にかき乱され、気を取られているうちに敵の奇襲で対空砲を破壊されてしまった。
「クソッ! 増援はまだか!」
 大佐が声を上げると通信兵が「もう間もなく先鋒の連隊が来るそうです!」と答えた。
 もう少し、もう少し持ちこたえれば……。
「大佐! 敵装甲車が機材倉庫へ突入しました!」
 思案しているうちに状況は転じていたようだ。
「どこのだ!」
 彼がそう怒鳴ると「第26倉庫です!」と答える。
 その言葉を聞いて大佐は唖然とした。
 装甲車の突入からほんのわずかで、最も奥にあるはずの倉庫まで敵が侵入してきた。
「……。放棄する」
 大佐はそう命じた。
 西から侵入してきた敵がもうすでに最も東にある倉庫を攻撃している。
「もはや、この飛行場は敵の手中にある、これ以上の抵抗は無意味だ」
 大佐は覚悟を決めたのであった。
 仮に上層部から非難されようと。
「兵の命を最優先する」
 彼はそう命じた。


「敵が撤退するようです!」
 父が突入してからわずか10分の出来事だった。
「……なんなのよこの速さは」
 私はその光景を見て愕然としていた。
 装甲車なんて何に使えるんだろうか。
 どこかそう思っていた節があったが、ふたを開けてみればこれだ。
「どうだ。カッコいいだろう?」
 戻ってきた父は自慢げに笑った。
「はいはい、見直したわよ」
 私がそう言って笑うと父は満足げな表情をした。
 飛行場はつぶして、敵の守備隊は撤退した。
 航空機も、もうないだろう。
「ロンメル閣下、敵飛行場を落としたわよ」
 私がそう言って報告する。
「あぁ、了解した。このまま第4軍団と共同して東進したまえ」
 どうやら、彼は私に休ませる気はないらしい。
 おそらくはこの飛行場に向かって敵の増援が来てるだろう。
「貴官に自由にやっていい。第4軍団のストヤノフ大将にも『お願い』すれば大丈夫だろう」
 彼の言葉に私は苦笑いを浮かべた。
 最近の統合軍では私の声が大きくなりすぎているような気もする。
 私の提案を大将がすんなり聞き入れてくれる。
「……解ったわよ。蹴散らせばいいのね」
 私はあきらめたように笑うとモスクワをにらんだ。

「見てなさい。細切れにしてやるわ」


 のちに、この時のドイツ軍全体に漂っていた雰囲気をロレンス中佐が語っている。
「我々はどこか浮ついていた。この戦争が始まって以来、敗北という敗北をしていなかった我々は、どこか『勝つことが当たり前』になっていたのかもしれない」と。
 


「包囲せよ! 攻勢をかけよ! 後方へと回り込め!」
 その頃、第3軍集団のホト大将は2個装甲師団と共にアラビノを攻略していた。
 わずか1個連隊ながら敵は町の構造物を有効に活用し、頑強に抵抗していた。
「砲火を集中させろ!」
 ホトがそう激を飛ばすと、兵たちの士気は一層高まった。
 第3軍集団はホト大将が前線へと出て指揮を執り、味方を鼓舞することでその威力を倍増させる。
 それは、今までの戦線でも同じであった。
 大将という身でありながら、大隊指揮官のように前線に立つ。
 それでいてなおかつ参謀を有効活用し、後続部隊を手足のように使う。
 まさしく経験値が彼を支えていた。
「閣下、敵の機関銃が激しく、進入できません」
 前線からの報告に大将は溜息を吐く。
「どうしたものかな」
 ドイツ軍に綻びが見え始めていた。


「あら、随分と激しい戦闘ですわね」
 アラビノから数キロの所。
 少し小高い丘の手前で配下の部隊を休憩させた王女は丘の上に上るとアラビノを眺めていた。
 どうやら、ドイツ軍は市街地を囲むように戦車部隊を配置して、その後方に歩兵部隊を置いて機会をうかがっているようだ。
「敵の航空隊が北に行ったのは重畳ですね」
 ジャスパーがそういって笑った。
 敵の航空機が北に集まったことで戦場の霧が一時的にモスクワ南方に発生した。
 情報がほとんど入らず、カミラ王女達の行動が一切ドイツ軍に入らなくなった。
「さ、やりますわよ」
 王女は双眼鏡でホト大将が前線に出てきていることを確認すると自信ありげに笑った。
「砲兵部隊展開。目標はアラビノですわ」
 彼女の命令以下、各々の砲が準備を整える。
 その数およそ1000。
 500mの範囲に1m間隔で置かれたそれは、2つの砲列を形成していた。
「さて、ドイツ軍を地獄に叩き落しますわよ」
 彼女はそう宣言すると戦車に乗り込む。
「歩兵は戦車につかまりなさい」
 王女が現在有する戦車戦力はおよそ4個中隊。
 元親衛大隊の2個中隊と、独立近衛戦車大隊の2個中隊。
 この4個中隊の戦車に歩兵をしがみつかせる。
 いわゆるタンク・デサントであった。
 これにはトラックを用いずに高い機動力で前線に兵を送ることができるという利点がある。
「この戦い、そろそろ終わりにしますわよ」
 王女はそう命じると、無線機に向かって冷酷に告げた。
「各砲、連続射撃。戦場を耕しなさい」

 王女はそう命じると戦車をゆっくりと前進させた。
 一斉に発射された1000門の砲はアラビノ北部に降り注ぐ。
 そこには、第3軍集団の司令部があり、一時的に前線から下がっていたホト大将もその場にいた。
 一瞬空に閃光が走ったかと思うと、その直後には大地に爆炎が咲き乱れ、地面はひっくりかえった。
 息をつく間もなく第2射が放たれる。
 何度も、何度も放たれた。
 その砲撃は徐々に北へと向かう。

「前進! 残党を駆除致しますわ」
 カミラ王女はその耕された戦場をゆっくりと進むだけ。
 残党がいれば歩兵を下車させ、殲滅させる。
 圧倒的火力の暴力と統率。
 彼女にしか成しえない戦術であった。


「閣下、ホト大将と連絡がとれなくなりました」
 そのころ、グデーリアンのもとに報告が届いていた。
「どうせ小便にでも行かれているのだろう」
 彼はそう言って笑ったが、通信兵がそれを否定した。
「第3軍集団の前線にいた師団から『敵の反転攻勢あり』と……」
「戦死したとでもいうのか?!」
 グデーリアンは信じられないといったように言った。
 この近代戦において、将軍が死ぬことなどほとんどない。
 だが、彼にはある心当たりがあった。
「我々の癖が見抜かれたか」
 装甲部隊指揮官によくある癖。
 大昔の騎兵隊長のように先頭に立ちたがるということだ。
 そうでないにしても、歩兵軍団の指揮官よりははやり前線に指揮所を設ける癖がある。
「クソッタレ!」
 グデーリアンはそう言って指揮棒を地図上にたたきつけた。
 第3軍集団の戦力がなくなったわけではない。
 おそらくまだ戦力の半分以上は残っているはずだ。
 だが、問題はホト大将と彼が連れていた参謀が戦死した可能性が高いということ。
「ヘプナー大将には北進を続けてもらう! 我々が南より迫る敵の対処を行う!」
 グデーリアンは立ち上がると軍帽を目深にかぶった。

「仇討ちと行こうか」

 彼の声は、ひどく冷えていた。
「雨が、降ってきたな」
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