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最終章 終わりの刻
12話
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「旅団長! もう少しで森を抜けますよ!」
操縦手の言葉に私は「解ったわ!」と答えると、砲手の肩を叩いた。
「後一発撃ったら機銃での反撃に切り替えなさい」
私の言葉を聞いた砲手は特に疑問も呈すことなく了承した。
どうしてかと尋ねられないのも寂しいものだと小さく笑う。
部下からの無限の信頼というのはこうも頼もしいのかとも思う。
「残弾は後どれくらいかしら?」
私の問いに装填種がすぐさま答える。
「徹甲弾があと2発です。榴弾は10発てところですかね」
彼の素早い返答に私は頷く。
素晴らしい部下をもったものだ。
「私は貴方達を信じてるわ。みんなを信じてるわ」
足元の搭乗員たちにそうこぼす。
「後少しだけ、付き合って」
私の言葉に、答える者はいなかった。
だが、皆が表情を切り替えた。
「あの狂信者を欺くわよ」
「撃て」
森の林道を抜けるリマイナはガタガタと揺れる車内でも、その藍色の瞳でリューイの戦車を正確に捉えていた。
「次弾装填」
彼女の言葉に感情はなく、淡々と事務処理かのように戦闘をこなしていた。
その直後、目の前の戦車が発砲した。
「殿下、徹甲弾の残弾は残り1発です」
リマイナはそう言って王女へと報告した。
「適当に反撃して」
彼女の命令は酷く適当なものだった。
「野良犬はあと1発しか徹甲弾を持ってないそうですわ!」
王女は嬉々としてジャスパーに告げた。
「それは……」
正確な情報なのか。ジャスパーはそう尋ねることが出来なかった。
王女は最早、自らを止める術を失っていた。
「ジャスパー、ここで待ちなさい」
彼女はそう命じると自らは林道の中央に陣取った。
「森を抜けた野良犬をここで待ち構えますわ」
暫くすると、森からけたたましいエンジン音が響き渡った。
「来た」
ジャスパーはそう呟いた。
林道の中央で、王女は野良犬が出てくるのを待ち構えている。
100対1。
圧倒的戦力差だ。
負けるはずもない。
だが──。
「なんだ、この不安感は」
「みんなもう少しで森を抜けるわよ!」
私はそう叫んだ。
恐らく、森を抜けた先には王女が待っている。
それも一人で。
彼女は今油断している。
漬け込む隙はほんの一瞬だろう。
「信じてるわよ」
私は小さく呟いた。
もう、あれは5年も前のことになるのか。
1935年12月27日。
バルト諸国の統一戦争に我がラトビアは乗り出した。
その時、私はエストニアの首都。リガ攻防戦に参加していた。
作戦開始から数時間が経ったあるとき。
味方の被害が急増し、我がラトビア軍は危機に瀕した。
それを聞いた私は錯乱してしまった。
今思えば若く、無様な振る舞いだったと頬が熱くなる。
その時に、止めてくれたのはリマイナだった。
あろうことか私は彼女に拳銃すら向けた。
セーフティーだって外していた。
だが、彼女は自らの身を挺して、私を止めてくれたのだ。
「クソッタレの狂信者なんかに操られるだけじゃないって信じてるわよ」
私は祈るように後ろから追いすがるリマイナに笑った。
「もう間もなく、森を抜けます」
「解りました。射撃を変わってもらえますか?」
操縦手の報告を聞いたリマイナは砲手にそう尋ねた。
「了解、車長業務を承ります」
砲手は疑問を呈すこともなくそう答えると、リマイナと入れ替わった。
席に着いたリマイナは表情一つ変えることなくスコープを覗いた。
その先には、リューイの戦車が確りと捉えられている。
引き金さえ引けばいつでもあの野良犬を殺すことが出来る。
「神のご加護があらんことを」
リマイナは小さくそう呟いた。
「射撃用意!」
森を抜ける寸前、私はそう叫んだ。
「横に向けて、撃ちなさい」
私はそう命じると、砲手は怪訝そうな顔をしたがすぐにとりかかった。
素早く砲塔を旋回させると、引き金を引く。
「いんですかい。次で最後ですよ」
その問いに私は小さく笑った。
「えぇ、一発あれば十分よ」
「敵戦車発砲」
「大丈夫です。このまま王女殿下と挟み撃ちにします」
砲手の言葉にリマイナは静かに応じた。
彼女は詰将棋かのように一手一手詰め寄る。
「殿下、もう野良犬に残弾は ありません 」
その言葉を聞いて無線機の奥から嬉々とした答えが返って来た。
「ではそのまま野良犬を駆り出しなさい!」
「了解」
王女からの言葉にそう答えたリマイナは小さく──
ほくそ笑んだ。
「カミラ王女、貴方は殺さなくちゃならないの」
「野良犬、必ず殺しますわ」
二人の声が重なった瞬間、森から戦車が飛び出した。
「用意!」
王女はそう声を上げた。
この一撃で全てを終わらせる。
なにせ、野良犬はもう徹甲弾を持っていない。
「リマイナァ!!」
王女が照準を合わせるよりも早く、私は砲塔から身を乗りだした。
「解ってるよ、私の親友」
リマイナは小さくそう呟くと、引き金を引いた。
「ファイア!!」
王女は確実に殺したという確信をもってそう叫んだ。
彼女の声とともに、主砲が唸る。
その砲煙で一瞬視界が遮られる。
それが、命とりだった。
リマイナの戦車から放たれた砲弾は寸分の狂いもなく、私の戦車の履帯を貫いた。
直後、すさまじい衝撃とともに戦車は急速に右旋回を始める。
それと同時に王女の戦車は砲を放った。
「私の勝ちよ!!」
私はそう勝利宣言すると煙も晴れぬうちに射撃を命じた。
だが、私の戦車から放たれた砲弾は王女の戦車を貫くことはついぞ叶わなかった。
低く、鈍い音と共に戦車の前面から衝撃が王女を襲う。
野良犬が放った砲弾だった。
「小賢しいですわね! でも次は外し──」
王女はそう言って煙の奥を睨む。
そこには──。
彼女に砲口を向ける、リマイナの戦車が。
「ごめんなさい。私は神に屈するつもりはないから」
リマイナはそう呟くと、再度引き金を引いた。
その砲弾は寸分の狂いもなく、王女の戦車を捉えていた。
そして、リューイの砲弾が直撃したところに、突き刺さった。
「貴方に私は超えられない」
操縦手の言葉に私は「解ったわ!」と答えると、砲手の肩を叩いた。
「後一発撃ったら機銃での反撃に切り替えなさい」
私の言葉を聞いた砲手は特に疑問も呈すことなく了承した。
どうしてかと尋ねられないのも寂しいものだと小さく笑う。
部下からの無限の信頼というのはこうも頼もしいのかとも思う。
「残弾は後どれくらいかしら?」
私の問いに装填種がすぐさま答える。
「徹甲弾があと2発です。榴弾は10発てところですかね」
彼の素早い返答に私は頷く。
素晴らしい部下をもったものだ。
「私は貴方達を信じてるわ。みんなを信じてるわ」
足元の搭乗員たちにそうこぼす。
「後少しだけ、付き合って」
私の言葉に、答える者はいなかった。
だが、皆が表情を切り替えた。
「あの狂信者を欺くわよ」
「撃て」
森の林道を抜けるリマイナはガタガタと揺れる車内でも、その藍色の瞳でリューイの戦車を正確に捉えていた。
「次弾装填」
彼女の言葉に感情はなく、淡々と事務処理かのように戦闘をこなしていた。
その直後、目の前の戦車が発砲した。
「殿下、徹甲弾の残弾は残り1発です」
リマイナはそう言って王女へと報告した。
「適当に反撃して」
彼女の命令は酷く適当なものだった。
「野良犬はあと1発しか徹甲弾を持ってないそうですわ!」
王女は嬉々としてジャスパーに告げた。
「それは……」
正確な情報なのか。ジャスパーはそう尋ねることが出来なかった。
王女は最早、自らを止める術を失っていた。
「ジャスパー、ここで待ちなさい」
彼女はそう命じると自らは林道の中央に陣取った。
「森を抜けた野良犬をここで待ち構えますわ」
暫くすると、森からけたたましいエンジン音が響き渡った。
「来た」
ジャスパーはそう呟いた。
林道の中央で、王女は野良犬が出てくるのを待ち構えている。
100対1。
圧倒的戦力差だ。
負けるはずもない。
だが──。
「なんだ、この不安感は」
「みんなもう少しで森を抜けるわよ!」
私はそう叫んだ。
恐らく、森を抜けた先には王女が待っている。
それも一人で。
彼女は今油断している。
漬け込む隙はほんの一瞬だろう。
「信じてるわよ」
私は小さく呟いた。
もう、あれは5年も前のことになるのか。
1935年12月27日。
バルト諸国の統一戦争に我がラトビアは乗り出した。
その時、私はエストニアの首都。リガ攻防戦に参加していた。
作戦開始から数時間が経ったあるとき。
味方の被害が急増し、我がラトビア軍は危機に瀕した。
それを聞いた私は錯乱してしまった。
今思えば若く、無様な振る舞いだったと頬が熱くなる。
その時に、止めてくれたのはリマイナだった。
あろうことか私は彼女に拳銃すら向けた。
セーフティーだって外していた。
だが、彼女は自らの身を挺して、私を止めてくれたのだ。
「クソッタレの狂信者なんかに操られるだけじゃないって信じてるわよ」
私は祈るように後ろから追いすがるリマイナに笑った。
「もう間もなく、森を抜けます」
「解りました。射撃を変わってもらえますか?」
操縦手の報告を聞いたリマイナは砲手にそう尋ねた。
「了解、車長業務を承ります」
砲手は疑問を呈すこともなくそう答えると、リマイナと入れ替わった。
席に着いたリマイナは表情一つ変えることなくスコープを覗いた。
その先には、リューイの戦車が確りと捉えられている。
引き金さえ引けばいつでもあの野良犬を殺すことが出来る。
「神のご加護があらんことを」
リマイナは小さくそう呟いた。
「射撃用意!」
森を抜ける寸前、私はそう叫んだ。
「横に向けて、撃ちなさい」
私はそう命じると、砲手は怪訝そうな顔をしたがすぐにとりかかった。
素早く砲塔を旋回させると、引き金を引く。
「いんですかい。次で最後ですよ」
その問いに私は小さく笑った。
「えぇ、一発あれば十分よ」
「敵戦車発砲」
「大丈夫です。このまま王女殿下と挟み撃ちにします」
砲手の言葉にリマイナは静かに応じた。
彼女は詰将棋かのように一手一手詰め寄る。
「殿下、もう野良犬に残弾は ありません 」
その言葉を聞いて無線機の奥から嬉々とした答えが返って来た。
「ではそのまま野良犬を駆り出しなさい!」
「了解」
王女からの言葉にそう答えたリマイナは小さく──
ほくそ笑んだ。
「カミラ王女、貴方は殺さなくちゃならないの」
「野良犬、必ず殺しますわ」
二人の声が重なった瞬間、森から戦車が飛び出した。
「用意!」
王女はそう声を上げた。
この一撃で全てを終わらせる。
なにせ、野良犬はもう徹甲弾を持っていない。
「リマイナァ!!」
王女が照準を合わせるよりも早く、私は砲塔から身を乗りだした。
「解ってるよ、私の親友」
リマイナは小さくそう呟くと、引き金を引いた。
「ファイア!!」
王女は確実に殺したという確信をもってそう叫んだ。
彼女の声とともに、主砲が唸る。
その砲煙で一瞬視界が遮られる。
それが、命とりだった。
リマイナの戦車から放たれた砲弾は寸分の狂いもなく、私の戦車の履帯を貫いた。
直後、すさまじい衝撃とともに戦車は急速に右旋回を始める。
それと同時に王女の戦車は砲を放った。
「私の勝ちよ!!」
私はそう勝利宣言すると煙も晴れぬうちに射撃を命じた。
だが、私の戦車から放たれた砲弾は王女の戦車を貫くことはついぞ叶わなかった。
低く、鈍い音と共に戦車の前面から衝撃が王女を襲う。
野良犬が放った砲弾だった。
「小賢しいですわね! でも次は外し──」
王女はそう言って煙の奥を睨む。
そこには──。
彼女に砲口を向ける、リマイナの戦車が。
「ごめんなさい。私は神に屈するつもりはないから」
リマイナはそう呟くと、再度引き金を引いた。
その砲弾は寸分の狂いもなく、王女の戦車を捉えていた。
そして、リューイの砲弾が直撃したところに、突き刺さった。
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