ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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最終章 終わりの刻

15話

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「何か、お困りでしょうか?」
 私の問いにロンメル将軍は「大佐か」と答えた。
「戦車が故障するかもなんて、もはや気にしてはいけませんわ」
 ロンメルに向かってそう言い放つ。
 この局面にあって戦車が死体を巻き込んで云々など気にしてはいられない。
 敵が態勢を立て直す前にこの戦争の趨勢を決定させなければならない。
「兵は腰が引けているんだ。もはや勝敗は決まったよ」
「いいえ、まだですよ」
 私はロンメルの言葉を否定した。
 死体を轢き潰すのは気が引けるだろう。
 だが、ソ連を甘く見てはいけない。
「ナポレオンはモスクワを落としてもロシアは屈しませんでしたね」
 
「私が兵の先陣を切り模範となりましょう」


「と、言ったものの。戦車がないのよね」
 私はそう言ってリマイナに視線を向けた。
「……嫌な予感がするんだけど」
 リマイナの言葉にわたしは「何のことかしら」と笑った。
 すると彼女は溜息を吐いた。
「私の車両にいたはずの砲手がどこかへと消えている理由を押してくれる?」
「あら、奇遇ね」
 私はそう言って笑った。
 彼らは事前に乗組員が不足した車両へ配属させた。
 それは、私と共に乗っていた乗組員たちも同じだった。
「貴女が砲手で、私が車長よ」
 私の言葉を聞いて、リマイナは苦笑いを浮かべた。
「外したからって昔みたいに蹴らないでね?」


「さて、みんな。行きましょうか、最後の悪足掻きをしますよ」
 その頃、エレーナは残った部下を集めるとそう言い放った。
 残る戦力はわずかに15両。
「同志のために、私たちは時間を稼ぎます」
 彼女の使命はたった一つ。
 コーネフが自軍をまとめ、後方との連絡を取る時間を稼ぐ。
 成功すれば無事にモスクワに展開しているソ連軍は降伏する。
 だが、時間を稼げなければ無益な血が流れる。
「10万の同志が無駄死にせぬように私たちが無駄死にしますよ」
 エレーナの言葉に兵たちは「応」と静かに応じる。
「そして、祖国復興の証として。国民の魂に私たちの戦いぶりが刻まれることでしょう」
 彼女はそう言って胸に下がるネックレスを握り締めた。
 おそらく、エレーナに率いられた1個中隊は戦後、ロシア国民に刻まれる。
「ドイツへの独立の証として。私たちはここで死にます」

 死して英雄となる必要があった。

「恐れることなかれ! 同志を見捨てることなかれ!」
 エレーナはそう言ってこぶしを突き上げる。

「我らソビエトの先兵であり殿である! 死することが我らが使命なり!!」


「諸君、いよいよ最後の戦いだ」
 その頃、私もまた敵を前にして兵たちに訓示を行っていた。
「何度同じ言葉を言ったか、数えてもきりがないわね」
 私がそう言って苦笑いを浮かべると兵たちも「違いない」と笑った。
「しかし、今度こそ文字通り最後の戦いよ」
 そう言ってこぶしを握り締める。
 長かった。
 ここまで長かった。
 だが、これで終わるんだ。
「敵は戦力を再編していて浮足立っているわ」
 ソ連軍はすべて市街地に引きこもって部隊の再編をしている。
「この隙を見逃す道理はない。楔を打ち込み、腐った納屋を瓦解させるわ」
 私はそう言ってモスクワの方角をにらんだ。
 おそらく、相手は私の攻撃を予想しているはずだ。
 それを阻止しに来るのは──。
「おそらく、敵は第1親衛戦車大隊。恐れることなかれ」
 敵の精鋭部隊が迎撃に来るだろう。
「諸君、死ぬな。殺されるな。生きて故郷に帰るわよ」
 私の言葉に兵たちに動揺が広がる。
 だが、それでいい。
「だが、帰った時に『最後の戦いは負けてしまった』なんて恥ずかしくて言えないわよね?」
 私の挑発するような問いに兵たちの表情は険しくなった。

「故郷で待つ者たちに、勝ったぞと胸を張って言いましょう!」
 

「大佐、ご武運を祈っております」
 次々に前進していく戦車部隊を余所にロレンス中佐は私を見上げてそう言ってきた。
「ついていけないのが悔しい」
 彼はそう言って本気で悔しそうな表情を浮かべた。
 だが、彼と歩兵大隊は別の場所で使うべきだ。
「大丈夫よ、貴男の分まで働くわ。それよりも、頼むわよ」
 私はそういって大佐に敬礼を送った。
「お任せください」
 ロレンス中佐は私に見事な敬礼で応じた。

「東に逃げたスターリンを捕らえて見せましょう」


 両軍の戦車部隊はちょうど16時ちょうどに動き始めた。
 どちらの部隊も大隊とは言っているが、その規模はもはや中隊規模であった。
 このわずか2個中隊が、モスクワ攻防戦。
 ひいては戦後ロシアの在り方を決めようとしていた。


「アウグスト少佐。世話になったわね」
 モスクワヘと向かう中、私はアウグスト少佐にそう声をかけた。
「いえいえ『英雄』の指揮を間近で見れて勉強になりましたよ」
「そう? それならいいのだけれど」
 私はどこか照れくさくなって笑ってごまかした。
 そして、まっすぐ前を見つめると彼にこう告げた。
「もし、もしよ。私が死んだら、リマイナとこの部隊を頼むわね」
 その言葉にアウグスト少佐は目を見開いた。
 だが、何も聞くことなく「御意」と答えた。
「何も聞かないのね」
「えぇ、貴女は死にませんので」
 自信満々にいう彼の表情に私は思わず笑ってしまった。
「ふふ、それもそうね。死ぬ気で挑む戦争なんてただの愚者がすることね」


「トゥハ、もう少し待っててね」
 その頃、エレーナはモスクワ市街へと向かっていた。
 目標はたった一つ。
 このモスクワに向かってくる敵の戦車部隊。
「一人も多く、一秒でも長く時間を稼ぐからね」
 紅色の髪を風に揺らして彼女は儚げに笑った。
「もう、だれにも邪魔させない。今度こそ決着をつける」
 エレーナはそう呟くと目の前をにらんだ。
 見なくてもわかる、敵の指揮官は番犬だ。
「市街地の縁に展開! 建物を盾にしてください!」


「大佐。もう間もなく市街地です」
「ん、了解」
 ユリアン大尉の報告に私はそう答えると前を見つめた。
「いるわね」
「いるねぇ」
 私の言葉に応じるようにスコープを覗いたリマイナは呟いた。
 うまく建物の陰に隠れているが、それでも何両かは見えている。
「リマイナ、狙える?」
 私の問いにリマイナは「私を誰だと思ってるの?」と自信ありげに答えた。
 
「目標、右15度の敵戦車。一撃で仕留めなさい」
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