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最終章 終わりの刻
8話
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「なんだと?!」
第1旅団からの報告が届いたとき、ロンメルは声を荒げた。
「どういうことだ?!」
怒りではなかった。
番犬を信用するが故の疑問。
「考えていても仕方ない! 戦車部隊で援護しつつ後退! 後方のオジンツォボで市街地戦に持ち込むぞ!」
ロンメルはそう命じた。
彼は冷静であった。
現在ドイツ軍は非常に攻撃的になっていたため、突然の反撃に陣形が崩れた。
それを立て直すために、一旦市街地に逃げ込んで敵をかわそうとした。
だが、ソ連軍は常軌を逸していた。
「神のご加護があらんことを」
先頭を走る兵はそう呟いた。
「我らに神の祝福あらんことを」
中隊長は呟いた。
光のない瞳で。
「我ら、神罰の代行者である」
「撃て! 撃て!!」
第14装甲師団第3大隊はオジンツォボ正面を防衛していた。
彼らは迫りくる敵に向かって弾薬を投射し続けた。
「あいつら! 味方の死体を踏んで進んでくるぞ!!」
「構うものか! 撃ち続けろ!!」
敵のソ連軍はまるで蟻のようであった。
いくら殺しても次々と沸いてくる。
味方の死に表情一つ変えることなくこちらに向かって無表情で迫ってくる。
「う、うわあああああああああああ!!!」
ついに、一人の射撃手が取り乱した。
スコープで敵を覗き続ける彼は敵の異様さにいち早く気が付いた。
「何かつぶやきながらこっちに来やがる! あいつらはなんなんだ!!」
その直後、甲高い音が車内に響いた。
「なん……だ?」
車長が様子をうかがうべくキューポラから外を見ようとすると、目の前にソ連兵がいた。
そして、その兵はこうつぶやいた。
「神の御祝福あらんことを」
「あははあはは!! 完璧、完璧ですわ!!」
その頃、王女は高笑いをしていた。
すべて、彼女の思い通りに進んでいた。
「20万の兵もわたくしの手中にありますわ! 感情を無くした人形!! 私のいとおしき信徒たちよ!」
王女は、すべてをその支配下に置いていた。
いったい、その力はどこまで…・・・・。
彼女を隣で見つめていたジャスパーは背筋が凍った。
「端的に状況を説明してください!」
その頃、私たちは飛行場から西へと急行していた。
無線の相手は急行要請を送ってきたグデーリアン。
「いいか、心して聞け」
グデーリアンは大きく深呼吸した後そんなことを口にした。
一体何なのかと私は息をのむと、信じられないことを彼は口にした。
「第3軍集団の5割以上が『消滅』した」
「何の冗談よ」
私は思わずそう答えた。
第3軍集団の5割と言えば7個師団だぞ。
それが消滅とはどういうことだ。
「敵の砲撃で、すべてが、消し飛んだ」
「……まさか」
私はそう呟いた。
確かに、心当たりはある。
だが、その理論が完成するのは数年後のはず。
「防衛線を築いたとしてもそのすべてを吹き飛ばされる」
グデーリアンの言葉を聞いて私は確信した。
縦深攻撃。
荒唐無稽なその戦術はいたって簡単だ。
障害となる防衛線があるのなら、そのすべてを砲撃で消し飛ばせばいいじゃない。
この戦術理論で1944年のソ連軍は大躍進に成功した。
戦後、この戦術はより研鑽され、NATO軍はついぞ有効な反撃手段を考案することができあなった。
あのアメリカをもってして「戦術核を投下しながら撤退するほかない」と言わしめたのだ。
初見でこの戦術に対応できるはずがない。
「でもそんな砲兵どっから……!!」
その瞬間、自分を殴りたくなった。
今まで戦ってきた敵は異様に砲が少なかった。
急造の師団だから砲を持っていないのだろうと思っていたが、そうではなかったのだ。
この攻撃のために抽出されていたのだ。
気が付くチャンスは何度もあった。
だが、私はそれを見逃した。
これは私の失態だ。
だが、自らを悔いるよりも先にやることがある。
私は自らの手で頬を叩くと、覚悟を決めた。
「それで、私に何をしろっていうの?」
私の問いにグデーリアンはとんでもないことを言い出した。
「……本当に、やるのね」
すべてを聞き終えた私は最後にそう確認した。
彼は小さく笑うと答えた。
「覚悟は決めた」
「全軍! 突入せよ!!」
1530。ドイツ軍第2軍集団は南方より迫るカミラ王女の部隊へ全面攻勢を開始。
彼は配下の部隊を5つの梯団に分散させると、5列に並ばせた。
「次弾が放たれる間に進め! 数で圧倒するのだ!」
敵のあまりもの火力にどこか混乱していたが、敵は所詮5個師団に過ぎないのだ。
第2軍集団の15個師団のわずか1/3。
「まるで、ソ連軍みたいだな」
グデーリアンはそう自嘲した。
ドイツ軍らしく、機動力で圧倒するべきだっただろうか。
いや、これが最善策だと言い聞かせた。
「我に続け!!」
この無謀な作戦を成功させるため、彼は──。
自ら戦車に乗り先頭に立った。
「敵の15個師団がこちらにまっすぐ突っ込んできます!」
兵の報告を聞いた瞬間、カミラ王女は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたという。
「力業ながら、現状取れる最適解を導き出すとはさすがですわ」
グデーリアンの取った策は合理的であった。
大砲は確かに脅威だ。
だが、装填に時間がかかる。
要は相手の大砲が対応できるキャパシティーよりも早く、多くの兵を投入するだけだ。
「砲兵部隊はアラビノから東に1km行った平地で待機。各車停止歩兵を降ろしなさい、迎え撃ちますわよ」
王女は覚悟を決めていた。
彼女の意識は真正面に取られていた。
右翼から迫る餓狼のことなど、まるで知らなかったに違いない。
「旅団長! 前方に敵自動車化歩兵!」
西へと向かった私たちは、すぐに敵の自動車化歩兵部隊と遭遇した。
「構ってられないわ! 突破するわよ!」
私はそう叫ぶと「各車自由砲撃!」と命じた。
ここで、自動車部隊とまともに戦っている余裕なんてもはやない。
一足でも早く敵の砲兵を蹴散らさなければ。
グデーリアンが死ぬ。
「あんたらなんかに構ってられないのよ!」
そう叫んで、目の前にいる歩兵を蹴散らす。
「敵部隊! 迎撃しろ!!」
ソ連軍士官の声が聞こえる。
私は耳障りだといわんばかりにその方向へ射撃を命じる。
「私に続きなさい!!」
一瞬、敵に隙が見えた。
その瞬間、私は敵の戦列に突入する。
「全速よ! エンジンが壊れてもいいわ!!」
私の言葉に操縦手が「応!!」と応じると、エンジンの音がより一層大きくなった。
そのまま、一気に敵の戦列を突破する。
「全員いるわね?!」
私はそう叫んで、後方を睨む。
どうやら全部隊抜けられたようだ。
だが後ろを見ると敵は何とか追いすがらろうとこちらに迫ってきている。
さらに左右後方からは敵の増援が来ており、いずれ捕捉されるろう。
「娘よ! 第2旅団が遅滞戦闘を行う! 先に征け!!」
父はそう言って装甲車を反転させるとそう声を上げた。
「父さん!!」
私は何とか呼び止めようとした。
だが、彼は振り返ることはなかった。
「……ッ!! ご武運を!!」
私はそう叫ぶと前をにらんだ。
一刻も早く、あの悪魔を止める。
神に愛され、そして嫌われたあの悪魔を。
第1旅団からの報告が届いたとき、ロンメルは声を荒げた。
「どういうことだ?!」
怒りではなかった。
番犬を信用するが故の疑問。
「考えていても仕方ない! 戦車部隊で援護しつつ後退! 後方のオジンツォボで市街地戦に持ち込むぞ!」
ロンメルはそう命じた。
彼は冷静であった。
現在ドイツ軍は非常に攻撃的になっていたため、突然の反撃に陣形が崩れた。
それを立て直すために、一旦市街地に逃げ込んで敵をかわそうとした。
だが、ソ連軍は常軌を逸していた。
「神のご加護があらんことを」
先頭を走る兵はそう呟いた。
「我らに神の祝福あらんことを」
中隊長は呟いた。
光のない瞳で。
「我ら、神罰の代行者である」
「撃て! 撃て!!」
第14装甲師団第3大隊はオジンツォボ正面を防衛していた。
彼らは迫りくる敵に向かって弾薬を投射し続けた。
「あいつら! 味方の死体を踏んで進んでくるぞ!!」
「構うものか! 撃ち続けろ!!」
敵のソ連軍はまるで蟻のようであった。
いくら殺しても次々と沸いてくる。
味方の死に表情一つ変えることなくこちらに向かって無表情で迫ってくる。
「う、うわあああああああああああ!!!」
ついに、一人の射撃手が取り乱した。
スコープで敵を覗き続ける彼は敵の異様さにいち早く気が付いた。
「何かつぶやきながらこっちに来やがる! あいつらはなんなんだ!!」
その直後、甲高い音が車内に響いた。
「なん……だ?」
車長が様子をうかがうべくキューポラから外を見ようとすると、目の前にソ連兵がいた。
そして、その兵はこうつぶやいた。
「神の御祝福あらんことを」
「あははあはは!! 完璧、完璧ですわ!!」
その頃、王女は高笑いをしていた。
すべて、彼女の思い通りに進んでいた。
「20万の兵もわたくしの手中にありますわ! 感情を無くした人形!! 私のいとおしき信徒たちよ!」
王女は、すべてをその支配下に置いていた。
いったい、その力はどこまで…・・・・。
彼女を隣で見つめていたジャスパーは背筋が凍った。
「端的に状況を説明してください!」
その頃、私たちは飛行場から西へと急行していた。
無線の相手は急行要請を送ってきたグデーリアン。
「いいか、心して聞け」
グデーリアンは大きく深呼吸した後そんなことを口にした。
一体何なのかと私は息をのむと、信じられないことを彼は口にした。
「第3軍集団の5割以上が『消滅』した」
「何の冗談よ」
私は思わずそう答えた。
第3軍集団の5割と言えば7個師団だぞ。
それが消滅とはどういうことだ。
「敵の砲撃で、すべてが、消し飛んだ」
「……まさか」
私はそう呟いた。
確かに、心当たりはある。
だが、その理論が完成するのは数年後のはず。
「防衛線を築いたとしてもそのすべてを吹き飛ばされる」
グデーリアンの言葉を聞いて私は確信した。
縦深攻撃。
荒唐無稽なその戦術はいたって簡単だ。
障害となる防衛線があるのなら、そのすべてを砲撃で消し飛ばせばいいじゃない。
この戦術理論で1944年のソ連軍は大躍進に成功した。
戦後、この戦術はより研鑽され、NATO軍はついぞ有効な反撃手段を考案することができあなった。
あのアメリカをもってして「戦術核を投下しながら撤退するほかない」と言わしめたのだ。
初見でこの戦術に対応できるはずがない。
「でもそんな砲兵どっから……!!」
その瞬間、自分を殴りたくなった。
今まで戦ってきた敵は異様に砲が少なかった。
急造の師団だから砲を持っていないのだろうと思っていたが、そうではなかったのだ。
この攻撃のために抽出されていたのだ。
気が付くチャンスは何度もあった。
だが、私はそれを見逃した。
これは私の失態だ。
だが、自らを悔いるよりも先にやることがある。
私は自らの手で頬を叩くと、覚悟を決めた。
「それで、私に何をしろっていうの?」
私の問いにグデーリアンはとんでもないことを言い出した。
「……本当に、やるのね」
すべてを聞き終えた私は最後にそう確認した。
彼は小さく笑うと答えた。
「覚悟は決めた」
「全軍! 突入せよ!!」
1530。ドイツ軍第2軍集団は南方より迫るカミラ王女の部隊へ全面攻勢を開始。
彼は配下の部隊を5つの梯団に分散させると、5列に並ばせた。
「次弾が放たれる間に進め! 数で圧倒するのだ!」
敵のあまりもの火力にどこか混乱していたが、敵は所詮5個師団に過ぎないのだ。
第2軍集団の15個師団のわずか1/3。
「まるで、ソ連軍みたいだな」
グデーリアンはそう自嘲した。
ドイツ軍らしく、機動力で圧倒するべきだっただろうか。
いや、これが最善策だと言い聞かせた。
「我に続け!!」
この無謀な作戦を成功させるため、彼は──。
自ら戦車に乗り先頭に立った。
「敵の15個師団がこちらにまっすぐ突っ込んできます!」
兵の報告を聞いた瞬間、カミラ王女は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたという。
「力業ながら、現状取れる最適解を導き出すとはさすがですわ」
グデーリアンの取った策は合理的であった。
大砲は確かに脅威だ。
だが、装填に時間がかかる。
要は相手の大砲が対応できるキャパシティーよりも早く、多くの兵を投入するだけだ。
「砲兵部隊はアラビノから東に1km行った平地で待機。各車停止歩兵を降ろしなさい、迎え撃ちますわよ」
王女は覚悟を決めていた。
彼女の意識は真正面に取られていた。
右翼から迫る餓狼のことなど、まるで知らなかったに違いない。
「旅団長! 前方に敵自動車化歩兵!」
西へと向かった私たちは、すぐに敵の自動車化歩兵部隊と遭遇した。
「構ってられないわ! 突破するわよ!」
私はそう叫ぶと「各車自由砲撃!」と命じた。
ここで、自動車部隊とまともに戦っている余裕なんてもはやない。
一足でも早く敵の砲兵を蹴散らさなければ。
グデーリアンが死ぬ。
「あんたらなんかに構ってられないのよ!」
そう叫んで、目の前にいる歩兵を蹴散らす。
「敵部隊! 迎撃しろ!!」
ソ連軍士官の声が聞こえる。
私は耳障りだといわんばかりにその方向へ射撃を命じる。
「私に続きなさい!!」
一瞬、敵に隙が見えた。
その瞬間、私は敵の戦列に突入する。
「全速よ! エンジンが壊れてもいいわ!!」
私の言葉に操縦手が「応!!」と応じると、エンジンの音がより一層大きくなった。
そのまま、一気に敵の戦列を突破する。
「全員いるわね?!」
私はそう叫んで、後方を睨む。
どうやら全部隊抜けられたようだ。
だが後ろを見ると敵は何とか追いすがらろうとこちらに迫ってきている。
さらに左右後方からは敵の増援が来ており、いずれ捕捉されるろう。
「娘よ! 第2旅団が遅滞戦闘を行う! 先に征け!!」
父はそう言って装甲車を反転させるとそう声を上げた。
「父さん!!」
私は何とか呼び止めようとした。
だが、彼は振り返ることはなかった。
「……ッ!! ご武運を!!」
私はそう叫ぶと前をにらんだ。
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